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| パネルディスカッション−3 「生き垢」払う健康セミナー
〜保養温泉で健康体験〜 北陸の明峰、白山(標高2702メートル)の内懐(うちぶところ)に入ると、野生の薫りがさすがに色濃く漂う。秋、柿の実が熟れる頃。出没した野猿が、わがもの顔で柿の木を揺すり、運がよければカモシカの親子に出会ったりもする。都会の喧騒に日々さらされている参加者にはまさに別天地。「着いた途端に気持ちが寛ぐ」と、たちまち気分が晴れるようである。 石川県石川郡尾口村。年々過疎化が進むこの村の、海抜500メートルの地にある白山一里野高原を拠点に、大手食品メーカーA社健保組合の『はつらつ健康体験セミナー』が始まって満五年が経つ。生活習慣病の予防と改善をめざし、私どもの(財)北陸体力科学研究所(以下、北体研と略記)が開発した温泉地療法プログラムを土台にした、二泊三日型のA社バージョンである。 参加対象者は、販売第一線で日夜頑張る営業スタッフら。このうち社内検診で生活習慣病の軽症並びに予備軍と判定された方々を中心に、春秋二回のペースでセミナーを重ねている。99年末までに都合十三回開催し、男性172人、女性25人の計197人が健康体験セミナーを満喫し、参加者の口コミも手伝って年々人気は上々である。
〜狙いは生活習慣病の予防と改善〜 とはいえ、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。セミナー実施を決めた健保組合常務理事が、セミナーが軌道に乗り始めたある時、苦笑まじりに内情を語ったものである。 「なにせ参加対象者は、ライバルメーカーとしのぎを削り、社の売上げ増に奮闘する百戦錬磨の強者ぞろい」「かけがえのない人材だけに、元気でバリバリやってほしいが、不規則な勤務内容とストレスの蓄積で、身体にいいことはしようにも出来ない」「そんなもの(検診結果)を気に懸けていて仕事はできん。そう言われると、こちらも返す言葉がない。かといって、バタバタ倒れられたのでは元気が旗印の食品会社の企業イメージを大きく損なう」。 深夜のつきあいをものともせず、「太く短く」とうそぶくこともある現場の強者どもに「太く、そして長く」の意識変革を求め、だからこそ健康管理をしっかり、自発的にやってもらいたい。そのために、さてどうゆう手だてが有効なのか? 多年の難問打開に思案投げ首の体だった健保組合幹部B氏が、ちょうどその頃に温泉地療法プログラムを開発した北体研の動きを知り、その中身を、詳しく調査に訪れて理事会に報告。先の常務理事が「職場を離れて、まず気分転換。自分の生活ぶりがいかに不健康かを認識してもらう。併せて健康体験と知識をたっぷり与えて、健康管理へのモチベーションを植えつけたい」と強く推奨して導入に踏み切ったのが、紆余曲折を経た挙げ句の経緯である。 〜プログラムづくりは連携プレーで〜 「やる」と決めたらA社健保の意気込みは驚くほど盛んだった。常務理事自らが特別枠で参加され、セミナーの内容について毎回、的確なご指導をいただいた。こうした直々のアドバイスは私どもが見落としがちな、利用者サイドの目線に基づいており、その意味でも大変貴重であった。プログラムの充実、定着に向けて、双方率直な意見交換と議論を重ねた。A社バージョンを充実させた原動力は、密接な連携プレーにほかならない。 では一体、健康体験セミナーは、どんな具合に進むのか。最新バージョンを基に、その光景をスケッチしてみよう。 『第一日目』 全国の営業支部から参加者が、JR小松駅改札口に定刻集合。 午前11時、北体研で開講式とオリエンテーション。セミナー期間中で最初の食事となる。この日の昼食は「ヘルシーバイキング」。バイキング方式で思い思いの好みで食べていただき、その中身で普段の食傾向がたちどころに分かる仕組みだ。カロリー、塩分、油脂類の取り過ぎなどに改めて驚く。軽いショックを覚えた後、管理栄養士からセミナー期間中の食事記録のつけかたを教わり、次いで血圧測定、検尿、診察、形態・体力測定などのメディカルチェックを受ける。内科医から「生活習慣病にならない身体づくり」を聴いて、尾口村へ約40分で移動。 宿舎で温泉入浴、夕食を終え、近くのトレーニング施設で「歯の健康づくり」とリラクゼーションの実技、心得を教わる。