| FORUM'99 |
■パネルレポート2 温泉と健康の街づくり ![]() NPO法人健康と温泉フォーラム理事 若林哲也 大正15年生れ。昭和28年から東京大学物療内科、群馬大学草津分院で物理療法・温泉医学を学ぶ。 昭和35年から同愛記念病院、大蔵省印刷局病院の内科、アレルギー科、健康管理科勤務。 昭和49年から日本健康開発財団・八重洲総合健診センター勤務。 昭和62年から石和温泉病院健康管理増進センター(クアハウス石和)勤務。 医学博士、認定温泉医、労働安全衛生コンサルタント、日本医師会認定・健康スポーツ医、山梨県自然環境保全審議会・温泉部会委員。健康と温泉FORUM実行委 員会理事。 1.はじめに 1986年に松山市からスタートした「健康と温泉FORUM」は、その後、札幌市、別府市、白浜町、前橋市、天童市、指宿市、金沢市、城崎町、下呂町で開催され、各温泉地でのイベントを通じて温泉と社会、環境、リゾート開発、健康づくり、スポーツ、療養、文化、コミュニテーライフ、保養地づくりなどのテーマで討論され参加者は温泉と健康づくりや街づくりについて、様々な観点から啓発されました。 FORUM実行委員会では、1986年から95年までの10年間を第1期事業として、その後3年間の準備期間をおき、第2期事業の最初の「健康と温泉FORUM」を、山梨県石和町で今年4月17日(土)と18日(日)に開催することになりました。 会長の斎藤先生は甲府市のご出身で、副会長の植田先生は、90年4月に石和町で開催された第55回温泉気候物理医学会総会の会長を務め、FORUMとは関係の深い当地で、第2期がスタートすることは、意義深く、大きな責任を感じています。 石和町では、石原町長、花岡会長、大久保、小越副会長を中心に、24名の実行委員が選定され、東京から植田、井上副会長、中田理事や合田理事をはじめ事務局スタッフも加わって、数回の委員会が開かれ、FORUMの骨子が決まりプログラムを発表しました。 今回のFORUMでは、天野知事、バート・メルゲントハイム市長の記念講演、花岡会長、植田副会長の基調講演や、パートTの「温泉と地域経済ーその活性化をさぐる」と、パートUの「温泉と健康の街づくり」の二つのパネルデイスカッションや交流レセプションパーティー、二日目に行なわれるオープン・ディスカッションを通じて、山梨の温泉を中心にした観光、農業や地場産業の活性化や、休養、保養や療養のための正しい温泉利用について討議され、石和町をはじめ山梨県にとっても、一般参加者にとっても実り多いFORUMになるように期待しています。 2.観光と休養のための温泉活用 日本は世界一の温泉大国で、25,000余本の源泉があり、多彩な泉質の温泉地は2,500余カ所、年間1億数千万人が温泉宿泊施設を利用しています。山梨にも豊富な温泉(400以上の源泉)が各地に湧出していて、住民は昔からこの天与の恩恵を利用して、心身の病を癒したり、疲労の回復に役立てていました。戦国時代になると、温泉を好んだ甲斐の武将・武田信玄公が、合戦で傷ついたり病んだ傷病兵や金を採掘する労働者の疲労回復や、慰安のために温泉を利用して、現代でもその名残が「信玄公の隠し湯」として県内各地に残っています。それらの中には、古くから湯治場として全国に知られ、飲み湯番付でも東の横綱になっている下部温泉や、ラジウム含有量が鳥取の三朝温泉と共に世界一の増富温泉があり、また、歴史的にも奈良朝の頃から、秘境の霊湯とされていた西山・奈良田温泉や、石和の近くにも1,700余年の歴史を持つと伝えられている岩下温泉などがあります。これら県内の温泉については、昭和63年から平成6年まで合計50カ所(民営47、公営3)をめぐり、「山梨のいで湯」として紹介しました。その後、平成8年に山梨日日新聞社出版局からも「山梨の温泉」として93カ所(民営59、公営34)が掲載されています。 