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日本の温泉地再生への提言 [71] -第2グループ 学者・専門家・団体

地域の全体最適化に向けた温泉活用へ

浅井 直樹
株式会社三菱総合研究所



現在、企業や行政では、組織内に抱えるいくつかの課題それぞれについて、個別に解決策を検討するのではなく、組織全体としての最適化の観点であるべき姿を検討し、この実現に向けた施策を展開するという考え方が導入されつつあります。この考え方のもとでは、あるべき姿/全体のアーキテクチャを明らかにし、これを実現するための戦略として、どのような資源をどのように利用するのか、検討することになります。
地域の中で、「温泉」に何らかのかたちで関わる主体は数多いと思われます。これらの主体が、個別に自分にとっての最適化のために温泉を利用するのではなく、地域全体としての最適化に向けた温泉の活用を検討することも考えられるのではないでしょうか。
「温泉」をどのように活性化すべきか、に知恵を絞っている方は多いでしょうし、この検討そのものも、とても大切なことであるとは思います。しかし、「地域」全体の最適化のために、地域の保有する資源の一つである「温泉」をどのように利用するのか、を検討するという方法もあるのではないでしょうか。
つまり、「地域」にとって「まちづくり」や、「地域の魅力向上」を実現することが最重要課題ではないだろうか、そして課題解決ためには、地域にあるさまざまな資源を、どのように整備し組み合わせて、積極的かつ有効に活用するか、を検討するというアプローチです。この場合には、「温泉」を地域資源の一つとして位置づけることになります。

多くの地域では、(抽象度の高いレベルで表現すると)「地域を活性化する」ということが課題であると考えられます。そして、「地域を活性化する」ためには、「どのようなことを実施するのか」が、まさに地域ごとの戦略になると思います。
「温泉」を有する地域では、「地域活性化」に向けて「温泉」をどのように利用するのかは大きなテーマになるでしょう。そして、温泉は「健康」や「保養」だけでなく(「健康」や「保養」のための活用することを否定するわけではありませんが)、地域固有の課題に応じて、例えば「観光資源として、国内外の多くの人に楽しんでもらう場として活用する」「地域住民の憩いの場として活用する」「地域住民の社会参加の場として活用する」等、さまざまな活用方法が考えられると思います。このように、地域課題の解決に向けて、温泉をどのように活用することが可能か、に知恵を絞ることが重要ではないかと思います。

地域が抱える課題は、地域ごとに異なると思います。この前提にたつと、地域ごとに、その活性化のための戦略は異なると考えられます。このため、温泉地における環境整備として何を優先的に整備すべきか、は戦略によって異なってくるでしょう。
例えば「歴史と文化の街」を標榜するのであれば、歴史ある町並みをつくり、これに合致した温泉施設づくりをする、といったことが考えられます。
また、「健康なまちづくり」を標榜するのであれば、地域住民に向けた健康づくりプログラム等を整備し、このプログラム等に温泉を位置づけたり、他の健康づくりのための施設との協調方策を整備したりすることが考えられます。
そして、どのように温泉を活用するにせよ、ハードウェア整備に偏ることなく、ソフトウェア整備も含めて検討する必要があるでしょう。そして、活用効果をどのように評価すべきかについても検討し、これを明確にするとともに、評価を行ない、その結果をフィードバックすることも重要と考えます。

地域の戦略によって、長期滞在型を志向するケースもあれば、そうではない、例えば地元住民による利用、日帰り観光客の利用等を志向するケースもあると思います。
必ずしも、すべての地域で長期滞在型の温泉利用が望ましいと考えるわけではないでしょう。そして、多くの地域で長期滞在型の温泉地利用が事業として成立するほど、長期滞在型を望む利用者の数は多いのでしょうか。
長期休暇の利用促進に向けた社会的な制度の見直しは、必要なことだと考えますが、一方で長期滞在を望む人(需要)はどれくらいなのか、長期滞在を望まない場合その理由は何か、等長期滞在型の温泉地利用に関する利用者の意識についての検証をする必要があるのではないかと考えます。

一方で、国全体に視点を移すと、わが国の今後の戦略の中で、どのように温泉を位置づけ、どのように活用していくのかを、ますは明確にすることも重要と考えます。そして、国はこの考え方に基づいた温泉活用の推進、普及拡大に向けた施策を展開することが必要になると考えます。
個別事業に対する国の補助・助成は、これまでにもいくつか取り組まれてきたことと思います。今後は、わが国の戦略に合致する温泉活用のモデルを提示し、これの普及促進を図ることは考えられないでしょうか。
そして、モデルとしては、前述したとおりハードウェア整備に偏ることなく、ソフトウェア整備も含めることが重要と考えます。また、TMOや「まちづくり」を標榜するNPO等の新しい組織を含めた地域全体として協力するモデルを提示すべきではないかと考えます。
また、普及促進の観点では、温泉活用の効果を科学的に示すことも重要と考えます。このため、モデルを提示する中でその効果を科学的に実証する必要があるでしょう。

「地域活性化」に向けたビジョンを明らかにし、これを地域全体で共有し、その中で「温泉」どのように位置づけ、どのように活用するのか、のアプローチで検討することが、結果として「温泉地の再生」につながるのではないかと考えます。


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