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その他の研究会(過去の実績)

健康ライフの動向と展望


中田 裕久
(株)オオバ
環境開発デザイン研究所 主任研究員 環境デザイナー
健康と温泉FORUM実行委員会 常任理事


1.健康政策の変遷

(1)「国民健康づくり対策」
 昭和53年度(1978)、厚生省は、乳幼児から老人に至るまでの生涯を通じての予防、検診体制の整備、健康づくりの啓蒙普及の3つを柱として、健康づくり対策をおこなった。

(2)第2次国民健康づくり対策:「アクティブ・エイティ・ヘルスプラン」(1988)
 穏やかで活動的な人生80年を創造することによって、老年人口の社会的生産性の保持。社会保障費の削減などを図り、21世紀の超高齢化社会に対応しようというもので、健康づくり施策は、疾病予防や積極的に健康度を向上させる「健康増進」に力点を置いている。
 このプランでは運動、栄養、休養という健康づくりの3要素のうち、特に運動に重点を置くとともに、公的セクターによる健康づくり対策に加えて民間活力の積極的な導入を図っている。具体的施策としては、運動指導プログラムの提供、運動指導者の養成、運動施設・設備の整備などが行われた。施設の整備としては、公的健康増進センターの助成制度の充実、民間の健康増進施設のための融資制度の創設が行われた。融資対象としては「温泉療養運動施設(クアハウス)」、「疾病予防運動施設(アスレヘルスクラブ)」とされた。このように、日常生活圏では「疾病予防運動施設」を、リゾート圏域では「温泉療養運動施設」を整備し、余暇活動と健康ニーズに対応するものとした。

(3)第3次国民健康づくり対策:「健康日本21」
 健康日本21は、健康寿命を延ばすことを目標に、生活習慣病の対策に重点を置いている。脳血管疾患などを予防する「一次予防」に重点を置き、生活慣習病や生活習慣の中から対象分野を設定し、分野毎に具体目標を提示し、健康づくり対策を評価するとしている。また、医療保険者、医療機関、非営利団体などの参加により、個人の健康づくりを支援できる体制を構築するものとしている。健康日本21は、これら健康づくり運動を2000年から2010年の期間推進するものとし、2005年に中間評価を2010年に最終評価を行い、その後の健康づくり運動に反映することとしている。

2.健康概念の変化

どのような状態を健康というのか?健康づくりのために何をすればよいのか?ということは、時代によって変化している。明治以降、日本の医療や保健に大きな影響を及ぼしたドイツにおいても「病気と健康」の概念は時とともに変わっている。18世紀には「病気とは、遺伝的な理由であれ、その他の原因であれ、肉体的な欠陥である。この欠陥を治療っすれば、元の最適な状態に回復できる」という考えであった。20世紀に入ると、身体的なものに精神的なものが考慮され、「どのような病気もその原因は何であれ、当事者の身体と精神に関連する」というものになった。60年代になると、身体、精神に加え、社会的環境、自然的環境が病気や健康に関連づけられるようになった。
 WHOの憲章では、健康とは病気ではない、虚弱ではないといった体の状態をいうのではなく、心身が健全である上に、個人の日常活動が軌道に乗り、社会的に調和している必要があると述べられている。つまり、健康には、身体、精神、社会的調和、人間関係がうまくいって初めて得られる。
 健康づくりは個人が自ら作り上げるものである。日ごろから運動、適切な食事と休養などを自己管理し、日常生活が健康的なライフスタイルとなるように努力することが求められる。アメリカではフィットネス運動が1953年に生まれ、より広範な健康概念であるウェルネス運動が1961年に誕生し、各国の政策に反映されたり、保養産業、健康産業の諸サービスに導入されている。ウェルネスを構成する要素は、身体的なフィットネス、栄養、精神的なメディテーション、リラックス、エステ、教養・文化、社会的関係・人間関係の維持、自然環境との調和など広範にわたる。こうしたトレーニングの機会の提供が健康学習サービスであり、健康サービスであるとの考えが一般化している。
 
