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日本の温泉地再生への提言 [4] -第1グループ 旅館・温泉地リーダー

確実に存在する連泊・滞在型の保養客

斎藤 兵治
(鹿教湯温泉)斎藤ホテル 取締役相談役


「鹿教湯温泉の現状」

 本来なら連泊・滞在型の温泉場として時代の流れの最先端をいっていたのですから、お客さんで溢れていなければならない鹿教湯温泉。残念ながら、この10年、他の温泉場同様にお客様を減らして、最盛期のほぼ半分になっています。
 しかし、その内容を検討しますと、減った最大の原因は、農協と鹿教湯病院の組織に依存していた「集団保養」と言われる長期滞在型の先駆的、実験的な旅が壊滅状態になっていること 注1)と、所謂、募集団体と言われるエージェント依存の団体が激減していることです。つまり、鹿教湯本来のお客さまである、中高年のご夫婦の滞在客はそれほどに減っていないのです。むしろ増やしているのではないでしょうか、これは評価すべきことです。連泊・滞在型の保養客は確実に存在しているのです。しかし、往時の隆盛を取り戻すほどの力はありません。
 こうした現状から、明快・的確な戦略と、自治体や国の適切な手助けがあれば鹿教湯もよみがえり、かっての賑わいをとりもどすものと信じています。
 戦略として絶対必要なのは、温泉街の景観修復です。特に、鹿教湯温泉の存在を第一義に定義する鹿教湯温泉病院の規模拡大と斎藤ホテルの大型化とともに、職員や浴客・患者さんの車が温泉中に溢れ、温泉内の目に付く空き地は全て駐車場、という現状です。これは、温泉に癒しを求めてくるお客様方の望むものとは遠くかけ離れています。この解決が鹿教湯再生の第一歩と確信しております。


「温泉再生のあり方」
1)これからの温泉地のあり方

 議論の余地なく、「健康と温泉フォーラム」が提案してきたように、歓楽型から転換し、温泉本来の目的であった健康と保養のために活用すべきと考えます。しいて言わせていただくならば、健康と保養プラス、芸術や文化や自然、スポーツなどを取り込み、より範囲を広げる必要がるでしょう。
 こうして、よりアクティブなイメージをも抱合することにより、国民間の交流や明日の活力を生み出すための広い意味でのリゾートとしての概念を拡大、新たな位置づけの模索もあると考えます。
 極端な例ですが、ラスベガスの成功を見るとき、また、石原都知事による同様な開発の提案を見るとき。世界第二の経済大国である日本に、こうした意味での温泉場が存在してもおかしくないと考えるのです。(もちろん、「賭博」という狭い範囲の戦略だけでラスベガス 注2)を捉えての提案ではありません。)
 デズニーランドを中心とした舞浜の開発成功は、こうしたアイデアや企画力・実行力、そしてニーズが日本にも存在していることを示しています。別府や熱海、和倉や山代、そして伊香保や鬼怒川などの大型温泉地などは、何等かの時代にマッチした革新的なアイデアや概念さえ見つけ出せれば、大きく変身する可能性を持っているのではないでしょうか。


2)温泉地の町並み整備や周辺観光の保全

 前述した別府や熱海はともかく、数の多い、鹿教湯クラスの規模の温泉場の再生は、黒川温泉の成功を見るとき、手法・ノウハウ的には意外に簡単 注3)と考えております。ただ、残念なのはこうしたことへの公的資金の投入(物理的なものだけでなく、人的なもの、ソフト的なものを含めて、)が必要なのですが、それなりの困難をともなうことです。
 私は、この「困難」の第一原因は町村単位での住民の合意がとれないことと断定しています。江戸期のゼロサム社会の伝統が田舎には今も根強く残り、そこへプラスし戦後の発展の底流にある社会主義的な発想が地方行政の現場の職員の意識には根強く残っています。つまり、江戸期の5人組み組織のような共同責任的な、結果の平等を強く求める意識が一般住民の中だけでなく地方行政の現場を握る役所の中にも広く存在しています。多くの市町村で強力な自治労組織が主導権をとった歴史の洗礼を受けているからです。つまり、日本の社会は嫉妬の社会です。一時的とは言え、それなりに成功した温泉旅館が群れをなす地域に公的な資金を投入することの住民合意形成は、村長や町長の立場から見ると不可能に近く困難なことかと思います。
 こうした現状を変えるには、直接的な住民の束縛から比較的フリーな国の立場で温泉地の整備に予算をつけるための、なんらかの「法制化」が必要と考えます。これなくして、大多数の国民の多くも求めていると考えられる欧米的な、洗練された景観や町並み作りを主体とした温泉地再生は進展しないでしょう。


