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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第2回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



宮浜温泉 庭園の宿 石亭(広島県)

文化を明るさで計る時代が長い。灯心からランプ、ガス灯、電球、蛍光灯とあかりの歴史は「より強い明るさ」を追及してきた。その結果として私達の日常生活から自然の「闇」が失われていった。山に慣れたハイカーは星の明るさで地図を読み、夜のルートも踏破するという。本来自然界が持つ暗さや明るさから、私達はいかに遠く離れてしまったことだろう。「夜の暗さ」が人間の心身のゆらぎを正常に戻す癒しの力のあることを、もう一度見直す必要があありそうだ。そんなことを考えさせられたのが宮浜温泉の石亭を訪ねた時である。瀬戸内海の細い水道を挟んで安芸の宮島と向かい合う経小屋山の麓。斜面を利用した芝生の庭を囲むように建てられた10の客室。46歳になる当主・上野純一さんのセンスがそこここに光る。玄関を入ると黒いタイルのたたきに黒い板敷き廊下、黒い板戸。昼でも暗い。その廊下をたどると、突然まぶしい陽光が溢れるラウンジに出る。天井までのガラスの向こうに、緋鯉の泳ぐ池を囲んで手入れの行き届いた芝生の庭がひろがる。この明暗の演出。正面の生垣を二重にしてその間に桜を植え込み、その枝が視界を横切る電線を隠すよう工夫されている。心憎い、というより心の行き届いたもてなしだ。おかげで向かいの家の屋根が隠れ、宮島の深い山が借景となる。

宮浜温泉 庭




宮浜温泉 夜景

海峡の夕映え、経小屋山を渡る三日月のさやけさ、それらが客室に居ながらにして楽しめる。なかでも出色は夜の風呂の趣向。内風呂の戸を開け放し、棚状の植え込みに宮島焼きの手焙りを並べ、これを火屋に見立てて蝋燭を灯しての入浴が楽しめるのだ。篝火もたかれ夜の闇は深まるばかり。蝋燭の灯火の揺らめきも落ち湯の音に共振して、湯にいる自分もまた解けてゆくのがわかる。忘れていた大切な「何かを」思い出せそうな、そんなひととき。「陰影礼賛」という言葉を実感する数少ない大人の宿であると思った。

所在地/広島県佐伯郡大野町宮浜温泉3-5-27
交通/JR線山陽本線大野浦駅から送迎車5分
電話/0829-55-0601
料金/1泊2食2万3000円〜3万円(税別サ込み)

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