そして県内市町村では現在でも、「ふるさと創生推進事業」などによる温泉掘削が盛んに行われ、59の公共温泉施設(現在掘削中9)があり、県内の源泉総数、総湧出(揚湯)量とも全国平均を上回って、温泉開発の急進さが顕著で、専門家も過剰な汲み上げによる地下資源の枯渇を警告しています。 石和町は昭和36年1月に温泉が湧いて以来、現在では源泉は約46に増え、ホテル・旅館は100軒を数え、近年はリゾートマンションも次々に建設されて、一大観光・温泉郷となり、JR石和駅も平成5年4月から、石和温泉駅に改称されています。 3.リハを中心にした療養のための温泉活用 石和町に温泉が湧出したのは昭和36年で、最初は田んぼの中の青空温泉として、マスコミにも取り上げられました。当時の山梨県知事で、福祉事業を重要施策の一つとしていた、故天野久翁が、この温泉の最も有効な利用法として選択したのが、リハビリテーション病院の建設でした。昭和40年には天野建現知事が理事長に就任して、関東では伊豆韮山、信州鹿教湯温泉につぎ、県内では最初に石和温泉病院が開設されました。当初80床だったベッド数も、現在では206床(療養型病床66、クアハウス部門12床を含む)に増え、リハ総合承認施設の指定を受けています。患者は東京を中心に県外からも多数来院(県内43%・東京41%・その他16%)し、入院患者の構成は、脳卒中など内科系60%、骨関節疾患、リュウマチ、事故による骨折など外科系40%になっています。 治療は、荻野院長(認定温泉医)、桜井リハ部長(認定温泉医)をはじめ5名の常勤医が当たり、温泉の温熱効果や筋弛緩作用などを利用し、プール運動浴は外科系患者に実施され、通院34名、入院22名が利用し、他の物理、薬物療法と併用してリハビリ効果をあげています。また退院患者のデイケアは、1日19名を日祭日を除き実施しています。 その後県内のリハ病院は増加して、現在石和町周辺に6院(ベッド数1,101床)、その他、湯村、竜王、下部に3院(ベッド数412床)合計1,513床あります。 4.保養と健康増進のための温泉活用 昭和62年6月から石和温泉病院に併設された、健康管理増進センター(クアハウス・石和)は、人間ドック(総合健診)と、厚生省認定の温泉型と運動型の健康増進施設がドッキングし、予防医学にも踏みこんだ形で運営されています。 総合健診で治療や精査が必要と判定された受診者は、それぞれ専門の医療機関に依頼しますが、境界型糖尿病など健康と疾病の予備群(半健康状態)は、栄養士や保健婦、健康運動指導士や温泉利用指導者によって、栄養や温泉利用を含む、運動や休養の成人病予防のための三本柱が指導されます。また定期的に糖尿病教室や、健康公開講座も開催して、地域医療にも役立っています。(図1) 温泉を利用したバーデゾーンは、16種類の浴槽があり、温泉療法医や温泉利用指導者の指示に従って入浴しています。(図2) このクアハウス・システムの利用によって、体力の増進ばかりでなく、肥満、耐糖能障害や高血圧、高脂血症などの改善が認められています。 日本健康開発財団と、健康保険組合連合会で行なっている、温泉利用型健康増進施設を活用した、健康づくりモデル事業の報告によると、石和温泉で実施された4泊5日の「保養セミナー」(図3)で、高血圧、高脂血症や肥満などの改善の外に、参加者のアンケート調査で、食生活や運動習慣、喫煙などの日常生活習慣の改善にも役立つています。 5.ま と め 温泉という有限で大切な地下資源を、乱掘による枯渇から守り、正しく利用して心身の疲労回復、ストレス解消、健康増進から疾病の予防、リハビリを含めた治療まで、温泉地の三養(休養、保養、療養)が可能な街づくりをするための提案をまとめてみました。 