Home 健康と温泉フォーラムとは 事業 組織
会員オンライン 情報ファイル お問い合わせ
目次 NEXT

日本の温泉地再生への提言 [19] -第1グループ 官庁・自治体

別府温泉の特性と課題

浜田 博
(大分県) 別府市長


別府温泉の現状、問題点、施策の概要等基本的考え方について

 別府市は八方を自然豊かな海、山に囲まれ、また、瀬戸内海に面した温暖な気候による恵まれた自然環境のもと、源泉数、湧出量とも日本一で、さらに泉質は地球上に存在する11種類のうち10種類を誇る温泉資源により日本を代表する観光温泉都市として発展してきました。
 それは、日本全国や世界の人々に、温泉による「癒しの場」を体験していただき、ひいては生活に活気を与える原動力となる「もの」を提供して来たと思っています。
 昨今の温泉ブームに別府の観光関係者、商工関係者、行政等こぞって頑張っていますが、観光客の入り込みは、平成14年度は1,180万人と微減の状態です。
 時代の趨勢により、私たち別府にもいろんな発展を阻害する要因が発生しています。それは経済の低迷に加えて、観光客の嗜好の変化、さらには道路の整備による観光動態の変化などが上げられます。
 それらは、複合的に重なり合って、観光客の入り込みに影響を与えています。
 別府は、いま、観光の柱に国際化を上げています。関係者一体となって国内はもちろん外国の観光客を誘致し、温泉による「癒しの場」を創出しています。
 また、併せて、各温泉施設の現状を点検し、温泉ニーズに合った改修なども行っているところであります。
 稀有の温泉財産を、日本の、そして世界の皆様に気持ちよく楽しんでいただくために、観光温泉文化都市「別府」は今後各種の施策を展開していきます。


概要

 別府温泉が地域の人々に温泉として本格的に利用され始めたのは、江戸時代にはいってからのようで当時次第に町並みが形成されるに伴って、各地に自然湧出する温泉を利用するため、共同浴場が開設され今日の基盤が造られた。
 別府温泉は浜脇・別府・観海寺・堀田・明礬・鉄輪・柴石・亀川の八湯から形成されており、現在市内にある源泉総数は2,841孔で毎分約95,330リットル(平成15年保健所報)の湧出量が有り、源泉数・湧出量は日本一を誇っている。
 公衆浴場164か所とホテル・旅館等をはじめ医療用・園芸用・暖房用・湯の花の製造まで多目的に利用されている。
 温泉の泉質は、地球上に存在する11種類の泉質のうち、単純温泉・塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉・二酸化炭素泉・含鉄泉・含銅―鉄泉・硫黄泉・酸性泉・含アルミニウム泉の10種類を有し(有していないのは放射能泉)ている。
 市が保有する源泉数は約150孔あるが、現在利用されている源泉は約70孔である。市営の給湯事業は、昭和12年に浜脇地区の給湯を始めたのが最初で、現在の16か所の源泉を分け総延長、33,000mの給湯管を使い7経路で給湯している。温泉課が直接運営管理を行う温泉は、有料と無料の施設が有り、有料市営温泉は13か所、無料温泉は、昭和10年町村合併以前の制度が継承され、 明礬地区2か所・鉄輪地区2か所の計4か所で併せて17ヶ所となっている。
 その他に各地区が管理運営を行っている市有区営温泉66か所となっている。


内湯(給湯会社からの引き湯等)の状況

 新興住宅地には、給湯会社の引湯管の布設が進み温泉を利用した内湯世帯の増加が見られる。また、新築する場合には、内湯を備えた設計が主である。核家族化により、若者が結婚等で別世帯になる場合に選択する住宅には、当然内湯が完備されている。
 市内には温泉を給湯する会社があり個人家庭にも給湯し内湯として利用されている。
 また、個人が自家泉源を利用して数世帯から数十世帯に給湯したり、1泉源を数世帯で共有し、それぞれの世帯が温泉を利用した内湯を持っているのが現状であるが世帯数については不明である。
 源泉所有者等のデータについては、所管である中央保健所がデータベース化を検討しており、将来的に完成すれば温泉所有のデータ分析に役立つものと思われる。


関連計画の概要

市営温泉の整備に係る問題点と課題等のまとめ
 市営温泉が抱える現状の問題点及び今後の施策課題等を整理する。

高齢化(障害者)への対応

〔現状の問題点〕
 若壮年ファミリー層の減少、65歳以上の高齢層の増加等により高齢者人口比率は急速に高まっている。入浴者も高齢者が多く見られる。
 市民で70歳以上の高齢者や身体障害者、生活保護受給者に対し、 別府市 は福祉施策の一環として竹瓦温泉をはじめとする9つの市営温泉を無料入浴できる優待入浴券制度を実施している。
 中でも高齢者入浴の割合が、高齢者人口の増加とともに増え続け、 平成12年度は延べ20万人以上が利用しており、これを市民券を利用した場合で換算すると、1,000万円以上の入浴料金に相当する。現在のところ、温泉事業特別会計に負担がかかる形となっているため、福祉関係課が一部負担するなど協議し負担割合を検討していく必要がある。

〔市営温泉の施策課題〕
 市営温泉の浴槽は脱衣室から階段を数段降りた所にあり、高齢者、障害者には不便である。建替時には段差を解消し手摺等の設置をする工夫が必要である。 周辺の医療・福祉施設等との連携による温泉の利用を図る。温泉を利用した医療診療の充実など、温泉を活かした健康づくりの確立を指す。

