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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第10回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



いきかえりの宿は心づくしの宿
赤湯温泉 いきかえりの宿 瀧波(山形県)

旅に出る楽しみの一つに、人との出合いがある。市井の中でひっそりとしかし、しっ かりと自分の生き方を通している人に巡り合ったとき「いい旅ができたなぁ・・・」と心から思う。



7月の酷暑のさ中、赤湯温泉を訪ねる機会があって「いきかえりの宿 瀧波」という宿に泊まった。米沢街道に面しているところから「往きも帰りも泊まってください」という意味と「名湯で生き返って欲しい」の意味を込めての命名という。赤湯は米沢盆地の北端に湧く歴史の古い温泉で、町中に旅館が点在する典型的な観光温泉。
瀧波は当地指折りの名舗であり、泊まるには少々億劫な気もした。というのも大々にして一流といわれる宿は、その自信を鼻先にぶら下げて客の足元を見るところが多いからだ。
古民家と土蔵を移築・再生して旅館とした宿で、ラウンジに使われているのが囲炉裏の間。吹き抜きの天井に太い梁、自在鉤も立派だ。このコーナー、朝は陽光が差し込み、お茶を飲みながらゆっくりと新聞に目を通す癒しのコーナーとしても生かされている。朝の陽光は爽やかでいつもと違った長閑かな気分にしてくれる。ゆっくりと 流れる時間は、1分1秒で暮らす都会生活をする者にとって、これこそ非日の貴重な旅の一こまである。風呂も巨大な石を彫り抜いた「露天大石風呂」とヒバ材の「丹色湯」。



開湯を1093年と伝える伝統ある含硫化水素弱食塩泉は今も豊富に溢れ、市内にも5ヶ所の公衆浴場があるほどだ。湯の良さもさることながら、この宿の魅力は人の優しさだった。マッサージ師は館内を盲導犬によって移動していた。大型のゴールデンレトリバーで、おとなしく利口な犬種だが、館内に入れることには大きな決断がいったことだろう。
それを敢て許し、風呂場前には安心の旨の案内を写真入りで掲示してあった。スタッフも行き合うと犬の名を呼んだりして温かい対応ぶりだ。
夕食は季節の山の幸を前菜風に盛り付けた「大庄屋箱膳」と米沢牛のステーキ、それに溜り醤油で焼きあげた握り飯が名物。それも面白いが、何より朝食が餅というところがユニークだ。広間の真ん中に大臼が据えられ、板長と若い衆、姉さんかぶりの女性、そしてこの宿の大旦那の4人が1斗2升の餅を懸命に搗き上げる。
すでに喜寿を過ぎた経営者が杵を振るい、もくもくと餅を椀へ分ける。数年前に倒れ、話すことが少し億劫になったという主人の、客への感謝の気持が毎朝杵を振るわせるのだ。温かくやわらかな搗きたての餅は、大旦那の唯一無二の感謝の気持。
雑煮、小豆、ずんだ、くるみetc、食べ放題の朝食。客の注文にも快く応じて臼を前に記念写真に納まる大旦那の背中に、一流となりながら客と共にある喜びが溢れていて、客のこちらも優しい気持になっていたものである。



所在地/山形県南陽市赤湯3005
交通/山形新幹線赤湯駅下車、徒歩10分
電話/TEL0238-43-6111
http://www.takinami.co.jp/
宿泊料金/1泊2食20,000円〜
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