| FORUM'99 |
| ■パネルレポート2「温泉と健康の街づくり」 「温泉相の多様性と地域活性化」 ![]() 大月短期大学地球科学研究室教授 田中 収 昭和8年生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了。大月短期大学地球科学研究室教授。 県環境科学研究所検討委員会会長、環境庁富士箱根伊豆国立公園管理計画検討会座長、富士山総合保全対策基本方針検討委員会会長、甲府市防災会議専門委員会会長等を歴任。 主な著書に「富士火山」「山梨県東海地震震害予想」、論文に「世界の大陸異動、島孤形成」「環太平洋地域における古い造山帯に新しい造山帯が斜交する地域の地質構造と構造発達史」など。主な専攻は構造地質学、環境地質学、防災地質学。現在富士山環境学術調査研究会会長、県環境審議会委員、県環境影響審査会委員、県文化財審議委員などをつとめる。 地球「ガイア」が誕生してから45.5億年、悠久の時の流れ、長い時間的変化と広大な空間の中で、大地は絶えず変動を続けながら、世界の隅々まで、個性溢れる多様性に富む大自然を形作ってきている。「ガイア」が創造した自然の造形物には、二つと全く同じものはない。温泉の泉源も、温泉地の環境も、全く同一のものはなく、極めて多様性に富んでいる。 複雑系としての個性ある人々の温泉利用という視点から温泉特性を考えるならば、泉源として、湧出量、泉温、温泉水分子集団等の物理的特性、化学成分等の化学的特性、微生物等の生物科学的特性、湧出・涵養に関する地形・地質的環境等の地球科学的特性等々を総合的に見た泉源の顔というべき「泉源相」さらに、泉源相だけでなく、温泉地としては、温泉地の高度環境としての標高や気象や水象の環境、さらに植生環境、動物環境、近景・中景・遠景の景観環境、自然災害環境や大地の資源や自然遺産等の地球科学的環境、また、これ等の自然環境と古い時代から、関わってきた人々が誕生させ、熟成してきた個々の地域の歴史や文化的環境、社会的環境等々、全てを総合的に見た、温泉地環境「温泉相」は、温泉地によって、実に極めて個性的であり、人々が一人一人皆異なり、「人相」に特性があるように、「泉源相」も「温泉相」も、極めて多様性がある。それぞれのユニークな個性的特性を生かす地域活性化が、さらにユニークな温泉文化を誕生させ、魅力的温泉地を育くんでいくのではないだろうか。ここでは、山梨における「温泉相」について考えて見ることにする。 現在、地球の表面はいくつかの大きな板のようなプレートと呼ばれる岩盤的なもので作られており、地球内部を形成しているマントルのスーパー・プルーム等の熱対流によって移動していると考えられている。 山梨県付近は、太平洋プレート、フィリッピン海プレート、北アメリカプレート、ユーラシアプレートという実に四つのプレートがひしめき合う世界の中で最もユニークで個性的な特色ある地域である。数千万年もの大昔、今の中国大陸近くの海底で堆積、陸化した古い日本列島の大地が約1500万年前の大昔、日本海の拡大と共に南下し、現在の南アルプスや秩父多摩国立公園の大地を作り、新しいプレートの潜り込みは、新しい日本列島深部においてマグマを溶融し、マグマの貫入による花崗岩体を形成している。さらに、地表近くの新しい火山活動は、八ヶ岳中信高原国定公園、富士箱根伊豆国立公園を形作り、フィリッピン海プレートの北上衝突は、世界的に極めて珍しいトライアングルの山系、水系と、不思議な大三角形盆地を誕生させている。山梨は、現在、世界で最も活動的な新しい大変動帯であり、生きている大地なのである。独立峰としての火山山地で最も高い富士山、連峰として褶曲山地で日本で最も高い北岳(白根三山)を有し、富士川最南端は、海面すれすれの標高70メートルの河床である。この高度較差は、気象、水象等々、様々な個性あふれる地球科学的条件を生み出し、多様性ある植物相とともに、植物をベースにする動物相の多様性をも育んできている。また、空間的な多様性だけでなく、時間的にも四つのプレートを中心にした構造発達のドラマが、日本列島を横断するフォッサ・マグナ(大地裂帯)を形成し、東西方向に発達してきた古い日本列島と、南北方向の新しい日本列島の斜交構造を作り上げてきているのである。 山梨県は、クロス・アイランドの真直中とも云えるようなユニークな特性を有している。