NPO法人健康と温泉フォーラムは医療、環境、施設等、温泉保養地に関わるあらゆる分野における専門家を中心とした団体です。
FORUM REPORT WORKSHOP
 

21世紀型温泉保養地の経営戦略

株式会社プレック研究所
代表取締役 杉尾 伸太郎


1 はじめに
 18世紀レジャーの先進国イギリスにおいて貴族は子弟の養育もかねて1?3年、大勢のお供とともにヨーロッパを旅行した。これがいわゆる「グランド・ツアー」として知られ、特にイタリーへの旅行からイギリス風景式庭園発生の源となったとされている。
 英国内でも有閑階級は、湯治場や海辺のリゾートへの旅をよく行った。19世紀もヴィクトリア時代になると上流階級の特権であった旅行が次第に大衆化し、中産階級さらには労働者階級へ広まった。それは馬車から鉄道になり帆船から汽船になったことと、トマス・クックによる団体割引旅行の始まりによることが大きかった。
 紀元前から温泉利用は盛んに行われ、病の癒しのため社交のため、飲用、浴用、泥利用、サウナ利用、マッサージなど現代での利用はすでに行われていたのである。
1 8世紀にバースなどの温泉・鉱泉地に社交専用都市が誕生し栄えるが、19世紀にはブライトンやブラックプールのような海岸のリゾートが盛んになる。
 20世紀は一層多様なレジャー活動を迎え現在に至っている。
 一方我が国は古代より温泉利用が盛んに行われるとともに観光旅行も大衆化されたが、特にこの50年の間に質量共に大きく発展し英国がたどったと同じような体験をして現在に至っている。さて今世紀はいかなる時代になるであろうか。社会経済学者である、ヤンケロビッチによると抑制の時代になるとしている。
 筆者は世界の人口の伸びが急速に遅まり組織の活力が低下し、大きな戦争がなくなり、日本を先頭に少子老令化する落ちついた時代になるものと考えている。
 したがって今までのようなダイナミックな保養地の発展は世界的に少なくなり、多様で落ちついた保養地となるであろう。特に日本ではその傾向が大きくなるものと思われる。したがって一層各保養地間での競合は激しくなるであろう。

2 リゾート空間の本質
 リゾートの本質は日常から離れて楽しむことにあり、一方リゾート地の本質は日常の生活や個人の別荘における『け褻』つまり、ふだんのあるいは私的な空間から『晴』の空間での目立ったふるまいに生きがいを求める人々に場を提供することにある。もちろん現在ではレジャーが長期化するなどの時代の流れの中で非日常に日常が、晴に褻が持ちこまれ混在することとなろうが、本質を見失うとリゾート地の価値を失ってしまうであろう。非日常であり、晴である場の区分、即ち左上の区分が休養地の発展する条件になるものと考える。では、非日常であり、晴の条件とはどんなものであろうか。これらを表に示すと次のとおりである。





 まず、非日常の条件は開放性を示すものでもあり、緑が多く豊かな自然、優れた景観、豊富な温泉、立派な文化財、仕事や雑用から離れるなどで具体的に表される。次に晴の条件であるが、認識や行動の目的となるもの、つまり客体性を示すと云えよう。例えば、ホスピタリティを感じる場や自宅にない超豪華な夢の施設、コンセルジュやIT化による情報の多さ、交通の便などの便益性、学習とその成果が披露できる場などが掲げられる。

3 保養地の魅力づくり案
 さて、それでは具体的に魅力ある温泉保養地と生まれ変わる方策は何かを前述の条件に沿ってそれぞれ考えてみたい。
 結論から申し上げれば次に示すとおりである。

