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日本の温泉地再生への提言 [70] -第2グループ 学者・専門家・団体

温泉町が一体となった「楽しみ」の創造へ

菊間 潤悟
(株)ワールド航空サービス 代表取締役社長



温泉の現在と問題点
 日本人のレジャーの代表として、温泉はトップを走り続け、安らぎを与え続けてきました。その心からのくつろぎは旅館の心温まるホスピタリティと質の高い湯をベースに「安心(安らかな心)」の再生に大いに貢献してきたといえます。
 しかしここにきて、温泉の魅力の根源である「安心」が揺らいでいます。レジオネラ菌感染の問題が大きく取りざたされ、健康のための温泉の基盤を危機状態に陥らせています。保健所はそれに対して、塩素使用を勧めていますが、そうすれば日本の伝統的な入浴法である「打たせ湯」や「泡湯」が消えてしまう恐れがあります。東北地方などで多い伝統的な湯治場が危機的状況にさらされる可能性が出てきます。
 もとより温泉の需要に対して、天然温泉資源は限度にあり、温泉枯渇の問題もあります。愛知県のある温泉では、すでに20年前に天然湯は枯渇しており、水道を湧かして温泉を名乗っていました。昔からの温泉場である熱海や鬼怒川温泉でも団体客対象の大型ホテルが多いため、湧出量と使用量とのバランスがとれていないとの消費者からの報告もあります。
 長期に及ぶ景気の停滞で、社員旅行や研修が省略されるなかで、大型温泉地が壊滅的な打撃をこおむっています。かつては高度成長の波に乗り、慰安、娯楽型温泉を売り出したところでは大型旅館の倒産が相次ぎ、客足が遠のき、客が激減しているという厳しい現状が見られます。商店街、温泉街も活気をなくし、閑古鳥が鳴いています。一方で、東京に新しい温泉が誕生したり、手軽な日帰り温泉が盛況ですが、地方では第3セクタータイプの「日帰り温泉」が多く、公共湯ほど循環湯や引水が多いので、レジオネラ菌発生の危険性は高く、温泉の安全性や塩素多量注入の問題が問われています。

今後の温泉地の回復と活性化(案)
 温泉と聞けば、誰しもが心安らぎ、そこに悪いイメージはもっていません。しかし、現在はこの「温泉」にすら嫌疑や危機意識を消費者が感じています。今後、健全な温泉を取り戻すためには、「ほんものの温泉」の選別を強化し、「天然温泉」を厳しく規定し、類別する必要があると思います。(社)日本温泉協会が星付けをして差別化しようとした経緯はありますが、決して成功したとは思えません。たとえ歴史ある温泉場としても、湯を運んだり、引湯をしていては、温泉地とはいえません。勇気をもって、選別、淘汰を推し進めるべきです。
 それには「温泉法」の見直しを計るべきです。昭和23年に定められた「温泉法」はいわば性善説に基づいており、
温泉とは、
1 源泉の温度が25℃以上であること。
2 25℃以下であっても鉱水1kgの中に硫黄、リチウム、マンガンなどの有用成分が規定以上に含むもの。
というだけのあまりにも漠然としたものです。半世紀を経て、時代も国の形もすっかり変わっている現在、もっと厳しく「天然温泉」の規定を定めるべきだと思います。これでは町のラドン温泉と天然温泉の区別もさしてなく、この法自体に現在の温泉の混乱の原因の多くがあると思われます。
 現在の状況では少なくとも、温泉の情報公開を徹底させるべきです。温泉がいかなる温泉であるのか、以下の点を核に温泉施設の情報の表示を求めるべきだと思います。
1 源泉であるか、どうか(1日の湧出量)。
2 施設内(村町内)で湧出しているか、どうか。
3 泉温(加熱しているのかどうか)
4 いかなる泉質か(効能など)

