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温泉療法について


齊藤 幾久次郎
日本温泉療法医会顧問
中伊豆温泉病院名誉院長
健康と温泉FORUM実行委員会 会長


 温泉を使って行う治療を温泉療法と呼び、温泉療法の行われる土地を温泉療養地と云うことは皆さん御存知と思います。わが国では温泉地と称するところが2000ケ所以上あり、昔から温泉が保養・休養・療養に用いられてきましたが、昨今経済界の不況によりこれらの温泉地が傾きかけ、大温泉地の歴史のある大旅館が傾きかけたり、倒産したりする暗いニュースが後を絶ちません。その原因は経済的不況が大きな要因であることは申すまでもありませんが、そのほかに社会情勢の変化も大きな影響があると思われます。例えば、どこの職場も職員の団体旅行など好まなくなり、個人かグループ旅行をするようになりました。しかし国民が温泉を嫌ったわけではなく、温泉に対する希望は依然として大きく、最近のリウマチ友の会(リウマチ患者さんの全国組織)の会員アンケート調査でも一番の希望は“温泉に行きたい”でした。また私は健康と温泉FORUM実行委員会のインターネットによる温泉療養相談を担当しておりますが、国民の温泉に関する要望は非常に高いことを感じております。従って今やこれら衰退傾向の原因を追求して立ち直らなければ温泉地は衰退一方になり、大きな危機に陥り、経済面ばかりでなく、保健上も重大な危機に直面します。
 われわれ温泉医学関係者としても、これら重代危機に無関心ではおられません。そこでこの機会に温泉医療の立場から改善策を提言してみたいと思います。これらの問題は既に昭和48年代38回日本温泉気候物理医学会のシンポジウムで東北大学の杉山尚教授司会のもとに“保養温泉地の医学的条件”について論じられておりますが、これに今回私見を交えて提言いたします。

表1
日本における療養泉として考えるべき条件
1狭義の療養泉自身として
 (1)含有成分の医学的有効量と質(いわゆる限界値)
 (2)適用の表示法の改正
 (3)ある程度の医学的調査による効能と適応の根拠(証明)
2広義の療養泉(療養温泉地)として
 (1)療養泉のある温泉地の環境、気候と施設の整備状況
 (2)運営と療養指導体制(温泉医を中心とする指導体制)
1、2を一応最低限充足するものを「療養泉認定の基準」とする。
(杉山尚:温泉医学1990, 20)

1.観光と保養の分離
 つまり保養地には従来の行き過ぎな遊興的要素を混在させないこと。日本の温泉宿の欠点で、夏目漱石の小説などでも隣の部屋で三味線の音がしてうるさくて眠れないと書いています。最近多くなった女性客や家族連れの客に対しても大きな支障となります。外国のホテルでは廊下や食堂では大きな声を出してはいけないというのがエチケットで、日本人は騒音に対して無関心過ぎます。
 私の意見では出来れば街の区域を保養区域と遊興区域に分けるのが理想ですが、出来なければ棟を分けるべきであると思います。

2.温泉の保健的利用と特殊療法の保存
 わが国には伝統的な温泉入浴法があるが、未だ充分な近代医学的研究が行われていないので、実験研究を行い、活用するのがよいと思います。例えば滝の湯、時間湯(草津)、足湯などがあります。露天風呂が大変流行しておりますが、外界の温度の急変に対して循環器系の障害のある人は特に注意が必要です。入浴による事故もかなり多く、最近は注目されております。

3.温泉をフルに応用した物理療法施設の併設、つまりリハビリテーション施設、運動施設など施設環境を整備
 温泉療法は温泉入浴・飲泉のみでなく、他に光線療法、電気療法、マッサージ、軽い運動の施設が望ましいです。
 また浴場はバリアフリーにすることはもちろん、休憩室の設置が必要であります。
 運動浴槽(温泉プール)も是非必要で、外国では温泉プールのない温泉地は考えられません。私の勤務しておりました中伊豆温泉病院でも患者さんが最も好んだのは温泉運動浴でした。
 これらの温泉療法を行うには温泉療法医、理学療法士、温泉利用指導者の指導が望ましく、施設の活用、危険防止のためにも是非指導者の配置が必要です。