入浴者数の減少に対する対応

〔現状の問題点〕
 人口は昭和55年をピークに減少傾向に転じた。また、人口減少は市の中心部において著しく、市域の人口分布に偏りが生じているほか、中心部の高齢化が進行している。柴石温泉や砂湯への入浴者は増加しているが、他の市営温泉は、毎年減少傾向にある。
 これは、市営温泉が、旧市内に偏っているため、この地域は人口が減少していることと、内湯の普及、施設の老朽化や駐車場を完備した民間の温泉施設の開業等が影響していると考えられる。

〔市営温泉の施策課題〕
 市営温泉を外湯感覚で利用できる温泉に衣替する。中心部の老朽温泉施設を、昨今の消費者のニーズにあった温泉施設、 自然環境、温泉情緒、本物の温泉などのアピ−ルできる温泉施設とする。
 それぞれ付加価値を持たせた造りに改築し 観光客の利用促進を図る。
 温泉施設を2〜3か所と商店街、旅館やホテルとの連携を確保し、利用者の増加が見込める企画の推進をする。


市営温泉整備計画
市営温泉整備方針


〔目 標〕
 市営温泉の位置づけ及び、整備方針等を設定するにあたり、市営温泉整備や癒しを求める現在にマッチした街づくり等に向けて目標と べき事項を次のように整理する。

○人について
 若者から高齢者まで偏らなく、豊かな人間関係を保ちつつ、地域の人々と観光客とが溶け合い、一体となるコミュニティの場とする。又官民一体となって温泉巡りの動線等を考えより利用しやすい温泉にする。

○街について
 別府の恵まれた資源である温泉を活かした街・自然を活かした環境づくりを行い温泉情緒あふれる、癒しを求める現在にマッチし街づくりをする。 高齢者や障害者等が住み慣れた地域で安心して住める街にする。

○温泉について
 別府の特色を活用した、温泉情緒と自然環境にあったゆとりのある温泉。観光客や若年層を引き付け癒しのある、入浴したくなる魅力ある温泉。高齢者や障害者が入浴しやすい温泉を目指す。


〔位置づけ〕
 市営温泉整備に向けて3つの目標を整備事業において実現化していくため、今後、10年を念頭においた市営温泉の位置づけを次のように設定した。

○内湯世帯を市営温泉に呼び戻しを促進できる市営温泉
 内湯を持っている世帯でも、月に数回は清潔で快適な市営温泉に入浴したくなるような市営温泉に整備する。

○観光客を誘致できる市営温泉
 ホテル・旅館と連携して観光客が長期滞在型になるような又、医療と温泉を組み合わせた魅力ある温泉に整備する。

○高齢者・障害者等に優しい市営温泉
 高齢者・障害者等が安全・快適な生活ができる市営温泉を整備する。施設整備としては、高齢者・障害者等が利用しやすいユニバーサルデザインを意識した設計をしていく。

○HOPE計画との連携により別府の特性を活かした市営温泉
 豊かな自然環境と地域の医療・福祉施設等を活かした別府ならではの市営温泉づくりが重要であり、改築計画時には別府市HOPE計画の主旨を充分配慮したものにする。


〔ソフト事業〕
 平成12年4月、温泉課内に温泉企画係が設置されたことにより従来の市営温泉管理運営健全化を中心とする取り組みだけでなく、より広い視野に立った温泉行政に取りくんでいけるようになった。又、平成15年7月、観光課内に観光戦略本部を設置し観光客のニーズや嗜好の変化にあった街づくりを推進し、観光客を呼び戻す戦略を展開している。関係機関、民間団体と連携をとり、温泉を中心とした諸施策を進めていくよう計画する。


その他検討事項

 温泉愛好者は全国に多数存在しており、別府温泉の特色を効果的に打ち出すことができれば、今後、別府温泉を利用してもらえる可能性がある潜在的観光客数はかなりのものが期待できる。
 昭和51年をピークに観光客数が減少してきているが、最近になって別府観光活性化のために、企業や地域おこしグループなどの動きが盛んになってきた。行政も平成15年7月に街づくり推進室を設置し街おこしグループの後押しをしている。民間主導で各地で実施されている別府八湯「路地裏散歩」、「別府八湯温泉泊覽会(オンパク)」や「風呂(26)の日」、その他八湯別に地区独自イベントも企画され好評のようである。
 さらにインターネットの急速な普及により、ホームページや電子メールを活用した新たな温泉PR方法が確立されてきており、こうした動きに対応し、各種イベントが実施しやすい地盤づくり、たとえば温泉道88ヶ所温泉名人など携帯電話を使った戦略など、各種情報提供にも行政が積極的に協力し、利用者拡大を展開していくことが必要であり、同時に来ていただけるお客様を温かく迎える市民のホスピタリティマインドの育成も必要である。


おわりに

 別府温泉は、源泉数、湧出量ともに日本一を誇り、泉質も地球上に 存在する11種類のうち10種類を有するという非常に恵まれた自然 の恩恵を受けている。
 また、別府八湯の名で知られる8つの温泉エリアには温泉という共 通性はあるが、それぞれの地域で非常に個性的な一面を持つ。
 これらを整備していくには、画一的な方針ではなく各地域の特色を生かした方法が当然あるべきである。8つの温泉郷ごとの特色を活かし、八湯ごとの差別化を図り、単なる行政主導による整備を進めるだけでなく、関係各機関や民間団体と協調した上で、最良と判断できる整備を行うことにより、別府市の財産である温泉資源の有効活用を図ることができ、また施設整備だけでなく「ホスピタリティマインド」でお客様を温かく迎えることによって、市民・観光客で賑わう別府温泉の姿が見えてくるのではないかと思われる。


目次 NEXT
Copyright(c)2004 NPO法人 健康と温泉フォーラム All rights reserved.