NPO法人健康と温泉フォーラムは医療、環境、施設等、温泉保養地に関わるあらゆる分野における専門家を中心とした団体です。
FORUM REPORT WORKSHOP
 

2002年いわき市 健康と温泉フォーラムにおける講演より

鉱泉浴バーデンヴァイラーにおける運動組織に伴う痛みのための新しい保養地医療の治療形態

クラウス・ベッカー













 こうして皆様の前で、私達の治療法についてお話出来ます事を、大変名誉な事と思います。そして私達に、このような場をご用意下さいました、ジェトロ福島の所長でいらっしゃる、柚岡一明氏に心からお礼を申し上げます。
 二国間の交流の歴史は国同士のものばかりではありません。私達が住んでおります地域同士の交流も長い伝統を持つものであります。:例えば私が、数年ほど前に日本へ旅行いたしました時にも、草津でドイツ人のエルヴィン・フォン・ベルツ博士と知り合う機会を得ました。草津で日本の温泉療法とドイツの温泉医学の両方を統合された博士は、ドイツのバーデン・ヴュルテンブルク州の出身の方です。

 歴史を振り返りますと、バーデンヴァイラーはおよそ二千年に及ぶ長い薬湯の歴史を持ちます。ローマ時代のローマ軍兵士達は、私達の温泉水が健康に良い効果を持つという事を知っておりました:と言いますのも、当時バーデンヴァイラーから30キロメートルと離れていなかった土地に、ローマ軍の駐屯地がありましたが、この駐屯地とスイスのバーゼル近郊の集落、そしてバーデンヴァイラーに住んでいたローマ人達にとって、バーデンヴァイラーは「健康センター」といった形で利用されていたのです。

 そして現在ももちろん、疾病・疾患を持つ多くの患者さん達が、症状の回復・緩和を求めてバーデンヴァイラーを訪れます。こういった患者さん達は二つのケースに分かれます。一つのケースはリハビリテーションの目的で救急病院からバーデンヴァイラーにある3つのリハビリ病院かサナトリウムのうちの一つに直接送られてくる場合、もう一つのケースはバーデンヴァイラーにあるホテルに宿泊しながら、自己負担で外来で温泉療養をする場合です。
 こういった療養は外来の範囲で通常21日間かかります。2001年を見ましても、バーデンヴァイラーにおける全宿泊数の半分が、病院、サナトリウム、外来温泉療養のお客様の滞在という結果が出ております。

 私はかの地で在住し医療活動をする9人いる湯治場医者のうちの一人ですので、ここでまず、外来におけます治療方式をご説明申し上げます。
 ドイツでは、健康システムに関しまして二種類の健康保険制度があります:一つはドイツの社会保健制度に基く「公的健康保険」です。この健康保険にはドイツ国民の大多数が加入しています。もう一つは「民間健康保険」です。この民間保険への加入資格は、被保険者になる方の月額収入が、3375ユーロ以上である事が条件です。ちなみにこの月収額は現時点でのものです。
 公的健康保険の公庫は、医師や療法士との間で医療報酬の取り決めを行うわけですが、この取り決めは、それぞれの代表組合(医師組合など)との間で行われ、医療報酬は比較的安価です。これに対し、民間保険の加入者の場合は、医療行為に対して請求される標準額を、まず全額自己負担し、後日各々が契約している保険会社との契約内容によって、それぞれの保険会社から金額の払い戻しを受けるという仕組みです。両者共々私達の市場戦術においてターゲットとなる方々ですが、特にご自分で費用を負担して来て下さる方は重要なお客様です。大方の外来温泉療法は公的健康保険のシステムの中で行われていまして、
健康を害する怖れがある場合の予防的療養、
疾病疾患の回復・緩和のためのリハビリ療養、
構造的治療プランからなる短期集中療養
というように区分けされ、治療時間は一週間あたり24時間までとなります。

 バーデンヴァイラーでは、温泉水以外にも、いわゆる「地域に根ざした治療薬」として自然ファンゴ(泥土)を提供しております。このファンゴは、バーデンヴァイラー近郊の、ライン渓谷に挟まれた地質学的に大変古い山岳地帯から採掘され、商品利用可能にしたものです。 

