肘折は、白き神々の座、出羽三山、作物の神の葉山を望む山峡のいで湯。宝永6年(1709年)の記録に「肘折口からの月山(出羽三山の主峰)参詣者は13日間で12,000余人、僅か1日で1,300人という日もあった・・・」とある。1,300人といえば、今の温泉収容客数に相当するもの。出羽三山信仰と強く結びついていた様子が・・・。お参りを前に"さんげさんげ六根罪障"を唱えて、湯垢離(ゆごうり)をとる集団。片やお参りを無事済ませ、地酒をくみ交わして精進落としに意気上がる人たち。宿は超満員の、すし詰めでごった返しだったろう賑わいぶりが伺われる。三山信仰の基地だったこと、また温泉発見の由来から"霊場"と呼ばれ、江戸時代以降は農家の人たちが農作業に一区切りついた、田植え後の"早苗振(さなぶり)"、収穫を終えた"土洗い"など骨休めの湯治として、年間の生活リズムの中に半ば習慣的に取り込んできた。生活は生命活動の略語、即ち生活は命を大事にする"健康"のこと。また孫を連れての湯治は一家団らん、家族とのコミュニケ−ション。
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これを習慣として取り込んで来た先人の知恵はただ驚くばかり・・・。
近年、農作業はすべて機械化されているが、穀倉庄内地方には今なお根強く湯治の風習が続いている。泉質は、ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉。俗にいう含重曹食塩泉で、神経痛、軽い心臓病、切傷、火傷などに効用がある。重曹を含んだ炭酸泉で、正式にはまだ許可されていないが、飲んで胃腸によい。肘折という名前の通り術後の静養にはもってこいの処。歴史のある温泉だけに伝説、民話も豊富。見知らぬ者同志が、お茶に呼んだり、呼ばれたりで会話のはずむ素朴なふれあいは肘折ならではのものでなかろうか・・・・・・と、県衛生研究所長の片桐進先生は語ってくれた。 |