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烏来温泉紀行
中田裕久

台湾の温泉は100カ所近くあるという。台北近郊には、新北投温泉、陽明山温泉など、市内から車で20〜30分で行ける温泉がある。烏来温泉は台北南部の山峡の温泉である。人口300万の大都市、台北から車で1時間で、大自然と山岳地方特有の生活文化が体験できる。

 

○台湾古来の生活文化の里


烏来は、台湾の少数民族タイヤル族の言葉で、温泉を意味し、烏来温泉はドイツの「バーデン・バーデン」や日本の「雲仙温泉」と同義である。南勢渓と桶優渓という2つの渓流の合流点が、烏来温泉の中心地区で、温泉旅館や温泉浴場・店舗などが集まっている。南勢渓に沿ってトロッコが走り、2.5km程上流に行くと、台湾最大といわれる落差80mの烏来瀑布がある。この滝の目の前に、那魯湾渡暇飯店と烏来山地文化村歌舞場がある。この歌舞場では、タイヤル族を始め、台湾少数民族の歌と踊りが演じられている。宝塚歌劇団と同じく全員少女で、体格によって男役・女役に配属されている模様。案内していただいた高俊雄先生は、「どちらかと言えば日本の女性に似ていませんか」と言われる。そう言われると、なぜか親しみが感じられ、少女との記念写真をありがたく頂いた。歌舞場はこれら民族の人達の事業として運営されているようで、民芸品の展示販売など多角経営が行われている。近辺にはタイヤルの人々の住まいがあり、台湾古来の生活文化の里といった風情が感じられる。

○旧日本軍埋蔵伝説

急峻な山また山である。齢70をとうに越えた飯店の主人、張平氏によれば、山の杉の木は全て日本人が植林したとのこと。戦前、急峻な山また山にケーブルを張り、木を切り出し、旧満州に資材として供給したのだそうで、植林もトロッコもその名残りである。旧日本軍埋蔵伝説も伝えられている。終戦近く、日本軍の部隊が現地の人に荷を背負わせ、山の中へと分け入り、後は日本人だけでやるからと里に帰したという。近頃はやりの「機密費ですか?」と思わず問いかけたところ、「わかりません」と張主人は微笑まれた。その当時、日本にも神がかりのような兵器があったようで、米機が数機、飛来したところ、一発の砲弾が花火のように開き、全て打ち落とされ、以降、米機が訪れることは無かったという。「新兵器などの軍機密かも知れません」丁寧な日本語が返ってきた。繁茂する大自然の中で、もはや跡形は定かではないものの、遠ざかる記憶は確かである。

○台湾式温泉浴場


清流は一雨来ると、奔流になる。雨後の夕刻に、南勢渓や桶優渓の河畔にある温泉浴場を訪ねた。台湾式浴場は、日本の男女別の浴場に個室浴室を加えたスタイルである。大きな浴場では、これにレストランと喫茶コーナー、マッサージルーム、休憩室が加わる。個室浴室(家族風呂)は、かつて湯涌温泉の白雲楼ホテルや、下呂温泉の湯の島館で体験したことがあるが、日本では一般的ではない。台湾の人は家族で湯を使い、食事をすることが楽しみ方なのであろう。大浴場には打瀬やジャグジーなどもあり、日本の近年の浴場と同じであるが、露天風呂には必ず休憩コーナーがあり、川風に吹かれて休憩できるなど工夫されている。台北近郊の烏来温泉では、平日は日帰り利用が多く、週末には旅館(飯店)は満杯になる。また、暑い土地柄のため、冬期がシーズン、夏場がオフシーズンである。
日帰り利用にも週末宿泊利用にも対応可能なように、温泉浴場に客室を併設しているものもある。


○マッサージ天国

韓国式垢擦り、中国式足裏マッサージなどが日本の温泉浴場に導入されているが、台湾はマッサージ天国である。台北市内には、女性用のエステティークサロンや男性用の理容名店などがある。理容名店は28年前に出現し、15年前に隆盛を極め、4年前には現台湾総統の陳氏が台北市長として風紀規制を厳しくし、比較的健全な店が残ったとされている。女性マッサージ師のみ。客は蒸しタオルで蒸されてから、全身オイルマッサージで贅肉を絞り込まれる。2時間もやってもらうと宴会の酔いも醒めて、健康的になるとのことで、夜9時から午前2時までがピークタイム。24時間、2交替制というコンビニ並の営業である。ただし、従業員の実入りは桁違いに多いそうだ。烏来温泉では、巨龍山荘の主人張銘義氏とともに、夕食前マッサージを受けた。マッサージ師は、日本の温泉地で働いた経験のある男性である。台湾方式の全身マッサージ、途中、背中を蒸しタオルで暖められ、これまで鳴ったことの無い首までがボキッと鳴って全身の弛緩を実感した。謝謝。


○食と温泉は台湾にあり


「食は中国にあり」というが、「食と温泉は台湾にある」。食が生活の中心、団らんの中心になると、入浴は従となる。概して、台北周辺の温泉浴場は食事スペースが大きく、中華料理店が引っ越して来たような感じがする。 台北市にほど近い紗帽谷には、24時間営業の風呂つきレストランが軒を連ねている。食事をすれば入浴料金は無料とのこと。カラオケもできる。中でも、日本の路地裏や家並みが映画セットのように再現された和風レストラン浴場が人気が高い。

ギリシャ風レストラン浴場等々、創意工夫が直接形に現れている。烏来温泉の渓谷は台北の水瓶である。水が美味しく、お茶も美味しい。温泉浴場の休憩室では天然水が提供され、喫茶コーナーには各種烏龍茶の壺が並んでいる。また、茶料理を出してくれる浴場もある。文山包種茶は日本茶に似て美味しい。



○美容ブーム

女性の温泉ブームは日本でも台湾でも同じ。ヨーロッパ風の健康・美容プログラムを提供すべく、温泉浴場の増築(烏来温泉)、温泉旅館の改造(新北投温泉)、また、ヨーロッパ風の温泉リゾートづくり(陽明山温泉)を行ったりと、台北周辺の温泉地の取り組みは盛んである。また一方で、温泉資源や自然環境の保護などの意識も高まっている。ともあれ、台北も市民も温泉も明るく元気である。元気を回復するため、また温泉に行こう。

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