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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第25回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



風呂に凝り炭に狂う極楽おやじ
桜田温泉






 伊豆西海岸の松崎町。桜餅の葉の生産量日本一の町である。その町の郊外に湧くのが桜田温泉。畑を前にする一軒宿だ。主人の吉田新司さんは、アメリカへ留学したこともあるミカン栽培の専門家だった。たまたま生活用水用に井戸を掘ったところ、良質・高温の温泉が湧いたことから温泉旅館をはじめたという変わり種。いまも自前のミカン山を持っている。むろんミカンも作るが、最近はここに炭焼きの窯を築いてお花炭に熱中している。本来が化学的な発想をするおやじだ。炭は素人だから実験から始まった。ミカンを手始めになんでも頼まれれば焼いた。何度で何時間焼けばどんな具合に焼き上がるか・・・。葉付きミカンもどうしたら立派に焼き上げられるか、工夫と研究に明け暮れた。結果、金属の小箱にもみ殻をつめて形がくずれないようにして焼き上げる方法を編み出した。頼まれれば何でも焼く。カボチャ、マツカサ、麻の繊維で織ったタペストリーまで炭にした。







「魚だけは焼き魚になっちゃってダメだったネ」
 目下は超高熱で焼き上げる竹炭のコップづくりに凝っている。外燃乾留式シンクロ竹炭。直火で焼くのではなく伝導熱で焼き締める方法だ。このコップに注いだビールは一瞬にまろやかになるし日本酒は二級が特級に変身。ウーロン茶も苦味がきえてしまうから不思議。「みんな炭の力だよ!」客の驚く顏を面白がっている。
 焼き締めのいいものは金属的な音がして、床に落としても割れることは少ない。夕食の時にビールを頼むと、このコップで飲ませてもらえるが買うとなると高価。千三つではないけれど何十個に一個くらいしか良いものは焼けないからだ。



 



 やわらかい炭は植木鉢にしたり盆栽用の鉢に仕立てたりする。そうした「遊び」に共鳴する人たちも出てきて、炭を使って民家を組み立てて見せる名人も現われた。
「もう野遊びだね。好きな人が集まって、わいわいがやがや・・・ネ」
 最近の名刺には似顔絵と共に「極楽宿六」と印刷されている。宿は奥さんまかせ。隣接する納屋がいつの間にか炭の加工の工場に変身してしまっている。







 温泉は無色透明の含芒硝石膏泉。美肌の温泉だ。自家源泉だから掛け流し。宿六が宿をはじめたころは風呂に凝っていた。いつも「どこにもないものを!」が口癖。巨大な緋鯉が泳ぐ池を横から眺めながら入れる水族館風の部屋付き風呂。檜風呂を唐傘屋根の下に並べた大浴場、屋上にある立ち風呂風に深い露天風呂は混浴にして、お客が座高にあわせて選べる石の椅子が立ち上がりの壁に埋め込んである。
「見えたらイヤだ、という女性でも湯に沈んでいれば抵抗ないじゃん!自信があれば浅いところへ腰掛けてくれていいんだよ・・・」







 見晴らしはきかないので、月見の風呂にした。空には何にも邪魔がないから。お月さまに見とれてのぼせてきたら椅子を換えましょ。だんだんみんなの心が自然に戻る、良いお風呂です。最後になったが料理だって近海の新鮮な魚がたっぷり出る。松崎は西伊豆でも指折りの漁港だったのだ。


所在地/静岡県賀茂郡松崎町桜田569-1
交通/伊豆急伊豆下田駅から松崎・堂ケ島行きバス40分の桜田下車
施設/桜田温泉山芳園 電話0558-42-2561
1泊2食2万2000円〜

*野遊びについては問合せを。横浜プリンスホテル フロアープロムナードにシンクロ竹炭など製品のコーナーがオープンした。


 
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