| Workshop |
| パネルディスカッション-1 日本の温泉地の将来展望
1.温泉地の4つの課題温泉地をどう考えて行くかについては、4つの検討課題がある。1つは、利用客もしくくは、社会的なトレンドをどう把握するかということである。第二は、利用客に対し、どのようなサービスを提供するか。第3は、利用客の動向に沿った温泉地環境や施設環境をどう考えるか。第4は、誘客、サービス提供、温泉地環境や施設環境の改善を図るための組織や運営体制をどうするかという課題である。 2.温泉地の客の動向これら4つの課題は、相互に関連しており、また温泉地の持つ地域資源によって、その解決策は異なるものと考えられる。今後、誘客を巡って、温泉地問、地域間、国際問の競争が激化することを踏まえると、利用客の動向の理解が温泉地の改善や活性化の前提となる。2ユ世紀、2005年には、50歳以上の人が5000万人を超え、成人人口の5割以上を占める。この中高年層の市場規模は、日本の全家計消費の半分の80兆円を占めるといわれている。21世紀が健康産業の時代であるといわれる所以はここにある。特に、1947年から1949年の3年間に生まれた「団塊世代」は総計800万人と突出しており、現在50歳の団塊世代は子育てを終了し、仕事人生も終盤を迎えている。10年後の2010年には、この世代は60歳となる。日本人の自由時間と家計消費から見ると、団塊世代を中核とした中高年層が、今後の温泉地にとって重要なターゲットとなる。温泉地の近年の客の動向は、以下のように要約できる。 (1)団体客から個人客(私的グループ、家族)に変換している。地域社会の絆や職場への帰属意識は、若い世代を中心として薄れているということがいわれて久しく、社員旅行という慰安旅行はすがたを消し、バブル時代の接待旅行も消滅した。また、現在の団体旅行は安いパック旅行料金で旅行機会を得ようとする個人客や、特定の旅行企画に関心を持つ個人客の集合に支えられており、職場をべ一スとした団体宴会旅行スタイルは最早ない。こうした動向は、仕事上のつきあいで温泉にいく男性中心社会から、個人的な、家族的な交流をべ一スとした女性中心社会への移行と見なすこともできる。 (2)自由時間を持つ、子育て終了後の女性グループが増加している。日本の人口構成を見ると、50才前後のいわゆる団塊の世代、及び27才前後の団塊ジュニアの世代が、その他の年齢層に比し、圧倒的に多い。10年後にはこの世代は60才、40才となり、今後の沮泉地の重要な客層と考えられている。団塊世代の女性は亭主よりも、友人や子供とのつき合いを大切にする。また、団塊ジュニアの女性は健康志向が強い。こうした女性グループの温泉旅行が増加するに従い、対応策として、女性専用の露天風呂、塩サウナ、エステ部門の設置、女性風呂の拡大がなされてきている。 (3)中高年世代の夫婦やグループ客が増大している。人生を実感する、自然と親しむ、命の洗濯をする、連帯感を維持するために温泉にゆく中高年世代の旅行ブームがある。これらの人々のほとんどがハイキング客に代表される様に白然志向である。 (4)経済観念の発達した客が増加している。自分の価値観により、支出を計算する客や、あらかじめ旅行計画をたて宿泊料金などを比較検討する客が増えている。各世代にわたり、こうした傾向がある。ただし、自分の関心を満たすものであれば、出費を惜しまない。 (5)物の消費から体験消費にシフトしている。白然体験、文化・歴史体験、創作体験などを志向するいわゆる教養旅行者が増大している。旅先での飲み食いや土産物よりも旅先での体験を重視する傾向がある。教養旅行者は女性や中高年が多い。 (6)健康・美容客が増大している。