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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第21回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



自然の中であらたあめて温泉の良さを知る
高湯温泉(福島県)



 久方ぶりに磐梯吾妻スカイラインの入口に湧く高湯温泉を訪ねた。数年前に東京で知りあった、老舗旅館・吾妻屋を継承する遠藤淳一さんに会いたいと思ったからである。前ぶれなく訪ねたので、あいにく彼は留守。目的は果たせなかったのだったが、奥さまが美味しいコ−ヒ−を入れて下さった。長梅雨の細かい雨がワイパ−の力をそぐ中のドライブで、少々疲れた身には何よりのもてなしであった。





「どうぞ、お風呂だけでも入っていって下さい・・・」
 という奥さまの言葉に甘えて、裏山の露天風呂へ向かう。冬はスキ−場も開かれる吾妻高原の傾斜地に建てられた宿だから、ロビ−からは二つほど階段を登り、廊下をたどりして、裏山へ出ることになる。強くもなく、弱くもない雨が相変わらず降り注いでいて、裏口で下駄に履き替え、壁に並んでいるコウモリ傘を拝借して露天風呂へ向かう。ほんの10mか15mほど先の森影に、小さな三角屋根が二つ並んでいる。脱衣場の建物だがなにか「小人の国」に迷い込んだような可愛さだ。赤のノレンは女性風呂。藍色のノレンは男性用。右側の小さな三角屋根が家族風呂だ。



 

 男性用の入口には下駄が二組並んで脱いであるので、すでに入浴中。赤いノレンを分けて入ると楽しげな話し声が隣から聞こえてくる。常連らしい。音のせぬ様そっと入る。丸太と竹を交互に並べた塀。葉を広げたホウノキがのびのびと枝を伸ばし、霧で何も見えない景色に変化をつけていた。正方形の湯船を簀ノ子で囲み、ひと抱えはありそうな丸太のベンチが置かれ、木の内側をくって湯樋とした先からは滔々と湯が流れ込んでいる。青みを帯びた乳白色の硫黄泉。よだれが出そうな湯と趣向だ。入浴当初は熱く感じる湯が、すぐに柔らかな肌あいに変わる。霧に煙る周辺の木々や草。雨に光るベンチ。目を凝らすとすべてが洗われたように鮮やかな色で存在を主張している。晴天の光とは違った深くて優しい山の色、自然のアラベスクだ。その中に同化し一体となってゆくこの感覚は、たぶん雨のせいなのだ。熱くもなく、寒くもなく、心身が溶けてゆくような感覚に酔いながら、湯の音に耳を預けている。友人の裏切りも、バブルの後遺症に焦る日常も、この時ばかりすっかり忘れていた幸いのひととき。こんな湯に巡り合えるから温泉行脚はやめられない。なお、今年の夏にはこの奥の森の中にもっと大きな露天風呂が完成するということだ。







所在地/福島県福島市高湯温泉33
交通/東北新幹線福島駅から高湯温泉行きバス利用、40分の終点下車
施設/今昔やかしき宿・吾妻屋
電話024-591-1121 1泊2食1万円〜
 
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