NPO法人健康と温泉フォーラムは医療、環境、施設等、温泉保養地に関わるあらゆる分野における専門家を中心とした団体です。
FORUM REPORT WORKSHOP
 

バーデンヴァイラーの観光促進戦略

カール・オイゲン エングラー
温泉保養地バーデンヴァイラー市長












1.温泉地バーデンヴァイラー−歴史的・地理的な概要

ドイツ連邦共和国の南、ちょうどドイツ、フランス、スイスと三つの国が重なるあたりの黒い森の麓に、この伝統的な温泉保養地バーデンヴァイラー市があります。

バーデンヴァイラー−歴史の古い温泉地
バーデンヴァイラーの療養と休暇地としての歴史は、遠くローマ時代までさかのぼります。西暦75年にローマ皇帝ヴィスパージアンの家来たちが聖なる泉を見つけました。そして初めて温泉施設を建て、その場所を水の街「アクアーエ ヴィレェ」と名づけました。
このローマの浴場の遺跡は、アルプスより北に位置するローマ浴場の中では、最大で、最も美しい形が残っており、今日ここは精巧なガラスの囲いで完全に保護されています。
また、この浴場はローマ帝国の中では唯一左右対称的に造られています。
1100年頃には、ツェーリンゲンの領主によって「ブルク バーデン」(バーデン城)が建てられました。1678年に破壊されたこの建物の城壁は、今日でもクアハウスから見上げた城山の上に、堂々とそびえています。
すでに1408年には、浴場は「温泉旅館」として引き継がれた。町の年報を見ると、1747年には、4つの温泉旅館と合わせて200のベット数があり、既に1758年には保養地の財政の仕組みとして、「入浴税」が導入されていた。1784年にローマ時代の浴場の遺跡が再発掘されました。
1853年には初めて飲泉ホールと社交サロンが出来き、ここでは定期的なクア演奏会が催されていました。1875年には野外の温浴場マルモアバート「大理石浴場」が造られました。
クアオルトの大規模な建造上の発展は、20世紀に起きました。1908年に温泉施設として、「マークグラーフェンバート(辺境伯温泉)」が拡張いたしました。50年代の初めには、「リンデバート(リンデ温泉)」が造られ、1972年に新しいクアハウスが開設しました。1981年には温泉の運動浴槽ができ、1989には新たにスポーツとレジャーのための温泉プールができました。1990年から2001年にかけては、クアオルトの街全体にわたる整備が行なわれ、1995年には最も注目される最高の施設、「カシオペア−テルメ」が開設されました。また、日帰り客の便利を図って、1996年に大規模な「駐車場センター」を建設されました。
2001年にローマ時代のの浴場遺跡を再建し、2004年には、全体を修復されたリンデ温泉にモダンなサウナとウエルネスの景観が加えらる計画です。

黒い森の南にあるすばらしい場所
バーデンヴァイラーは、現在約4000人の人口を持ち、ライン渓谷の上、海抜450メートルの高さにある牧歌的な所です。
西暦1000年頃建てられた「バーデン城」を囲む道からは、マルクグレーフラーランド地域、ラインの平野、フランスのヴォージュ山脈、そしてスイスのアルプスのすばらしい眺めを楽しむことが出来ます。このクアオルトには、南国の雰囲気が漂っています。ここは地中海から随時吹き込む暖かい風の影響から恩恵を受けております。そのため、南国や亜熱帯の植物を育てることができるのです。200年以上も前に造園された公園を散歩すると、アメリカのセコイヤの木々、チリ産のモミの木、日本のユリノキ、バナナの木、レモンの木、ハイビスカス、キョウチクトウなど、その他たくさんの木々に驚かされます。
また、バーデンヴァイラー周辺の地域は葡萄に最適な暖かい気候です。
葡萄畑の広がるなだらかな風景、草原と森、そこにバーデン料理を加えますと、、バーデンヴァイラーとマルクグレーファーランド地域を十分に満喫できるのです。
近郊のブリッチンゲン葡萄栽培農家協同組合は、すばらしいワインを造るワイン醸造所として評判が高いです。