●緑が多く自然が豊かであるという条件を活かすには、まず自然に接する手法をいろいろと工夫する必要がある。周辺の山や渓谷へ容易に散策できる歩道等を整備してエコツーリズムや環境教育に役立つこともよいだろうし、周辺環境が今一つさえないなら街路樹を整備したり花の名所を作るのも有効である。荒廃した自然が目立つようなら自然再生事業に取り組むべきであろう。
実例としては屋久島の“尾の間温泉”の屋久島いわさきホテルは国立公園の中のめぐまれた環境にあり、モッチョム岳の朝焼け夕焼けに映える景観がすぐれるものであるが、位置が如何に重要かを示している。
コスタリカにおけるエコツーリズムは今やこの国の3大産業の一つとなっている。
また尾瀬のあやめ平のように完全に破壊された自然でも復元できる。廃屋となった施設などは街中なら買い取り小公園にするか、山地なら森林に復元すればよい。

●優れた景観のある場合、その景観のみを額縁のように切り取って見せなければならない。見苦しい人工物を植栽などで消し去る必要もある。遠景にすぐれた景観がなくても悲観することはない。中景、近景を魅せればよい。まず街の電柱・電線を地中化することから始め、街並みを20年計画で整え、街路には花壇を作り、家々の窓辺に花を植え、ホテル・旅館には魅力的な庭園や坪庭を作ることで解決できる。庭をながめながらの飲食や入浴は自宅ではなかなかできなくなってきている。
北海道の恵庭町などではニュージーランドのクライストチャーチにならってガーデンコンテストを行い、オープンガーデンをすすめて好評となっている。近景を作るテクニックは京都の町家に学ことが多い。湯本温泉の街の中に小さな庭園をいくつか作り、景をもたらすことも考えるべきではないか。

●豊富な温泉を利用して健康作りに役立つ様々な手法があろうが、ここでは他のプレゼンテーターに譲りたい。ただ、公共の大露天風呂を設ける案やペットの温泉など提案しておきたい。ドッグランや犬のトイレがあるなどペットと共に楽しむ公園の設置やペットの入れる露天風呂は、それらを見ているだけでも心がなごむであろう。また、河川敷のところどころに湯けむりをあげる仕掛けも技術的に可能となっている。河川は親水型の護岸でぶらぶら歩きを楽しめるものにすべきである。なお温泉神社の内か近くに足湯を設けるのも面白い。
ハンガリーのヘーヴェーズのような天然の温泉地への入浴をアイデアにした水蓮の咲く大露天風呂などはどうであろうか。ヘーヴィーズも周辺の環境は美しく、身近には花壇が植えられている。

●文化財については国宝となっている白水阿彌陀堂を中心に周辺環境を整備すること。特に南門の再建をおすすめしたい。また、この地のもっている母のひざに抱かれた癒しの『気』を尊重し、南北軸に障る空間を整備した上で気品ある環境として一層みがきをかける必要がある。平泉文化の南限としての価値ははかりしれない。
文化財の修復を行って観光客を誘致することはヴェルサイユの1000万?1500万人とまではいかなくとも東京都でも岩崎庭園、栃木県日光のイタリー大使別荘の復元など多くの実例がある。

●仕事や雑用から離れ、長期滞在を可能とする温泉付きコテージや貸農園、クラインガルテンの設定は『農』の楽しみを呼び覚ますものとして有効である。
ドイツにおけるクラインガルテンやロシア・ウクライナにおけるダーチャ、最近のリタイヤ後のシニア受入れの住宅開発、別荘地計画などに例が多く、東京から1時間圏においてこのような住宅開発の人気が高い。
アメリカのようにセカンドハウス減税が実地されると急激に促進されよう。

●地元の方々のホスピタリティや宿でのもてなしは最大の条件である。地域の意識改革なども必要であろう。商店街でのベンチの設置やお茶の接待などは印象を一変するであろう。
京都ブライトンホテルの接客は有名であるが当然として、ニュージーランドのクライストチャーチでは通りすがりの外国人にさえ気楽に自宅へ招きいれるし、四国の遍路道におけるお接待など心に残る事例が多い。

