Home 健康と温泉フォーラムとは 事業 組織
会員オンライン 情報ファイル お問い合わせ
目次 NEXT

日本の温泉地再生への提言 [36] -第2グループ 医学

温泉地の再生のあり方

石原 義恕
(中伊豆) 中伊豆温泉病院 健康管理センター


健康のための温泉利用

WHOの健康の定義によれば「健康とは身体的のみならず精神的、社会的にも健康であることをいう」となっており、現在の医学治療の中で重視されてきているQOL(生活の質)の考え方と基本的に一致しています。温泉を語るときにQOLという言葉は健康人が温泉を利用するときにぴったりな言葉です。しかし、健康人といっても自分が健康であると思っているだけで、必ずしもWHOの健康の定義にあてはまるとは限りません。温泉に入浴することによって、変調した自律神経は次第に正常化に向かっていきます。温泉浴の心身医学的効果の占める部分が大きいことに気づきます。この効果は温泉のみの効果ではなく、温泉地の気候や地形が影響するといった環境の変化によって、脳下垂体の副腎系が刺激されるため、各種のホルモンの分泌が盛んになり、結果的に身体に好影響をもたらしQOLを高める作用があるからです。このことを、よく理解して温泉を利用することが大切です。

温泉再生のあり方

温泉は急性疾患には適応はありませんが、健保持、発病予防、また慢性疾患(生活習慣病)の回復や修復促進、近代医学の欠陥を補う役割も果たしています。このように、有益な社会資源である温泉を効率よく活用し地域でそれぞれ努力している温泉地の再生のあり方について考えてみたいと思います。

温泉行政について

医学が進歩した今でも温泉療法は現代医学の一分野を占めています。しかし現在の医学の動向をみますと国の方針により、国立病院の統廃合が進む中で多くの大学の温泉研究機関が統廃合されています。このことは温泉の将来の発展にとっては決してよい影響を与えません。今後、高齢化社会が進む中で、長期的展望にたって温泉の位置づけをしていく必要があります。自治体をみても地域差がみられ、少なくとも温泉地のある自治体では各々工夫して努力していることは理解できますが、ただ、どの温泉地も温泉研究機関がある地域は少ないと思います。国や自治体の温泉行政と温泉地再生とは大きな関わり持ってくると思います。

温泉地再生の取り組み

民間活力開発機構が毎月発行している「みんかつ」ではそれぞれの地域で積極的に活躍している状況が紹介されています。中伊豆温泉病院のある静岡県中伊豆町でこれまで行った取り組みについて、資料をみてみますと、しずおか健康保養空間創造事業が県の長寿健康総室健康増進室が主となって進められ、健康保養地の研修会も開催されています。健康保養空間イメージ図を見ると、一番下に健康保険ツアー(仮称)があり、県が中伊豆町をモデル地区として、平成13年9月に実施した2泊3日の健康ツアーは大変好評でした。この時は自治体の協力のもとに町の各代表、観光業者、中伊豆温泉病院が医療面を受け持ち採血、健康度チェックによる生活習慣病の検診を行いました。これからは温泉保養事業の中に必ず医療関係者が参加することが必要だと思います。

日本温泉気候物理医学会

日本温泉気候物理医学会(以下温気学会と略)は昭和10年に創立された古い歴史をもつ学会です。最近医学関係においてEBM(根拠に基づいた医療、Evidense of Based Medicine)の必要性が強調され温気学会がこの面の責任を果たしています。さらに、学会は講習会を受講した医師に温泉療法医の資格を与えています。現在839人の温泉療法医がおり、温泉保養地で十分に活躍できる場を与えられることが必要になってきます。

