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日本の温泉地再生への提言 [73] -第2グループ 学者・専門家・団体

温泉と地域・地球環境

竹内 良一
株式会社荏原製作所 第二技術計画室長



日本の温泉の現状と問題点
最近、公共、民間を問わず健康増進を目的とした多くの温泉施設が建設されている。これらの施設の多くは800m以上の井戸を掘り、ポンプアップによるものが多く、源泉温度が低いため加温を必要とするケースが殆どといえる。これら施設は浴槽も大型なものが多く、加温に必要なエネルギーを化石燃料に頼る場合は、運営費を圧迫するのみならず、CO2排出量を増加させることになる。また、本来その地域にはない物質を地下からくみ上げるため、地域の生態系にも影響を与える恐れがある。
地域・地球環境に与える影響を最小限にするためには、自然エネルギーやコージェネレーションの活用により化石燃料由来のエネルギー使用量を抑制し、CO2排出量の削減を図るとともに、排水の高度処理等により地域環境への影響の極小化を図る必要があると考える。日本の温泉は「人にも自然にもやさしい」と世界に誇れるものにしたい。

温泉地再生のあり方
最近、いわゆる温泉街の旅館を利用した経験はあまりないが、プライベートで各地の公共温泉施設を利用することが多い。今までに、100箇所以上の施設を利用してみたが、多くは街中に立地していることが多く、郊外型の場合には定期バスを運行している例も多い。ただし、利用者の多くは車利用であり、駐車場が狭い場合には路上駐車等も多い。
施設利用日が殆ど休日のため一概には言えないが、3世代が利用しているケースも多く見受けられ、地元の高齢者を中心に長時間の利用者が多く、地域の社交場の役割を果たしていると思われる。個人的印象としては、温泉効果だけではなく、様々な会話等を通じて心身共に健康増進に役立つのではないかと思う。
一方、これらの施設は一部に宿泊施設を併設しているものもあるが、基本的には日帰り型である。又、周辺環境整備も運動施設や、公園との併設の例はあるものの進んでいるとは言いがたく、長期滞在型の温泉地利用とは対照的な位置付けにあるといえる。
今回求められている内容としては、街としての温泉であるのでそちらのほうに論点を移していく。
温泉地再生のための整備としては、従来の宿泊型施設にこうした日帰り型施設をからませ、公園等の健康志向型施設と商業施設等を配置し、街全体としての面的整備が必要と思われる。
特に、長期滞在型を思考するのであれば、文化・芸術的な施設設置やイベント開催以外に、日本的に見て健全な歓楽型施設の設置も必須であると思われる。最近はやりの特区構想を利用し、カジノの設置を検討することも考えられる。療養、治療客は別として、お行儀の良い施設だけで長期滞在客を引き付けるには無理があると思う。運営面や街並み整備等は専門外なので、面的整備のうち私の専門である環境整備面で提言を行いたい。

従来、周辺環境整備というと外観的な整備の意味で使われることが多いが、本来の整備はもっと根幹に関わることではないだろうか。
外観的な整備の手法にしても縦割り行政的な面を垣間見ることがある。一例として、河川沿いに歩道整備をした場合、既存の建物が川に背を向けて建っていると、川側はすばらしいが、反対側は綺麗とはいえない建物のバックヤードを見ることになり、景観上その様なエリアに河川沿いの遊歩道整備することは意味のないことである。この場合は、河川整備と都市計画との不調和ではないだろうか。もちろん長期的な整備計画の下に、建物所有者もバックヤード整備に同意して実施する場合は問題ないのだが。
更に本質面として、川そのものが汚染されているとまでは言わないが、各種排水等により汚れが進み、生態系も貧弱になっている場合は、魅力のある遊歩道とはならない。この為には、温泉排水を含めた生活排水の処理や、農業、畜産業との連携で汚染原因を極力少なくする方法が模索する必要がある。
また、目に見えない面での環境保全、大きく見ると地球環境保全の一つとしてエネルギー問題(地球温暖化防止)がある。従来、エネルギーのように目に見えない部分は、地域の評価とは無関係と思われていたが、COP3以降、国内の消費者の目が急速にこの方面に向いており、環境にやさしい活動を行っている自治体、地域に対する評価が高まってきている。逆にいうと、多々ある環境保全対策のうちエネルギーに対して特別な仕掛けをすることで、他と差別化することが出来るようになったとも言える。

目に見える電力源として太陽光発電と風力発電が注目されている。
現状では国の補助金を受けても採算面で成り立たない、と同時に、自然に左右される不安定電源ではあるが、環境にやさしいエネルギーであることは間違いない。これらは単独で利用すると不安定であるが、他の電源との組み合わせ、もしくは、発電し過ぎのときに他のエネルギー源として貯蔵することで有効に活用できる。
他の電源との組み合わせでは、自然エネルギーの中で最も安定している水力発電が適している。ただし、発電のためには、ある程度の水量と落差が必要であり、設置にあたっては水利権問題を解決する必要がある。
他のエネルギー源として貯蔵する方法としては、電力余剰時に水を汲み上げておく揚水発電や熱エネルギーとして貯める貯湯槽方式、更には将来的ではあるが自動車や発電用の燃料電池の燃料として、水を電気分解して水素で貯蔵することが考えられる。

又、熱源としては温泉街の最大の特徴である、温泉熱利用があげられる。
温泉熱や浴槽・洗い場からの温排水を利用し、源泉の加温やシャワー・床暖房等の給湯に利用が出来る。源泉温度が給湯温度に比べ十分高い場合は、熱交換を行うだけで利用可能だが、低い場合はヒートポンプにより熱をくみ上げて利用することになる。熱が更に余る場合は、周辺での施設園芸での利用も可能となり、地場産の食材提供の一部を担うことも出来る。

更に、電気と熱の利用としてバイオマスがあげられる。
木質系バイオマスの場合は、小規模ではストーブ、大規模ではボイラが一般的に使用され、生ごみ・糞尿系バイオマスの場合は、メタン発酵によりバイオガスを回収し利用する。後者の場合は地域の廃棄物の有効利用が図れ、エネルギー面以外でも地域環境に貢献できる。

この様に、地域に賦存する多様な自然エネルギー資源を有効に活用し、不足分をCO2排出量の少ない天然ガス等を燃料とするコジェネレーションで補完することで、CO2排出量をミニマムにした街づくりが可能となる。こうした手法は、自治体単位では規模が大きすぎて総合的な整備を行うには無理があるが、温泉街(集落)レベルでは地域の大きさと共通目標を定めやすいという点から可能性があると考えられる。
将来的な目標としては、電気自動車の利用しか認めないスイスのツェルマットのように、街中は燃料電池自動車のみ乗り入れ可能とし、化石燃料車は隣接の大規模駐車場でストップさせ、燃料電池バスでの送迎を行う。また、街中の移動は電動自転車等を利用する。
更に、街で使用する電気や熱は全て再生可能なエネルギーで自立的に賄う。こんな街が一つくらいあっても良いのではないだろうか。
現状では、この様なエネルギーは現在の化石燃料利用に較べ高価にならざるを得ないが、温泉地再生のための広告宣伝費用とする等、環境会計的な発想で取り組む必要がある。
「環境にも人にもやさしい温泉」といったキャッチコピーで地味ではあるが、着実に温泉地の活性化が図れるのではないだろうか。


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