再び宿舎に戻ってフリータイム。 『第二日目』 6時半起床。期間中行動をともにする北体研スタッフが全員の血圧・血液をチェック。朝食のあと全員のメディカルチェック結果を踏まえながら北体研研究員が「生活習慣病、肥満、運動」をテーマに、日常生活での健康管理の心得を概説。ひと息入れてから、お楽しみのそば打ちに挑戦。「自分の打ったそばがこんなに旨いとは!」と一気に盛り上がる。すっかりリラックス、満足した後は見晴らしのいい高原で約1時間のウォーキング。その間それぞれの脈拍数を計り、最適な運動心拍数を実施で体得してもらう。次いでハーブの香りに包まれながら、マッサージとヨーガの実習講座。休憩後、村営の温泉プールで水中運動の楽しさを味わう。
1時間のフリータイムを経て、夕食は地元の食材をふんだんに使う白山麓名物の『報恩講料理』。その由来や豆腐、野菜など地場産の滋味をゆっくり楽しむ。食事の2時間後には全員の血糖値検査も行われる。 夜は理学療法士の指導で、自分で出来るマッサージの仕方を教わり、互いに身体をもみさすりながら「う〜ん、効く、効く」。この後、グループに分かれ、北体研スタッフもそれぞれ加わって日頃の生活ぶりを語り、健康管理への思いや覚悟、セミナーの印象や意義等について本音のトークを繰り広げる。ライフスタイル見直しと実行を、それぞれの言葉で語り合う。A社バージョンのハイライトである。 例えば、こんな具合である。 ○こんなはずではない、と思っていたのに予想をはるかに越えていた我が体力の低下ぶり。これからは「いまさらどうなる」と言った意識を捨て、バランスの取れた食事と運動、健やかな心を心掛ける。 考えてみれば「美味しいものを腹一杯食べる年は、もうとっくに過ぎている」。<50代、肥満気味のMさん> ○春の検診で肝臓が支店一悪い男と上司に脅されていたが、ここへ来て数値が大きく改善された。栄養管理の話を聴いて、大雑把ならできそうな感じがする。家内の協力も得て続けたい。<40代、やり手営業マンのNさん> 同じ会社、同じ仕事、そして抱える身体の不安をともに等しくする仲間同士の率直な語らいが、アルコール抜きのまま途切れなく続く。 『第三日目』 「家族旅行よりズーッと寛らぐね」と言った軽口も飛び出すセミナー体験もあっと言う間に最終日。血圧測定、ストレッチング、朝御飯を済ませて、山の高原から北体研へ。 医師と管理栄養士、ナースによる個別の健康相談を納得いくまで行い、併せて骨強度測定も。ストレッチングとウォーキングのコツをおさらいし、腰痛・肩凝りをほぐす体操で締めくくる。 すっかり親しくなった栄養管理士を囲んで、仕上げの食生活指導も兼ねた昼食を楽しみ骨強度測定結果を聴く。閉講式で、ライフスタイル改善をもう一度確認し合い、握手、握手で互いの健闘を励まし、再びそれぞれの支店に散る。かつての同僚、同期の仲間が久し振りに顔を合わせるケースも多く、三日間のセミナーは終始和気あいあい、忘れがたい日々となるようだ。
〜手応えに、会社も全面支援〜 参加者の満足度の高さと、その後多くが自発的にライフスタイルを改善し、中には「ひと駅手前からのウォーキング」を支店仲間に呼びかける模範生も現れるなど、A社健保組合の健康体験セミナーへの評価は揺るぎもない。他の健保組合にも効果、手応えを折にふれて紹介しており、これを受けて首都圏内の幾つかの健保組合が北体研を視察に訪れ、中身を詳しく調査するなど、同セミナー拡大の動きも出ている。A社内では今春から健保と総務部が連携し、セミナー参加者のその後の改善ぶりを、健診データなどを追跡し、きっちり数値で分析する構えである。併せて参加者の負担も軽減する方針だ。これまでの有給休暇持ち出しから、準公休扱いに切り替えて、より積極的に同セミナー参加を支援していくと言う。元気を旗印に掲げるA社の、さすがに先見的な取り組みに違いない。 〜展開自在な健康保養セミナー〜 A社健保のはつらつ健康体験セミナーの成功は、私どもにも大きな確信を抱かせてくれた。すぐれた白然環境の下で人の心と身体は自ずと安らぎ、運動・栄養・生活・保養の大切さを分かりやすく指導、実践することで、自発的な行動変容への確かなきっかけが根づくことを、目の当たりに出来たからである。ニーズが多様化するなかで、温泉地療法プログラムも当然、様々な展開が必要である。いささか慌ただしい二泊三日型だけではなく、対象者のニーズと意向をくみ取りながら、現に私どもは中身と日程も様々な健康保養セミナーを、既に幾つか実践してきた。