●自宅にはない超夢の施設も欲しいものである。スパリゾートハワイアンズやゆったり館以外の湯本の施設にもそれぞれ特色あるNO1施設を作ることが望ましい。例えば坪庭付きの家族用露天風呂とか、ガーデンウェディングのできる場所など様々に考えられる。無理な場合でもせめて室のしつらえ家具、食器にいたるまでディテール・デザインに徹底した目くばりがほしい。
箱根の強羅花壇は大浴場や大露天風呂の他、各室に専用の小露天風呂がある。同様な例はバリ島のフォーシーズンホテルにもみられる。ガーデンウエディングもホテルニューオオタニを始め実例が多い。

●情報の多さも重要で、ターミナルにおけるインフォメーションや地元ボランティア、さらにはIT化されたものの整備が必要である。
奈良の明日香村ではモバイル型の情報端末や携帯電話による情報サービスの実験を行っている。

●湯本は駅が近く高速道の ICもあるため便益性は高いが、さらに道の駅の整備や、街のユニバーサルデザイン化、JR駅内に入浴施設を設けるなど、可能性はまだまだあげられる。
沖縄海洋公園やヴェルサイユではシャトルバスを運行して高齢者等の便益に資している。

●学習ができてその成果が披露できることも重要である。それによって定住者が増加したり、地元のサークル活動も盛んになり、人々がUターンしてくる。何といっても人工の増加やリピーターの増加が、活性化には第1の条件であるからである。ボールルームダンスのできる場、温泉地にはベートーベンやモーツァルトも度々演奏旅行しているが、オーケストラやジャズバンドの合宿の誘致と演奏会等も楽しい。せっかく駅前広場にジャズバンドのブロンズがあるのに地元にバンドがないのは寂しい。和太鼓やお囃子の練習と発表会なども大歓迎である。
イギリスの保養地であるブラックプールは毎年ボールルームダンス選手権が開催され、世界から多くの競技者と見学者を集めている。鹿児島の牧園温泉におけるミヤマコンセールはオーケストラの訓練施設でもあり、発表の場でもある。世界から演奏家が集まって来る国際霧島音楽祭は年中行事となっている。

4 これからの公共・民間の投資の観点
 今までの公共投資は雇用の促進や需要に応じた対策として充実を図ってきた。そのため過大な投資や後追い型の非効率な投資であるとの批判にさらされている。また、民間の投資も過剰なことが多くゴルフ場など人まねにによる同様な設備投資が多くの不良資産を生み出す結果となってしまっている。
 これからの投資は官民共にすべて日本の資産を増加させるものでなければならない。それらの投資の多くは今後街作り、文化財保護、自然保護などにふりむけられるべきであろう。
 我が国は多くの観光客を海外に向かわせているが、今後は住んでみて楽しい美しい街を作り、もっと多くの外国人観光客を受入れるよう努力すべきであろう。ヴェルサイユの場合、ネットで1000万周辺で1500万人とも云われている観光客が訪れており、その存在効果は如何にも絶大である。各国共文化財の修復には力をそそいでおり、その効果は期待されたとおりである。
 民間におけるホテル・旅館などの観光施設についても同様であり、もっと資産価値の高まる投資、例えば庭園を作って環境を改良するとか、可能性が低い施設は廃棄して、質の高い設計のものに建てかえる、一流の設計者・施工者にまかせるなど、投資の方策を適切に行う必要がある。
 さらに国民の一人一人が自己の資産価値を高める努力をするということにより街全体の資産も向上するのである。クライストチャーチは庭園都市として知られているが自らの家の庭を美しくする努力をすべての市民が行っているからこそ、この都市の価値が高くなっているのである。単に趣味や善意のボランティア活動のみに頼るのではなく自分の資産を高め街の資産、わが市町村、県、国の資産を高めることに努力すればよいのである。この湯本のすべてのホテル・旅館の資産が向上する様努力すれば結果として魅力が増し多くの人を引きつけることとなるのである。



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