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日本の温泉地再生への提言 [18] -第1グループ 官庁・自治体

温泉をいかしたホットな町づくり

上田 郁雄
(山形県) 大江町長


大江町概要

 大江町は、山形県のほぼ中央部、村山平野の西に位置し、JR左沢線で山形駅から西へ40分、山形空港からは車で20分の距離にある。
 西端には磐梯朝日国立公園の朝日連峰を抱え、そこを源とする月布川沿いに開けた町で、東西24q、南北に16qの細長い地形となっている。東端の左沢で最上川に注ぎ、中心市街地を形成している。左沢は、古くから水郷の町として知られ、最上川が内陸と庄内を結ぶ主要な交通手段であった当時、左沢は舟運航路の中継基地として反映した歴史を持ち、今も当時の繁栄を偲ばせる商家の家並みが残されている。
 世界三大舟唄のひとつといわれる最上川舟唄は、当地が発祥の地で、美しい風土と舟運歴史の中から誕生した。
 農業では、果樹栽培が盛んで、ラ・フランス、さくらんぼ、ぶどう、りんごなどの特産品づくりを進めている。
 JR左沢駅は、終着駅と始発駅の機能を有し、新駅舎が咋年2月に完成した。更に地域活性化の拠点として、併設する交流ステーション及び周辺施設も先日新装オープンしたばかりである。
 大江町は、昭和34年に一町一村が合併し誕生した。昭和40年代に入り、高度経済成長の裏で過疎化が急速に進行し、人口流出に悩まされ続けてきた。
 道路交通網の整備、産業の振興など種々の過疎対策を講じてきましたが効果は思うように上がらず、平成に入ってからは、流出に歯止めをかけようとしたそれまでの対策から発想を転換し、駅のある町としての地の利を生かして、町内だけでなく町外からも人口獲得を目指し、誰もが住みたくなるような住宅政策を推し進めた結果、大江町の人口は増加とはいかないまでもここ数年は横ばい状態となっている。平成2年には建設省の「新ふるさとマイホーム推進事業」の認定を受け、住宅団地『大江パークタウン』131区画を整備し、続いて平成10年は『蛍水団地』99区画が即日完売。50%以上が町外からの申込者という人気ぶりでした。この度、住宅団地第3弾として売り出した『みなみ団地』も16区画すべて分譲し、この10余年で約250区画の住宅地を完売している。


温泉を核に交流の町へ

 地域の元気度を測る目安として、定住人口とともに交流人口が挙げられる。
 大江町は、町のキャッチフレーズ『あじさい薫るいで湯の里』にも織り込まれているように、いで湯の里としても名を馳せており、近年は数多くの交流人口を得ている。
 大江町の魅力として忘れてならないのが温泉である。町には、東端の最上川河畔に舟唄温泉(テルメ柏陵健康温泉館)と西の朝日山麓に柳川温泉があり、2つの施設を町営バスで結んでいる。泉質の異なる2つの温泉を、健康づくり、交流の拠点と位置づけ、幅広い利活用を模索しながら町づくりを展開している。
 舟唄温泉は、平成3年に湧出した全国にも珍しい硫黄分を含む薄黒色の高濃度温泉で、最上川河畔の景観にマッチした和風の健康温泉館は、平成7年にオープンし、道の駅と共に交流の拠点となっている。
 一日の平均入浴者数が900人という盛況ぶりで、しかもその9割近くが町外からの来訪者で占められている。  成分は、食塩、カルシウム、硫黄などを多く含んでおり、糖尿病、婦人病、冷え性などに幅広い効能があり、別名『若さの湯』とも呼ばれている
 一方の柳川温泉は、西の山村集落にひっそりとたたずむ『奥おおえ柳川温泉』と呼ばれる秘湯で、平成6年に温度、湯量とも全国でもトップクラスの温泉として自噴した。建物外観は、かつて柳川地区にあった茅葺家屋をイメージにしたものとなっている。
 この温泉の人気の秘密は、源泉そのものにあり、良質な泉質で飲むことができることに加え、露天風呂と県内でも珍しい蒸気浴の施設があり、せわしい日常を忘れてのんびりと過ごすにはうってつけの場である。

