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日本の温泉地再生への提言 [41] -第2グループ 医学

温泉の科学的研究の復活を

斎藤 幾久次郎
(中伊豆)医学博士 元北海道大学教授


健康のための温泉利用
わが国には全国いたるところに温泉があるので、利用しようと思えば何時でも身近ににあります。このように温泉に恵まれた国は世界でも珍しいと思います。従って国民の多くが温泉を利用して来ました。その目的の第一は温泉を利用して健康を保ち、病気を予防すること、次に病気を癒し、また病後の体力の回復に温泉を利用して来ました。一括しますと温泉利用の目的は保健、保養、療養といわれておりますが、我が国では今まで最も多く用いられたのは保健を兼ねた観光が目的ではなかったかと思われます。本来の保養とか療養の目的には一部を除いて多くは用いられませんでした。わが国では昔から“湯治”と称して主に東北地方の温泉が用いられて来ましたが、これは本来の近代医学的利用ではなく、民間主導の利用法でありました。明治になってからベルツ教授らの指導で一部大学に近代温泉医学の研究所が開設され、漸く近代温泉医学が始まったところ、近年大学改革と称し、文部科学省は岡山大学三朝分院、鹿児島大学霧島分院を除いて悉く廃止してしまいました。
温泉を健康増進、療養のために利用しようとするならば近代医学を用いた温泉医学の研究が是非必要であります。またこれに附随して療養地学、気候医学の研究が必要です。
これらの医学的研究機関の設置が、今後わが国の温泉地の発展のため願望して止みません。

温泉地の再生のあり方
1.生活習慣病についての温泉療法
生活習慣病とは肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風、骨粗鬆症などを一括して云うとのことですが、その改善策は名称の通り第一に守らねばならぬことは生活習慣の改善で、まず食事の規正です。これは薬物療法でも温泉療法でも第一に守らねばなりません。従って自宅でも、温泉地でも決められた通りの食事をとらなければなりません。例えば糖尿病ならば決められたカロリーに制限すること、高血圧や動脈硬化症ならば食塩や脂質を制限することが必要です。山海の珍味を腹一杯食べて、いくら温泉に入っても糖尿病は改善されません。のみならず悪化するでしょう。動脈硬化症、高血圧に効くと云われる温泉でも、自由に塩分をとっていたら効果はありません。もちろん食塩泉などは飲用すべきではありません。
次に決められたように毎日運動をすることも大切です。入浴も温度、回数、プール内の運動すべて温泉療法医の指示に従って行うべきです。
屋外の運動も温泉療法医の処方に従い、運動指導者が実施するのが理想です。
以上これらの根本的療法を行った上で温泉療法を行いますが、温泉はいずれも成分、温度等が異なりますので、各々経験によって、入浴回数、入浴温度、飲用量などを決めなければなりませんが、本来は実験データに基づかねばなりません。わが国の温泉には実験データが甚だ乏しいのが現状です。従って現地の医師(温泉療法医)の指示に従うより仕方がないと思います。
以上述べた温泉療法で得た知識を日常生活に戻っても実行し、毎年くり返せば必ず効果があると思います。
温泉療法によって生活習慣病を完治することは不可能ですが、少なくとも悪化を防ぐか、遅らせることは可能です。

2.温泉保養地のあり方
 わが国の温泉地は東北地方の湯治を専門とする温泉場と観光、保養を主とする温泉場に分けられます。そして後者が温泉地の大部分を占め、大小の差はありますが、いずれも同じような設備で、同じようないわゆる温泉客を相手としております。昔ある人が日本の温泉場は金太郎飴のようだと評した人がおりました。
実際温泉地の旅館は観光・遊興を目的とした客で占められ、保養・療養客は隅に追いやられ、安眠も出来なかったというのが現状で、有名な明治 大正時代の小説の中にも書かれております。
私はわが国の温泉地を改革する意図があるならば次の私案を提案致します。

(1)宿泊施設(ホテル)
a 観光・遊興客を対象とする施設
食事は客の注文通りに提供する。遊興税を課した遊興施設を設備する。入浴も自由である。この税金は温泉場の施設改善に用いる。
b 保養・休養客を対象とする施設
  2〜3日滞在して保養・休養したい客を対象とする。個室(ホテル式)を主とする。食事は注文による。栄養士の指導を受ける。
c 療養と病気回復を対象とする施設
  生活習慣病の療養、神経痛、リウマチなどの慢性疾患、外傷後のリハビリテーション等を対象とする施設で1週間以上の長期滞在客を対象とします。
入浴場や飲泉場を設置し、全館バリアフリーとすることが必要です。食事は栄養士の指導に従います。客室はホテル式にして、個室または2〜3人部屋とします。
また温泉療法医や保健指導士等と連携をとれるようにします。
入浴法や飲泉法は医師の指示に従い、中央の温泉治療館に通院出来るようにします。

(2)屋外施設
・テニス場、小運動場、小公園、などの施設や遊歩道の整備
・図書館、会話室などの教養施設
・美術館、展覧会、音楽堂、ファッションショーなど

 滞在客が飽きないよう工夫することが大切で、外国の温泉場を見習う必要があります。

(3)中央温泉館
温泉療法が完全に実施出来るよう設備と人員配置(運動指導士、温泉療法士など)が必要で、温泉療法医の指示で実施出来れば理想的です。

(4)環境の整備
外国の温泉場は自動車乗入れが制限され、駐車場は地下に造っているところもあり、温泉場の周囲には立て札があり、温泉療養地故警笛を自粛するようにと掲示してあります。また客がゆっくり散歩出来るような小公園が必ずあることは皆さん御承知のことと思います。わが国にはあっては整備不良で、放置しているところが多いようです。

(5)気象の報知
療養客にとって気温、風向、湿度などの気象条件は大変重要で、喘息患者、リウマチ患者などは特に大切です。出来れば1年の予報を出すべきです。
温泉療法は温泉だけの効果ではなく、食事、気候、環境などの因子が影響します。
温泉療養客は温泉はもちろん、これらの因子を考慮して温泉地・季節・滞在日数などを決めます。

以上、わが国の温泉地のあり方について私見を述べましたが、最後に世界に誇る質と量の温泉を持つ日本が、今後これを活用出来るか否かは温泉の科学的研究によること大であります。是非温泉研究所の復活を願望致します。



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