NPO法人健康と温泉フォーラムは医療、環境、施設等、温泉保養地に関わるあらゆる分野における専門家を中心とした団体です。
FORUM REPORT FORUM'99
 
■パネルレポート1
温泉地の改善に向けての課題
NPO法人健康と温泉フォーラム理事  中田 裕久

昭和23年生まれ。筑波大学大学院博士課程卒、学術博士。環境デザイナー。計量計画学と環境開発論をベースに地域開発論を研究する。神奈川県「湘南国際村構想」、宮城県「仙台港背後地整備民活導入構想調査」、「国際協力事業団」「ギリシャ国観光振興計画調査」などの開発プロジェクトに参加。主な著書には「生活文化の社会学」「都市開発のフロンティア」等があり、都市生活者の生活行動に関する研究をはじめ、生活者の立場から見た都市のデザインと環境開発、世界各地の温泉を中心とするリゾート開発に関する研究等が多数ある。(株)オオバ環境開発デザイン研究所主任研究員。NPO法人健康と温泉フォーラム理事。


 温泉地は「健康づくり」の場所として、「自由時間」を過す場所として古来より利用されてきている。温泉地は現代人の健康、人生の豊かさに奉仕することが目標である。また、温泉地は訪問者と住民が共に生きる場所である。温泉地は、時代のニーズに合わせサービス内容をどう改善していくかというサービス産業としての課題をもつ一方で、生活の場所として「生活の質」的向上をいかに改善して行くかという課題をもっている。

1.接客サービス(客の世話)
 温泉地は基本的に健康サービスを提供する場所である。人間は身体的、精神的、社会関係的、そして人間関係的に充たされてはじめて健康である。この健康の概念に立って、訪問客や保養・療養客を精神的に安定させ、社会参加活動を生みだし、人と人とのコミュニケーションを活性化するためのレジャーサービスが必要となる。こうして、温泉地は日常的な仕事や生活の局面で得ることが難しい健康的な生活を実践し、新たなライフスタイルを学習する場所となる。
 接客サービスは宿泊・食事・治療という基本的なサービスを越えたあらゆる活動であり、健康づくりのための相談やプログラム、文化的な催し、教養・創作などのレジャープログラム、旅行案内や旅行相談などが全て接客サービスである。
 温泉地の客は、温泉病院等の入院客、健康予防・美容客、一般観光客および住民の4つのグループがある。この4つのグループに対して、様々なサービスが対応する。
 こうしたサービスを温泉地の特性や客の構造の変化に応じ、日々、週間、月間、年間のリズムの中で提供してゆくかが、温泉地における今後の課題であると思われる。また、これらのサービス提供を温泉地の行政、観光組合、旅館組合、市民団体など様々な協力のもとで推進して行く必要がある。


2.接客サービスの構造化
 温泉地には、旅館をはじめ、公共の文化施設、浴場などの諸施設があり、これら施設で個別的に各種サービスが提供されている。温泉地全体として、魅力あるサービスを限られた予算や人材で提供するためには、中心となる組織とともに、中心的な施設が必要である。日本の温泉地のモデルと目されているドイツの温泉地の接客サービスの中心は、保養公園と、そこに位置する文化・交流施設である。ただし、これらの施設がホテルゾーンや市街地ゾーンと離れた位置にあったり、車道によって分断されていたりすると、利用されることが少ない。現在、ドイツの温泉地では、これら施設をより利便な位置に移転したり、保養公園や散歩道の段差を無くすことなどのバリアフリー化を推進している。さらには従来保養客を対象とした文化・交流施設(保養客センター)を保養客、市民が共に利用する施設として改善しようとしている。我国の温泉地においても、接客サービスの見直しとともに、サービスの中心となる施設の利用計画を検討する必要があろう。

3.体験としての風景
 温泉地は健康づくりの場所であるとともに豊かな思い出をつくるための場所である。風景もまた旅先の体験にとって重要である。旅館、市街地、田園風景、周辺行楽地等の体験が温泉地に対する私たちのイメージを形成する。温泉地のパンフレットには、素晴らしい風景が紹介され、現実に行ってみると期待を裏切られることが多い。美しい風景や景観は、人を魅きつけるとともに、そこに居住する人々にとっては誇りであり、また「しあわせ感」につながる。温泉地の風景そのままが生活文化であり、誘客と地域経済に寄与する。こうした観点から、そぞろ歩いて美しく、楽しい温泉地をどう形成するか、諸施設を結ぶ散歩道の整備とともに、河川や公園、自然を結ぶネットワークづくりが求められる。

4.情報ネットワークの構築
 温泉地での健康プログラムを受けた客が、帰宅後にいかに健康生活を実践するかが一つの課題である。帰宅後に療法士と相談したり、客同志が互いに連絡をしたり、することが可能となれば、個人的な健康学習効果は高まるとともに、その人を通じ様々な関係者に健康づくりのノウハウが拡大して行く。温泉地と家庭との間でE−メール等のコンピュータ・コミュニケーションが可能となれば、電話相談や郵便での相談よりも判り易く情報を提供することができる。また、特定の病気に関して電子フォーラムを通じ、人々の意見交換が迅速にできる。特に、身障者や高齢者にとっては、コンピュータ・ネットワークは他の人々と接する重要な手段となるであろう。こうしたコンピューターを利用した情報・コミュニケーションシステムの構築は健康・療養分野で必要であるとともに温泉地と顧客との結合を図る上で重要となろう。

5.自然環境との調和
 環境問題を克服するためには自然と調和した循環型社会システムを築くことであり、これが21世紀の地域社会としてどう形成でるかが問われている。きれいな大気、騒音・排気ガスの無い世界、自然が五感で感じられることが、健康サービスを提供する温泉地にとって重要である。また、地元の自然食品を素材とした食事の提供が、価値あるものとして理解されるようになっている。要するに、水と緑と田園の自然生態系を維持することが、温泉地にとって益々求められてくるものと思われる。



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