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日本の温泉地再生への提言 [9] -第1グループ 旅館・温泉地リーダー

温泉地の再生のあり方について

荒井 太郎
(中山平温泉)有限会社ヘルスリゾート元蛇の湯 取締役


 ヘルスリゾート元蛇の湯は 宮城県玉造郡鳴子町字星沼22番地にあります。この地域は湯治場として長い歴史があり、昭和35年に国民保養温泉地の指定を受けています。湯治場から発展して現在は歓楽型温泉施設と湯治型温泉施設が渾然一体化したところです。当館は江戸時代からの湯治場で、自炊宿泊施設を運営しており、湯治客の希望者に食事の提供もしていましたが、二棟あった自炊棟の一棟を昭和63年に温泉地へ行って宴会や酒盛りと賑やかに騒ぐという世情を反映して歓楽型の温泉旅館棟へと変化させました。平成8年に社長がかわり、従来の自炊棟湯治棟はそのまま残し、歓楽型の温泉旅館棟を中高年の健康保持を目的とした旅館形式に方針を変えて営業しています。団体の利用がある場合は貸しきりにするなどして、温泉を健康と保養目的に利用する宿泊のお客様が静かにゆったりと過ごせるよう心がけています。温泉利用は本来の健康と保養の目的に活用すべきであるという考えの下、平成10年には厚生労働大臣認定温泉利用型健康増進施設の許可を受け、栄養・運動・休養、精神面を含めた心身共の健康と保養の温泉療養を模索しています。毎朝、太極拳・気功を行い、食事についても、日本の薬膳、中国の薬膳、現代栄養学から理にかなった中高年の健康保持を目的とした食事を提供しております。

 湯治の風習について述べますと、僕の祖父母の世代、あるいは曽祖父母の世代の湯治客層は農家であったり、漁業であったり一次産業に従事する人が多かったようです。湯治は1週間から1ヶ月間位の期間の滞在で行われ、昔からある温泉の保健的利用を主たる目的としたものですが、別の角度から見ると家族、団体組織のレクリエーションであり、年中行事というのか、娯楽の少ない時代の行事であったとも言えます。その当時は湯治に行って来たというのは湯治をしに温泉地にでかける余裕があるというある種のステータス意識があり、憧れと羨望の対象であったようです。お手伝いさんをつれて湯治をしたり、過酷な農作業の合間の骨休めと大家族の団欒、船主と従業員の慰安目的の利用という側面もあったようです。つまり昔の湯治は健康と保養の目的の利用と歓楽型の利用とが渾然一体化していて、その違いが利用者には強く意識されていなかったのだと感じます。それが高度経済成長や好景気を経て、温泉地は温泉のブランドイメージ戦略や温泉に付帯する設備やサービスに関心が向けられ、天然資源である温泉の品質以外のサービスを重視することで温泉の保健的利用の側面が薄れ、歓楽型の利用を前面に打ちだした形へと変貌してきたのだと思います。そして、それによって温泉地は景気の影響が大きい温泉商業地を形成してきたのだと思います。温泉地再生の活性化対策がどのようなものであっても手放しで歓迎するという事ではちぐはぐな事態になりかねません。波が来て波が引くような対策では、結果的に温泉地の抱える問題の解決にはならず温泉地の再生は実現しないと思います。温泉地では温泉に付帯する過剰なサービスと施設の大規模化、イメージ戦略を展開するあまり、湯量が豊富だと言われる鳴子といえども循環装置と無縁ではありません。温泉地であるにも関わらず循環装置によって、きっちりと温度管理された温泉であったり、豊富な湯量を演出するという方向のまま発展を続ければ、本来、効力のあった温泉も失われてしまいます。商品であるはずの温泉そのものを見直す事が必要です。実体のないイメージ戦略で温泉地を活性化しようとしてもは長続きはしません。目先の活性化を求めるのではなく、長い目で見た活性化対策として温泉地の豊かな自然環境を保護し、温泉地の特色が分かるように整備して行くべきだと思います。これからは歓楽型の温泉利用施設なのか健康と保養の為の温泉利用施設であるのか、はっきりと明示すべきだと思います。いずれにせよ、温泉地の自然環境の汚染となるような開発は避けるべきであり、豊かな自然環境を後世に伝えていく為にも温泉管理を含めて環境の整備が必要です。温泉利用は非常に身近なものになりましたがその分生活環境の変化(産業構造の変化・家族構成の変化、娯楽の多様化など)やそれに伴なう価値観の変化といった影響を大きく受けます。これからの温泉地の再生には景気によって左右されにくい方向で、その価値を国民的財産として認められるような温泉、温泉地整備という活性化対策を行うべきであると思います。