温泉と混合医療、保険診療について

最近、国の方針で構造改革特区なる制度ができ、医学の分野にも、取り入れられる状況にあります。温泉地においても、温泉を混合医療の中で検討する動きもあります。この問題は賛否両論がありますが混合診療を議論する前に、温泉を是非とも保険診療の中に取り入れてほしいということです。長年にわたって認められていない問題ですが、温泉療法指導管理科の要望を350点だけとしないで、これからは、いくつかの条件をつけて申請することになります。その1つとして温泉療法を受ける患者に主治医は30分以上の温泉の説明をして、その旨をカルテに記載する。その他、資格を持った医師の指導が望ましいことも付け加えています。温泉が保険診療の中に組み込まれるメリットは計り知れないものがあります。まず、1)温泉療法医がその資格を十分に発揮できる。2)患者側も医療として温泉についての理解を深める。3)温泉は日本全国にあり、地域外住民の来訪が活発になり、温泉保養地の活性化が図られる。4)旅館側も温泉療法の人達を受け入れることにより、料金、食事、安全性、温泉の泉質の説明等さまざまの努力が必要になります。

温泉とリハビリテーション、QOL

温泉とリハビリテーション(以下リハと略)は以前より表裏一体の密接した関係にあります。中伊豆温泉病院は昭和42年開院以来関節リウマチのリハに力を入れており、これまでに多くの実績をあげています。特に温泉を利用したプール療法は好評ですが、リハの包括医療の中ではプール療法はサービスになってしまいます。このことにより、プール療法に温泉が保険診療に入ることが望まれます。

温泉を語るときにQOLという言葉はぴったりの言葉です。温泉による統合的生体調整作用が直接にQOLに結びついていると考えられます。しかしQOLは客観性に欠けるとこりもありましたが、いろいろな評価表が作成され、最近ではQOLを定量化することが可能になってきました。日本温気学会教育研究委員会(延永 正・他)が「QOLからみた短期療養の結果」を温泉医療医を中心として全国調査を行い、温泉療養の前後で有意の改善を認め、3?7日の短期療養でもQOLの効果は十分であり、しかも、その効果は1ヶ月程度持続すると結論しています。

温泉と生活習慣病

現在日本は世界一の長寿国になっています。しかし、これは病気になって寝たきりの人も平均寿命に入っています。人が生涯の中で健康に生活できる期間の平均を示した「健康寿命」も日本が世界一になっています。高齢化社会が進んでいけば、今後益々生活習慣病が増えていくことは間違いありません。長生きすることは結構ですが寝たきりになって長生きをしても、決して幸せではありません。その為には生活習慣病を改善する努力が必要です。その中の1つとして温泉を利用することが必要です。

温泉を利用する地域では、その他の地域より医療費が少ないといわれていますし、温泉地の高齢者はそうでない地域の高齢者より介護保険の利用者が少ないともいわれています。ですから今後温泉を保健診療に取り入れて、多忙なビジネスマンでも年に何回か短期(3?5日)でも温泉療法が受けられる環境づくりが大切です。

理想とされる町や温泉保養地

高齢化が進むと必然的に高齢者だけでなく青壮年にも健康に対する関心が高まってきています。日本の温泉地の中にも町全体が温泉を中心として理想的な温泉保養地を作り上げているところは沢山あります。これらは画一的にする必要はなく、各々の長所を取り入れて、将来的には全国的ネットワークの中で、よりよい温泉地にする努力をしていけばよいと思います。温気学会教育委員会(延永 正・他)による成績が長期温泉療養(14日以上)のみならず、3?7日の短期温泉治療でもQOLの改善がみられており、この温泉療養効果を健康と結びつけて広くPRし、温泉を保険診療に結びつけていかなければならないと思います。

 以上温泉地の再生のあり方について述べましたが、キーワードとして、1)温泉の基礎的研究、2)温泉のEBM・QOL、3)温泉療法医、4)温泉の保険診療、5)生活習慣病の温泉利用、6)地域住民のチームワークによる町作りがあげられます。これらのキーワードが統合されて理想的な温泉保養地が作られて、一般の人々から温泉が見直され「健康」と深く結びついていくことが大切です。


目次 NEXT
Copyright(c)2004 NPO法人 健康と温泉フォーラム All rights reserved.