 バーデンヴァイラーを訪れる患者の方々の多くは、運動組織の痛みや機能障害を訴えて来ますが、これらの症状は偏った文明社会や職業的負担が原因と思われます。
 治療の過程では、個別の調整・補正治療や反作用治療の目的の中で、患者の方々の日常生活から受ける負担が解消されなければなりません。

治療は、
仕事や仕事社会からの開放
緊張・リラックス・食物摂取・睡眠といった変化の中での日常生活のリズムの調和
健康的な食生活
人体に有害な風土要素の除外
有害な嗜好品の制限・排除

などを通じて、症状の回復という目的の上で、臓器の秩序力の向上・発展を目標としています。

 呼吸や運動、体内の温度調整、新陳代謝や睡眠といった肉体の基礎的機能の調整と、さらに特殊な治療方法を併用する事で、こういった療養における一層の効果が期待出来ます。

 こうした治療方法としては、
様々な方式によるバルネオ治療(温泉での入浴、-種々雑多な添加剤、主に二酸化炭素を使った浴槽入浴)
個人又はグループ別の水中保健体操
風土の中での能動的エクササイズプログラム:
-指導を受けたハイキング
-歩行トレーニング
物理学的行動:
-様々な手法による保健体操、例えば手作業治療、オステオパティ、
Bruggertherapie, ボバース, ヴォイタ, フェルデンクライス, 心理運動法、Schlingentisch, 補助器具を使った保健体操、
-ファンゴ
-マッサージ、リンパドレナージ、電気治療
-ローマ・アイルランド蒸し風呂、サウナ
鍼治療
ヤコブソン式リラックストレーニング
ダイエットも推奨

 私共のファンゴは、明るい灰色できめが細かく、無機・無臭のミネラルパウダーです。これに温泉水と半流動体で粘着質の粥状のぺロイドを均質に混ぜ合わせます。ファンゴは50℃ほどの温度で、これを直接肌に3センチほどの厚さに塗り、15分から20分ほどその状態におきます。この間、患者さんは温度調節されたウォーターベッドに横たわります。この過程は30分以上かかりますが、ファンゴ使用の後は体組織が労わられ、体の芯までたっぷりと温まります。この事は筋肉の緊張状態に有効的に作用します。特に私共のファンゴは自然なイオン交換物質で、肌からの成分を吸収し結合するゼオライトを含んでいます。そのため例えば体臭が消えます。

 ここ数年バーデンヴァイラーでは、特に痛み治療における新しい治療方法の重要度が増し実施さています:

パキ博士の方式によるバイオ運動学です。

 これはドイツ・フライブルクのヴォルター・パキ博士によって開発されました。彼の著書を参照して、以下引き続きご説明いたします。尚このテーマに関してここでご紹介いたします大多数の資料は、博士のお陰によるものです。
 この方法の部分的には大変驚くような成果は、医学においては対立して論じられている理論に起因するものでありますが、説得力のある論法で、痛み療法における本質的な貢献を成すものであります。

 バイオ運動学におきましては、痛みは体の運動幾何学に障害が起こる事によって生じる結果と理解されます。生理学的-幾何学的運動コースから外れる事でそれぞれに痛みが生じるというわけです。この痛みというものは、痛みを持つと思われる筋肉と相対関係にある筋肉が原因となって生じます。この事がこれからご説明したい事なのですが、つまり痛みは肉体の防御機能なのです。運動の単位の上部構造をしっかり観察してみましょう。これらは常に:

