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いわき湯本温泉の経営戦略と旅館のあり方
平成9年、常磐湯本地区商業振興ビジョン策定委員会は「湯本街中(まちなか)百貨店」建設10か年計画書を発表した。湯本温泉を、人が来続け、住み続け、商業と移住機能を併せ持った宿場町にするという構想だ。私たちはこの報告書に、自らの手で常磐地区の問題点や現状を調査・分析し、10カ年計画の街づくりを記した。童謡館、絵画記念館、絵だこ館、文学図書館、民俗資料館、陶芸工房、和紙工房、染物工房、紙細工工房、ガラス工房、ミニギャラリー、ミニコンサートホール等のテーマ館を設置、周辺に土産物屋を配置して非日常用品を揃える。その地区々々に合わせて、現代風、大正ロマン、明治、江戸へと時の流れを感じさせる町並み形成。街中に各種浴場を設置し、その周辺に飲食店や日常用品が揃う。街全体が百貨店で、観光客も街の住民も入浴、体験、鑑賞、買い物をしながら回遊し、にぎわい、ふれあい、感動する街づくり。時代の変化と共に多少の変更もあったが、この計画は、過去の有効活用されなかった多くの構想と異なり現在進行中で、いわき湯本温泉の経営戦略も少なからず影響を受け、その流れを汲んでいる。 いわき湯本温泉は「常磐湯本温泉」の時代から常磐ハワイアンセンター(現在のスパリゾート・ハワイアンズ)の大きな存在の陰に隠れ、他の温泉地と比較して知名度が低かった。温暖な気候を生かしての冬期ゴルフプランなどを企画し、単独に、又、市や観光協会とのキャラバンなどを行ってきたが、未だに温泉100選などの選択肢からさえ外れている場合が多い。 最近は他の温泉地とのタイアップによる誘客宣伝も展開している。磐越三湯紀行は、日本海(海)・猪苗代湖(湖)・太平洋(洋)を結ぶ磐越道沿線の「新潟・月岡温泉」「福島・磐梯熱海温泉」と共同で、三湯それぞれの温泉、観光、イベント等の紹介や交流を行っている。北海道ニセコ湯本・岩手湯本・岩瀬湯本・長門湯本と共に全国5箇所の湯本温泉で組織する「全国五名湯“湯本温泉”連絡協議会」はスタンプテーリングによる誘致活動や5温泉をリンクしたHP開設による共同宣言を展開している。その他、市内各種観光施設を有効に利活用し、今後はハワイアンズと一体となった積極的なPRも必要と考える。 インターネットによる情報の発信だが、いわき湯本温泉郷の公式ホームページ(以下、公式HP)は、1998年に開設以来、順調にアクセス数を延ばし、今年8月までで33万ヒット、現在、一ヶ月約2万件のアクセスがある。各旅館も31旅館中、25館がオリジナルHPを持ち、残る6館も電子パンフレットを制作している。個々の旅館のホームページのアクセス解析データを調べると、リンク元は公式HPが圧倒的に多く、公式HPを周知させることが即、個々の旅館のアクセスアップに繋がっている。公式HPの内容は、一般的な旅館、地図、地区内の紹介、季節のプランなどにとどまらず、温泉の効能や詳しい利用法、毎日更新する地区内のホット情報、女将・宿六のページ、観光都市いわきの広域地図と情報、海外からの誘客を見込んでの英語・韓国語・ドイツ語のページなど、多種多彩な内容だ。各旅館のHPに至っては、経営者や従業員の紹介のみならず、地内の商店主、飲食店主、神主、住職の顔やローカルな話までが掲載され、自宅にいながらにして温泉街に来たようなバーチャル体験が出来るように工夫しているところもある。これが、実際に訪れたときに話題となり、ネットアイドルも誕生している。今後は、「湯けむりの町ふるさと便り」情報誌MLも発行し、きめ細かい情報をリアルタイムで世界に発信していく。 アクセス数アップと比例し、ネット販売を行う各旅館は予約成立数も確実に延びている。加盟施設約900館の福島県旅館ホテル生活衛生同業組合は、先般立ち上げたHP「ふくしま旅先案内 泊まれます!!」をリニューアル中だ。ルームバンク利用の即予約可能な施設の登録数はまだ少ないが、「福島県最大の宿のイエローページ」をコンセプトに、ペンション等、他形態の宿泊施設も取り込み、県内全施設のデータを入力し、電子パンフレットを作成、福島県全域の宿泊予約と観光案内の総合サイト整備に取りかかっている。 温泉街の発展には旅館が街に向かって開かれた施設になることが必要だが、多くの温泉地と同じく湯本もまた客の囲い込みの時代があった。その結果、商店や飲食店と旅館の連携は疎く、店は早めに店じまいするため経済効果は少なく、町は職・住分離による空洞化が進み、観光客からも一般消費者からも魅力を失っていくという悪循環となった。町、地域の発展無くして、商店、飲食店、旅館の活性化も発展も無い。