 したがって、これからの温泉行政は湯治・観光を推進にあたっては従来の温泉行政から更に踏み込んで指導が行なわれる必要があります。天然資源としての温泉そのもの品質やその効用に対する位置付けが重要になると思います。それと同時に温泉地の豊かな自然環境の保全を重視しなければなりません。消費者視点で温泉の品質、温泉の効用や温泉の成分や温泉管理の状況などの関心の高い情報を整理し公開する。また、温泉の保護と適正利用という立場から温泉は天然資源であるという認識の下で温泉地全体の地質調査や温泉水の研究調査、湯治効果の検証に至るまで温泉資源全体の把握が必要だと思います。また、温泉地の自然環境の保護と保全に配慮した開発整備を進めていく必要があります。ある意味、これらは従来からの温泉行政立場である言えますが、これまでも温泉地の市町村では入湯税を定めているところが多いので今後は現行入湯税額を値上げし、当面は利用者への負担増は避ける為、利用者と事業者から徴収するものとして事業所の負担を増やしていく。また、行政機関は事業所単位での入湯税の払込状況の統計を広く公開して、その税の使用についても公開する。これを機に市町村税から県税へ移管すべきではないかと考えます。温泉行政が市町村レベルと都道府県レベルの二重に行なわれている現状から都道府県レベルに一本化して入湯税は都道府県レベルで扱うべきだと思います。民間や市町村単位では出来ない温泉地の自然環境保全に向けての行政の総合的な施策が必要だと思います。

 温泉地の自然環境保全に向けて行政の総合的施策実現の為には、行政の指導が行き届くように、将来的に温泉地の土地の個人所有を出来ないようにしてはどうかと考えます。温泉は無尽蔵にある天然資源ではないので温泉の公共性を重視し、既存の温泉施設および温泉地全体の活性化対策として、事業者(所有者)と行政を含めて所有関係の状態を含めてみなおしみてはどうかと思います。国民保養温泉地などは基本的に国有あるいは県有なりの公園とし、事業者が温泉事業を行う場合は地代等を支払う方式にすれば良いと思います。その実現のために強制的に接収するわけにもいかず、国にしても県にしても全ての温泉地を買い取るのは困難で事業者が手放さないという場合も予想されるので、その実現は非常に難しいと思いますが50年後100年後の温泉と温泉地を考えた場合に民間から官へと所有を移すことが温泉地全体をトータルで整備しやすいという理由と環境の保全に配慮した大規模改修や再建には多大な費用がかかり小資本の事業者の単独で実現することは不可能に近いという理由から国民の温泉地として整備を行なう為には行政主導で公益法人と連携するなどして、温泉地の環境保全と環境整備の再開発を行うべきである。温泉地の所有を民間から官へ移して事業者は委託事業として行う、あるいはテナント(賃料)を支払って事業を行う形態へ転換を進めていくべきだと思います。例えば従来の事業所にはインセンテイブとして50年間の賃料の免除を行ない、その債権を売買する市場の整備、もしくは行政による仲介が可能ならば一時金とその債権とで民間から官へと所有を移すことも比較的容易になるのではないだろうか。土地所有者が国や県にあるならば、事業者審査や事業の内容を審査することにより、温泉地としてトータル的に整備が可能であり、また他都道府県レベルの保養所、隣接する市町村レベルの保養所であったり、民間企業の保養所や老人ホームなどを誘致するため支援をおこなうことも可能である。また、そうした施設を一般利用者にも開放できるような調整や複合的運営が行えるよう仕組みづくりであったり、既存施設の利用を中心に業務委託なども合わせて推進する。温泉地づくりモデル事業として、温泉地の活性化を図ろうとした場合、実験的にこうした温泉地の国有化といった取り組みが必要だと思われます。


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