 温泉の利活用については、まずは町民のための温泉を最優先に考えて、町民の交流(裸の付き合い)促進、健康増進に向けた事業を積極的に取り組んできている。
 中でも、町民を対象に温泉入浴料の半額を助成する「さわやか健康づくり推進事業」は、平成8年からスタートし当初は国民健康保険加入者で40歳以上の方のみを対象にしていましたが、平成12年からは、町内に住む40歳以上のすべての方と血糖値の高い方、障害者を対象とし拡大を計っている。
 本町は、高齢化率が29.3%で県内では4番目に高い状況になっているが、70歳以上の国保医療費は逆に県下で最も低い結果を示している。
 特に老人医療費の動向を見ると、一人当たり月平均医療費は、県内44市町村のうち43〜44番目と最も低い状況にあり、温泉の効果が具体的に現れた成果だと自負している。
 日本人の寿命が年々伸びているが、入院生活や要介護状態では幸せとはいえない。そこで、昨年度より健康な状態で長生きするいわゆる「健康寿命の延伸」を目的に、一層の健康づくりを応援すべく「旬の町健康道場」をスタートさせた。
 健康づくりには、食、運動、保養のバランスが大切だといわれているが、これまで部門ごとに実施していた健康づくりの形態を健康道場として一元化し、機能連携により相乗効果をねらいとするものである。
 今では温泉が町民の生活の中に深く定着し不動のものとなっている。
 私も毎朝通って温泉仲間と裸の付き合いをするのが日課となっており楽しみにしている。これからも温泉が人々の語らいの場、サロンになってほしいと願っている。

 次に交流人口の拡大のための温泉の活用である。
 このように、温泉を通して町内に笑顔と活気があふれてくると、マスコミにも取り上げられ、人の口伝いにうわさが広がり、県内はもちろん県外からも町への来訪者が徐々に増え、今では年間100万が訪れるようになり、その約8割が温泉関連によるものである。
 温泉まつりなど季節ごとに様々なイベントも開催している。

 まさに町全体が温泉で活気づき、交流人口の増加に伴い徐々に地域産業が活性化するようになった。
 そのひとつが、そばやの開業が続いていることである。(柳川、沢口、貫見) 柳川温泉の施設利用支援活動として″柳川温泉そば道場″が土日に開設されてきたことにより、一気にそばブームが広まった。
 山形そば街道が形成され、ヘルシーな″そば″は温泉とともに健康ツアーのキーワードとなっているまた、道の駅では、特産のさくらんぼ、ラフランス、などの果物や野菜など農産物が販売され地元農家の生産意欲が高まってきている。商工業者による特産品の開発、販売などに結びつき、新たな地域イメージが形成されつつある。


今後に向けて
 観光の語源は「国の光を観る」ことにあり、他の地域の文化風土、地域の特色、誇りなどを体得することであると言われている。大江町では、″人と自然が輝く旬のまち″を目指して町づくりを進めていますが、温泉を核とした様々な取り組みを通して町民が町づくりに自信と誇りを持つようになり、人々のいきいきした姿が町を訪れる人に伝わり、それが更なる交流に繋がっていくものと信じている。
 今後とも町民の幸せづくりを基本に、食と健康、温泉と健康をテーマとして、健康寿命の延伸のための施策や「旬の町健康道場」を更に推し進め、私たちの住む地域の良さ探りながら地産地消などにも意欲的に取り組んで行きたいと考えている。
 また、読売新聞社主催の「日本遊歩百選」に本町が「最上川舟唄のふる里」として選定を受け、歩きながら健康増進をはかり、観光を楽しみ、地域の歴史、文化に触れる新しいスタイルの旅を提供するにふさわしい環境であると、高い評価をうけた。
 こため、最上川河畔に遊歩道や歌人斉藤茂吉の歌碑などを整備し、桜の植栽を行い、定評のある河畔の景観の保全と活用を図るとともに、左沢楯山城址は、中世の山城としては、全国有数の規模として貴重な遺産であることがこれまでの調査で明らかとなったことから、中世の山城の復元など歴史の再現に大いなる夢を描いている。
 そして、今に生きる者として、また町づくりを受け継いだ者として、先人が営々と築きあげた歴史の重さと最上川文化に思いを馳せ、温泉を核として、更なる歴史と文化の薫り高いしかも自然環境を大切にするまちづくりを進めて行きたいと考えている。


旬のまちづくり

 旬とは、「きせつの食物の、出盛りで最も味のよい時期」のことですが、旬を味わうということは、「季節に取れたものをおいしい時に味わう」ということにとどまらず、「恵みを与えてくれた自然の営みに感謝する」ということにも通じます。
 私たちは、そうした感動や自然とのかかわりを大切にする町づくりを進めたいと考えます。
 また、旬とは「物事を行うのに最も適した時期」のことであり、私たちは時機を捉えて地域の特性を生かしながら、常に新鮮な取り組みをして21世紀のまちづくりを進めます。


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