老若男女を問わず若くありたい、健康でいたいとする人が日本人の大部分を占めている。これら二一ズに対応し、温泉リゾートなどでは美容部門の設置などが試みられ、また健康・美容プログラムサービスの提供を行う浴場施設も開設されている。ただし、健康食品、健康商品などの健康関連産業の急激な伸張に比し、温泉地の健康二一ズヘの対応は充分とはいえない。 (7)滞在期間は、相変わらず短い。大多数の温泉地における滞在日数は、1泊2日がほとんどをしめる。ただし、リゾート会員制を敷く温泉リゾートでは滞在日数がのびること、リピーターの多い温泉宿での滞在日数はのびること、さらには施設・環境の質の高い公共リゾートの滞在日数は長いことを考慮すると、温泉地、温泉ホテルの経営次第では滞在型の温泉地にシフトできるものと思われる。 (8)アジア諸国からの訪問客が増えている。日本人の訪問ばかりでなく、アジアの人々が温泉地に訪れるようになっている。今後東アジア諸国の発展に伴い、海外からの訪問客の増加が見込まれる。また一方で、これらの誘客を巡って、日本の温泉地は、海外の保養地、観光地と競合する時代を迎えている。 これらの動向は、中高年層の消費行動を反映しているとともに、日本の温泉地が国際化の中でそのあり方をもとめていかねばならないことを示唆している。 3.温泉旅行のスタイル温泉に行く目的は、健康(療養、予防、休養)という本来の目的から、家族やグループの交流、行楽・観光のための宿泊地という幅広い目的がある。どのような温泉客を誘客するのかを明確にすることが、温泉地の重要な課題である。現在の温泉客の動向から、次の様な旅のスタイルが想定される。 (1)健康・美容客 アメリカのスパの利用客を見ると、60年代は減量・美容を目的とした中年女性。70年代はフィットネス、ストレス解消へと目的がシフトし、90年代には利用者平均年齢が45歳と若返り、主流は女性であるが男性の割合も増加している・西欧諸国の温泉地でも90年代以降、個人客、健康・美容客の誘客のために、アメリカのスパに追随し、健康・美容サービスを導入している。日本においては、都市内に各種の健康・美容施設が発生しており、潜在的二一ズがある。ただし、温泉地や海浜リゾートにおけるこの種の施設は数少ない。欧米のこの種の施設の平均滞在日数は5泊程度。独身・単身の利用があるため、クラブ的な雰囲気と接客サービスが必要である。 (2)快適保養客 快適な旅館やホテルに夫婦や友人と宿泊し、グルメや保養地環境を楽しみ、数泊を過ごすという姿である。人により、求める快適さは異なり、快適保養客は個人主義派と連帯派に分かれる。個人主義派はリゾートクラブなどを好み、連帯派はふる里の趣のある温泉地やのんびりとくつろげる温泉旅館を好む。究極の快適保養客は、ひいきの旅館や部屋を指定し、顧客、リピーターとなる。快適保養客は、自分の求める雰囲気をかき乱す異質な客と一緒になることは許せない、気むずかしさがある。 (3)文化観光客 温泉情緒を楽しもうとする客で、かつて当地に滞在した文人や芸術家に対する憧れが誘因となって、温泉地を文学、芸術、歴史の舞台として探訪し、追体験をする。高山、萩、津和野等の観光と動機は変わらない。温泉地には往時をしのばせる町並み、生活文化がそこはかとなく残されていることが要件であり、また、温泉旅館自体、部屋自体が文化観光客の訪問目的となる場合もある。文化観光客は、教養を求める客であり、一般に女性や中高年に多い。公共交通機関を利用することが多い。 (4)白然体験客 従来、山岳部やワンダーフォーゲル部の学生たちが愛好していた温泉利用のスタイル。当時の若者も今は中高年となり、青春時代を追想し、山歩きやハイキングに同世代グループと出かける。野趣に富む秘湯や、昔ながらの共同浴場、山小屋などに対する思い入れは深いが、女性グループでは清潔さが求められる。