2.バーデンヴァイラーの温泉保養施設

バーデンヴァイラーの中心部は、温泉浴場です。「カシオペア・テルメ」は、北半球の最も明るい星に因んでその名をつけられました。1995年に一気に温泉施設を全般的な改装と根本的なモデルチェンジ(改造)を行いました。これには総予算に3000万ユーロ(約36億円)投資されました。
投資の対象としては、クアオルトにだけ使うのではなく、ウエルネスやリラックスできる設備まで範囲を広げられました。従って、かっての伝統的な温泉浴場は、高度の医療と長期湯治という伝統な枠に縛られることなく、ハイレベルの健康管理を目指した体験形の浴場に変化・進歩してきた。多目的で各種のプールを備えた「カシオペア・テルメ」は、1000m2の水面面積を持ち、公園の真中にあり、魅力的な環境の中に建っています。水の温度は28〜36℃あります。
さらに、ローマ・アイルランド蒸気サウナ、アイルベーダー、マッサージ、そして太陽浴など、その他たくさんの施設が整っています。また、今現在1000万ユーロ(約12億円)の規模で、以前の「リンデバート」を一気にモダンなサウナとウエルネスの環境設備に改造されようとしています。こちらの完成は2004年の予定です。さらに同様のコンセプトで、ウエルネス志向の施設にさらに大掛かりな投資が行われる予定です。将来的には、健康管理に意識を持った自己負担者が、ラッスル(煎じ汁の風呂)−ホイ・ベーダ−(わら風呂)、ハマム(薬草蒸気風呂)、様々なサウナ、その他色々な設備を自由に使えるようになる。
カシオペア・テルメの大きな野外浴場は、年間通して利用できます。天気の良い日にすばらしい外のプールで泳いだり、真冬に湯煙が立ち込める暖かい温泉に浸かったりするのは、疲れがとれてリフレッシュ出来ます。
外来や滞在のクア療養でバーデンヴァイラーへ来るお客様には、自由に医者や療養士に診療もらえるが、さらに病院やサナトリュームでも高度に熟練した専門医たちに診断にてもらうことも可能です。
クア治療とリハビリ治療の最大の効果上げるためには、鉱泉による効能や温泉で行う水中マッサージやミネラルを含む泥パックが有効です。保険体操の治療とマッサージやその他の治療法は、この医療的な要素をより完璧なものにしてくれます。
バーデンヴァイラーの温泉による健康促進効果とその治療プログラムは多種多様ですが、とりわけ心臓−血行障害、疲労困憊、筋肉疲労には効果的です。