4.療養保養地環境の保全と利用、気候療法の併用
 野外運動施設、花壇などを設置した保養公園や森林渓流等を利用した、また医学的によく計測された林間坂道遊歩道と休息施設を具えた運動路を整備します。
 気候も療養には大切な要素ですから、湿度、日照時間等の計測、発表が必要です。
また花粉散布時期には状況を計測し、出来れば予報が必要です。わが国の温泉地では気候観測装置もないところが少なくありませんが、温泉療法は気候療法を伴う療法ですから気象観測は重要な要素です。
 わが国では花粉アレルギーの人も多く見られますので、出来れば予報が必要です。

5.宿泊施設と食事療法の併用
 わが国の多くの温泉旅館やホテルで行われている給食が宿泊施設利用料の中に組み込まれた形態は、温泉療養上は不合理と思われます。既に杉山教授も10数年前に“宿泊と給食は別個にすべきである”と述べられています。食事療法は温泉療法に限らず治療の重要な要素で、特に最近多くなった糖尿病、高血圧、腎臓病などは食事療法を行わなかったならば温泉療法も何の価値もありません。従って療養者に適合した食事を提供しなければなりません。また健康者に対しても従来のように客の好き嫌いも、年齢、体質も無視して食事を提供することは不合理であると考えられます。浴客の注文によって提供すべきであると強調いたします。
 なおその他に“単身での宿泊や長期滞在を好まない”という風評を耳にいたしますが、もしあるとすれば理解に苦しみます。最近の浴客は都会式のホテルに馴れておりますから施設をホテル式にだんだんと改めた方がよいのではないでしょうか。
 公共の温泉施設が滞在3日限りとか制限しておるのをみて、私は理解に苦しみました。温泉療法は昔から1周り30日といわれてきました。少なくとも現在でも1週間〜2週間必要といわれております。この理論を無視しては温泉地に宿泊施設を設置した意義はありません。
 外国では温泉療養客が長期滞在しても飽きないようにいろいろ工夫をしております。
 まずどこの温泉場にも必ず飲泉場があり、飲泉のサービスと共に音楽が流れ、浴客たちの社交場となっております。温泉場には図書館や談話室などが設置され、公園では毎夕音楽会が開かれます。街には美術館や博物館などがあり、時にファッション・ショーも開かれるなど、浴客が長期滞在しても倦きないよう工夫しております。
 わが国でも許されればカジノもよいでしょうし、費用のかからない名所・旧跡の案内とか、いろいろ工夫すべきでしょう。
 最後にわが国の温泉医学研究の現状について述べます。
 最近官庁再編成の波に乗り、温泉無用論を唱える学者や役人がおり、6ケ所あった国立大学の温泉医学研究機関を岡山大学の三朝医療センターを除いてすべて廃止し、国立温泉病院はすべて廃止または移管してしまいました。
 アメリカがやらない研究は日本もやらない…では困ります。アメリカがやらない研究をわれわれがやろうではありませんか。
 最後に大島良雄先生の言葉を揚げます。“温泉療法は宿主の防衛能力の再訓練を作用原理としているから、薬物療法や手術療法とその適応を争うようなものではなく、互いに補足しあうべき療法であり、元来リハビリテーションの意味合いを兼ねている。従って…我が国民に正しい温泉療養の制度を作り上げ、天与の恩恵に十分に浴することができるよう指導するのがわれわれの責務であると考える。”

 なお、わが国の温泉医療研究の現状が上述の通りのなので、われわれの手で温泉研究所(医学、地質学、温泉化学薬学など)の設立と、温泉図書館の設立が夢である。



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