首都圏の御夫婦数組が5泊6日で行った<リフレッシュ休暇体験セミナー>、厚生省が2000年春からスタートする健康日本21プロジェクトのモデル事業として99年冬に企画した一泊二日型の<糖尿病宿泊セミナー>など、目的、予算に対応して多彩なプログラムを行い、十分な手応えを抱いている。これからの温泉地に期待されるのは<健康>と<癒し>の『場』の整備であり、ホスピタリティーも含む『人』と『ソフト』である。私どもが試行を重ねる健康保養セミナーは人々のこうした期待に応える、一つの方法論であると確信している。それぞれの温泉地がエリアの自然と文化を活かしながら、独自の健康保養プログラムを競い合う。21世紀の日本の温泉地活性化に、ぜひご一考いただきたいテーマである。健康保養プログラムの漕ぎ出し、例えば専門スタッフの養成や詳細、多様なプログラムづくり、そして必要なソフトウエア(例えばライフスタイル診断、個々人への健康づくり処方など)等は、及ばずながらわが北体研で、力の限りお手伝いさせていただく所存である。 <はつらつ健康体験セミナー参加者の声> ◇セミナーのシステムがとてもいい。 すなわち、@体力測定A食生活(栄養)診断B生理学的診断(血液・尿検査、心電図、血圧測定、脈波測定等)のあらゆる角度からの総合診断結果に基づき、個別に指導指針が示されることである。 これによって、私のための『運動プログラムと運動強度』『食事の取り方』が具体的に示され、医師並びに栄養士からの個別指導が行われて、大変ありがたい。 ◇開催場所の環境がいい。俗世問から隔離された山の中で、日常から離れてみると、じっくりと白分自身の健康問題を考えることができる。 ◇プログラムの内容が、講義と実践がうまく組み合わされている。 ◇合間こ『そば打ち体験』などが入っているのも、運動と気分転換を兼ねていて、いい企画だと思う。 ◇できれぱあと1〜2日、アルコール抜き、かつ運動実践のプログラムがあれぱ、もっとありがたい。 ともかく、今回のセミナーは今後の白分の健康管理、体力づくりの『きっかけづくり』であり、後は実践あるのみ、です。 ◆健康保養セミナー 必要スタッフ(A社バージョンの場合) ドクター(認定温泉医または温泉療法医) 1人 ナース(保健婦) 1人 運動指導員 2人 臨床検査技士 2人 管理栄養士 1人 セミナー期間中の食事は毎食600〜700kcalを目安にしている。 ◇はつらつ健康体験セミナーの定宿 ご主人・林典枝男さん(47)の話し。 初めにお話をいただいたときは、そりゃあ驚きました。昧噌汁はダメ、蕎麦も薄味、岩魚の塩焼きも塩をふるのは尻尾のほうだけ、と言うんですから。 でも、待つだけの旅館ではやっていけない、もっと付加価値をつけなければ、と私自身も思っていましたから、健康体験セミナー、これは面白いとお受けしました。暇な時期に来ていただけるのもありがたいですね。私が送迎バスの運転と料理を担当し、家内がお部屋のお世話をしています。 私ら、こんな山の中、なにもないと思ってしまうんですが、都会の方はいろんな発見や感動がある、とおっしゃる。地場の野菜と固豆腐でつくる報恩講料理は、浄土真宗中興の祖・蓮如上人がもたらしたと伝わる、この辺の精進料理ですが、意外に好評なんですね、これが。謂われに興味を持っていただけるし、素朴でヘルシーだと言うんです。 だから、この一里野も捨てたもんじゃない。私らが気づかないここだけの魅力がいっぱい、あるんじゃないか。セミナーのお客さんに何度も来ていただいて、心底そう思うようになりました。北体研さんは、健康というキーワードで滞在型の旅行形態を掘り起こそうとされたように、私たちも『待ち』ではない、白分たちなりの企画に打って出ようかと、そう考えているんです。 例えば、ここには真の暗闇がある、白山修験道の歴史道が残っている、民話や昔話を語るお年寄りもいるし、草木染のベテランもいる。それらを実際に体験プログラムとして用意してお客さんに選んでいただき、体験してもらう。そんなことを積み重ねながら、滞在して楽しめる保養地づくりを進めたいと、いま有志で侃々誇々やりはじめました。はつらつ健康体験セミナーが、とてもいい刺激材になりました。勇気や意欲が湧いてきましたね。 ![]() ![]() 添付資料 生活習慣のひずみをチェックするライフスタイル診断表 |