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温泉保養地における健康管理


白倉 卓夫
東京都多摩老人医療センター 顧問
健康と温泉FORUM実行委員会 理事



 わが国では温泉が入浴、飲用、吸入、鉱泥浴などの方法によって、病気の治療のための療養、あるいは健康維持・疾病予防のための保養、休養に古くから利用されてきました。このうちでもとくに温泉浴は、飲泉を主とする欧米と違って、温泉保養の主たるメニューとして、一日2,3回、数週間から数ヶ月の長期間にわたり、湯治という形で古くから行われてきました。このような温泉の連続浴が続けられると、数日から一週間で疲労感、食欲亢進や不振、便秘や下痢、眠気や不眠といった全身症状、また皮膚炎(湯かぶれ、酸性泉や硫黄泉)などの局所症状が温泉利用者にみられてくることが知られており、これは「湯あたり」といわれて、温泉浴に対する一種の体の反応と考えられております。大抵の場合、温泉浴の回数を減らすか、一時中断すればこれらの症状は消失しますが、このような、頻回の温泉浴をしながら温泉(保養)地に長期間滞在するような湯治形態の温泉利用が最近では少なくなった関係でこのような温泉特有の「湯あたり」は余りみられなくなりました。それに代わって最近では後述するようなどこにでもみられるような急性疾患が少なからず温泉利用者にみられるようになりました。このうちでも動脈硬化に基づく虚血性心疾患(狭心症や急性心筋梗塞)や脳梗塞といった、今わが国で癌と並んで死因の上位を占める疾患が温泉地でもみられている点が注目されます。高齢者が温泉利用者に多いことがその背景にあろうかと思われます。休養、保養、療養のための温泉地滞在で予期せざるこのような疾患に罹るくらい、温泉保養にそぐわないことはありません。
 そこでこんな急性疾患発症に罹らないで温泉を旨く利用するには、どんな健康管理に注意すべきか、ここでその要点を述べたいと思います。


○温泉地滞在中にどんな急性疾患が発症しているのだろうか?

 図に一地方における温泉地滞在中に急性疾患を発症した例の集計成績を示しましたが、このなかでとくに注目されるのは、脳卒中や虚血性心疾患といった死亡率の高い、しかもたとえ一命を取りとめても長い間治療を必要とする大変厄介な疾患が40歳以上の中高年者層に多く発症していることであります。高齢者の一般家庭における入浴中の事故や急死例がとくに寒い時期に少なからず起こることが最近問題になっていますが、このような傾向は温泉地でも同様に起きているとみてよいでしょう。温泉浴による急死例は一般家庭の入浴より頻度が高いといったショッキングな報告さえみられています。その他の疾患には消化器疾患、風邪、急性アルコール中毒などがとくに若い人に多くみられていますが、これらの疾患では、注意すれば防げるし、大事をとれば予後のいい疾患ですから問題は少ないと思います。


○温泉保養で注意したいことは?

 以上のように温泉地滞在中に思わぬ副作用を起す人の多くは中高年者、そのうちでも高齢者で、老化にともなって体内のいろいろな臓器の働きが低下して、温泉浴や環境の変化による体への作用に適切な対応が出来なくなったために起きてしまったためと考えられます。そのためとくに高齢者では、健康を害さないで温泉保養効果を旨く享受するには、どんな点に注意して温泉地に滞在し、適切な温泉浴をこころがけるべきか、といった点について触れたいと思います。


(1)温泉保養地における生活スタイル:乱れた体内リズムを本来持っている正常リズムに修復するためには「夜は体を休め、昼は体を動かす」といった根本原則を堅持することが大切です。そのうえで温泉保養地では、各人が持っている生活スタイルから余りかけ離れず、心身に無理強いしないで保養地で毎日を過ごせることが大切となります。つまり就寝、起床、食事、散歩、休養、温泉浴、団欒など、自分なりの一定の生活スタイルを守りながら保養地で過ごすのが留意点となります。


(2)温泉浴の注意点:温泉浴は午前、午後の計二,三回が通例ですが、最初は一回にして疲労など、体調をみたうえで回数を調整すべきでしょう。温泉浴そのものについては次の点に留意して下さい。

 1.入浴前:とくに寒冷期では寒暖差が大きくならないように脱衣室や浴室の寒冷暴露による血圧急上昇は避ける。入浴直前には手足にかけ湯をして入浴時の血圧の急上昇を出来るだけ抑える。

 2.入浴:42℃以上の高温浴を避け、連続して5分を超えない短時間入浴でのんびり繰り返す。入浴は半身浴が心臓や肺への負担がないので高齢者ではお薦めできる。浴水中での体の運動は強い血圧上昇を起すので、静かな入浴を心掛ける。

 3.出浴:出浴直後には血圧が急激に低下する危険があるので、ゆっくり浴槽から出るよう心掛ける。出浴後30〜60分位は血圧低下状態が持続するので、この間は横臥するのがよい。また温泉浴は強い脱水を伴うので少なくとも浴後には必ず500mlの水分の他、ナトリウム、カリウムなどの電解質の補給をする(イオン飲料がお薦め)。



参考資料:

桑島巌ほか:
寒冷期における中高年者の入浴中の事故
日本医事新報第3996号:1(2000年11月25日)


白倉卓夫監修:
医者がすすめる驚異の温泉
小学館文庫(2001年11月)








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