このような多様性ある大自然の厳しさと大いなる恵みが、それぞれの地域に、極めて個性的な歴史や文化を誕生させ育んできたものと考える。 山梨は、クロス・アイランド。クロス・ヒストリー。クロス・コミュニケーションと云う。空間的にも、時系列的にも、イメージ的にも“クロス”の風土の特性を有する地域ともいえるのではないだろうか。 クロスしている、トライアングルの特性は、ヨーロッパのアルプスやロッキー山脈等のように平行したトレンドの褶曲山脈でないだけに、どの地域の温泉地からも、極めてユニークな最高級の景観が展望でき、また、高度較差は、転地療養等に関する温泉地の標高の多様性をもたらす等極めて「温泉相」を豊かにしている。また、地盤構造の多様性は、涵養される基盤の特性の違いから、泉質別効能等に関する、「泉源相」の多様性をももたらしている。 世界的名山である富士山は火山地域であるが、温泉は火山系の熱源ではなく富士火山の基盤の特性を反映している「泉源相」の温泉である。山中湖村の温泉は、約400万年昔の酸性深成貫入岩体である丹沢石英閃緑岩系の、ペーハー10.0の高いアルカリ性の単純温泉、河口湖町では、1,500万年昔の海底火山活動時の熱水鉱床を胚胎する基盤からの高い濃度のCa・Na−SO4温泉、鳴沢村では、Mgが高い、Ca、Mg・Na−SO4温泉、富士吉田市では、兩岩体系の境界部にあり、「泉源相」的に、珍しいペーハー9.8の高アルカリ性のCa・Na−SO4温泉、と全て異なる「泉源相」の特性を有している。また、山中湖村では、横臥型溶岩樹型を地下で見ることのできる世界で唯一の地下溶岩野外博物館、鳴沢村では、世界一の溶岩洞穴や富士山博物館を温泉施設と同時に整備し、より「温泉相」を個性的にしている。山中湖の「紅富士の湯」、富士吉田市の「赤富士の湯」、河口湖町、鳴沢村の富士眺望の湯等、富士山の近・中・遠の景観相も皆異なる特性を有し、さらに「温泉相」を豊かにしている。八ヶ岳火山地域も、基盤の特性を反映する単純温泉もあれば、高濃度のNa−HCO3・Cl温泉もあり、ナウマンのフォッサ・マグナ命名の大景観環境も有している温泉地である。甲府盆地は、非火山性の深層熱水温泉帯、甲府盆地基盤断裂温泉帯、甲府北部火山性基盤断裂温泉帯等から、石和温泉も含め、100ケ所以上の多様性ある温泉が湧出している。さらに、関東山地基盤断裂温泉帯にも、20ケ所以上の温泉が湧出し、大和村のペーハー10.3を頭に、高いアルカリ性温泉郷を形成している。巨摩山地、富士川地域は、新第三系のグリーンタフ等の基盤断裂温泉帯等から、Na−Cl温泉、Na・Ca−SO4温泉、Na・Ca−HCO3温泉等の様々な温泉が湧出している。 白州町においては、糸魚川静岡地質構造線の活断層線上に、ペーハー9.95のNa・Ca−Cl温泉が湧出している。 100年前には、25度以上の温泉は、5ケ所しかない温泉地の極めて貧弱な山梨県が、現在、150ケ所以上の温泉法による温泉を有し、県民の福祉と観光を中心にした地域活性化の目玉になってきている。 それぞれの温泉地には、他にはない個性的でユニークな文化遺産的潜在資源も数多く埋もれている。これらの潜在資源をソフト的発想で発掘し、より「温泉相」を個性的に豊かにしていくことが、これからの地域活性化に結びついていくと考えている。温泉は、地球「ガイア」が人々に恵み授けてくれた「地球の体液」と呼んでよいような極めて貴重な宝である。多様性ある豊かな「温泉相」に感謝し、温泉水も含む水資源の「涵養量」と「利用量」のバランスをきちっと考え、環境を保全し、また多様性ある「泉源相」を生かした温泉医学的活用も充分に取り入れながら、より良い「温泉相」を残し、作り上げていくことが地域の人々の健康・福祉や活性化について最も重要なことだと考えている。「温泉と地域活性化」について、これからは、ナンバー・ワン的発想だけでなく多様性を生かしたオンリー・ワン的発想が極めて大切だと考えている。 ●山梨の主な活断層● q塩尻小淵沢構造線第四紀断層群 t富士川第四紀断層群 (北巨摩・釜無川沿い) (中富町・身延町) =横ずれ水平断層型 y曽根丘陵第四紀断層群 w小淵沢静岡構造線北端第四紀断層 (中道町・曽根丘陵) (甲斐駒ケ岳東麓) ※A〜Eは逆断層型 e釜無川第四紀断層群 ※カッコ内は断層の主な地域 (韮崎市・甘利山東麓) (1)鶴川断層破砕帯 r市之瀬台地第四紀断層群 (2)藤ノ木愛川複合断層破砕帯 (櫛形町市之瀬) 〈1〉道志川震源断層帯 *付帯資料は作成中 |