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マーケティングの視点からみた温泉保養地 小林 英俊(財)日本交通公社 観光マーケティング部長 1.周遊旅行を上回る温泉旅行 当財団では、毎年約2000人を対象に一年間に実施した旅行(延べ約4000回)についての分析を行っているが、2000年の調査で初めて「温泉旅行(温泉を楽しむ旅行)」の回数が「周遊旅行(自然や名所を見て回る観光旅行)」を上回った。日本人が最も多く行う旅行タイプは「温泉旅行」なのである。全旅行に占めるの割合は20.3%で、1年間に実施された旅行の5回に1回は温泉を楽しむことを目的にした旅行である。どのような旅行形態のときに温泉旅行を選んでいるのかというと、「3世代の家族旅行」の場合が最も多く3回に1回の割合である。次に「成人した親と子による親子旅行」(26.1%)「子育てが終わった夫婦の旅行」(25.4%)「カップル旅行」(21.3%)が続いている。 また、グループ旅行では当然のことながら「中高年グループ」の方が「ヤンググループ」よりも温泉旅行を実施する割合が高く、「中高年」では女性と男性の間にはほとんど差がないが、「ヤンググループ」では女性(13.5%)の方が男性(8.5%)よりもかなり高くなっている。 他の旅行タイプとの間で実施割合を調べて見ると「子育てが終わった夫婦旅行」では、周遊旅行の方が温泉旅行を大きく上回っており、自然や名所を見て回ることが最も好まれているようである。「中高年の女性グループ」でも周遊旅行の割合が高く自然や名所見物への志向が強いが、男性のグループでは「わいわい過ごす旅行」の割合が高くなっており、仲間と楽しく過ごす時間を重視していることがうかがえる。「3世代の家族旅行」や「成人した親子の旅行」では、「ゆったり過ごす旅行」を実施する割合が高く、旅行中での家族の触れ合いを大切にしていることが読みとれる。 ![]() 2.連泊滞在なら温泉地が希望 「一カ所に二泊以上滞在する場合どのような観光地を選ぶのか」という質問には、「落ち着いた情緒ある温泉地」との回答が65%ともっとも多く、「観光やショッピングも楽しめる都市」(35.9%)や「歴史のある落ち着いた都市」(33.6%)といった都市での滞在希望の約2倍である。また「海浜のリゾート」(33.3%)や「高原のリゾート」(32.8%)での滞在をも大きく引き離している。日本人にとって滞在するとしたら「落ち着いた温泉地」が希望であって、同じ温泉地でも「山間の一軒宿や湯治場」(19.6%)や「賑やかな歓楽街など何でもある大きな温泉地」(13.1%)は選択率が低くなっている。 最近では、旅先でいろいろなことを体験してみたいという希望が増えている。30の体験プログラムを予め提示し、「料金も納得いく価格ならば」ということで希望のプログラムを選んでもらうと、「全身マッサージで疲労回復」が44.2%と最も高く、次いで「陶芸教室での茶碗づくり」37.4%「風呂自慢旅館の温泉3カ所巡り」36.8%「ガラス工芸品づくり」33.1%「足ツボ・フットマッサージ」32.6%の支持が高い。 男女別や年齢により体験してみたいプログラムは異なるが、「全身マッサージで疲労回復」は20代と30〜40代では男女とも1位で、50〜60代でも女性では2位、男性でも6位と全ての年代で高い支持を得ている。「足ツボ・フットマッサージ」や「エステで美顔とリラックス」は当然ながら女性の方に人気であるが、男性でも若い年代にはかなりの支持を得ている。 モノづくり体験では、「ガラス工芸品づくり」は男女とも若い方に人気が高く、「陶芸教室での茶碗づくり」は逆に年齢が高い方に人気である。また、一般的にアウトドア系のスポーツは若年層に人気が高く、中高年層では「森林浴と野鳥観察ガイドツアー」「路地裏散策ガイドツアー」などの「ガイドと歩くツアー」に人気が高い。