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その他の研究会(過去の実績)

ライフスタイルと現代の浴場


中田 裕久
(株)オオバ
環境開発デザイン研究所 主任研究員 環境デザイナー
健康と温泉FORUM実行委員会 常任理事


1.体験消費の進展

 現代社会では、「ものやサービス」と人間の関係は大きく変化している。「ものやサービス」は利用目的として消費されるのではなく、その人の「自己表現や幸せ探し」を目的に消費される。人は、その人にとって美しい体験となるよう、「ものやサービス」、「温泉地」を選択する。「ものやサービス」の消費体験や、「温泉地」の雰囲気から、個人的なエピソードを紡ぎ、日常生活を美学化する。現代社会では、「美的個人主義者」とも呼ぶべき人々が増大している。「もの」の選択に関しては、デザインやイメージが中心となり、場合によっては「もの」の性能や機能がアクセサリー化しているともいえる。
観光、外食、コンサートに出かける、浴場にいく、車を買う、ケータイで遊ぶ、自然食品を選ぶ。これら全ての分野において「体験消費」が始まっており、「ものやサービス」は「体験消費財」となっている。



2.現代人の美学的スタイル

 人々は個人的体験を通じて、日常美学的なエピソードを形作るが、これらのエピソードを反復したり、他人との交流を通じて美学的なスタイルを形成する。このスタイルを大別すると、3タイプがある。第1は、高級文化的なスタイル(静かに瞑そうする、反粗野、完璧を目指す)。第2は、大衆文化的なスタイル(くつろぎ、反エキセントリック、調和・現状維持を目指す)。第3は、若者文化的なスタイル(冒険、反平凡、ナルシズムの追求)である。こうした日常美学的なスタイルに対する個人の嗜好には遠近感はあるが、消費という主観的な選択を通じて、常に、異なったスタイルを渡り歩くことも可能になっている。つまり、常に新たな美学スタイルをもつ人々が誕生する。
究極的には、現代人は体験を通じて変身したいのである。古来より、日本人は温泉に行き「きらきらする」、「身も心も磨かれた感じになる」ことを実感していたが、現代人はテレビのチャンネルを切り替えるように、常に変身したいと願望しているのかも知れない。



3.浴場のシーン

 シーン(場面)は、中核的なライフスタイルグループ、特定の場所性、典型的なサービスを持っている。プレジャープールでは活発な冒険的な楽しみ方が、和風共同浴場では湯船でくつろいだ態度が、そしてホテルのフィットネスクラブではマナーの正しい振る舞い方が伝えられる。シーンは多様な人々の瞬間湯沸かし的な学習機関の役割がある。
 このシーンは供給者によって作られている。ターゲットとする人々を目的に、空間、サービス・プログラム、スタッフ教育、環境音楽、観葉植物などによって浴場シーンを形作る。一方、浴場というシーンを介在して、消費者はその人なりの美的体験・体験学習を行い、浴場の選択を通じて、シーンの改変を促す。
こうした供給者ー消費者との関係から、現代の浴場シーンはかつて無いほど、多様になっている。これら浴場は和風の裸浴に由来するものもあれば、水着で入浴するもの、あるいはこれらを併せ持つタイプなどがある。また、施設内容をみると、和風浴場であっても、サウナや気泡浴槽をもつものが増える一方で、温水プールを主体とするものに和風浴場が組み込まれている。いずれの場合においても、浴場が自由時間を過ごす場所として、湯遊び・水遊びの場所として変質していると共に、浴場の和洋折衷化(グローバル化)が進展している。



4.浴場施設の展開

 現代の浴場は「自由時間化」し、施設内容も複合化する傾向にある。これら浴場には、目的と設備、サービス内容でタイプ分けが可能である。



(1)プレジャー浴場:水遊び、湯遊び的色彩の濃い浴場(娯楽目的)。ウオータースライダーや噴水・滝などの仕掛けをもつプールがある。




(2)テルメ:娯楽・健康・休養などの複合目的をもつ浴場。プレジャープールの要素に加え、サウナ、運動浴槽などをもつ。




(3)フィットネス浴場:健康づくりを中心とした浴場。水中運動のためのフィットネスプール、サウナ、ソラリウム(休憩室)に重点をおいた浴場。他のカテゴリーよりも小規模で、多くは都心に立地する。


(4)カルチャー浴場:娯楽・健康・休養・スポーツに加え、交流・学習が可能な浴場。カフェ・図書館・クラブ・映画などの文化機能を有する。今後出現が想定される浴場。


 浴場は、現代の消費者(美的個人主義者)の体験の場であり、雰囲気づくりが重要である。浴場のテーマとしては歴史、異国、海、宇宙などが用いられ、施設デザインやインテリアデザインに反映される。一方で、その土地や地域独自の浴法とともに海、山、川、港、街、田園を望む景観などが体験世界を生み出す重要な要因となる。



5.サービスプログラムの展望

 浴場は現代の消費者に美学的な体験を提供する場所であり、消費者は美学的なエピソードを紡ぎだす機会である。「より美しい生き方の飽くなき追求」は個人的なウェルネスの達成に結びつく。こうした自助努力に対する洗練されたサービスの提供が浴場の質を決定する。消費者が快適に変身できたかを実感できる場合、そのサービスはかけがえのないものとなる。換言すれば、浴場施設とサービスプログラムの提供内容をともに検討すべき時代になったといえる。



拡大図



図:ホテルや温泉を対象としたウエルネスの概念にとっての質的管理モデル
(出典:健康と温泉FORUM2000記念誌、p95 ナールシュテット論文)




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