1)現在利用されている温泉の枯渇を防ぐために、掘削が許可されない特別保護地域を増やし、近年の大深度掘削の時代では、新規掘削は普通と一般地域についても、近くの源泉からの距離を広げるなどの配慮が必要と思われます。 2)温泉を正しく科学的、医学的に利用するために、温泉療法医(平成10年6月現在で720名・県内8名)や、温泉利用指導者(同年で225名・県内7名)など温泉医学の専門家を増やして、入浴や飲泉についての指導をすることが望まれます。山梨県警の調べによると、平成10年中に県内での入浴中の突然死は89名で、死因別では心疾患が65人、脳疾患9人、その他15人で、年代別では60歳以上の高齢者が全体の91%を占め、季節は寒い冬期に多く、急激な温度の変化や、高温での長時間浴、飲酒後の入浴など、不適正な入浴がその誘因として推察されます。近年開設された市町村の公営温泉施設は、一般の浴場のほか、福祉施設として、デイケアにも利用されるので、高齢者や脳、心疾患既往者も入浴するケースが推測され、事故防止のためにも、自覚症状や血圧測定のほか、温泉の専門家による正しい入浴法の指示も必要になります。 3)長期滞在者が退屈せずに、楽しく過ごすためには、温泉を中心にして宿泊施設をはじめ、健康で文化的な街づくりをする必要があります。石和町には昭和61年に町民の生涯にわたる学習と、スポーツの拠点として、今回のFORUM会場になっている、スコレーセンター(多目的研修集会施設、図書館、歴史民族資料展示室、アートギャラリー)、農村スポーツ広場、中央テニスコート(12面)や、ふれあい広場などの施設を整備し、更に平成4年には清流公園(武道場の清流館、芝生広場、野外ステージ、水辺ゾーン)や、スコレーパリオ(創造館)などが完成し、コミュニティー・センターとしての役目をはたしています。そして河川の有効活用をはかって、笛吹川に沿ったサイクリングロードや、平等川沿いの、さくら温泉通りなどが整備され、更に湯けむり通りなど20路線の愛称が決まって、標識が設置されますが、今後の療養温泉地としては、車椅子でも通行できるプロムナードが、川に沿って広場や公園と結ばれれば、療養者や家族に喜ばれると思います。環境首都やまなしは、花とフルーツ王国でもあります。春、桃の花でピンク一色に染まる甲府盆地は、まさに桃源郷になり、四季折々の花を愛でた後は、さくらんぼ、桃や葡萄などの美味しいフルーツが味わえ、明野村にはフラワーセンター、山梨市には笛吹川フルーツ公園、フルーツセンターがあります。 また、自然と歴史、文化に彩られた県内に点在する見どころや、名所を線で結んだ3つのルート「山梨ロマン街道」があり、信玄公の足跡や美術館、ワイナリーなどをめぐる「信玄バッカスルート」(カルチャーとグルメ)、富士山や五湖、忍野八海などをめぐる「富士コニーデルート」(リゾートとアウトドアスポーツ)、北岳をはじめ南アルプス連山を望むルート「南アルプスエコールート」(自然とカントリーライフ)からなっています。県内には日帰りもできる公営温泉が42ヵ所あり、石和をベースとして、温泉めぐりや、ロマン街道をめぐれば、長期滞在も十分可能になります。平成2年3月の「広報いさわ」特別号に掲載されている、当時の天野町長、花岡先生(コーディネーター)はじめ23名の座談会「西ドイツ研修と今後の石和町」を読むと、温泉と国際交流や街づくりについて、示唆に富んだ発言が多く、今後の参考になります。 温泉医学や温泉保養の先進地、バート・メルゲントハイムや、長野の鹿教湯温泉の街づくりも参考に、今回のFORUMで、パネルやオープンディスカッションなどを通じて、各分野からの意見をきき、討論されて、今後の石和町の街づくりや、地域経済の活性化に役立てたいと思います。 *付帯資料は作成中 |
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