| FORUM'99 |
| ■パネルレポート2 温泉と健康の街づくり―温泉資源の有限性と正確な情報提供 ![]() 山梨県衛生公害研究所研究管理幹 深澤 喜延 昭和18年山梨県生まれ。金沢大学大学院修士課程薬学研究科修了。現在、山梨県衛生公害研究所研究管理幹(衛生研究専門部長事務取扱)。 技師、研究員、主任研究員、衛生研究専門部長を経て平成9年に現職。30年間にわたり衛生化学、特に人間生活にかかわる食品と水を主要テーマにして調査研究・試験検査業務に従事。温泉に 関しては山梨県内の源泉を化学的・総括的に解析してきた。現在日本食品衛生学会評議員、全国衛生化学技術協議会幹事、日本薬学会衛生化学調査委員会水質試験法専門小委員会委員、温泉の 各種利用基準等に関する検討会委員(環境庁)。 1.はじめに 1948年に制定された「温泉法」は、その第1条で「温泉を保護しその利用の適正を図り、公共の福祉の増進に寄与」することを目的としている。ここに示されている3つの目的の第一は温泉(民法上は私的財産であるが)を国民全体の貴重な資源として位置づけたことにあり、第二はその利用方法にルールを設けたことであり、第三は温泉が広く活用されることを前提にしていると読み取れる。 温泉は、すでにその歩みを始めた「高齢化社会」のキーワードとして、各地方公共団体では競って温泉の開発と利用施設の充実に努めてきた。山梨県においてもその傾向は顕著であり、特に1988年以降は「ふるさと創生資金」に端を発した温泉開発が爆発的に拡大した。現在は大半の市町村が独自の源泉を所有するに至り、地域住民の憩いの場として機能しているが、温泉法の基本理念から考えて手放しでは喜べない事態も散見される。 また、最近は温泉の利用形態が多様化し、温泉スタンドによる持ち帰り、タンクローリーやポリタンク等による遠隔地での利用など、従来の概念を越えたシステムが定着化しつつあり、温泉をめぐる状況が混沌としている。 以上のような現況を踏まえ、著者が居住する山梨県の温泉を中心として「温泉資源の有限性と正確な情報提供」について考察する。 2.温泉統計に見る山梨県の温泉利用状況の特徴 環境庁自然保護局施設整備課は、各年度ごとに都道府県から報告を求めそれを集計して「都道府県別温泉利用状況」を公表している。手元にあるその資料から山梨県の温泉を全国の状況と比較すると興味ある現象が浮かび上がってくる。 湧出量と揚湯量のデータからは、まず第一に山梨県の源泉が1988年を境にして急激な増大が観察された。自噴泉による湧出量は約4年で沈静化し、以後、総量は動力による 汲み上げで補いながら、横這いないし減少傾向にあることが知られる。第二に 1991年まで持続していた[湧出量>揚湯量]の図式が崩れ、最新の資料では逆転したことが特徴である(図1)。 源泉数の変遷の様子を全国と比較するために、1977年の値を1.00とした指数で検討すると、20年余りの間に、全国の1.46(1998)に対して山梨県は 1.86(1998)と大きな差を生じ、本県における温泉開発の急進さが顕著である(図2)。さらにその間に自噴泉数と動力揚湯泉数が逆転したことも見逃せない。また1源泉当りの湧出量と揚湯量を全国と較べると、全国の温泉の平均値は85.2r/分(1977)から100.9r/分(1998)と緩やかな増大に止まっているのに対して、本県では192.7r/分(1989)をピークに、105.5r/分(1983)から141.2r/分(1998)と大幅な変動があった。ここ数年間は減少傾向が続いていることが知られる(図2)。 3.源泉分布の拡大 山梨県内の温泉の分布は1931年の湯村温泉における掘削より前は、自然湧出による温泉利用に限られており、そのままで浴用に供せられる泉温を有する温泉地としてはわずかに甲府・湯村、川浦、下部、西山などに限られていた。温泉開発のエポックとしては、1960年の石和温泉の開発が挙げられるが、その後も地域的な拡大は緩やかであった。源泉総数の推移は、1987年までは23年間で石和温泉の開発を含めても 89件の増加(年平均3.9件)にすぎなかった。 それに対して1988年以降の山梨県内における源泉数の増加と源泉分布の拡大は著しく、1998年までの 11年間の源泉総数の増加は138件を数え(年平均 12.5件)、源泉が存在する市町村は57(全市町村の 89.1%)に達した。 市町村が所有する源泉に例をとれば、その増加と拡大の様子はより鮮明になる。1980年当時、10市町村が11源泉を所有していたのに対して、1995年には37自治体、50源泉に飛躍的に増大した(図3)。1997年末現在、44市町村で56施設が温泉の供給を受けて稼働しており、さらに数ヶ所の施設が建設途上にある。 4.山梨県における温泉のさらなる拡大は可能か 温泉を構成する要素としては熱源、水、通り道の 3つが挙げられるが、山梨県内の温泉はそのいずれもが「非火山性温泉」であり、熱源として現在の火山活動が関与しているものはないといわれる。