NPO法人健康と温泉フォーラムは医療、環境、施設等、温泉保養地に関わるあらゆる分野における専門家を中心とした団体です。
FORUM REPORT WORKSHOP
 

水中運動による健康づくり

スパリゾートハワイアンズ
健康運動指導士・温泉利用指導者
小野 倫明









1.温泉保養と水中運動

 温泉保養の先進国であるヨーロッパの古代ローマ時代の遺跡にカラカラ大浴場がありますが、その大プールの壁面には、「In aqua sana est」(Water is healthy)と描かれています。「水は健康に良い」ということを示しているのです。古代ローマ人は、水中、プールの中で運動(体操)をしていたのです。
 ヨーロッパでは、昔から整形外科的な関節や筋肉に障害のある方に、リハビリテーションの理学物理療法として水中運動が行われていました。このことが水中運動の始まりと言われています。ヨーロッパの「水浴文化」に対して、日本には古くから農作業の前後に温泉地に滞在し、温泉に浸かり、その土地の食材や旬の食材を使った料理を食べ、近くの温泉神社まで歩いてお参りをするといった文化がありました。つまり、「湯治」です。
 この「湯治」の中には、次の3つの要素が含まれています。1つは、我が家から離れた温泉地に行き、自然環境や気候にふれ(転地効果)、温泉に浸かることで自然治癒力を高め、普段の生活に変化を与え、体に揺さぶりをかけ正常な活力ある体づくりをすることです。つまり、「湯治」による刺激反応治療法を主体に、体の機能調整を行うということです。2つ目は、栄養面の要素です。温泉地で取れた旬の食材は、新鮮で栄養価が高く、健康を維持、増進していくためには欠かせません。3つ目は、近くの温泉神社へ歩いてお参りをすることで適度の運動をし、体のバランスを保つことができます。このような「湯治」の要素の中で、適度に体を動かすということが、現代人には特に求められているのです。
 「湯治」や「保養」を行う「温泉地」は、「温泉」を軸にした「環境」すべてが大切であり、自然環境・・や気候を含めた保養資源が豊富に存在します。ヨーロッパ、ドイツのクアオルト(温泉地)でのクアミッテル(保養、療養、治療の手段)は、「温泉」はもちろん、温泉以外のものも、その手段になります。例えば、「温泉から取れる泥」「海水」「気候」「地形」「環境」等です。その中で、温泉が豊富に湧き出ている温泉地では、「温水プール」での水中運動も優れた保養資源になります。
 現在、水中ウォーキングをはじめ、水中運動が日本各地で盛んに行われていますが、「温水プール」では、温泉水を利用することで、普通の水より比重が大きいため、浮力が増し、ナトリウム等の食塩泉ではさらに浮力が大きくなり、水中運動、そしてリラクゼーションプログラムを行う上で有効な環境になります。
 温泉保養を行う上で、水中運動や水中ウォーキングは、温泉入浴との相乗効果が期待できます。温泉地へ行く時に、水着をバックの隅にでも入れておけば、決して荷物にもなりません。水着1つで、いつでも気軽に、そして自由に楽しくできるのが水中運動や水中ウォーキングなのです。
 水中運動は、単に体脂肪を燃焼し、シェイプアップするだけでなく、柔軟性、持久力、筋力、調整力をバランスよく鍛えることができるのです。水中だからこそできる効率の良い運動法と言えるでしょう。
 また、運動療法としても有効です。腰痛や肩凝り、膝痛等の整形外科的な疾患や糖尿病、高血圧、高脂血症等、生活習慣病を予防改善するための水中運動プログラムも多種多様です。
 「水中運動」と「温泉」の関わりは、「健康は水の中にある」という共通点で結ばれているのです。

2.水中運動の優位性

 「水中運動」には、次のようなたくさんの効果があります。
1.どなたでも安心して水中運動を楽しむことができる
1)泳げない人:水に顔をつけないので安心
2)高齢者:転んでケガをする心配がないので安心
3)脚や腰にトラブルを抱える人や肥満の方:浮力で骨や関節、筋肉にかかる負担が少ない

2.四季を通じて行える
運動の効果は、継続して表れるものです。温水プールでの水中運動は、雨や暑さ、寒さを気にせず四季を通じて継続して楽しみながら運動することができます。