ドイツ方式の「療養温泉地」を
選別、実行する
 温泉先進国のドイツでは、温泉療法が医学療法として認められており、医者の指導のもとに温泉療養が勧められています。国民指定保養地が国内に多くあり、そこには温泉病院、リハビリ施設、クアハウス、アパートなどの施設があり、長期滞在できるシステムが確立されています。また交通費、治療費、滞在費の多くは国民健康保険でまかなわれており、誰もが負担なく、温泉療養に励むことができます。また、クアハウスを中心に、オペラ、音楽祭などのイベントが行われ、楽しみながら温泉保養を受けられるというシステムが確立されています。
 そこで日本での可能性を探ってみますと、
1 温泉病院があること(温泉病院や温泉医学療養師が地元に在住しており、カルテを出せること)
2 厚生省認可のクアハウスがあること。(温泉を利用したクアハウスがあり、インストラクターが在住し、カルテに基づいた健康増進指導ができること)
3 旅館やホテルが連泊(4、5日〜1週間)や長期滞在を受け入れるシステムがあること。
4 自然環境に恵まれており、山や海が近く、湯客が散歩、スポーツなどが楽しめること。
 しかし、残念ながら以上の条件を満たしている温泉地は鹿教湯(長野県)、鳴子温泉(宮城県)、野沢温泉(長野県)など全国で15カ所ほどしかありません。少なくとも、そうした健康温泉地をドイツと同じく、50カ所以上ほしいものです。

温泉を「生活習慣病」を治す
癒しのふるさとにする
 現代社会で働く多くの成人の病原はストレスです。ストレスこそ形のない現代人の病魔で、多くの成人の心や体を弱体させています。そうした都会の成人に、温泉はふるさとの憩いと癒しを与えてくれる最高の施設です。ストレスからくる肥満や高血圧、糖尿病、高尿酸などのいわゆる「生活習慣病」を治す健康と癒しの場に温泉は一番だと思います。
 都会の疲れた人々が季節毎に温泉に通い、温泉病院の医師と知り合いとなり、長期の生活指導を受けられるようにすること。生活習慣病は一気には治らないので、温泉病院に通いながら、都会でもできる治療法を学ぶこと。温泉に通うことにより、自分の体をきれいにしてゆくのです。
 旅館、民宿はB&B方式をとってほしい。生活習慣病は病気ではありますが、怪我や入院とは違い、元気に働いている人々が多いのです。同じ旅館では料理に飽きてしまいますが、B&B方式をとることにより、より安く延泊でき、食事も選択できるようになるのです。昔の湯治場は自炊が基本でした。今の人は自炊は無理なので、町ぐるみでB&B方式をとり、誰もが長く滞在できるシステムを作りたいものです。

バーデン・バーデンの印象
 私にとってドイツは第二の故郷といってもよいくらい、ドイツは若い頃からなじみがあり好きな国です。
 温泉町として知られるバーデン・バーデンは南ドイツの黒い森の近くにあり、気候が温暖なところです。この町には世界中から湯治客というか、温泉療養客が訪れ、年中活気に満ちています。初夏、ここを訪れるとクアハウスの周囲にはバラ園が広がり、赤、ピンクの花々に囲まれて、まるで庭園に遊ぶようです。落ち着いたたたずまいの気品のある建物の多くはペンションやアパートで遠くからきた湯客を受け入れています。
 夕方からはクアハウスでは室内音楽会が催され、時には噴水の前で野外コンサートも行われます。ドイツをはじめヨーロッパの有名な指揮者がクラシックコンサートを開きます。そこには正装した夫婦や恋人たちが集まり、コンサートが終わると、レストランに入り、ワインなど飲みながらとても楽しげです。クアハウスには公営のカジノもあり、かつてはドストエフスキーなどもここで大負けしたことを書いています。
 そういう意味で、温泉は人生を豊かにし、ゆったりと休養をとりながら、新しい明日の意欲を培う最高の旅行地だといえましょう。

 日本の温泉も旅館が自前の施設内だけで「楽しみ」の提供を完結することなく、温泉町が一体となった「楽しみ」の創造が必要です。たとえば、花を栽培したり、散歩が楽しめる環境を整備したり、買い物もできるお洒落な町作りはできるはずです。またゴルフや釣り、テニスなどレクリエーション活動や音楽コンサートの工夫もしたく思います。おいしい空気の中で汗をかいたり、音楽を聞くことは、心の癒しになるはずです。滞在(4、5日〜10日)しながら、人生をより楽しめるよう趣味活動(陶芸教室、貸し農園、俳句、短歌教室)の場があり、温泉という天からの恵みがあれば、温泉地は必ずや発展するでしょう。


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