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日本の温泉地再生への提言 [30] -第2グループ 医学 健康のための温泉利用 |
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加藤 正夫 (下呂) 岐阜県立下呂温泉病院診療顧問 |
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健康に対する国民の関心が高まっている。 医学(西洋医学)は日進月歩で飛躍的発展を遂げ、従来、助からなかった病気も治り、延命効果が図られるようになった。反面、生活習慣のひずみが成人病をうみだし増加の一途をたどっていることも皮肉なことである。21世紀はこの病気をチェックする予防医学に目を向けていくべきである。この志向の中で温泉地も単なる遊興型リゾートではなく健康増進のために大いに利用することが可能である。 医学的立場からの温泉浴のあり方も含めて東洋医学、西洋医学を融合させた医療を核とした保養地作りは従来類のない構想であると思うのである。 自治体をも巻き込んで地域の活性化にもつながり、またそれを目指していくべきであると思う。 温泉地の活性化と健康保養地 1. 疾病構造の変化と少子高齢化 最近は生活習慣病が増加の一途をたどっている。高血圧患者は約3,300万人、糖尿病は約700万人、予備軍約700万人、合わせて1,400万人といわれている。このように疾病構造が欧米型に変化してきているといってよい。高齢化の波も着実に進みつつある。65歳以上の人口は17%以上となっている。しかも高齢化のスピードは非常に速い。北欧などの国々が80年以上の年月を経て高齢化をきたしたのに対し、わが国ではわずか25年程で17%の高齢化率に達している。更にその中で70歳以上が4割を占め、スピード、スケール共に世界の中でも群を抜いている。それにつれて医療費は国家予算の3分の1以上を占めるようになっている。この状況の中、何もまして我々は健康でありたいと願っているのである。 2.生活習慣病の対応について 現代社会では、感染症による病気より、生活習慣の歪みから徐々に病気になってゆく生活習慣病(高血圧症、高脂血症、糖尿病、痛風、癌、心筋梗塞、脳梗塞など)が非常に多くなっている。西洋医学は日進月歩で高度な成長を遂げたものの薬品による多くの副作用や臓器別診療の欠陥、個々の人に対応できない画一的診療、病人の心のケアーの分野への対応が不十分などの問題があり、対症療法では解決し得ない部分も益々見えてくるようになった。 これらの反省に立つとき、西洋医学一辺倒ではなく心身一如の観点から人間を包括的に捉える東洋医学(代替、補完、伝統医学)や温泉医療などが注目され始めている。今後更に求められてゆく医療でもある。 生活習慣の歪みを見直し、是正することは、一見容易であるように考えられるが、なかなか困難と努力を伴うものである。なぜならば、何よりも自身が自覚をし自己管理、自己改革を必要とするからである。食生活を中心とした自分の生き方(習慣)を見直し自己を変えてゆく作業が必要なのではないだろうか。 そのことによって自然治癒力、免疫力を高めることができる。人は自然と共存共営して様々な恩恵を蒙り心身を培う事が出来る。そういう意味からも大自然の中の温泉地は従来の遊興型のみでなく健康志向の中心として十分その役割を担い得ると思われる。 厚生省は昭和63年来「第2次国民健康づくり対策=アクティブ80ヘルスプラン」をすすめている。その一環として栄養、運動、休養についての施策への取り組み、なかでも休養については検討が進められ、将来健康休暇の普及がはかられるようになると思われるので温泉地も一層の脚光をあびることになると想定されるのである。 3.21世紀の健康保養地 保養地の備えるべき機能は第一に、自然を活用して健康増進が図られる事、そのためには温泉地が最も望ましい。それは転地療養など湯治の場として古今東西人々に根付いているからである。第二に温泉を医学的に利用し活用する為にもまた単なるリゾートに終わらないためにも核としての医療機関を備え相携えていくこと、第三に、文化、教養を高める事が出来、地域の人々との交流が図れることである。 当地岐阜県では、健康立県をめざし、県立下呂温泉病院(昭和63年臨床研修指定病院、第二次救急病院)には平成5年東洋医学診療、東西医学ヘルスドッグが開設された。これは西洋医学的健康診断で異常が発見された時はすでに病気であり、健康医学的立場からは晩期発見であると言わざるを得ない。 前にも述べたように、病気になる前の段階で生活習慣からくる歪みを発見し未病を治すということに重点をおくことが早期発見、早期治療ではないかという視点から、東西医学を予防面から融合した画期的な人間ドッグである。ここでは、良導絡の検診、ストレス診断、食養生実践指導、皮膚の健康診断などなどがおこなわれている。更に疾病治療、救急治療はもとより、温泉を利用したリハビリテーション機能も整備されている。近い将来これらを利用して予防、治療、リハビリ機能を一層充実し三位一体の健康医療センターの設立が計画されている。 4.地域の活性化と将来 当地周辺は自然の宝庫であり、海抜1000m近い高地トレーニングも可能で、薬草が豊富でもあり遊歩道、森林浴に適している。 また、現代の病気の大半が食原病ではないかと考えられ、医食同源の観点からも周辺農地を活用し、有機農業を実践し、都市の人々とも農業体験を通して交流をはかると共に食文化の向上を図る事が望ましい。 更に温泉浴の原点に立ち返り、湯治場的風情をかもし出すことができれば保養地としてより質の高いものが出来るであろう。収穫した食材はヘルシーレストランや、朝市で販売できるよう組織化すべきである。環境問題も含めながら、一人一人の意識を高めてゆくことである。 観光産業としての第三次産業の役割は益々大きくなる。平成12年の国民調査では、第三次産業の従事者は約66.7%といわれている。が、旅行日数はフランスの約6分の1(フランス19.6泊に対し日本は3.3泊、‘96. 10 リゾート協会調べ)である。国民志向が所得重視から環境コミュニティ志向に変化することも予想される。従って、地産地消の健康にやさしい ≪食≫ 文化づくりと ≪自然のまま≫ のたたずまい、それに ≪人と人≫ との共動、共助の関係構築を重視しながら、また日本文化を見直しながら世界の国々から人が集まる環境作りをすることが更なる活性化につながると思うのである。 |
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