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日本の温泉地再生への提言 [27] -第2グループ 医学

「健康のための温泉利用」
山梨県を中心にした温泉地活性化


若林 哲也
(石和) 石和温泉病院・健康管理増進センター 顧問


はじめに
平成11年4月に石和温泉で「健康と温泉フォーラム」が開催され、(1)「温泉と地域経済?その活性化をさぐる」と、(2)「温泉と健康の街づくり」の2つのパネルディスカッションが行われ、(2)のパネリストとして参加して次の三点を提案した。
1)、現在利用されている温泉の枯渇を防ぐために、新規の温泉掘削を制限し、限られた源泉を保護し、健康のために有效な方策をはかる。
2)、温泉を正しく科学的・医学的に利用するために、温泉療法医(平成15年現在、全国844名、県内12名)や温泉利用指導者(全国307名、県内12名)を増やし、温泉を利用する時は、なるべくその指示に従う。
3)、後遺症のある脳卒中や、リウマチ患者のためのバリアフリーの街、長期滞在者も退屈せずに楽しく過ごすために、温泉を中心にした宿泊施設をはじめ、健康で文化的な街づくりを図る。

健康と休養のための温泉利用
山梨には豊富な温泉(400以上の源泉)が各地に湧出していて、住民は昔からこの天与の恩恵を利用して、心身の病を癒したり、疲労の回復に役立てていた。戦国時代になると、温泉を好んだ甲斐の武将・武田信玄が、合戦で傷ついたり、病んだ傷病者や金山を採掘する労働者の疲労回復、慰安のために温泉を利用して、現代でもその名残が「信玄公の隠し湯」として県内各地に残っている。それらの中には、古くから湯治場として全国に知られ、飲み湯番付でも東の横綱になっている下部温泉や、ラジウム含有量が、鳥取の三朝温泉とともに世界一の増富温泉があり、また歴史的にも奈良朝の頃から、秘境の霊湯とされていた西山・奈良田温泉や、石和の近くにも1,700余年の歴史を持つと伝えられている岩下温泉などがある。

リハを中心にした療養のための温泉活用
石和町に温泉が湧出したのは昭和36年で、昭和40年には、関東では伊豆韮山、信州鹿 湯温泉につぎ、県内では最初に石和温泉病院が開設された。当初80床だったベット数も、現在では205床(回復期リハビリテーション128床、クアハウス部門11床を含む)に増え、リハ総合承認施設の指定を受けている。患者は東京を中心に県外からも多数来院(県内・44.2%、東京都・40.9%、その他県外・14.9%)し、入院患者の構成は、脳卒中など内科系・61.7%、骨関節疾患、リウマチ、事故による骨折など外科系・38.3%になっている。退院者の通所リハも、プール運動法などに、通院24名、入院19名が利用している。現在石和町周辺に6院(ベット数1,054床)、その他、湯村、竜王、下部に3院(ベット数402床)合計1,456床ある。

休養・保養と健康増進のための温泉活用
昭和62年6月から石和温泉病院に併設された健康管理増進センター(クアハウス・石和)は、人間ドック(総合検診)と、厚生労働省認定の温泉型と運動型の健康増進施設がドッキングし、予防医学にも踏みこんだ形で運営されている。総合健診で治療や精査が必要と判定された受診者は、それぞれ専門の医療機関に依頼するが、境界型高血圧や糖尿病など健康と疾病の予備群(半健康状態)は、栄養士や保健士、健康運動指導士や温泉利用指導者によって、栄養や温泉利用を含む運動や休養の成人病予防のための三本柱が指導される。また定期的に糖尿病教室や健康公開講座も開催して、地域医療にも役立っている。温泉を利用したバーデゾーンは、15種類の浴槽(1階・バーデゾーン(水着着用)・男女兼用)、かぶり湯、部分浴、全身浴、歩行浴、吸入浴、寝湯、箱むし、運動浴、気泡浴、トゴール湯、うたせ湯、圧注浴、(2階・浴場(水着着用)男女別)、噴出浴、外湯、サウナ湯)があり、温泉療法医や温泉利用指導者の指示に従って入浴している。このクアハウス・システムの利用によって、体力の増進ばかりではなく、肥満、耐 能障害や高血圧、高脂血症などの改善が認められている。そして温泉という大切な天与の地下資源を、正しく利用して心身の疲労回復、ストレス解消、健康増進から疾病の予防、リハビリを含めた治療まで、温泉地の三養(休養、保養、療養)が可能な街づくりを目指している。

正しい温泉療法の普及と、温泉地活性化
その後も山梨県内では、市町村所有源泉が増え、現在では公営温泉施設は73ヶ所になっている。その施設もコミュニティーセンターとして、食堂や舞台のついた広間があり、浴後の休養や気分転換に役立てているほか、福祉施設としてデイケアに利用しているところも増えている。近年の景気低迷と公営温泉施設の増加で、従来からの民営温泉旅館は量が減り、温泉街も衰退傾向にある。最近訪ねた町営温泉浴施設(平成12年3月オープン)は、浴室に全身浴、圧注浴、気泡浴、寝湯、打たせ湯、露天風呂、水風呂、ドライサウナ、ミストサウナ、塩サウナなど10種類の浴施設があり、平成14年の月間では、15,000人から19,800人、年間約21万人が県内外から来館している。衛生管理面では、水質検査を毎年実施し、また保健センターから保健士が月1回健康相談、血圧測定や食生活についての指導をしている。今後これらの公営温泉施設を利用するには、若い健康な人達を除いて、成人病(生活習慣病)や、持病(既往症)のある人は、温泉に出かける前に、主治医(なるべく温泉療法医や、温泉療養アドバイザー)(全国418名、県内6名)と相談してアドバイスを受け、温泉病院に入院加寮を要する患者以外の成人病予備群(境界型高血圧や糖尿病など)は、短期温泉療養(3〜7日)でも、高血圧、高血糖や、QOLの改善作用があり、その効果は1ヶ月ぐらい持続すると言われている。短期温泉療養の際は、温泉療養の宿(全国584館、県内13館、民間活力開発機構発行・温泉療養の手帖(第4版・平成15年11月に記載)から、自分に適した温泉地や宿を選び、近くの公営温泉施設を利用して、公共と民間が協力して、共存共栄することが望まれる。
ここ数年のあいだに、国会議員経験者である及川順郎氏の協力で、平成11年から内閣、厚生労働省、環境省に、平成14年12月には山梨県知事に温泉関係施策の要望を申入れている。温泉利用が健康づくりに極めて有效である反面、正しい入浴法が利用者に認識されていないことから発生するアクシデントを未然に防ぐためには、温泉を安全に医学的、科学的に利用するための専門指導員を常勤させるべきと提案してきたが、近年、厚生労働省と環境省が中心となり、従来より簡単に資格が取れる温泉入浴指導員の育成を進め、施設に対しても、温泉浴槽の優れた泉質を活用したプログラムがあるか、優れた周辺環境との組み合わせ、自然環境を活用した潜在プログラムがあるか、地域の健康増進事業や施設と組み合わせたプログラム、体調にあった運動・相談プログラムがあるかなど、温泉施設の見直しの動きが始まっている。因みに、養成講習会を受講して認定を得る指導員については、施設職員のみならず、公共の温泉施設職員や療養の宿、温泉ホテル旅館などの従業員、さらには、温泉利用型健康づくりに関心のある一般地域住民にも門戸が開かれている。このことは、正しい温泉療法の普及により、国民の健康を質的に高めようとしている。我々温泉療法医の目的と一致しているので、大いに期待している。


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