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日本の自然公園と温泉地の保全


井上 昌知
(株)日立メディコ 顧問(薬事担当)
健康と温泉FORUM実行委員会 副会長


1 温泉地環境について


 日本では温泉地と呼ばれる地域が平成11年3月末の時点で2839あります。環境庁の温泉利用統計を作成するにあたって決められている温泉地の定義に従えば、源泉とそれを利用する宿泊施設があり、部落、字、郡など行政的に区別できるまとまった地域を温泉地と呼んでいます。箱根は温泉地として有名な所ですが箱根町に一つの温泉地があるのではなく数個の温泉地がありそれぞれ別の温泉地として運営されています。温泉地の歴史や発展の経緯などがそれぞれ異なっている実態をそののまま残したのだと考えられますが、ヨーロッパの有名な温泉は町全体が一つの温泉地であるのと比べるととても数が多くなります。ときどきヨーロッパの人たち温泉地数の話をすると驚の声が返ってきますが、温泉地の単位が小さいことを説明すると納得されます。

 全国に2800を超える温泉地があるのですから、温泉地のない都道府県はありません。東京の新宿のような大都会の温泉地がある一方で、車が通れなくて歩くしかないような山奥に、温泉宿がぽつんとあるような秘湯と呼ばれる温泉地もあります。したがって、温泉地の環境はさまざまで一律に論ずることはできません。その温泉地の性格に従って、都市的な環境が求められる温泉地もあれば自然環境が特に重視される温泉地もあり、また、その複合的な環境を求められるものもあります。




2 国民保養温泉地について


 保養が目的とされている温泉地は、自然環境が大切です。温泉医学の視点からも特に気候は重視されています。環境省が指定している国民保養温泉地という制度があり、政策的に保養温泉地づくりが進められていますが、現在、全国に90あります。その指定条件は次のとおり定められています。


第1 温泉の効能、ゆう出量及び温度に関する条件

  1)泉効が顕著であること
  2)ゆう出量が豊富であること
  3)利用上適当な温度を有すること

第2 温泉地環境に関する条件
  1)環境衛生的条件が良好であること
  2)付近一帯の景観が佳良であること
  3)温泉気候学的に休養地に適していること
  4)適切な医療機関を有するか又は将来設置しうること
  5)医学的立場から適正な温泉利用、健康管理について
    指導を行う顧問医が設置されていること
  6)交通が比較的便利であるか又は便利になる可能性があること



3 自然公園と温泉地環境



 上の条件をみれば、保養温泉地にとって自然環境が重視されていることがよくわかります。特に「付近一帯の景観が佳良であること」という条件は、国立公園や国定公園の考え方を取り入れたものです。

 日本には現在28の国立公園、55の国定公園、307の都道府県立自然公園があります。これらの自然公園は、わが国を代表するすぐれた自然風景地の保護とともに自然とのふれあいを図ることを目的として指定されている地域です。国立公園で言えば、北は北海道の利尻礼文サロベツ国立公園から南は沖縄県の西表国立公園まで全国に広がって存在しています。その面積は205万haで国土面積の5.4%を占めているということからもその広さがわかります。国立公園に指定されている土地は国の土地もあれば、地方自治体の土地もあり民有の土地もあります。このようなやり方は指定制と呼ばれています。

 日本の国立公園はこのような制度ですから、この地域全部を一律に同じ基準で保全することはできません。それでは、経済的な活動をあまりにも制約しすぎるからです。したがって、国立公園の例でいえば、国立公園に指定されている地域を、先ず特別地域と普通地域に分け、さらに特別地域を三つの段階に分けて保全を図っています。最も厳しいのは特別保護地区で、ここでは、例えば動物を捕獲したり、花を採取したりすることは勿論、落葉を採取することも環境大臣の許可がなければできないことになっています。特別保護地区以外の特別地域は1種から3種に分けられそれぞれの地区の必要性に応じて規制される行為が決められています。国立公園の面積の約70%が特別地域になっています。したがって、国立公園の中にある温泉地はすべて、国立公園制度によってもその環境の保全が図られています。また、国定公園は国立公園に準ずる、すぐれた風景地を、環境大臣が指定したものです。国立公園よりも数が多く55ありますが、面積は少なく134万haです。そして、国立公園と同じ方法でその地域の保全が図られていますので、国定公園内にある、温泉地についても同じことがいえます。国民保養温泉地のうち、36が国立公園に、13が国定公園にあります。



4 健康の町づくりと温泉



 いま、健康日本21の推進の影響もあって、あちこちの町で健康の町づくり宣言が盛んです。長寿社会にとって、とても重要なことです。健康づくりには「休養」が欠かせませんが、日本では温泉地がこの休養を担う大きな役割を果たしてきました。温泉資源が豊かな日本は、今後もこの役割を温泉地に期待するべきでしょうし、その役割を果たす温泉地は特に温泉地環境をみずからの課題として築いていくべきでしょう。



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