自然と仲問との交流が目的であり、宿泊施設、土産物には金をかけない。公共交通機関を利用する。 (5)子連れ行楽客(ファミリー客) 自然環境体験、自然レクリェーション活動、キャンプ生活が中心であり、温泉は付随的利用である。子供が気に入る体験施設の有無、適切な宿泊料金、自家用車でのアクセスが行き先の選択条件である。両親はすでに海外旅行の経験があるため、海外旅行も選択肢の1つとなっており、国内旅行については経済性を重視する。宿泊施設は、手軽・気軽な公共の宿、オートキャンプ、ペンションもしくは、子供が勝手に遊び回れる温泉リゾートであり、温泉旅館は次善の選択である。温泉地の共同浴場は、親の息抜き、子供の体験学習として利用する。 (6)合宿交流客 スポーツや交歓を目的とし、都会とは異なった環境で合宿することは学生サークルのライフスタイルとして今後とも残る。合宿先に温泉があれば、なお魅力的である。中高年の趣味のサークルによる温泉地利用は、現在、自然体験や文化観光の訪問先として利用されているが、陶芸・木工などのクラフト、郷土料理、パソコンなどの創作体験、学習体験の場所として活用されることも考えられる。 (7)温泉巡礼客 21世紀の都会の高齢者は、地域社会、親戚との絆が薄れ、孤独となる。また、独立心に富み、自分なりの生計を企てている。家や居住地での孤独解消のため、健康のため、温泉地を渡り歩き、旅先の人々との触れ合いで、孤独を癒す。盆、正月の帰省に替わり温泉地が利用されるようになっているが、今後は、子供の家庭や親戚訪問に替わり温泉地が利用されるかもしれない。基本的には、近代化、個人化の進行の過程で、積極的かつ孤独な高齢者が増えるにつれ、こうした巡礼者が生じる。あえていうならば、西欧の療養客の多くは、何らかの疾病を抱えているとはいえ、社会的な制度に支援された温泉巡礼客であると思われる。 (8)親孝行客(子供孝行客) 核家族化が進行するにつれ、親と千供、義理の親と義理の嫁(婿)との関係も多様化する。親の家を訪問するよりも、くつろいだ休暇を過ごし、子供や配偶者に遠慮しないで、年老いた親に孝行したいという中高年が増える。また、一方では、遠慮なく我が息子や娘に昔話を語り、共感を得たいという年老いた豊かな(母)親も増える。こうした心の交流や健康のために、年に一回は温泉地に出かける。核家族化した親子の交流式典・記念旅行であるため、出費は惜しまない。 (9)温泉冒険者 多くの日本人は温泉好きである。嗜好がこうじると、各地の温泉の体験を競うようになり、次の温泉旅行が気になる人もある。こうした温泉冒険者の温泉地に求める要件は珍しさであり、一カ所に滞在することはない。同好の士と一緒に出かけることが望ましいが、融通の利く仲間はやがては希になる。このスタイルの究極の姿が温泉旅行作家やプロカメラマンのようなプロである。ただし、アマチュアにもこうした冒険者は少なくない。秘湯ブームはこうした人によって支えられている。 (1O)日帰り温泉客 近年盛んになった温泉客のスタイルで、日本人ならば誰でも潜在的な日帰り温泉客である。今後、自由時間の増大や高齢者の増加に伴い、集客の見込まれる近場での休暇活動となる。温泉施設は都市内の多様な浴場施設と競合するが、温泉をなにより愛する日本人は温泉地へと小さな旅を実行する。複数の温泉施設がある場合、泉質の効能、浴場の雰囲気、料金、利用者の世代などによって、お気に入りの温泉が選別される。高齢者の多い温泉施設には若い世代は行かない。若者の多い浴場には、中高年は行きにくい。 (11)周遊旅行者 今後とも、温泉地と周辺観光地・行楽地を巡る周遊旅行は続く。