3.フィットネス

 昭和39年(1964)の東京オリンピックを契機として、全国各地にスイミングクラブ、スイミングスクールが誕生した。健康のためのスポーツが現われたのは、1970年代である。早朝のジョギング風景が現われる。また、新宿三井ビル(1974年竣工)には、本格的なフィットネスクラブが出現し、エアロビクスやスキューバダイビングなど成人を対象とするプログラムの提供が行われ、80年代にはフィットネスクラブが各地に出現した。このフィットネスクラブの流行は、健康意識の高まりと、健康のためには金をかけるといった日本人の潜在ニーズを掘り起こした結果でもある。
 フィットネスクラブの主たる光景はマシーンエクササイズ、エアロビクス、プールなどである。エアロビクスは1968年、アメリカのケネス・クーパーによって提唱された有酸素運動プログラムで、80年代に世界各国に流行した。日本では82年のオロナミンCのテレビCMで知られ、映画フラッシュダンスでブレイクしたといわれる。女性にとって、レオタードやレッグウォーマーのファッションは新鮮で魅力的であり、身体での自己表現が喜びになった。80年1986年から1991年のバブル時代では市場は倍増し、中には高額預託会員制クラブなども創設されたが、91年をピークに低減傾向が続いている。 この間の競争激化に伴い、マシンエクササイズやスイミングに特化した単体クラブは苦戦・撤退し、一方で総合型クラブへとシフトするものもあった。これらの取り組みの中で、注目されるのは、中高年の自由時間を過ごす場所として、浴場施設を併設したり、多様なプログラムサービスを展開するものが現れたことである。近年の複合開発プロジェクトには、高級客層を対象にしたプール、サウナ、浴場、マシンエクササイズ、リラクゼーションプログラムなどをもつ会員制クラブを導入するものがある。また、住宅地域のクラブでは、女性客に対するエアロビクス、ダンスなどのプログラムの充実を図っており、女性のサロンとなっている。
 フィットネス運動の流行は、人がいつまでも若く美しくありたいという願望の現れであり、自分自身の体にたいする肯定的な態度の現われでもある。また、体を視覚的に見せる、体で自己表現をするといったことが喜びになったことを意味する。レオタードからボディコンスニーカーから健康飲料、家庭用ランニング機器から腹筋増強機器からなどの健康関連商品は、こうした意識革命によるものである。こうした意識はオリンピックの女性アスリートの発言にも示されている。

4.リラックスと浴場

 温浴・水浴という活動は体験の巾と深さを提供し、個人が自由に行動できるため、人気が高い。温浴・水浴はその他のレジャー活動との組み合わせによってより魅力的となる。
 高度経済成長に伴い各家庭に浴室が普及するにつれ、銭湯は減少し、各種の温浴施設が形成されて行く。第1は、サウナであり、1970年代初頭に市民生活に定着した。第2は1979年以降のクアハウスである。運動と温泉による健康づくりをスローガンに財団法人日本健康財団の指導企画により、全国の温泉地に「クアハウス」が誕生し、東京にも平和島クアハウスが設けられた。クアハウスは多様な温度の浴槽を持ち、寝湯・気泡浴・圧注浴・サウナ・蒸気サウナなどの設備があるほか、スタジオでの運動指導などの健康サービスが行われている。また、水中運動のためのプールをもつものもある。第3は、クアハウスの多様な浴槽・浴法の提供といったコンセプトはラドンセンター、健康ランド、スーパー銭湯などにも導入され、湯遊び・水遊びという浴場の自由時間化が進行したことである。ともに80年代からスタートし、バブル以降では低料金のスーパー銭湯が手軽なレジャーとして注目を集めている。1989年からこの20年で公衆浴場数はほぼ同等である。都市内で銭湯などの小規模施設が現象する一方で、民間の大型の温浴施設が増加したのである。これら温浴施設はショッピングセンターや駅前施設に導入される傾向にある。
第4は、ヨーロッパスタイルのタラソセラピーセンターが海岸地域に進出したことである。1992年には三重県の鳥羽に、1996年には千葉県勝浦にタラソセラピー施設がオープンした。これは日本に居ながらフランス直輸入の健康・美容サービスを享受できることが最大の魅力である。また、都心においてもタラソセラピーセンターなどに類似する海外直輸入の健康・美容サービスを提供する施設が90年代後半に生まれている。
 こうした傾向は健康産業がサービス対象を男性客(サウナ)から女性客(タラソセラピー・美容)へと転換してきたことを表している。
 若い女性を中心に、1983年に温泉ブームが起こり、続いて主婦層や子育てを解放された中年女性へと広がっていく。こうして日本の温泉地は女性をターゲットにした浴場の改造などの温泉地経営にシフトした。一方、海外旅行者は1980年の年間400万人から1985年には500万人となり、1995年では1670万人、1999年には1780万人と4倍強に拡大している。99年の統計では20〜29歳がボリーム層で、この世代の女性が男性の1.7倍となっていることが顕著である。また、総理府の87年調査でも、海外旅行の経験率が一番高いのが20代女性であり、85年から現在まで、この傾向は継続している。つまり、これら行動力のある女性の海外経験や体験が持ちこまれ、浴場の更新を促していったとも言える。