水は天水に由来しており、水道用地下水や工業用地下水の延長線上で考えなければならない。以上の2つは人為的には克服できない課題であるが、通り道については現在の発達した掘削技術が1,000mを超えるボーリングを可能にし、源泉の地域的拡大に寄与してきた。 先に、山梨県内の1源泉当りの湧出量と揚湯量の総量が全国平均を大幅に上回ることを見てきた。本県の温泉の単位面積当りの湧出量と揚湯量の総計は13.1r/分/km2であり、全国平均の6.89r/分/km2に比較して2倍近い値となっている。周囲全体を山で囲まれている地形から、全国平均を下回る降水量(年平均1,530o)だけを水源とみなすことができ、湧出・揚湯量の多さが際立っている。 さらに地下水全体から考察するために、1998年3月末現在の本県の湧出量と揚湯量の総計(59.4×103r/分)を年間値にすれば31.2×106m3となり、地下水系水道用原水(深井戸・浅井戸・伏流水ならびに湧水)取水量123×106m3(1997)の25.4%に相当し、同じく工業用水の取水量40.4×106m3(1995)の77.4%に相当する。 掘削深度が1,000mを超える近年の源泉の場合、天水がそこに至って温度・成分が温泉に熟成されるまでには相当の年月を要していると考えられる。最近の湧出・揚湯量の減少傾向からみて、山梨県においては限界に近いかもしくは限界を超えていると考えることが妥当ではなかろうか。 今後の方向としては、65.3%(1998)に止まっている源泉利用率の向上と、密集した温泉地での集中管理の実践などが求められると共に、1源泉当りの湧出・揚湯量を全国平均並みに抑制することも必要であろう。 5.温泉の衛生管理と情報公開 古畑らが1994年に指摘した給湯水におけるレジオネラ汚染が、2年後に某大学病院で乳児を犠牲にしたことは記憶に新しい。同年、薮内らは全国の温泉を調査して高頻度にレジオネラ菌を検出したことを明らかにしている。次いで、いわゆる「24時間風呂」のレジオネラ汚染が社会問題化し、循環利用が一般化している温泉とレジオネラ汚染がクローズアップされた。 一方、最近の温泉施設では「ジャグジー」や「打たせ湯」など、温泉水がミスト化する設備を売り物にしている所が多い。クーリングタワーの飛沫吸引が「レジオネラ肺炎」発症の有力な原因と考えられているように、ミスト中のレジオネラ菌は容易に肺に到達して肺炎を発症する可能性がある。不特定多数の浴客が利用する温泉施設では、これらの設備を含めた浴槽・浴室全体の衛生管理に細心の注意が求められる。特に本県の源泉は泉温がレジオネラ菌を死滅させるほどの高温であるものは少なく、日常的な管理の徹底と定期的な検査の実施が必要である。 温泉法は第13条で温泉の成分、禁忌症等の掲示を施設管理者に義務づけているが、掲示の内容が十分ではないことを指摘する識者も多い。その時に入浴または飲用している利用者に対して正確な情報を提供することは重要である。源泉の分析は10年毎に再分析することが望ましいと、監督官庁から指導されているにもかかわらず、実践されている例は少ない。また、禁忌症や浴用・飲用の注意事項が軽視されて、適応症だけが強調されている事例も多く、マスメディアの多くもそれを助長している。 利用者が、利用している温泉水の情報を正しく認識できるような配慮が必要である。 6.温泉の遠隔地利用 温泉スタンドによる持ち帰り、タンクローリーやポリタンク等による遠隔地での利用は温泉が本来発揮する効用の3本柱である温泉地の環境・温泉施設・泉質の内の2本を欠くことであり、好ましい利用形態とはいえない。泉質についても地下から湧出した直後からその老化現象が進行しているといわれている。従って、大気と触れる機会が少ないパイプ移送とは異なり、タンクローリーやポリタンク等で遠隔地に運ばれた温泉の利用は、源泉地とその近傍での利用とは区別して考えるほうがよいであろう。もちろん、温泉地に直接赴くことができない高齢者などが居住する老人福祉施設などは例外として。 7.ま と め 「温泉と健康の街づくり」というテーマからは若干逸脱した部分もあるが、温泉資源が有限であることを関係者全体の共通認識とすることと、温泉施設については衛生管理の重要性と、利用者に対する正確な情報提供こそがこれからの課題であろう。 参考文献 1)環境庁自然保護局施設整備課:都道府県別温泉利用状況(各年度別) 2)山梨県企画県民局企画課:山梨県総合水利用計画 (1995) 3)山梨県福祉保健部生活衛生課:山梨県の水道(平成8年度版)(1998) 4)古畑勝則、高柳 保、團野直子,岡田誠之、紀谷文樹:日本公衛誌、11、1073〜1082(1994) 5)薮内英子、王 笠、荒川迪生、矢野郁也:感染症誌、68、549〜551(1994) 6)深澤喜延:温泉科学、45、177〜187(1995) 7)深澤喜延:温泉、66(12)、4〜7(1998) *付帯資料は作成中 |