3.観光促進

バーデンヴァイラーには他に観光に敵対する産業はなく、この街は完全に健康・観光産業に委ねられております。150以上のホテル、民宿と保養所には、3000室以上の様々なレベルの宿泊を提供しています。
この観光的魅力は維持・継続するだけではなく、より一層の魅力的な方向へと試みられています。多方面への投資は、これまでもお客様がこの街での滞在や体験に、満足していただけるように使われてきました。たとえば市の建築物など社会設備の領域においても、1990年以来1000万ユーロ(約12億円)が街つくりの改善と美化に使われてきました。
バーデン−ヴュルテンベルク州政府は、「州の温泉」としてのバーデンヴァイラーに、過去10年間で3000万ユーロ(約36億円)を投資してきました。この公の財政処置によって、個人のホテル、民宿や保養所の様々な新規の施策がさらに加わります。さらに、バーデンヴァイラーにおいて、新たな観光市場に効果的な投資も行われました。例えば新たな保養と休暇を目的としたキャンピング場は、大変好評です。最近このキャンピング場はドイツ中のキャンピング場の中でベスト10のひとつに選ばれました。しかし私たちは投資に関してばかりではなく、娯楽設備の面や能力のある従業員教育にも力をいれています。私たちのところでは、清潔な駐車場や心を引かれる美しい街の風景と、よく教育された感じの良いサービスの行き届いた従業員と当然同等であると考えております。
また、運営方面でも新たな変化があります。以前はクア経営と国の温泉経営は2つに分かれた組織に属しておりましたが、今日私たちはこの構造を協力して改革・強化して、両方の組織を「バーデン・テルメ観光有限会社」として集結しました。
それに関連して、観光事業に伴う他のすべての公な税金や使用料(たとえばクア税と観光事業収入など)は、最近、観光の活性化に伴い、この会社にどんどん集まってきます。
観光の促進は、投資や運営上の変化のみだけではありません。この街は単一の行政構造から成り立っているため、地域の行政と「クアオルトの行政」として、とくに「観光」や観光関連事業についての課題と対策を検討することができます。
私たちがある面で誇りに思っていることは、バーデンヴァイラーには人と自然のハーモニーがあるということです。私たち取り囲むこの環境は、真の意味で正常です。私たちに恵みを与える水は、最高の水質です。ここの空気は最近気象局において証明されたように、とても澄んでいます。バーデンヴァイラーでは環境保護と自然、つまり自然とともに生きることが大切なポイントになっています。しかし、完璧な環境に対するデリケートな考えを、ただ漠然ともっているわけではありません。バーデンヴァイラーは、前世紀初めの排気ガスによる空気汚染の削減対策に、バーデン地方で初めて参加した街です。街の周辺に建物を建てない敷地の保持や緑のある土地の保護対策においては、バーデンヴァイラーは1950年代から独自の建築基準を義務つけており、それは現在に至っても続います。例えば「グリーン・ライン」は、すでに建っている建物の間の境界として当時つくられたものでした。建設空間としては、大変「寛大」ともいえる基準でした。建設に際する「寛大」との意味は、つまり十分に境界スペース(建物と建物または隣の家との間隔を7メートルとする)ととることによって、モットーである「公園の中の居住」が生れるのです。すべての人々にこの制約が課せられるのですが、その成果はようやく見えてきました。今日私たちはバーデンヴァイラーの街が、マルグレーファーランド地域の宝石のようなすばらしい街であることをうれしく思っています。作家や文芸家たちは、ここの類まれな雰囲気からくる、特別な仕事環境に魅惑されています。バーデンヴァイラーには静寂の美があり、それは何百年にも及んで数え切れない人々を強く引き付けてきたのです。だからこそ、毎年数十万人の日帰り訪問者が偶然ではなく訪れてくるのです。
数多くのレジャーやスポーツが、バーデンヴァイラーのあちこちの自然と土地に存在しています。400kmにわたる美しくわかりやすく標示されている散歩道もこの街の周辺に張り巡らされています。水泳、テニス、ゴルフ、サイクリング、気球、グライダーなど、各種の運動やレジャーをここでは理想的な可能性として見出せるでしょう。特に印象的なのは、すばらしいゴルフ環境です。半径1時間の範囲には15箇所のゴルフ場があります。バーデンヴァイラーのスポーツ面での特色をアピールするために、私たちは1999年以来プロの自転車競技「ドイツテレコムチーム」のトレーニングのための協同パートナーとなっています。
さらに自然や風景の評判についてお話するのであれば、私はフランスとスイスをぜひご紹介したておきたいと思います。洗練された様々な国の食事を楽しめるばかりではなく、隣接している地域の名所へ遊びに行くための理想的な拠点にもなっています。にぎやかなブライスガウ地域の中心地フライブルクは、30分も離れていないところにあります。さらにスイスのバーゼル(約20分)には寄り道する価値はあるし、スイスのアルプスへは約90分、あるいはフランスのシュトラースブルクまでは約60分です。国際飛行場バーゼル・ミュールハウゼン・フライブルク空港は45分以内にあり、国際空港チューリッヒ・クローテン空港へは1時間ちょっとで行けるのです。
自然や風景、さらにマルクグレーファーランド地域やドイツ・フランス・スイスの3カ国拠点には文化もあり、文化的で社交的な催しが特別な呼び物です。
さらに、ここでは訪問客を多種多様なイヴェントが待ち受けています:ダンス、コンサート、読会、お城と提灯祭り、毎日開催される地元オーケストラのクアコンサートやその他数多くのイヴェントが訪問者を楽しませ、彼らがここに長く留まるように提供されています。文学的な散策では、アントン・チエホフ(バーデンヴァイラーで1904年死去)、ヘルマン・ヘッセなど他にも多くの著名人の足跡をたどることができます。彼らすべては、約2000年続く「アクアエ ヴィアエ」の芸術的、文学的な歴史を満たしているのです。私たちは1999年にこのような背景を特に評価して、チェホフ博物館を建設いたしました。