5.健康・美容サービスのグローバル化

健康・美容サービスのグローバリゼーションも1985年を境にして一般化した。中国式足裏マッサージ、韓国式垢擦り、アロマセラピー、タラソセラピー、スエーデンマッサージなどが都内各地で単独にサービスされるとともに、浴場施設やフィットネスクラブにも導入されるようになっている。
 フランスでは1990年初頭に究極の健康サービスはリラックスサービスであるとの認識から、リラクソロジーの理論化やサービス化が実験されていたが、近年これらも日本に導入されている。また、フランスのミネラルウオーターはスーパーモデルが愛飲することで評判を得ている。イスラエルでは塩と泥がエステに結びつき、イタリアにおいては化粧品と温泉・鉱泉が結びつき、ファッションブランドが温泉ホテルを買収するなど、ファッションと健康・ウェルネス・美容などの体験サービスが直結する傾向にある。
 近年のターミナルビル、デパートの最上階、ホテルの店舗街に、こうした直輸入の美容・健康製品を用い、健康美容サービスを提供する施設の導入が目につくようになっている。また、現在、銀座・有楽町地下鉄通路で、健康・美容相談と療法体験などのPR活動が行われて、通勤帰りの客を集めている。
美容サービスは顔・ヘアーからネイルといった部分から全身へと拡大し、全身美容になると、無防備にさらされ、藻類・泥・紙・シーツ・毛布などでパンパースされ、癒されることになる。アロマ、環境音楽の漂う室内が外側の皮膜である。療法士は乳母であると同時にカリスマであることが期待される。