そのほか、中高年の男性には、「地酒を味わうきき酒教室」や「蕎麦打ち体験」への参加希望も多い。 最近ではいろいろな温泉地で趣向を凝らして実施されるようになってきたが、「風呂自慢旅館の温泉3カ所巡り」が各年代ともやってみたいプログラムの上位に位置づけられている。今後も、温泉地の活性化の方策として「風呂巡り」が各地に拡がっていくことが予想される。 ![]() 3.高まる温泉そのものへの関心 このような体験志向や健康志向は温泉(地)に求めるものの変化となって表れている。「わたしの好きな温泉地」アンケート調査(2000年、回答53000通)によると、「温泉地の魅力」として予め提示された45項目のうち最も回答数が多い項目は「お湯が熱くて豊か」であった。回答者の3人に1人が「お湯が熱くて豊か」なことを魅力に上げている。さらに10位内に「温泉の効き目」(3位)「お湯の香り」(5位)「お湯の色」(8位)が入っており、「温泉」そのものへの関心が急速に高まっていることがわかる。「周辺の観光」が魅力との回答も4位となっており、温泉地が周遊観光の基地として評価されたものである。温泉地周辺の景色や美味しい食事、あるいは立派な施設といった温泉地(宿)の魅力よりも、温泉そのものを「色」「香り」などのいろいろな視点から楽しもうという旅行者の姿勢がみうけられる。 また、「温泉の効き目」も魅力の上位で、男性より女性の方がこの項目への関心が高く、中でも60代や50代の女性に回答率が高くなっている。温泉地なかには「玉川温泉」「下部温泉」「十勝川温泉」「鹿教湯温泉」のように回答者の大部分が「温泉の効き目」がその温泉地の一番の魅力であると回答している個所もある。「お湯の色」が魅力の温泉地には、「白骨温泉」「万座温泉」「蟹場温泉」「高湯温泉」などが選ばれており白濁系のお湯が特徴にあげられているケースが多いようである。これも、目から温泉の“薬効感”が強く得られるためであろう。 また、旅行の目的別に「行ってみたい温泉地」を聞いてみると、旅行の目的によって温泉地を選び分けていることがわかる。例えば、「夫婦で楽しむ」温泉地としては「由布院」「草津」「修善寺」が上位に選ばれ、「家族で楽しむ」場合は「白浜」「箱根湯本」「草津」が、「グループ・団体で楽しむ」場合は「熱海」「鬼怒川」「箱根湯本」である。「気軽に何回も行きたい」場合は、「箱根湯本」「有馬」「鬼怒川」といった大都市圏から交通の便利な温泉地が選ばれている。これらの目的に比べて「温泉街の賑わいを楽しむ」や「地元の味を楽しむ」という設問には無回答が約4割を占めていて、現在の温泉地に「温泉街の賑わい」や印象に残るような「地元の味」が少ないことを示している。 4.これからの温泉地に求められるモノ これらの温泉に関する一連の調査から見えてくるのは、旅行者にとって温泉地はもはや周遊旅行の基地(宿泊地)という以上に、温泉そのものを楽しむ場所であり、いろいろなことを体験して知的に遊んだり、健康や美容にいいことに挑戦してみる場なのである。 今後の傾向を考えるとさらに温泉へのこだわりが強くなってくるはずであり、“本物の”温泉を求める旅行者への情報提供の必要性がさらに高まってくる。健康志向の中で積極的に体にいいことをやろうという傾向もますます強くなってくる。温泉地側でも、滞在中の昼間でもきちんとしたマッサージが受けられる体制づくりや、水中運動や水中リラックスなどを指導できる指導員の養成などが急務となってくる。さらに、温泉地が持っている自然環境や人環境にもっと関心を払い、これらの環境的な魅力を磨き上げることが滞在客をその温泉地固有の魅力となって育っていくことになる。その際のキイワードは、“本物へのこだわり”と“心と体に気持ちいい環境づくり”である。 この様な結果として、生活の質にこだわる質の高い滞在客が増え、彼らのまなざしから温泉地に新しい温泉文化が醸成されるはずである。昨今の調査は、このような滞在客の出現を示唆しており、受け地側の意識改革と努力が待たれるところである。 |