4.バーデンヴァイラーの現在と将来の課題

ドイツ全体にわたる健康保険制度改革は、ドイツのクアオルトに困難をもたらし、現在も苦戦しています。それに加えて旅行形態の変化や経済的困難な状況はすべて否定的な耐え難い要因であります。しかしだからこそ、私はバーデンヴァイラーに自信を持ち、また楽観的でもあります。
過去数年間を掛けてバーデンヴァイラーを新しく位置付けることに成功しました。バーデンヴァイラーの比類のない雰囲気を醸し出すカシオペアテルメ、すばらしい景観、そしてまた新しいウエルネスセンターの「リンデバート」は、クア客、保養の休暇客、短期休暇客そして観光客に、関心と興味を向けさせたのです。魅力的な週末あるいは1週間の「全て込みプログラム」と「快適パッケージプログラム」には、特に自費負担者やリラックスを求める若い世代には、ウェルネス、ビューティー、そしてフィットネス志向の客にアピールしています。これらの成功が私たちのやり方が正しかったことを証明してくれています。1989年、1993年、1997年そして2000年に行われた厳しい健康保険制度改革にもかかわらず、私たちは年間の宿泊数を約54万を維持しております。お客の滞在期間は、平均9日間となっています。
非常に喜ばしいことに、私たちの市場戦略が正しかったことを訪問客の数が証明しています。
年を越えて訪問客が増えております。
1990年の初めには、年間約4万8千人の訪問客数でしたが、今年はその30%増の約6万3千人の訪問を記録しています。
私たち全員にとって、健康志向の休暇客、観光客、そしてクア客のより高まる要望に応えてゆくことは、将来の大きな挑戦を示すものです。私たちの高い標準というのは、意欲的で十分教育を受けた従業員とともに発展して、高いコストパーフォーマンスのもとで最新のプログラム提供できる理想的なインフラ構造において進展するものです。まさにまた、人口統計学上の変化の中で、私たちはドイツのクアオルトにおいて、特にバーデンヴァイラーにおいて絶好のチャンスがあると見ております。
観光産業市場において成果があがるよう着手するための大切な要因は、この現在の困難な市場環境の下での意欲的な経営者にあります。お客様にすばらしい、抜群の快適さを提供することと同様に、お客様を個々にお世話することも当然のことであるべきです。バーデンヴァイラーの強みは、中堅クラスのホテル経営にあります。ホテルのオーナー自身がお客様のお世話をし、自由時間の過ごし方、また散歩のグループやワイン試飲会などを催したりします。ホテルの経営者として、たとえば1日中お客様と彼らの関心事のために常にスタンバイ状態にあることは、確かに楽な仕事ではありません。しかしここにおいて、観光業を街に適応した中心的地位におくために、まさに政策が問われているのです。バーデンヴァイラーとその周辺約1800人の住民の収入源は、観光業で成り立っています。国内外の観光産業・健康市場において市場の優位性を主張するためには、優れた諸条件が他の地域と比較しても上回っていることを欧州近隣諸国あるいは日本・極東地域にいたるまで示すことです(10)
バーデンヴァイラーにおいてはその必要条件を満たしており、意欲のある経営者グループが活動し、十分成果をあげています。


5.日本の温泉地振興への提言

今私がお話したことが日本の状況にどの程度お役に立つかについては、判断することはできません。まず最初に大切と思われることは、国と地方自治体が温泉と観光の持つ意味を重要な経済的要素として認識し、またその価値を認めることにあります。観光と飲食産業の就業率は、ドイツで全体の8%をしめています!現代的で魅力のある保養地であるために必要とされる投資、場合によっては公の投資が行われる一方で、新しい市場戦略が必要とされているように思われます。最終的に必要なのは、お客様が一晩だけではなく、より長く滞在してもらうということにあります。提供する内容はそれに適応して、「入浴」、「宿泊」以上のものがなければなりません。価格的に魅力のある「全て込み」を開発するべきであり、そしてそれらは、日本の市場の要望を考慮したものでなければなりません。ウェルネス、ビューティー、健康、快適感、そして生活のクオリティーなどは、一般的に市場要求によく適合し、また若い客層にも好まれるものです!それ以外にも、観光的な総合産業の多彩な要素を、たとえばその地域と周辺地方にある特殊性とか、その周辺の景観によりよく何かを補足する、ということなども考慮すべきでしょう。
個々の温泉場が、どれだけ競合に対して他では得られない自分たちだけの持ち味、という線を明確にするプロフィールを、どのように見出すべきかという問いかけは十分にされるべきでしょう。これら全ては、現場で討議され、そしてサービス提供者により、種々の市場戦略−保養地哲学の意味においても−として決定されなければならないでしょう。全ての力が同じ方向へ向かうなら、事業が成功するであろうことを私は確信しております。


6.ようこそバーデンヴァイラーへ

何かについて話したり、何かを表現したりすること、自分自身で体験することはまったく異なるものです。従って最後になりましたが、私は皆様をバーデンヴァイラーへ心よりお招きいたします。
ぜひ私たちのバーデンヴァイラーへいらして体験してみてください。きっと感動され、多くの新しい貴重なアイディアを日本へ持ち帰られることは間違いないでしょう。



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