一つの関節
二つの骨
二つの筋肉
一つの関節靭帯
から構成されています。

 一つ一つの運動のためには、例えば屈曲ですが、常に二つの筋肉が活動しています:つまりこの運動において、一つの収縮する筋肉は、この筋肉と相対関係にある筋肉が譲歩している間に一つの骨を他の骨の方向へ引っ張ります。この二つの筋肉の幾何学的な共同作業に故障が生じますと、妨げられていない筋肉は、この筋肉と相対関係にあるもう一つの筋肉に危害を加えようとします。これを阻止するのが痛みの役目です。ただし痛みはそのつど運動障害に陥る筋肉の中に生じるのではありません(そこに痛みが起こる事は本義ではないからです)。そうではなく、そのつど痛みは故障を起こしていない収縮する筋肉の中で生じます。というのもそこではその瞬間に意識的な能動性が局部的に食い止められるからです。
つまり痛みは、不平を言わずに機能している運動単位の機関にその必要性を示すわけです。痛みは「病気」の筋を労わるために、防御機能の意味で組織から力と能動性を獲得します。痛みは運動障害に陥った相対関係にある筋肉に、構造的な損傷が生じる事を断固として阻止しようとします。痛みは、病気を示すものでも、明らかな損傷を示すものでもありません。そうではなく痛みは、体が自ら危険に晒している活動を教えるものなのです。痛みは常に運動中の活発な脚を意識して攻め立てますが、受身の(支障をきたした)相対関係にある筋肉は自覚がなく感覚もありません。ですから痛みの部分を治療しようとするのは間違いなのです。

 その良い例として「椎間板の痛み」を解明したいと思います:
大腰筋というのは人間の場合ヒレ肉に相当する部分ですが、これは特に腰椎体を大腿部の方に引っ張っています。この筋が縮みますと、そのつど足が、回旋しながら高く上がるか、胴体が前方にかがみます。その際に脊柱体の前方部分が互いに近寄り合い、後方の椎間板にある隙間が大きくなります。こうして収縮の間、椎間板のゼラチン質に後方へ向う圧力が生じます。この圧力がそれ相応長く続きますと、いつかは椎間板に損傷を引き起こします。この事はレントゲン図の診断過程で好んで示されますが、そうではないという証明も出来ません。しかし患者さんには、脊椎板への圧力が脊髄の神経根に痛みを生じる原因という、筋の通った説明のように聞こえる結論として解説されます。この考察方法は全く注目するに値しません。古典的な神経の圧迫損傷は、知覚と運動機能の損失を伴って現れますが、痛みと共に現れるものではありません。この事は、足の痺れが切れたというような場合に、私達の誰もが一度は経験している事です。「脊椎板の痛み」の場合、背中にひどい痛みを感じますが、従来の医学ではほとんど成果がないまま治療が行われています。そのためよくある事ですが、不必要な外科手術の過程に至る場合も多いわけです。これに対しバイオ運動学は、機能障害に陥った大腰筋を治療する事で、患者さんが僅かな日数で(時には数時間内に)痛みから開放されるという成果を挙げています。

 さてここで疑問が起こります。どうすれば相対関係にある機能不全になった筋肉が痛みの原因と分かるのでしょうか。痛みというものは、その付属する筋肉に正確に幾何学的に相応します。「ぎっくり腰」は正に腹部の筋肉が原因となり起こります。仙骨の中心部の痛みは大内転筋に属します。腰椎柱の中の脊椎板疼痛は、すでに述べた様に大腰筋に関係付けられます。