観光客に街の中を回遊してもらうためと、住民に自分の街を再認識して貰うため、街中の寺社仏閣、歴史的建物などの観光資源を掘り起こし、史跡・旧跡を記した街中ガイドマップを作成した。安心して街を散歩できるように、観光客の滞在活動のインストラクター・ボランティアガイド「かもめたち」が組織された。個人客対応で、きめ細かい観光情報や利便性を提供する仕組みである。郷土・伝統芸能や歴史も見直され、湯本温泉芸妓芸能保存会「芸の虫」、湯本温泉女将の会「湯の華会」による「じゃんがら念仏踊りチーム」、童謡の街づくりをすすめる会「ほのぼの21」などが結成され、住民の意識は高まっている。組合内では、サービス講習、応急手当講習、レジオネラ菌に関する講習会や、自主防災組織の強化・研修・運営の見直しも行っている。隣接旅館同士の消火避難の協力体制も計画中だ。 湯本では、日帰り温泉入浴プランを企画し、旅館の浴場を外来客へ解放しはじめた。一部の旅館では利用形態を一泊二食型に限定せず一泊朝食又は素泊まり形式でも対応可能とし、夕食に街中の居酒屋や郷土料理店を利用してもらうことで観光客と街の人々との心の交流が図れるようにした。入浴後に街中でリラックスできる環境整備を進めることで商店、飲食店へ人の流れができ、健康的で文化的な温泉街へ変化していくような相乗効果が出れば良い。 この8月に誕生したバルネオセラピストは、いわき湯本温泉独自の温泉保養士である。目的は、湯本の地域資源である温泉の有効活用を図り、温泉医学に基づき、温泉の持つ保健的効能の知識や技術を習得し、健康増進・疾病予防のための温泉利用を安全かつ適切に実践でき、その知識と技術を高いレベルでのサービスとして積極的に還元できる、いわき湯本独自の温泉ソムリエの育成だ。加えて、その人的資源により、健康増進温泉地、温泉健康リゾートとして、いわき湯本温泉郷振興の新たな構想を実現することを目的としている。昨年11から今年8月まで毎月1回・全10課程・各課程90分の講義を、旅館経営者及び従事者、観光事業従事者、その他一般合わせて52名が受講し、48名が卒業した。 常磐地区社会福祉協議会の要請で、11月から福祉と観光をドッキングさせたデイサービス「湯ら〜り温泉めぐり」も試行を始めた。介護及び、介護予防のため日中の旅館を活用し、温泉寺子屋やレクリエーションを通して、高齢者に憩いの場を提供しながら保養を含めた街全体の温泉文化を作っていく。 街には、観光協会・青年会議所・飲食業組合・商店連合会・各地区青年会を始め多くの団体が存在している。しかし、横の繋がりが薄く、一致団結した地域商業振興を図らず各々に活動してきたため効率が悪かった。じょうばん街工房21・常磐地区まちづくり懇談会・夢わくわく市民会議の結成により、各組織の連携がとれてきた。なお、各事業においては計画段階から市や行政を巻き込み、担当者変更の場合も継続性を持たせる事が必要だ。 ハード面では、おんせん寄席友の会主催の定期的な寄席が開催される温泉保養所「さはこの湯」や、高齢者・障害者にも安全で快適に滞在できる街にするため、県道湯本停車場線に「人にやさしい道づくり」の歩道が完成した。駅前緑地公園や温泉手洗いモニュメントも整備された。彫刻を設置する会では、街角に数体のブロンズ像を設置した。湯本町を取り巻く51.2ヘクタールの急傾斜指定地の修復工事の際に、防災の観点だけでなく自然環境の保全や景観維持を加味した高齢者・障害者にも優しい快適な環境を作り出そうという「わが町の斜面」整備構想も策定された。各旅館においては、高齢者に優しいシルバースター登録を推進している。今後は豊富な温泉を生かし、誘客と観光客の回遊のため、街中の各所に足湯を設置していただくよう湯本温泉財産区に提言したい。 湯本の31旅館のあり方としては、最低限の統一ルール以外は、逆に各旅館が強烈な個性を発揮して他館と徹底的に差別化を図り、どこまで客層を絞り込めるかが重大なポイントになってくると考える。湯本温泉のあり方としては、広域観光都市いわきにおける宿泊滞在基地として、一泊歓楽型から滞在型の温泉地への移行を図っているが、今までのイメージを払拭するには、かなりの時間を要する。湯本温泉自体は川も温泉情緒も無く、普通の街と同じでメインは無いが何でもあり過ぎ、特徴の無いところが特徴で、コンビニ温泉と称される。観光は非日常性を求めるが、滞在期間すべてが非日常であるよりは、日常と非日常性が同居した方が疲れず過ごし易いので、滞在に向いていると無理に理由付けをしている。街を1軒のコンビニに見立て、ICカードやスタンプ、ポイントカードなどを用いて、街中のどこでも浴衣姿にサインで決済可能な温泉街を目指すのも一案かと考える。 |