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日本の温泉地再生への提言 [21] -第1グループ 官庁・自治体 果実と温泉の郷 スコレー都市石和を志向して |
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萩野 正直 (山梨県) 石和町長 |
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昭和36年1月、突如として葡萄畑の中から60度の高温で、多量な良質なる温泉が湧出し"青空温泉"として当時マスコミで題材的に取り上げられてから、はや40余年が過ぎ去りました。この間、「果実と温泉の郷」スコレー都市石和を町政発展のスローガンに掲げ、町民ぐるみの取り組みを得ながら今日まで推進して参りました。スコレーとは古代ギリシャ語で、市民が自由に自主的に町政に参加し、学芸を楽しみ、善き人間となる為に徳を磨く活動を言います。 石和温泉の旅館もご多分にもれず、右肩上がりだった昭和後期から平成初期にかけては、競って設備投資に力を入れ、旅行代理店主導型の団体旅行のデスティネーションとして、活況を呈しておりました。と同時に、男性天国と呼ばれ歓楽的色彩に走った面もあり、一時は芸妓の数だけでも千人を越す勢いでした。建物は自ずと、鉄筋コンクリート造りの箱型の収容力のみに力点が置かれ、質的には没個性的なホテルが出来上がってしまいました。 ところが、バブル崩壊後の昨今は玄関を開けておけばお客様が来た時代は終焉を迎え、業界を取り巻く環境は目まぐるしく変貌を遂げました。モータリゼーションの発達、企業の連続休暇制の定着、学校の週5日制の導入と価値観の変化により、旅行形態も様変わりました。 直近のJTBの統計によりますと、15人以上を団体として捉えた売上高ベースで、団体2に対して個人・グループ型に完全に移行してきております。この変化に呼応して、当地区の観光施設も急激なシフト変更を余儀なくされ、苦難な時期に入りました。近年ようやく温泉街を歩くと、ファミリー層やヤング女性層が目立つようになってきました。 即ち、夜はポルノサービスしかない温泉から脱却し、知的興味や好奇心を満足させるサービスを提案する型へと意識が変わりつつあります。お客様は風呂に入って美味しいものを食べて寝るだけでは満足せず、起きている時間を如何に楽しく過ごすかの提案が求められているのです。 このような顧客ニーズを先取りすべく行政サイドでは、足湯の建設や温泉通り、JR石和温泉駅の環境整備事業などを計画し緒についている所です。働き、学び、憩うことの出来るスコレー都市を目指して、歴史と文化をキーワードとするバリアフリーの散歩道や、温泉と癒しをキーワードとする公園まちづくりをすすめております。 非日常の自然環境の豊かな場所作りとすべく、ウッドデッキの歩道、鯉の滝上りゾーンや、甲斐八景にもある石和流蛍を再現すべく蛍の里等を設けをポケットデッキにはベンチを設置して休憩コーナーとし、四季折々の花々で季節感を演出するよう考えております。又、観光と農業の融和を図るべく農産物の直売所を設け新鮮な商品を低廉な価格で求められるよう考えております。 さらに一方では、このようなハード面の充実と平行して、ソフト面でのおもてなしの心、タクシードライバーの資質向上や町民の観光客への親切な道案内をはじめ、たばこや空き缶のポイ捨てを止め、ゴミ一つ落ちていない美しい街づくりを目指していきたいと思います。 観光と言うと単に、「旅行業」という捉え方をする人が多いのですが、観光はその土地の総合の文化力につながるのだという認識に立脚すべきであると考えます。現に、青森県庁では「文化観光部」という名称を使用しております。要は観光とはその地域から新しい価値を創り出すことなのです。 最後に、温泉フォーラムですので温泉について触れますが、東京お台場の大江戸温泉物語では、参勤交代の湯という企画をつくり近郊の温泉から名湯を運ばせ、本場の名湯体験を提供することとし、希望する温泉のアンケートをとりました。その結果、石和温泉が第5位に入り、若い人たちにも人気のある事が裏打ちされております。 この大江戸温泉が年間100万人を越すのをみても、日本人の温泉好きは変わらないと思います。天台宗の天海大僧正の言に、長寿の秘訣として「お風呂に入ること」がとても良いとしるしております。とくに温泉はストレス解消、血流をよくし、自浄能力を高め、新陳代謝の促進に格好のもおといわれております。 この良質な石和温泉を大いに宣伝し、知らせて、見せて、また来たいと思わせるよう、町民一体となって啓蒙し、努力してゆく所存です。 |
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