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日本の温泉地再生への提言 [10] -第1グループ 旅館・温泉地リーダー

『鳴子ならではの、おもてなし 温泉編』

高橋 亨
(鳴子温泉)鳴子温泉療養部会 委員長


 多くの観光地を覆いつくした、振幅の幅を狭めながらの反復運動。
 その迫り来る閉塞感を打破するため、時代に迎合した様々なアイテム作りに励んだ高度経済成長期。
 見方を変えれば、それはあたかも、夢から覚めれば空しさだけの非日常のよう。

 もうイイや、アイテム全て投げ捨てて、世の流れに知らぬ顔の半兵衛を決め込んだ時、見えて来たもの唯一つ、温泉力。

 地域をこれまで育んでくれたものに思いを馳せ、それをより豊かにする作業こそが、いつの日か地域の理念に通ずるものと確信した時生まれた、鳴子の温泉療養ブラン。

 振幅の幅を"復元"するため、今ならまだ間に合うと信じつつ、地域という振り子を押してみた。


温泉療養の基本的な考え方

基本構想
 高度経済成長がもたらした、便利で快適な生活。
 しかしその一方で、現代人の心と体に忍び寄る疲弊感は誰もが感じるものであり、私たちはそれを温泉の持つ力で取り除き、訪れる方々に、元気を取り戻せるような環境を準備したいと考えます。

○物質優位の生活にあまりにもなじみすぎた結果、本質を見失いかけた人々へ、原点への回帰を。{保養}
○現代生活の利便性に対し疑問を感じながらも、それを捨てきれないでいる人々へ、よい意味での不自由さを。{休養}
○自ら半病人を自覚しながらも入院することができない人々へ、本当の自分らしさを。{療養}


湯治、まさに"湯で治す"です。

基本方針
 長い間、当町を育んでくれた温泉。
 五地区それぞれの、異なった温泉の持つ特質と効能。
 この事業は、それらの伝統的風土、温泉の経験的効能に立脚した地域の再生を基本として実行されます。

基本計画
 温泉の療養的活用・・・この事業の基となる計画です。それは、現代医学と提携しながら、入院するまでもない方々を対象とした、さまざまな温泉療養プログラムを企画、実行することです。温泉の治癒力向上を図るとともに、その効能を見える形で提供したいと考えています。

○町立鳴子温泉病院との提携促進
○さまざまな疾病に対応する療養プログラムの作成
○お客さんを受け入れる地域、宿の再点検


 これらを基に、計画を実施していきたいと思っています。


地域と宿の再点検

地域
 ここでは、地域らしさ{鳴子らしさ}ということを皆と考えて行きたいと思います。
 各地の風土{風情、人情、生活ぶり、独特の考え}の違いは、どこから来るのでしょうか。景観の相違ということが、それを考える上で一つの答えを導いてくれるような気がしてなりません。
 人々がその土地に初めて住み着いたときから、糧を得るための長い試行錯誤の末にその土地ならではの食物栽培が確定し、集団として社会化する上でさまざまな葛藤を繰り返し今の倫理観が醸造され、人と人、人とモノとの疎外感を埋める作業としてさまざまな学問、芸術、芸能{文化}が確立されたことを思うとき、それらの生い立ちとそれらの地形とが密接にかかわりあって今が在るとしか思えないのです。
 私たちは、ここで私たちの地域の成り立ちを再度考えながら、その地域に根ざした"在り様"を探しながら事業を進めて行きたいと考えています。
 変化を最小限にとどめ、いかに人々の暮らしをそれに溶けこめさせるか、この事業を通してその答えを見つけられればと思っています。

宿
 地域における旅館の在り様についても同様のことが言えるのではないかと考えます。
 地域の生い立ちにそぐわない成長の仕方が、全国画一の形態を助長し今の観光衰退があるように思えてなりません。
 人は、他と違うものには敏感です。
 常に目新しいモノに飛びついては、楽しんだ挙句捨て、また新しいものを追い求めます。
 私たちはその流れを拒絶するものではありませんが、迎合しようとも思いません。
 時代の流れに左右されることなく、常に鳴子が鳴子であるための施設{在り様}を追い求めたいと考えています。そして、それをお客さんと共有できれば、何かが見えてきそうな気がするのです。
 湯治を考える時、一時期の隆盛は影を潜め、その施設とともに宿泊客の減少振りにはすさまじいものがあります。
 しかしながら、人々が葬り去っても、真に必要なものは時代が拾いなおしてくれます。
 このような観点から、湯治というものを鳴子らしく再構築していけたらと思います
 そのための"効くの具現化"を促進すべき"医療との提携"です。

実施計画
 基本計画を基に、次のことを実施していきます。

○温泉療養プランの作成
○全町の宿泊施設へ、参加呼びかけ
○参加施設間でのネットワーク作り

 このことは、お客さんに対する適切な対応という点を考慮しながら進めていきます。
 自分の施設で快方に向かわない場合は、よその施設を紹介するというように、お客さんのために、施設間の情報をできるだけオープンにしていきたいと思います。また、お客さん同志の交流という点からも実施していきたいと考えています。

