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旅行作家 竹村 節子氏がお薦めする
"癒しの温泉" シリーズ  第43回

竹村 節子 竹村 節子
温泉雑誌の編集者を経て旅行作家へ。現在は、(株)現代旅行研究所の専務取締役。旅行雑誌、婦人雑誌などへの執筆も多く、講演も行う。温泉に関する著書多数。全国の温泉地をつぶさに周り、各地とのネットワークも広い。



最初の印象が大切。イメージ変えるのに30年
勝浦温泉(和歌山県)


 先月、和歌山県温泉協会の総会に出席、勝浦温泉のホテル浦島へ泊まった。宿泊は「ホテル浦島」との知らせを聞いて、<ウヒャー!!まいったなぁ>久しぶりで訪ねる南紀勝浦だったが<もうちょっとましな宿へ泊めてもらえまいか・・・>、内心がっかりした。白浜空港へ迎えに来るという担当のY氏に「それじゃ、川湯と湯ノ峰くらい見せて下さい」と頼んだほどだ。







 つい近年までJ社のガイドブックスシリーズで南紀を受け持っていた関係で、この地方には取材で20数年通っていた。その経験の中で、このホテルの印象は指折りだったのである。泊まったのは30数年昔のことだ。カメラマンと二人、駅の案内所で紹介されて泊まった。それほど安い宿泊料ではなかった覚えがある。しかし団体旅行最盛期、個人客には<居場所もない>状況だった。しかも食事はプラスチック製の箱弁当に汁椀。名湯・忘帰洞も「舟で渡る温泉宿」という情緒もあらばこそ、砂を噛むような強烈な印象が残った。以来、勝浦で泊まる時は他の宿を選んだこと言うまでもない。







 したがって今回は文字通り「覚悟の一泊」。期待はなかった。勝浦湾を抱くように伸びる狼煙山の上と下に本館を中心に、なぎさ館、日昇館、山上館の3棟のホテルが連結した巨大な規模に変わりはない。しかし建物はリニューアルされていた。快適なツインルームに。食事は1階のコンベンションパレスがレストランに変身。夕食も朝食もここでバイキング形式で摂る。これはこれで好きな料理を好きな量食べられるから箱膳の侘しさはよりよっぽどよい。ホテルとしても人件費が削減されるから、宿泊料金に値ごろ感が出た。シニアの夫婦連れやファミリーが多かったのもそのためだろう。
 






 今回、この宿を見直したのは温泉そのものの扱いであった。館内が広すぎるので客は名物風呂の忘帰洞へ入ると後は食指を動かさない。そこで6ヵ所ある風呂を巡る「温泉巡り記念スタンプ」制度をしいた。3ヶ所まわると一品、6ヶ所まわれば2品の記念品がもらえるのだ。これだと欲と二人連れで長さ154m、高低差77mの山上館露天風呂へもチャレンジする気持ちになる。温泉そのものや、風呂の趣向を楽しむ今の温泉フアンの志向をピタリと捉えている。










 今回全ての浴場を回って私自身感心したのは、温泉そのものを実に大切に扱っていることだった。磯の湯など含食塩硫黄泉と食塩泉の二つの泉質の湯を別々の湯船に給湯していた。景色の全くない浴場だが、湯の魅力に引きずられる。隣の玄武洞は小ぶりだが、忘帰洞に勝るとも劣らぬ海景がたのしめる。浪にまごう給湯の轟音。しかも脱衣所をはさんだ洞窟の根を利用した岩風呂には温度差をつけた食塩泉が二つの岩風呂に溢れているといった具合だ。混合泉は忘帰洞だけ。巨大ホテルだが、温泉だけを楽しみにまた訪ねたい宿の一つになった。
私の中でホテル浦島は完全にイメージチェンジしたのである。




所在地/和歌山県東牟婁郡勝浦町勝浦
交通/紀勢本線紀伊勝浦駅から徒歩5分の勝浦桟橋から渡船で5分
宿/ホテル浦島 0753-52-1011 1泊2食1万



 
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