6.民間療法・健康食品

1975年、紅茶キノコが、高血圧やリウマチなどさまざまな病気に効果があるとされて以来、さまざまな「健康食品」や「健康補助食品」がブームとなり、消えていった。民間療法は、気功や整体のような体のゆがみを治すもの、体のリズムを回復するもの、心のリズムを回復するもの、薬草や自然食品を摂取し、体調を整えるものとさまざまである。こうした代替医療が健康ブームとともに盛んになってきた。「健康によいもの」を探す人が多くなればなるほど、代替医療が盛んになり、健康関連雑誌が増え、健康食品などの誇大広告が増え、健康オタクも増えている。
瀬川至朗によれば、健康食品には、一般に健康によいとされるお茶・野菜・そばなどの
自然食品、菓子やジュースなどのの形態をとった成分強化食品、生理活性があるとされる成分を抽出・濃縮した錠剤・カプセル・顆粒状の食品(アメリカでダイエタリー・サプリメントといわれるもの、日本で健康補助食品といわれる多くはこのタイプに含まれる)、お茶の粉末カプセルなどの医薬類似の自然成分食品の4つに分けられる。健康食品は「食品衛生法」、医薬品は「薬事法」の法的規制をうける。医薬品は成分内容や臨床データなどの資料を提出し、厚生労働省の許可を得なければ販売できないが、健康食品には規制は働かない。結果として、健康食品の誇大広告と摘発が繰り返されている。病気を治す医薬品と食品の間には、体調調節の機能を有する食品がありうる。こうした食品について、1994年にアメリカではダイエタリー・サプリメント健康教育法が制定され、「病気の発症リスクを下げる働きの表示」を許可し、適正製造基準を定め、品質保証をしている。日本においても、食品と医薬品の間に4つの新たなカテゴリーが設けられている。1991年に「特定保健用食品」のカテゴリーが設けられ、個別審査によって、健康食品に「健康表示」などを許可する制度が生まれ、2001年現在で289品目がある。2001年からは健康機能を表示できる「栄養機能食品」が加えられている。
 その他、厚生労働省認可の食品には、糖尿病患者、乳幼児、高齢者など特定の状況の人を対象にした「特別用途食品」がある。また、財団法人、日本健康・栄養協会が認定する「健康補助食品」がある。これは、バランスのとれた食生活が困難な場合の栄養補給や健康維持のための食品とされ、健康機能を表示できない。
 医薬品の中から、生活改善薬という分野も現われてきた。生活改善薬とは「生活の質を高める薬」であり、1999年以降、禁煙ガム・禁煙補助薬、低用量ピル、バイアグラ、リアップなどが発売され、ブームを呼んでいる(健康ブームを問う、岩波新書2001)。
また、しわやしみを抜く化粧品も発売され、中高年女性の人気を集めている。こうした生活改善薬や健康食品などの健康関連商品は、21世紀には巨大なマーケットになることが予想されており、店頭の販売サービス・店舗デザイン・店舗の構成すべてに大きく影響をもたらすものと考えられる。

7.新たな健康サービスの展開

 健康、ウェルネス、フィットネス、リラックス、エステといった分野の境界が薄れ、またファッションの流行と健康・美容意識が融合する時代となっている。

(1)ホテルとウェルネスサービスの結合:ウェルネスホテル
エステ=健康=浴場=ファッション=都市内リゾートという観点から、都市内ホテルのサービスがレストラン=宿泊=宴会といった宿泊サービス産業から、総合ウェルネスサービス産業へとシフトすることも可能性が高い。パリ近郊のホテルにも同様の試みが現れている。

(2)保健センターとウェルネスサービスの結合:健康学習センター
 現在、各種健保センターや人間ドックがフィットネス施設を併設し、成人病予防を行おうとしている。これら個別施設は利用者の日常生活から遊離している場合には利用し難い。個別の健康サービスが提携などによって、チェーン化される可能性もある。

(3)整形外科とリハビリサービス産業との結合:運動回復センター
 運動機能回復にとっては水治療がもっとも効果的である。現在、水治療を適切に指導する浴場施設は皆無であり、あってもリハビリ病院に限られる。リハビリ病院と一般浴場の中間領域が最もニーズの高いサービス施設となる。

(4)総合健康情報サービスセンター
 これまで化粧、全身エステ、フィットネス、健康飲料、健康機器、ファッションなどが個別にサービスされ、紹介されてきた。こうした個別サービス・用品・機器をアドバイスする情報サービスの質が問われる時代である。これには必ず体験サービスが付随し、通販などでは補完できない。健康関連のアンテナショップ、情報サービスセンター機能をもつボディショップなどの質が問われるようになる。

(5)美容センター
 エステはパーツ化の傾向と、総合化の傾向の二つの流れがあるが、多かれ少なかれ、健康食品、サプリメント、運動、リラックス、各種美容療法を合わせた美容サービスが中核的な役割を担う。

:出展:「大都市のシーンに関する研究ー中間報告 平成13年度」(財)ハイライフ研究所(文責中田)



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