3.呼吸機能が高まる
水圧により意識して呼吸をすることになり、腹式呼吸(横隔膜呼吸)になるので、呼吸機能が高まり、酸素効率もよくなり、肺の底まで使うことなります。それにより脂肪がよく燃え、腹筋も鍛えられます。

4.心肺機能と同時に筋力も高めることができる
「有酸素運動」と「筋力強化」の運動が同時に行え、体脂肪を燃やすと共に、水の抵抗により筋肉も鍛えられ、基礎代謝量が増し、肥満を解消し、太りにくい体質をつくることができます。

5.血行が良くなり、若々しい体を保つことができる
末梢血液(静脈血)が心臓に戻りやすくなって、血液循環が良くなり、その結果、新陳代謝が活発になり若々しい体を保つことができます。

6.バランスのとれた体づくりができる
腹筋と背筋といったように表(前面)と裏(後面)のいわゆる「拮抗筋」の筋力強化が水の抵抗により可能となります。また、筋肉が縮みながら強化される短縮性収縮(コンセントリック)な動きが中心となり、筋肉痛になりにくいという点もあります。

7.自分の体力に合ったトレーニングができる
水の抵抗は、速度の2乗に比例し、自分の出した力の分だけ抵抗となるため(等速性の運動)、自分の体力に合わせ無理なく手軽に、より効果的なトレーニングができます。

8.効率の良い運動ができる
水中ウォーキングを約 3,000歩(約30分間)行なうのに相当する陸上でのウォーキングは約 4,500歩となり、約 1.5倍の運動量になります。消費カロリーも運動形態にもよりますが、陸上運動に比べ、水中運動は約2倍にもなり、効率の良い運動ができます。

9.陸上では味わえないリラクゼーション効果がある
水中に全身を浮かせることにより、無重力状態になり、関節や筋肉の表層筋のみならず、「深層筋」も弛緩させることができ、究極のリラクゼーション効果が得られます。

10.自律神経失調症に最適の運動療法
朝起きられない、夜眠れない、冷え性、疲れやすい等、自律神経のバランスが崩れたことが原因と考えられる方が、水中運動をすることによって、水圧や水温の刺激により、自律神経に大きく作用し、バランスが取り戻されます。特に、水圧によって腹式呼吸をすることにより、自律神経を刺激し、血行が促進され、内臓の働きを良くします。また、深呼吸をすることでストレスが緩和されます。
以上の他にも、水中運動をすることにより、最大酸素摂取量が増し、階段を上る時などに息切れをしなくなったり、血液中の中性脂肪や総コレステロール濃度が正常な範囲に安定する、生活習慣病の予防になる、閉経後の女性の骨密度の減少を緩やかにするなど、たくさんの効果やその副産物があるのです。水中ウォーキングやアクアビクスをやっていると自然に水に親しむことができ、泳げない方でも泳ぎたくなってくるのです。水中運動は、我々人間にとって素晴らしい健康法なのです。
*注意:水中では一般に血圧は下がると言われていますが、高齢者の場合、血管が老化で硬くなっていることもあり、血圧はやや高くなりがちです。医師など専門家に相談されることをお勧めします。

3.水中運動の方向性

 ドイツのクアオルト(温泉地)は、「水中運動」を積極的に取り入れ、ダイエット、腰痛予防・改善、高血圧等、目的別のプログラムが行われています。
 それらの水中運動の運営システムの特徴として、1つは1〜2時間に最低1回は、プログラムを実施している。2つ目にプログラムへの参加、退場は自由。3つ目はダイエット等目的別のプログラムを実施している。4つ目は10〜20分間というショートプログラムが多く行われている。5つ目は1つのプールで2つのプログラムを同時に行っていることもある、という点が上げられます。
 このシステムを利用する側から捉えると、
・いつ行っても水中運動が行われている
・とても気楽に参加できる
・目的、体の症状に合ったプログラムがある
・ショートプログラムなので、集中して参加できる
・プログラム実施以外、自由にプールを利用できること
等、利用者本位に考えられています。