3)長期滞在型の温泉地利用のあり方

 国民の旅に対する考え方を大きく変える必要があります。
 現在の主流は、女性の小グループの旅。いわゆる温泉番組に象徴されるマスコミの紹介する「特色ある宿へ、」です。これが、「団体」−>「個人」の流れを「団体」−>「個人」−>「小型の旅館」へと変えました。悪いことではありませんが、全国の多くの中型以上の旅館の経営を困難なものとしています。
 温泉場を変えようとするとき、やはり、力のある中・大型旅館がどのように対応するかが決定的な要因です。残念ながら、今主流の上述した一部の繁盛小型旅館だけでは無理かと思います。また、この繁盛小型旅館は一軒宿が多く、地域としての魅力づくりが必要な保養・滞在型の温泉地形成には関係していないとも言えます。
 こうした意味で、理想の温泉地作りで成功している湯布院がどのように変貌して行くのか、黒川温泉が次の一手としてどのような戦略を展開するのかに大変興味があります。どのような戦略を持ちどのように変わって行こうとも、この二つの温泉場は、ともに、非常に特殊な、特異な環境を持ち全国の温泉場が理想のモデルとして追求することは当然でしょう。しかし、現実には、他の温泉場で同様な環境の再現は難しいのではないでしょうか。
 そうだからと言って、鹿教湯のような長期滞在型の温泉地に一挙に変えることはさらに困難なことでしょうし、旅を構成する年齢層がどのようになっているかを考ますと現実的な提案でもありません。
 とすれば、まずは、もっと一般的で、中・大型旅館の持ち味を生かした商品で、国民運動のような社会ムーブメントを起こせるキャンペーンが必要なのではないでしょうか。そして、それがきっかけとなれば、全国の温泉場や温泉旅館も少しづつ長期滞在型・保養型へと変わってゆくのではないでしょうか。
 たとえば、アメリカには、「Travel for Family Reunions」、つまり「家族の絆を強める旅」と言う概念があるそうです。
 伝統的に小さいときからの自立を前提としての教育や家族観は、独特な国民的アイデンティティを形作り、広い国土や世界中へと家族を散在させることになります。こうした家族間での連帯をどうするか、どのように維持して行くのか、映画などで見てみますと色んな工夫がされていますし、生活に定着しているようです。
 旅先のホテルに落ち着くと、まずは、カバンから家族の写真を取り出してサイドテーブルの上に飾る。お財布、あるいはペンダントなどに、家族の写真を入れて常時携帯している。人と知り合ったときに、出身地と家族のことを互いに語り合う。家庭に友人を呼んでパーティを開催する。誘いあって日曜毎に教会へ通う。などなど・・・・
 日本でも同様なことは数多く行われていますが、戦後のアメリカ文化の取り込みとともに、徐々に失われつつあります。「自由」というキーワードの中に、こうした家族の絆を大事にするアメリカの文化の一面を見なかったのが戦後の日本の社会のようです。もっとも、アメリカが軍事大国としての日本の復活を恐れ、日本人の持つ強さの原点を分析、それは父家長制に象徴される家族主義にあると分析、占領戦略の柱として、極力こうした制度を破壊したことにある、とも言われています。


4)ITの活用に活路を

 時代の流れは「団体」−>「個人」、誰でもが否定出来ない事実です。
 しかし、多くの人が、「だからインターネット」と言います。私は原因と結果が逆だと考えるのです。つまり、インターネットの普及がペンションや民宿などの特色ある小さな宿に効率の良いマーケッティングツールを提供したのです。そして、こんな宿もあるのか、なにも団体でお仕着せ旅行をすること無いじゃないか、と時代の流れを変えたのだと推察しています。
 ならば、同様な状況を、中・大型旅館向けに演出・提起出来ないのだろうかと考えるのです。
 つまり、検索エンジンとホームページの技術がペンションなどの小型宿泊施設を世に出したのなら、同じインターネットの技術も進化を遂げている現在、中・大型旅館に有利な使い方が、有利なマーケッティング・ツールとしての使い方があるのではないかと考えるのです。たとえば、小さな特色ある宿と中・大型の宿とを明確に特色付ける違いは何か、と考えてみます。 中・大型の宿の特色を次の2点と定義。
  1.旅行エージェントと言う販売チャネルを持つ。
  2.多様なサービスの提供が可能。

小さな特色ある宿も次の2点。
  1.管理が行きとどいた特色あるサービスに特化可能。
  2.検索エンジンでの可能性は中・大型旅館と同等なチャンス。

 ならば、インターネット技術をベースに、多様な施設やサービスの特色を旅行エージェントに上手に効率よく伝え、その情報を武器にマンツーマンで現場の販売員が顧客に当たるようなツール・環境を構築すれば良いのです。つまり、SCM 注4)の構築です。旅行エージェントが得意とする印刷媒体による大量露出にも多様性と即時性を持たせるのです。さらには、サービスの現場での顧客情報をエージェントの窓口へとフィードバックする。あるいはエージェントの販売窓口の情報を生かしての商品作りにスピード性を持って取り組めるような仕組みも作り上げれば良いのです。
 こうしたことは、全て、IT技術の進歩が可能にしています。
 問題は、残念なことに、小さな特色ある宿が一軒だけでも独自に対応可能だったのが検索エンジンとホームページの技術ですが、提案するようなSCM構築には多勢の関係者が参加し、同意をとりながらの大掛かりに仕掛けるための仕組み構築が必要とされることです。実現には多大な労苦と優れたリーダーが必要とされるでしょう。
 この難しい作業も一部で始まっています。かならずや中・大型の旅館が復活するようなSCM構築が実現する日がくるでしょう。そうすれば、中・大型旅館の滞在型・保養型の市場への挑戦も始まるでしょう。


注1)激減させた原因は時代に合わせ た商品の模様替えをしてこなかったこと。たとえば、農協の組織が始めた県民(農民)の健康管理の仕事は市町村へと主力が移ったことに対応出来なかった。バス一台にまとまって、二畳一人の定員での雑魚寝の時代ではなくった。統一メニューによる健康管理も大事だか、食の楽しみも大事。などなど、「集団保養」そのものについては別機会にご紹介したいと思います。

注2)最近のラスベガスはすっかりファミリー向けのリゾートとして変身、スロットマシンの並ぶロビーは老人クラブのたまり場と化しております。

注3)要するに、自然を取り入れた町並みを、デザインの統一性をもって整備すれば良いのです。

注4)SCM(Supply Chain Management サプライチェーンマネージメント)製造、卸売、小売および顧客までを対象として、これらを一貫して管理する手法を指します。現在、流通業界では常識的な経営手法です。そして、SCMはまさに「流通革命」という言葉がふさわしいほど流通業界に変革をもたらしました。


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