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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第44回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



人工炭酸泉の快適さから想うこと
竹取の湯(埼玉県)


 先日、旧知の秩父荒川村の旅館から電話があって、「人工の炭酸泉装置を入れました。一度体験しに来て下さい」
 という連絡があった。たった6室しかない小さな宿で、以前は近くの鉱泉を汲んできて、沸かして客を入れていた。しかし、どうしても湯量に限界がある。また、15〜20人くらいの定員ながら、若夫婦と料理長、数人のスタッフだけでは正直な料理を出そうとすると手がたりなくて、湯を汲みに行く時間さえもったいないという状況になってしまっていたのである。それはそうだろう、客の食事の進行具合にあわせて、主人の浅見一男さんが自慢の地酒を案配し、数種のビールやワインの紹介・アドバイスを行い、手ずから地粉を使って手打ちしたそばを出す。これではいくら時間があっても足りっこない。







 そこで伝手を頼って炭酸泉の製造機器を導入した、というのがその経緯。以前にある病院で人工炭酸泉を使った足浴で痛みやしびれ、切傷の後治療などをしているTVニュースをみて、
「これをウチの風呂に利用できないか」
 と研究したものの、維持の手間や費用がなまなかのものではなく、一時はあきらめていたのであった。それが今回、運良く巡りあったのが人工炭酸泉で生鮮食品などの洗浄用機械を研究開発していた会社だった。話を聞いてみるとライニングコストも手ごろだし使い勝手もよさそう。そこで今年の7月に導入に踏み切ったのだという。







 人工泉の良さは炭酸の濃度と湯の温度を調整できること。なんと露天風呂は湯温34度〜38度(外気温度により温度調整する)で800ppmにまで高めてある。これは療養泉として理想的な濃度だ。一般に売られている炭酸入浴剤が一個おおよそ100ppmくらいというからおよそ8倍にあたる。露天風呂は二つあり、一つは孟宗竹の林を背景にした桶風呂。もう一つは岩風呂だ。内湯は少し薄めの炭酸量としてある。
 






 炭酸泉の効能のシステムをわかりやすく説明すると、水にとけた炭酸が皮膚を通して体内に浸透。すると体全体がが酸素不足の状態となり、酸素を体中にどんどん補給しなくてはならず、毛細管が広がり酸素を運ぶ血液が盛んに流れはじめる。そのため湯の温度が低く設定されていても、身体が温まることになる。湯温が低いので熱による刺激もほとんどなく、心臓の弱い人や高血圧の人でも安心して入浴できるのが炭酸泉の特徴だ。










 実際に入浴してみるとたちまちに腹から胸へ細かな炭酸の泡が密着してきて、雲に巻かれて浮かんでいるような、なんともいい気分だ。疲労回復効果も高く弱酸性だから美肌効果もあり、女子にとっては魅力的な湯である。今回のアテネオリンピックの選手村にも国立スポーツ科学センターが試験運用していた炭酸泉の入浴システムを小型化して導入。銀メタルを獲得したシンクロナイズド・スイミングの選手達が疲れを癒したというニュースが流れたばかり。濃度が濃ければ疲労回復に普通の湯の二倍の効果があるというから驚く。温泉の真贋騒動で「温泉とは何か」を問われている昨今、はっきりと「人工」を謳い、利用者側も承知した上で、その効果を実感できる炭酸泉を上手に利用しない手はないのではないだろうか。




所在地/埼玉県秩父郡荒川村大字上田野56
交通/西武秩父線利用で終点西部秩父駅下車、車で10分(送迎は要予約)。
又は秩父鉄道利用で浦山口駅下車、徒歩15分
宿/御宿 竹取物語 0494-5441102 1泊2食付き1万3000円〜




 
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