 水中運動を行う目的は、それぞれですが、大別すると、肥満解消、体力維持増進、治療目的、ストレス解消などになるでしょう。中でも、痩せたい、体脂肪を落としたいというニーズと治療を目的としたニーズが上位を占めます。治療を目的とした方は、腰痛、四十・五十肩、膝痛等の整形外科的なものや糖尿病、高血圧、高脂血症といった生活習慣病など疾病の種類も様々です。また、複数の疾病を持った方も少なくありません。
 水中運動が、このような疾病予防、改善に有効であることは、何より水中運動に参加される方が一番わかっているのです。それ故に、水中運動を指導するインストラクターは、しっかりとした運動療法プログラムを行うことが重要になってきます。
 日本では現在、高血圧、糖尿病、高脂血症に対しての運動療法を保険点数化し、健康保険で認め適用されています。今後益々、運動療法が有効である疾病の範囲が拡大されることが予測されています。例えば、糖尿病の治療の基本は、あくまでも食事療法と運動療法と言われています。つまり、高血圧は薬でコントロールしやすいですが、糖尿病の場合、いくら薬を使っても過食になると血糖が下がらないということがあります。また、インスリン抵抗性改善薬は、効く人と効かない人がはっきりと分かれます。その上、薬は副作用が全くないとは言い切れないのです。水中運動や水中ウォーキングの運動療法が有効とされていて、その効果は、インスリンに対する体の反応性が改善して血糖値が上がりにくくなったり、インスリンの節約につながり、膵臓の負担が減ったりといったことが上げられます。
 生活習慣病の中でも、糖尿病は患者の増加が著しく、1960年頃は約25万人だったのが、現在では約700万人と急増し、10年後には約3000万人にもなると予測されているのです。糖尿病の方の40〜60%が高血圧と診断されます。その理由は、肥満になっている方が多いことが上げられます。つまり、肥満だと交感神経が緊張し、血圧を上げるホルモンが多く分泌されたり、血糖値が高いと血液の浸透圧が高くなり、細胞から水分が出てくるために血液量が増えて血圧が上がるとされています。また、高インスリン血症になるとナトリウムが排泄されにくくなったり、血管が広がりにくくなります。糖尿病と高血圧が合わさると、糖尿病の合併症の進行を加速させたり、動脈硬化も加速的に進行していきます。
 このような糖尿病に限らず、様々な疾病で運動療法が有効に作用するのです。運動療法の中でも水中運動は、膝や腰等の関節に負担をかけないでできる利点から、肥満を伴った方や高齢の方にも最適といえます。もちろんこのような運動療法を行うには、しっかりとした知識や技術を持った指導者が不可欠になります。
 今後、水中運動が広く多くの方々に楽しんで行われるには、運営する側として次の3点を実施していくことが大切です。

1.インストラクターの指導による水中運動
プログラム
 水中運動の専門知識、技術を有したインストラクターによる「安全」「効果」「楽しさ」を備えたプログラムの実施

2.セルフプログラム
 「ハードインソフト」、つまり施設、設備(プールや温浴施設等)にソフトが組み込まれていて、利用者自身がいつでも一人で目的に合ったプログラムを行うことができるシステムづくり

3.パーソナルプログラム
 パーソナルトレーナーと1対1で自身の体の状態や目的に合った正しい運動法を行うプログラムの実施
・インストラクターによるプログラム
・セルフプログラム
・パーソナルプログラム
 このようにそれぞれ利用する側のニーズに合わせたシステムがとても大切になってくるのです。

 また、温泉地における健康づくりという観点からは、「地域の健康づくり」と「保養目的の健康づくり」との棲み分けをし、「地域の健康づくり」では、継続性を重視し、コミュニケーションの場(サロン化)やカルチャープログラムを取り入れたシステムをつくり上げ、また「保養目的の健康づくり」では、体を動かすことへの楽しさを知り、運動の習慣化へのきっかけづくり、そしてストレス解消のためのリフレッシュ、リラクゼーションプログラムを充実させ、温泉保養のリピート化のシステムをつくり上げることがキーポイントになるでしょう。
 温泉保養における「水中運動」の活用は、そのルーツである古代ローマ時代の「健康は水の中にある」ということから、「温泉入浴と水中運動」の相乗効果によって、心身のバランスが整えられ、現代の長寿社会において「いかに長生きするかではなく、いかに健康でいられる時間を長くするか」ということに多大に寄与するものだと確信をしています。

引用文献:
「年中夢中・水中ウォーキング」小野 倫明著 環境工学社 (2000年11月発行)



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