 しかしながら、人間の体という複合体と、互いに影響し合う夥しい数の連鎖した筋肉の元では、痛みの責任を負う最終的な構造を探り当てる事は、部分的に難しいことも確かです。特に患者さんが事故の心的傷害に苦しんでいる場合は難しいでしょう。
 よく訓練された指なら、筋肉組織の中にある2ミリ大程度のこぶを探り当てます。これは毛糸編セーターの中にある結び目のような物です。つまり筋肉は、意識的に管理され協定を結んでいるアクチン・ミヨシン・フィラメントという筋肉のエネルギー源以外に、最小の筋繊維をホース状に包み込んだ結合組織構造を持っています。この結合組織は、エンドミシウムと呼ばれていて、意識的には認識不可能です。これは同時にメカニック的な機能を備えています。回し過ぎなどから筋繊維へ過度な負担がかかる場合、筋肉を切断から守るためにエンドミシウムが反射的に活動を開始します。この活動はその場所の筋繊維全体だけでなく、回転する力の方向一つ一つに対して行われます。幾つかの練習を通じて、筋組織の中でそのような筋繊維が、荷造り紐やミシン糸ほどの太さである事を探し出す事が出来ます。該当する骨の部分にあるこの筋の移行部分には、すでに述べたようなこぶ、-これはセーターの中にある結び目のような感じですが-、これが見つかります。技術的に見れば、この結合組織繊維は過度な回転に対する安全綱のような役目をしています。この安全装置が反射的に活性化された場合、安全綱としての機能が保たれ、再び同様の刺激がこの安全装置の活動を止めるまで、均等なレベルで任意の長さで持続します。しかしながらこの安全機能の持続のためには、該当する筋肉の自由な運動性が制限されます。そのため運動幾何学的性質が変化させられます。そしてこのシステムが病気になるわけです。このような事から、何故私達の治療方法の中でひねり練習を禁止したかお分かり頂けると思います:つまりひねり練習は筋肉を最終的に硬直化させてしまうのです。
 小さなこぶはエンドミシアレン筋の受容体で、これはその性質上、活性化した状態で触る事が出来、同様に体内の同じような場所に配分されています。配分模様はどの人の場合でも同じ事から、これは習って覚える事が出来ます。
 緊張した結合組織筋の上、あるいは触れる事が可能な小さなこぶに、触診の診断法の許容内で指で圧力をかけますと、当初痛みを訴えていた相対関係にある筋肉から、直接痛みが消滅するという状態が起き、この状態の元で、局部的に激しい圧迫痛が起こります。(通常は、こぶは圧力に対して鈍感です)この事から運動体節の故障の情勢が定義出来、この発見された原因をもとに治療を効果的に行う事が可能です。
 とりわけ一つの動きに参加する筋肉の全連鎖過程における様々な筋肉構造においては、たいていの場合緊張した結合組織を、指で触る事・圧迫する事を通じて緩和が引き起こります。
 同様に、ある特定の(全ての場合ではありませんが)病的と思われる組織構造に、カニュレでごく少量のLokalanasthetikum(私達はScandicain1%を使用します)を入れ浸透の助けを借りて回り洗いする事も出来ます。いずれにせよこれにより、病的構造の解消を衝撃的に引き起こせます。最終的に特別練習プログラムを通して、故障した筋肉活動が正常化されます。助言され指導された、故障に対する逆戻り運動を行う事で、相対関係にある筋肉組織を痛みの中から出し能動性を引き起こすという事が本質的に重要な事なのです。そうする事で緊張が解消されます。この練習は一週間余りの治療期間の間、患者さん方と一緒に練習しますが、時々個々の必要性に応じて改作します。この練習を一日数分間徹底して行う事で、持続的な痛みから開放されるということを私達は保証します。

 大聴衆の前という事で、ここでは患者さんによるバイオ運動学の治療技術のデモンストレーションは断念いたしました:と言いますのは、いずれにせよこの治療過程は、ごく小さな範囲で二人ないしは三人の聴講者の方々に充分な情報内容を提供しながら行うべきものだからです。
 ですが、いわきの皆様や、私の同業の方とか療法士の方で、ご興味をお持ちの方がいらっしゃれば、是非バーデンヴァイラーへおこし頂きたいと思います。実際にこの治療法を体験して頂けるよう喜んで準備いたします。

 今までにすでに何百人もの患者さんが、バーデンヴァイラーでこの治療法を実行され成果を挙げています。その方々の新しい文化的生活環境基準は私達のバーデンヴァイラーのこの治療法と結び付いています。そしてそういった方々の多くは、継続的なバーデンヴァイラーのお客様となっています。さらにこうした事が、他の温泉地との競争の中におけるバーデンヴァイラーの情勢強化に貢献しているのです。
 私はいわきの温泉地が同じ様に成功を治められるこを願ってやみません。そしてこのバーデンヴァイラー視察団の講演をお聞きになり、一つでも二つでも刺激を受けられたのなら大変うれしく思います。
 さらに福島ジェトロの柚岡一明さんのご尽力で、こうして今までこの二つの地域の間で育くんで来ることが出来ました繊細な交流の芽を、やがては沢山の花が咲く木となるよう成長させていく事が出来るのならば大変うれしく思います。



HomeNewsColumnOn-LineWorkshopFileAbout usSearchSite map




NPO法人健康と温泉フォーラムについてのご意見、ご感想をお寄せください。