NPO法人健康と温泉フォーラムは医療、環境、施設等、温泉保養地に関わるあらゆる分野における専門家を中心とした団体です。
FORUM REPORT WORKSHOP
 

ワインの嗜好と温泉文化(Badekultur)-健康志向の考え

ブリッチンゲンワイン協同組合監査会代表
アヒム・フライ












皆様、この温泉フォーラム(Bad-Forum)にご招待頂き心から御礼申し上げます。今日ここでお話できることを大変光栄に思います。特にいわきの方々には大変友好的にそして温かく受け入れてくださったことに感謝しております。今回は私にとって五回目の日本訪問となりますが、日本の方々の率直で親切な態度には毎回感銘を受けております。
私はワインと温泉地(Badeort)、そして健康について話すように依頼されましたので、これから話すつもりでおりますが、それは当然の事ながらドイツ人、つまりヨーロッパ人の目で見た考えをお話するのであります。私の話が日本の状況に合わせて応用できるかどうかは、皆様ご自身で判断していただきたいと思います。

理論的な事ばかりを話すのでなく、実際に役立つよう、皆様にとってとても重要と思われる二つの問題を考慮して、ここに掲げたテーマを考察していきたいと思います。
その一つは、
クア療養(Kurbad)への関心が如何に高まっているか?
二つめに,
温泉地(Badeort)に滞在することが、如何に健康増進につながるか?

これからお話することは、以下の観点から構成されています。

I. 人々がクア療養(Kurbad)へ行く動機は何か?

II. 健康的生活維持に、ワインにはどのような効果があるのか?
a) 歴史的考察
b) ワインの作用についての科学的成果
c) 人間の心理に及ぼすワインの効果
d)健康づくりのためのワイン嗜好の意味

III. クアの効果(Kurerfolg)を高める他の重要な要素

IV. クア療養(Kurbad)はどのような要求を満たすべきか?

V. クア療養(Kurbad)におけるワインの役割

VI. 結び

I. 人々がクア療養(Kurbad)へ行く動機は何か?

ドイツにはクア温泉保養(Badekuren)を手術後のリハビリ対策として、あるいは関節・筋肉等の持病を持つ場合に処方されて、クア温泉地(Kurbaeder)を訪問する人が大勢いました。通常三週間とされていた温泉保養(Badekuren)は、今では健康保険会社の財政困難の理由で処方される回数は減り、そのため長期間滞在で療養をする人の数は明らかに減少してきています。しかし、一方でクア温泉地(Kurbad)への訪問客は増える傾向が見られます。訪問客は、治癒を促し,痛みを和らげる温泉水(Thermalwasser)の効用を評価しており、同時に、温泉水がもたらす多様性のある治療方法と可能性を評価しています。
全般的に健康に対する生活意識が高まる中、健康志向増進させる効用を強調する多くのレジャープログラムに対しては、その裏にあるものが何か、批判的に問いただすようになりました。それに比べてクア温泉Kurbaeder)は非常に魅力的であります。今までより多くのお客様が短期間、あるいは、それがたとえ2−3時間の訪問であっても健康の維持に大きく寄与するものとして温泉を考えるようになり、またそのための費用を自己負担することも多くなっています。
人々は温泉クア(Kurbad)へ行くことが、自分にとって健康に良いことであると理解しています。
そして次のことも同じように重要な視点です。つまり、多くの方々にとって温かい温泉水(Thermalwasser)につかることは、純粋に元気が回復し、リラックス、そして快適を意味しているのです。

II. ここでワインはどんな意味を持つのか − 健康な生き方の一部として

前述の温泉のプラスの効用とは、客が求め、かつ見出すことができるものなのですが、これは同時にワインの愉しみ方を示していることにもなるのです。ワインを愉しむことと温泉文化(Badekultur)が結びつくことによって,健康効果をより高めるための相乗効果が得られるからです。

a)歴史的考察

エジプト文明において既にワインが薬として利用されていたことが発見されたのち、この利用方法を科学的に理由づけしたのはギリシャ人でありました。ヒポクラテス(紀元前400)は,“それぞれの健康状況に合わせ、適量のむことにより、ワインは不思議にも人間に適したものになる。”といっています。ローマ人はギリシャ人から治療薬としてのワイン文化を受け継ぎ、その効力は特に胃腸病に使われ、一方ワインの持つ殺菌力も経験的事実からも知られていました。

