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日本の温泉地再生への提言 [5] -第1グループ 旅館・温泉地リーダー 動き出した別府八湯 -温泉文化の再生に向けて |
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鶴田 浩一郎 (別府温泉)ホテルニューツルタ 代表取締役 |
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再生へ向かう別府八湯 別府八湯(べっぷはっとう=別府は八つの温泉地で成り立つ)は大型温泉地としては、かなり早く90年代中盤から地域再生の運動が民間で興った。現在は、町の散策事業や温泉文化体験事業(ハットウオンパクなどのイベント開催)など地域づくり運動が観光客と結びつく段階にまで差し掛かり、別府八湯ファンを着実に増やしつつある。町を再生するのは、行政や観光従事者だけでなく、町を愛する人の力だということに気が付いたところである。 不良債権の溜まり場と言われる観光業界も再生、改善へ向けて、デフレ経済に適応しようとしている。宿泊施設は顧客獲得に向けて、施設の魅力と特にそこから歩ける範囲の地域の魅力の磨き上げを同時に行おうという姿勢に変化しつつある。施設づくりは、地域づくりと等値と認識した動きが拡大している。 かって、別府の旅館ホテル業も大型施設化の弊害(囲い込み現象)として、町の疲弊を招いたとする議論もあったが、施設から町に出ていただき、町のリピーターになってもらう数々の試みが行われるようになった。 八湯文化再生こそが、新たな温泉地づくり 別府八湯再生のコンセプトは、地域文化の再生といえる。それは以下5点に集約できる。これらは明治後期から昭和初期まで別府が色濃くもっていた「ケ」の文化(日常の営み)であり、新たに21世紀的価値を付加しながら、別府に植え付け育てていくものである。 このような地域独自の「文化再生」こそが、あらたな産業や雇用を生みだし、消費形態も変えることができる。 1 八湯文化の再生---8つの温泉地の個性化 2 外湯の文化再生---400以上ある外湯の再生ネットワーク化 3 湯治文化の再生---予防医学の研究と長期滞在の研究 4 路地の文化の再生---道路拡幅と戦災を受けなかった町の界隈性の復活 5 別荘文化の再生---豊かな生活空間、都市景観の復活 温泉観光地の再生 老舗温泉観光地再生についての最近の議論を見ていると、ほぼそのキーワードが出そろったように感じる。 それは、地域づくりと一体となった観光地づくりであり、住民と一体となった運動の展開である。頻出する言葉は、交流人口増加、地域のアイデンティティ、官民一体、情報発信力、地産地消、人材教育、健康と癒し、滞在観光地、個人客対応等々。 一方で、交通網整備などのインフラ整備、公共投資による集客装置の建設などの議論は棚に置いてきたようである。さらに、今までの手法であった宣伝隊派遣など誘致に関わる手法開発が凍結してしまった感を覚える。 このように見てくると、80年代の反動が温泉地再生のキーワードに表れる一方で、マーケティングをベースとした総合的な再生議論がまだ見えてこない。観光産業のマーケティング戦略が日本では育っていないことも事実だし、観光産業従事者、公的セクターにその専門家が育っていないのも事実。とくに欧州の観光地戦略に比較すると、前近代的ともいえる。地域づくりは、人づくりと言われるように、地域再生の要素が明確になったとしても、それを担う人材の教育(大学の観光学部など)、その人材をコーディネイトしていくビジョンと機関の整備が急務と考えている。 成果をあげる地域づくり 地域には、「胎動期-発展期-成熟期-衰退期-再生期」というサイクルがある。いずれの期にいようと、地域づくりの成果が上がった事例には共通項が見えるようだ。それは、民間からアイデアが生まれ、民間主導であること、地域を愛する中堅が結集していること、地域の個性ある日常(そこにある)文化を磨き上げようとしていること、などである。これに加えて、経済的にも成功をよぶためには、マーケットへの訴求力を持っていること、地域ブランドとして磨かれ続けること、行政がその支援体制を作れること、などである。