ただし、移動手段を持つ個人客の宿泊地、宿泊施設の選択はますます多様化し、団体周遊観光ルートとは異なった見所を個々に発見するようになる。周遊旅行者の動機は、温泉地もしくは観光地の魅力であり、また白然地域のルート上にある景観そのものの魅力である。周遊旅行者にとって、温泉地の魅力は誘因となるが、滞在時間は短い。 上記の温泉客の旅のスタイルはほんの一例にすぎない。温泉地として、どのような客層があり、温泉地の地域資源を生かし、今後どのような客を主要なターゲットとして誘客すれば良いかについては温泉地、温泉旅館それぞれに解決策があろう。解決策を求める前提として、客のイメージを具体化・明確化すべきであろう。 4.温泉地の改善へ向けて 日本の温泉地は一泊の利用が大半を占め、この利用形態に対応して、食事や宿泊のシステムや温泉地の経営がなされてきた。客の志向や客層は多様化し、その他の行楽地や日帰り浴場との競合、海外旅行先との競合も出現している。改善方向としては、次の様なシナリオがある。 (1)周遊観光地域への展開 世代に関係なく、観光地、行楽地を巡り、温泉地に宿泊する旅行スタイルは今後とも続く。古来から日本人には物見遊山や巡礼の旅行スタイルがあり、精進落としとして温泉が利用されてきた歴史をもっている。今日においても自家用車や公共交通機関を利用して周遊観光を手軽に楽しんでいる。こうした手軽な物見遊山の旅は今日の安定経済状況下においては一一般化する。周遊旅行者の動機は観光地と温泉地を結ぶ周遊ルートの魅力である。例えば、ドイツのロマンテイック街道に代表される様に、周遊ルートのイメージが明瞭でかつ魅力的であれば広域からの多様な誘客が可能である。観光地域や観光ルートを共通のイメージでPR、プロモーションするとともに、観光地域として如何に地域全体の雰囲気を維持していくかを検討する必要がある。 (2)健康志向への対応 温泉地は「健康」と「レジャー」の場所として、利用されてきた歴史を持つ。現代人の「健康づくり」にどう寄与できるか?が、21世紀の温泉地の経営戦略の柱である。我が国にも湯治の歴史があるが、自炊をべ一スとした湯治は現在の利用客が高齢化するにつれ消滅する。また、今後の高齢者は身体上の欠陥を意識するにつれ、畳よりもベッドを求めるようになるかもしれない。健康志向や白然志向が普及するにつれ、健康・美容客は3極化するものと考える。1つは泥パック、マッサージなどパッシブな療法サービスを受ける高級客のイメージである。2つは水中運動やその他の運動療法サービスを受ける中間客、第3は自己判断で温泉につかるなどの自己療法のエコノミー客のイメージである。温泉地が健康産業にシフトするためには、すでに都市地域で提供されている第1,第2のサービスを提供する必要があろう。 健康・美容客に対応するための施設づくりとしては、欧米の取り組みが参考になる。1つは温泉療法センターを持つホテルに変換するという方向であり、他方は温泉地内に公共や民間の温泉療法・美容療法センターを形成し、温泉地の宿泊客にサービス提供を行うという方向である。 (3)体験二一ズヘの対応 温泉地内外の自然環境、歴史・生活文化資源を生かし、自然体験、文化体験、創作体験などのサービスを提供することによって、ワン・モア・ステイができる温泉地、行楽地として充実していこうとする施策が、全国各地で展開されている。この場合、温泉地におけるライフスタイルは、夜を中心とした生活から、昼間を中心とした生活行動に変化していることに留意すべきである。つまり、町並み、景観、歩道、静かな環境など、全ての温泉地環境の質が問われることになる。また、訪問客の体験は環境と人的サービスに支えられていることから、観光関係者ばかりでなく、地域住民の魅力に左右される。こうしたトータルな地域の魅力づくりが不可欠となる |