中世の修道院医学においてワインは大きな意味をもっていました。当時、ワインの予防医学的な役割や、その治療的効果をとりあげた書物が沢山残されています。大化学者ルイ・パスツール(Lous・Pasteur)は19世紀に、”ワインは最も健康的で衛生的な飲み物である”といっています。
20世紀に入ってワイン治療の伝統は徐々に消滅していったのですが、フランスの衛生医学研究所所長セルジュ・ルノー教授(Prof.Dr.Serge Renaud)がすぐれた認識によって新たに息を吹き返してきたのです。彼はワインを良く飲む地域の人間が、ワインを飲まない地域の人間より心臓・循環器系の病気で死亡する数が少ないことを調査で立証しました。この研究はいまや世界中で”フランスの逆説”(French-Paradox)として知れわたり、このテーマに関する数多くの新しい時事的研究活動への刺激となっています。

b)人間の体に与えるワインの作用についての科学的結論

数多くの研究(Prof.Renaudの1980-1992 年及び1998年のNancy-Studie, コペンハーゲン大学のProf.Gronbaekの1995/2000の研究, 1996 年のProf.Keulのフライブルクワイン研究)において、適量のワインが人間の有機体に次の様々なプラスの効果をもたらすという結論に達しています。
ワインはまずコレスロール値を下げます(悪玉コレステロールLDLが減って、善玉コレステロールHDLが増える)。
ワインは血液の流れる性質を改善し,血糖値とフィブリン含有量(Fibrinogenspiegel)を下げ、そのため動脈硬化が予防されます。ワインは胃の運動を促進させ、腸の活動を活発にし、それによって体の消化能力を上げます。
心臓・循環器系病気または癌で死ぬ危険は、ワインを規則的に飲む人の場合、禁酒主義者より30%以上も少なく、しかし健康とされる適量を超えた場合、死亡の危険率は、特に癌に関していえば、まったく飲まない人よりはるかに高くなっています。
このプラスの効用の原因は、特にエタノール(Ethanol)とフェノール物質(Phenolische Substanz)というワインの成分にあります。特にぶどうの液果皮(Beerenhaut)からでてくるフェノールについていえば、それはいわゆる自由基から守る抗酸化的作用を持っているのです。自由基は人間の有機体の中で発生するのですが、その数が異常に多い場合に、”中性化”できなくなり有害となるのです。フェノール物質、なかでもフラヴァノイド(Flavanoide)が中性化の役目を果たす働きがあります。ワイン以外では、ビタミンA,CとEがこの抗酸化的作用を持っています。

c) 人間の心理に及ぶすワインの効果

多くの詩人や思想家がワインのスピリッツの与える効果を賞賛しています。シェ−クスピアは、“ワインは脳を官能的に、すばやくそして発明的にさせ、生き生きした喜びに満ちた考えで一杯にする”と言いました。そしてドイツ人のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、ワインが精神を高揚させ、芸術的創造力を高めると確信を抱いていました。
夜飲むいっぱいのワインは人をリラックスさせ、日常のわずらわしさから距離を置いてくつろがせてくれるのです。
今まで述べたお話の最後に、過度の飲酒と乱用が数多くの人や家族を苦しませることをぜひはっきりと言及しておきたいのです。
いずれにしても、パラセルズス(Paracelsus)が言っている、”或るものが毒であるかどうかはその分量によってきまる”ということなのです。

d)健康づくりのためのワイン嗜好の意味?
   
女性の場合一日当たり25g
男性の場合一日当たり35g

11% のアルコール容量におけるTリットル当たりのアルコール量は87g、つまり、グラス一杯0,1リットルには8,7gのアルコールが含まれることになります。

12%のアルコール容量ではTリットル当たり95gのアルコール量であり、グラス一杯は9,5gのアルコール量となります。

13%のアルコール容量にはTリットル当たり103gのアルコールが含まれており、
グラス一杯は10,3g のアルコール量となります。

これをもとにしてあなたがワインを何杯のめるかご自分で計算してください。ここで重要なのは、規則的に適量のワインを飲むという事です。週末の酒宴は健康のために決して良くありません。

III. クアの効果(Kurerfolg)を高めるたの重要な要素

ここではフライブルク大学のコイル教授(Prof.Keul)の研究から文章を引用して紹介いたします。
“ワインの健康増進的効果は健康的な食事と理性的生活様式との結合において初めて完全に引き出されるものです”。
これはワインの効果についてのみ該当するのではなく,温泉水(Thermalwasser)の効用についてもいえるはずです。とはいえ、喫煙や誤った食事のとり方は、プラス効果が損なわれるどころか、まったく効果を相殺してしまうのです。