このような要素を考えると、地域の成長には一つの方向へ向かうためのビジョンが不可欠であり、そのためにも、人材を生んで活かしていくシステム、官民が揃って自治体を経営していくシステムが必要である。 観光からツーリズムへ 日本の観光地が今変わろうとしている。バブル崩壊後、金融不安以降、低迷してきた観光地が、その地域づくりの迷いから脱しようとしている。とくに98年以降のデフレ経済の定着により業界の体質改善も進みつつあり、これからの10年間の動きは日本の観光の転換点としても位置づけられるとみられる。観光という狭い概念は、最近ではツーリズムという広義の産業概念としてとらえられようとしており、この動きは観光地の新たな産業政策にも結びつくようになる。その産業は、農林漁業、ウエルネス、医療、商工業であったり多岐に渡っており、地域の雇用創造にもつながり、地域経済の再生に深い意味をもつものである。 さらに、テーマパークの崩壊に象徴されるハコモノ至上主義の観光から、地域住民が地域の日常文化を磨き上げて地域に誇りを持つことから始めようとする動きが活発化している。まさに地域住民主体の観光地づくりが求められるようになった。 日常文化は消費のあり方そのものであり、地域のソフトウエアそのもの。時代はソフトウエアをどう見せて、どう時間消費してもらえる仕組みを作るかに差し掛かっている。 日本の温泉地の宿泊産業モデル ・70年代以前 大衆旅行時代へ 熱海・別府モデル ・80年代 成熟した温泉旅館モデル 加賀屋・旅研モデル ・90年代 地域とともに由布院モデル ・00年代 無名小温泉地の台頭、黒川等モデル ・これからの温泉地モデルは、 地域文化を補完するモデル インフラ整備こそ行政の役割 ハード(建造物等)が先行しても、ソフトウエアがないと、人はいつのまにか寄りつかなくなる。自明であったが、どの温泉観光地も同じ道を歩んだ。 別府八湯のソフトウエアはこれから大きく蓄積されていく。もちろん短期間ではできようもない。そのソフトウエアが別府市民のライフスタイルにとけ込んで始めて別府の文化となり、その体験のため、隣町からも県外からも国外からも人がやってくる。 ただ、そこで民間の手だけは出来ないこと、官民合作でやっていかねばならないことがある。 それは町の景観づくりであり(あるときは財産権の侵害になる)、都市化で破壊された空間の修復(モータリゼーションも破壊の要因)、環境保全(温泉、空気、水、緑)などである。観光地づくりの方向性は民間の手で行うべきことがらと認識しているが、その基盤となる上述のことがらは、町のインフラとして整備すべきことである。 日本では都市計画がまともに行われたところは少ない。都市計画といえば、道路の拡張の歴史にしかすぎない。地域の文化再生は、結果として個性がみえる町づくりである。そのためには、地域の魅力を育てる中長期の基本計画の策定が必要とされている。 温泉地のソフトウエアづくり 温泉地のソフトウエアとして、別府で行おうとしていることは、医者やセラピスト、文化人など、これからの別府八湯が目指す地域ビジョンを表現できるインストラクターによる100にのぼるプログラム(=講座)である。 ・天然温泉力を知るプログラム ・スポーツ系プログラム ・セラピー系プログラム ・ウォーキング系プログラム ・実験的プログラム;「糖尿病コース」 「ファンゴ・エステ」 このようなプログラムには思わぬ副産物がある。インストラクターと参加者との間に新鮮なコミュニケーションが生まれ、また参加した観光客が地元住民にとけ込み、同じ目線で交流することができるのである。 ウォーキングといえど、地元の人間にも新しい発見があり、観光客との接点は、思わぬ身近な別府ファンを作っている。 地域社会と観光客の接点(クロスポイント)が、参加型のプログラムではいかに重要かが分かる。 【関連HP】 別府ナビ/観光ポータルサイト http://www.beppu-navi.jp/ 別府ハットウォーカー/別府マニア系サイト http://www.coara.or.jp/~sanken/ 別府八湯新聞/今どきの話題 http://beppu8.to/ 2003秋のオンパク http://www.beppu-navi.jp/onpaku/index.html ホテルニューツルタ http://www.newtsuruta.com/ |
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