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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第20回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



自然の音にひたる贅沢
草津温泉(群馬県)



 旅をすることが仕事だから色々な宿に泊まる。その体験から「いい宿」とは宿泊料金の多寡で決まるものではないことを会得した。1泊数万円という高級旅館であっても、満足できない宿もあるし、1万円を切るような宿でも翌日爽快に出発できる宿もある。泊まる者と、泊める宿の感性が一致した時がきっと「満足する宿」なのだろう。





 目下、上州の取材が続いていて、5月下旬草津温泉へ出かける。白根山の根雪がやっと消えた季節で、標高1200mの温泉地はツツジが最後の華やぎを見せていた。その真っ赤なツツジを庭に植え、屋号としている当地きっての高級料亭旅館に泊まることになった。客室10室のうち4室は露天風呂付きの離れ形式。名だたる料亭で修業した板前が2年ごとに入れ替わってその腕前を競うという評判の宿でもある。露天風呂には草津の象徴・湯畑の湯が引かれ、内湯には万代鉱の湯が溢れている。一軒で2種類の源泉を引いている宿は湯量の豊富な草津といえども数軒にすぎない。つつじ亭は貴重なその1軒なのである。





 本館でも1泊3万円、離れなら4万円以上という高価な宿。部屋は空いているもの、と高をくくって予約を入れると、なんとその月いっぱい空室がないという。なんとか無理に頼んで旅行会社へ売っていた部屋を買い戻す、という奥の手を使ってもらって、やっと1泊することを得たのであった。景気が良くなりつつあるとはいいながら、一ヶ月を通して一室も空きが無いということにまず驚いた。高額な宿泊料金にもかかわらず、何故なのだろう?料理の良さだけなら全国には名店といわれる料亭も旅館もたくさんある。わざわざ草津の山の上まで来ることもあるまい。
 



 夕方早々にチェックインして、まずは自慢の風呂に入り、次に自慢の料理を味わう。一品出しの本格的な懐石料理と銘酒が相乗して、文字通り陶酔の一夜であった。
 翌朝、鳥の声で目覚めた。テラスのガラス戸を開けると、朝の深い空をバックに新緑が目ばたきするほどまぶしい。下生えに咲き残るツツジの紅が緑の奥に滲んで、手のきそうな枝を野鳥がカップルで渡る。玉を転がすようにいつまでも鳴き交わす声のよさ。その合間に長けたウグイスの声がまじる。競演だ。起きぬけのしどけない浴衣姿のまま開け放したテラスの朝を眺めていると、意識が時間というものを忘れてしまっている。
「これだな。この自然の色と音がもたらす、ひたすらな放心の時の快さこそ、癒しの
真髄なのだろう」
 高価でもリピ−タ−の多いというこの宿の魅力。その源の在り処を朝の庭に見た思いであった。




所在地/群馬県吾妻郡草津町字土橋639-1
交通/吾妻線長野原草津口駅から草津温泉行きバス25
分終点下車、徒歩15分、送迎あり。またはタクシ−3分
施設/つつじ亭 電話0279-88-9321
1泊2食3万2000円〜
 
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