他の視点で見てみましょう。
ぶどうがどこでどのように育ち、いかに扱われ、醸造蔵でどのようにワインを造るのかということは、私はとても重要なことと考えています。フライブルク市は日本ではエコ都市としてよく知られています。ブリッツインゲンワイン醸造協同組合のぶどう畑はフライブルク市の南約25kmのマルクグレーファーランド(辺境伯領)にあります。環境を汚染させる工場はなく,黒い森のふもとに位置しています。ブリッツインゲンのワイン醸造組合の人たちは、昔から環境にやさしいぶどう栽培を行っています。つまり殺虫剤の使用を放棄し、ぶどう畑全体を緑で覆ってエコ栽培をしています。ぶどうはとても丁寧に取り扱われ、醸造行程もできるだけ自然な方法を用いられています。そこで目指していることは、健康によいぶどうの成分を失うことのないように、アルコールと酸と残留糖分のバランスがとれ飲みやすいワインを造ることにあります。ブリッツインゲンのぶどう畑は1200年前から存在しています。私達はこの長い歴史に責任を感じていますし、この土地で人々に貴重となる農作物を生産することに喜びをもっています。
ワインは単に飲まれるだけのものではありません。飲む人はその色合いを見たり,香りを嗅いだり、味を試したりしてワインについて語り合うのです。ヨーロッパでは、ワインは特殊な神話に包まれた神秘なものであり、文化財産なのです。

IV. クア温泉地(Kurbad)はどのような要求を満たすべきか?

近代的で魅力の或る温泉地(Kurbad)では、温泉につかるということと、それと関連した医学的な利用方法のみを提供するだけではいけないのです。健康に役立つ方法が広い範囲にわたって満たされた健康プログラムを人々に提供しなくてはいけないと考えております。これには温泉水(Thermalwasser)の幅広い利用方法と並んで,食事や,筋力トレーニング、運動全般も含まれており、それぞれに合った提案が必要となるでしょう。さらに,“健康の現場”(Ort der Gesundheit)として、健康志向に対する人々の意識を養い、それを高める場所であるべきであると考えております。
人々は温泉地滞在によって、日常の生活においてもできる限り多くの健康に良いことが継続できるような刺激とモティベーションを得られればよいと思うのです。それによってクア療養効果(Kurerfolg)が日常でも持続的されてより良い生活が送れるのです。こうなるとクア(温泉Kurbaeder)は以前にも増して、国民の健康維持に役立つことになる訳です。国民が健康であれば、経済的により高い生産能力を有することになり、これは公的資金を温泉地に投入することを可能にさせ、また正当化させるものとなるのです。


V. クア温泉 (Kurbad)におけるワインの役割

あなたが,あなたのクア温泉 (Kurbad)をどのようにより魅力的にできるかと考えられるのであれば、そこには多種多様な可能性が存在するでしょう。ワインを愉しむことのできる温泉地(Badeort)は,その環境がないところよりもずっと魅力的です。ドイツにはいわゆるシュロート療法〔体質改善食事療法〕と呼ばれるものがありますが,ここではワインが中心的役割をはたしています。この療法形式の中心地であるオーバーシュタウフェン(Oberstaufen)には、突出した数の訪問客が訪れています。
しかし、シュロート療法との関連においてだけワインの利用効果が考えられるのではなく、基本的な食事と結びつけてた提供の仕方も考えられるのです。昼食に一杯の白ワイン、又は夕食に二杯の赤ワインは、温泉地滞在における健康価値を明らかに高めることになるでしょう。
かつてローマ人がバーデンワイラーへ温泉文化を持たらしたのですが、今日でも当時の立派な温泉設備(Badeanlage)の遺跡を見学することができます。ローマ人はまたぶどうの木とワインも南ドイツのマークグレーファーランド(辺境伯領)へもたらしました。彼らは既に2000年前に温泉とワインが同じ目的に役立つことを知っていたのです:
人々は自分の体をケアし,リラックスさせ、鍛えること;それは精神を刺激し駆り立て、自然の免疫力を高めることになるのです。


VI. 結び

私がお話したことによって皆さんがワインというテーマと取り組む意欲が沸いたことを期待します。私に何かできることがありましたら是非お手伝いしたいと思います。
バーデンワイラーやブリッツインゲンでは人が集まればワインを飲みますが,その時
お互いにゲズントハイト(Gesundheit)・健康を祝してと言って乾杯します。私たちとワインのかかわり方が、正にこの一言で言い尽くされているでしょう。



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