温泉療法医がすすめる温泉|日本の名湯百選

筑後川・吉井温泉ちくごがわ・よしいおんせん

(筑後川)福岡県浮羽郡浮羽町筑後川、(吉井)福岡県浮羽郡吉井町

泉質
単純温泉
適応症
  • リウマチ
  • 神経痛
  • 痛風
  • 尿酸結石
  • 創傷
  • 動脈硬化症
  • 慢性胃腸カタル
交通
「筑後川」JR久大本線筑後大石から車で5分「吉井」同筑後吉井から車で5分
中溝 慶生氏の写真

執筆: 温泉療法医

中溝 慶生

佐賀県鳥栖市元町吉野病院院長 九州大学名誉教授 福岡県温泉審議会委員/皮膚科/医学博士

筑後川・吉井温泉の風景

伝統の鵜飼いと、お墨付きを守って

緑の大地を育む悠々たる流れの筑後川は、かつて東の坂東太郎〈利根川〉に対し、西の“筑柴次郎”と呼ばれる暴れ川の代表だったが、そのほとりに「来てよかった……」と、多分誰もがそう思う、もてなしの心が通い合う筑後川温泉がある。河原の石ころが1ヵ所だけ、いつも白く乾いているところがあった。もしや……と町の有志がボーリングして見事温泉を掘り当てた。発見からまだ35年と歴史は浅く、こじんまりと軒を並べているが、宿の当主は揃って二代目。「遊び場的温泉では、いけんとです。これからは健康志向の心安らぐ場にせんと。みんなそう思ってまっしぐらです」とリーダーの温泉組合長は膝を乗り出して話を続ける。“国民保養温泉地”先代の汗の結晶である環境庁のお墨付き。「この大看板、ホコリまみれにしゃあかんとです。このことに今みんな気付いたところです」目のウロコがとれた思いというその目は輝いていた。国民保養温泉地。

1.温泉効能が顕著である。 2.自然環境に恵まれている。 3.衛生環境の条件が良い。 4.気候的に保養地に適している。 5.温泉療法医、または顧問医がいる。 6.災害に対し安全である。

ことなどから指定の条件で、現在全国77ヵ所の温泉地が指定されている。筑後川温泉は、すぐ近くの吉井温泉と共にかなり早い段階で指定を受けたところ。筑後川をはさんで吉井温泉の対岸に原鶴温泉がある。

硬軟とり交ぜた、教訓がいっぱい

「新しい温泉というが、見つけたのが遅かっただけ。出来上がった温泉地は、旧来のしがらみがまとわりついて、方向転換しようにも、舵がサビついている。この点、筑後川、吉井はどのような舵もとれ、いろいろな可能性を秘めている。またあの温泉は殊のほか水に縁が深い」と中溝先生は次のようにバラエティに富んだあれこれを語ってくれた。温泉も元を正せば水。水と言えば七百数十年前、諸国行脚の僧が見つけたという“清水湧水”は天下の名水の一つ。名物の鵜飼は長良川と並ぶ格調高いもの。本来ならとうに国の無形文化財だろうが、筑後川の大洪水で昔の記録を失くしたため指定が受けられずにいる。全国各地の有名河川で、夏の客寄せに鵜飼が盛んだが、ここで訓練された鵜が数多く、日本でただ一人の女鵜匠もいる。近くには国指定の三連水車。また民陶の、一の瀬燒は水でこねられ登窯で火と出会って出来上がる、

佗び寂びの美をたたえた独特のもの。確か日本における磁器作りの元祖で350年の伝統工芸品。江戸時代の初め、5人の庄屋が、はりつけ獄門を覚悟で、筑後川をせき止め、かんがい用水を確保した大石堰は、五庄屋井堰と呼ばれ、今も名残りを留めている。この他、滝のある公園、健康食流しそう麺など、水にまつわる話題には事欠かない。これらの伝統を“教訓”として生かそうというのが“安らぎの温泉地”のキャッチフレーズだ。温泉の名は筑後川だが、町名は浮羽(うきは)町。童話さるカニ合戦由緒の柿の木が、この地にあって早口言葉のウキハノキャクハヨクカキクウキャクダ……もこの地の柿に由来。ぶどう、いちご、リンゴ、栗、梨、キウイ、ことに秋は特産富有柿の紅葉が見ものというフルーツの里でもある。

またふえた、新名所、地蔵公園

「よかとこでしょう」白壁土蔵造りの町並みが美しい吉井町は、筑後川温泉から僅か2kmのところ。日田-久留米街道の宿場町として栄えた。これまた豊かな水に恵まれて、かつては11軒の造り酒屋があったという。土蔵造りの家並は、明治時代2度の大火に遭ってのもの。火災復興の大工さん、職人さんが住み着いて当時の流行なまこ壁作りの家屋が、一昔前までその数200軒とも300軒とも言われているが現存建物は55軒。九州の倉敷と呼ばれている。

吉井温泉は筑後川の1歳年下の弟温泉だが、スタートから歓楽街化を避け保養と行楽主眼の憩いの場を目指している。国指定の文化財の日の岡、月の岡両古墳や、行基作と伝えられる11面観音像をまつるお寺など見所も多い。愛嬌ふりまく河童さんや、可愛い表情仕草のお地蔵さんが108体、その名も仲良し地蔵、わらべ地蔵などが居並ぶ屋部公園は訪ねる人の頬が必ずや、ほころびるであろう新名所である。