○町内医療機関のネットワーク作り
 今後増加が予想されるお客さんに対する適切な対応を図るため、その受け入れ体制を町内の開業医に要請するものです。

○鳴子町と他町村との連携
 これは、観光農林課を中心としたキャラバン隊を作り、他町村に温泉療養プランを紹介して疾病予防のためのお客さんを当町に誘客するというものです。
 このことにより病院に足を運ぶ回数が減り、他町村の医療負担軽減にもつながると考えています。

○健康手帳の発行
 受診の際に基礎的な健康チェックを行い、その結果を手帳に記録して、自らの健康作りに役立てるものです。
 さらにこの手帳を持つことで、当町に限らず連携する他町村の行政サービスの一部無料化、民間施設利用の際の一部サービス化を受けられるよう検討していきたいと思います。

○有料の温泉入浴手引書作成
 温泉の上手な入り方、健康増進に関するアドバイスなどを盛り込んだ温泉ガイドブックを、奥鳴子.川渡国民保養温泉連絡協議会と共同で作成していきます。

○巡回バスの運行
 温泉療養プランに参加する意思があっても、病院へお客さんの送迎ができない施設のために、町営の定期巡回バスの実現を図りたいと思います。
 療養プランのお客さんに限らず、町民の利用も視野に入れたものにしたいと考えています。

○療養客の入湯税免除
 このことは、税務課並びに病院の協力を得ながら実現を図りたいと思います。
 特に病院側には、療養の証明を簡素化するなど手続き上の問題解決にも協力を頂戴したいと考えています。

○病予防{健康促進}のための 滞在プログラム作り
 これは、施設に滞在しながら、病院の指導の下健康に対する意識を高め、帰宅してからもその指導[生活習慣、食生活等]を実践していくというものです。
 このプランは、誘客を図るため全国各地で実践されていますが、当町においては、どこのものでもない鳴子だけのものを作成するよう努力していきます。

○お客さんへの正しい情報提供
 症状に適した泉質と施設の紹介をはじめ、施設の周辺環境、散策路、商店、食堂など有意義に滞在するための情報、さらには上手な入浴法、日常生活を楽しく過ごすための専門家によるアドバイスなどを常に新鮮な情報として全国どこからでも入手できるような体制作りに励みます。


基本となる考え
 実施計画を通してたどり着くところとでも言うのでしょうか、最終的にこうでありたいと考える鳴子の姿。
 しかしこれは、いつまでたってもたどり着くことができないということをも内包しているようです。
 暫定的手法による永遠の通過作業にも似た、とてつもないエネルギーの結晶が突然無に帰してしまうことも考えられます。なぜでしょうか?
 これまでの多くのイベントが一過性のものでしかなかったことを思い出してください。
 果たしてそこに、地域の理念があったのでしょうか?大いに疑問です。
 地域の理念に即さないイベントの繰り返しが、いつしか地域の大事な理念そのものの崩壊につながってしまったのではないでしょうか。
 多くの先達が地域の風土として残してくれた一番大事な考え方、生き方を鳴子ならではの方法、鳴子だけによる方法で再生することに、この事業全ての鍵があるように思えるのです。
 参加する方全てが、その時々に良いと思ったことを手がかりにして前に進むしかない、そんな事業になればと心から願っています。

 以上の考えに賛同して集まった、20軒の旅館。
 徐々にではあるが、湯治文化再構築に対する機運が高まりつつある。
 療養を目指す客が、遥か山陽から来るようにもなった。
 宿を含む、地域の受け入れ態勢も整いつつある。
 行政の支援も、予想以上のものだ。
 目指すは緩やかな地域おこし。
 核は出来た。
 あとは、様々な運動体とのリンクで道筋をつけ、無理のない展開を目指すだけ。

 又、プラン実施以来、実に多くの視察が相次だ。
 その対応で気にかかること一つ、他意はないのだが。
 視察に訪れた多くの観光地、その起源が湯治場だったにもかかわらず、高度経済成長期に、湯治客を一度拒絶してしまったのではないかということ。
 団体客専用の施設及び町作り、大型バス専用の観光スポットなど、いずれも大量輸送、大量消費型観光地作りに励んだところであり、今このような地域が療養型滞在客を呼び込むには、自ら真剣に変わる必要性があるのではないだろうか。
 老婆心ではあるが、一度失ったものを再度呼び戻すためには、その地域性に見合った変化を、来て欲しい客にどのようにアピールすればよいのか、その一点を地域全体で共通認識まで高め、さらに確実に実行することが、最重要課題のように思えてならない。

 幸いなことに、鳴子には変わる必要のない湯治宿が数多く残っていた。
 バブル期、増築に励む観光型施設を羨望の眼で見ながらも、必死に歯を食いしばり自分の背丈で生き、農魚村の客と一つ屋根の下、共に大事な温泉を守り続けてきた湯治文化が色濃く残っている。

 しかし、そのことは変わることを拒み、意識的に自然体を装っていたといえなくも無い。本来、自然体が無意識のなせる業だとするならば、意識して自然体を装うことは、時代の流れに対する逆行をも意味する。

 この意味において、鳴子における温泉療養プランは、"復元"を目指し、まさに逆行の末たどり着いたものといえるだろう。


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