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日本の温泉地再生への提言 [47] -第2グループ マスコミ・メディア

現状と問題点

湯川れいこ
音楽評論家・作詞家



現状と問題点
まず「温泉」とは何か、ということですが、本来は地熱によって温められた地下水が湧いて出てきていることを申します。
かりにそれが冷たくて、入浴するためには沸かす必要があるとしても、ミネラル分を豊富に含んだ水質の物で、たっぷりとした湯量があり、さまざまな病気に効く効用が無ければいけません。
それが最近は源泉が枯れてきているのを補うために水で薄めたり、循環させることでサルモネラ菌が培養されるなど、とても温泉とはいいがたい施設がある他、ホテルが大型化することによって、スナックからお土産店まで施設内に囲い込んで周辺の街が無残に寂れたままに打ち棄てられているケースも目立ちます。
それに私は、朝食が早いのも、チェックアウトが10時というのもイヤ。温泉に行った時くらい、お昼までゆっくりと寝ていたい。日本の温泉は素敵だけれど何かと窮屈なのではないでしょうか。

温泉地の再生のあり方
明治9年に来日したドイツの医師エルウィン・フォン・ベルツという人が、寄生虫病を研究するかたわら温泉医学に強い関心を持って、日本各地の温泉を巡り歩いたという記録があります。
そして明治11年に訪れた草津では、強酸性の刺激の強い温泉の薬効を、効果的に利用する「時間湯」という特殊な入り方を見て、医学的にも理にかなっていると驚き、「世界第一級の温泉保養地だ」と、広く世界に紹介したといわれています。
そんな湯治の伝統も今はほとんど残っておらず、温泉といったら高級感のある宿泊施設に泊まって、山の湯でも刺身や海老フライやステーキなどのご馳走がズラリと並ぶ・・・というのが温泉のイメージをなりましたが、さすがにバブルがはじけてからは、団体客のドンチャン騒ぎがめっきり減って、私のような静寂系を好む客は正直ホッとしております。
それでも、高級感漂う上品な宿は平気で3万〜5万は取るし、湯舟が広くて露天風呂が豊富といった所は旅館(ホテル)も大きくて、カラオケ・スナックからお土産屋までを館内に揃えており、判で押したような夕食を、それも大きな宴会場で食べさせられたりします。
できれば町に出て、新鮮な魚介類でその土地の料理を食べたいと思って外にでかけても、小さなスナックが1〜2軒あるだけで、お土産屋さんはもとより、地元の商店街そのものが寂れて人影もない、なんてことさえしばしばです。
たまたまそんな日本の温泉に物足りなさを感じていた時に、ラス・ヴェガスの砂漠の中にある温泉に行ってみないか、という話が持ち上がりました。
その前にオーロラを見に行った先のアラスカで、フェアバンクスから一時間ほどのところにあるナエナ温泉のプール・サイズの露天風呂に入った体験があり、温泉本来のダイナミズムと素朴さに触れてみたい!という欲求が強くなっていたのです。
なにしろこの日本では、人々は縄文時代、今から6000年もの昔から温泉に入っており、熊野三山の熊野本宮に近い紀伊半島奥地の湯の峰温泉が開湯されたのは、今から約1800年前頃のことだというのですから、そんなより「純粋な温泉」を、大自然の中で存分に味わってみたいという思いが会って、「よーし、何も温泉は日本だけの名物ではないのだ。世界中の温泉を巡って紹介する紀行文を連載するぞ!」と、妙に張り切って、ラス・ヴェガスに出かけて行ったのでした。
そして、評判の「0(オー)」や「デ・ラ・ガルーダ/ビーシャビーシャ」など評判のショウを見まくった後で、車を飛ばすこと1時間半。ネヴァダ州からユタ州にちょっと入ったあたりにハリケーンという小さな町があって、そこでフリーウエイを降りたあと、ブライス・キャニオンという渓谷に降りていったあたりに、その温泉PAH TEMP MINERAL HOTSPRINGS はありました。名前にミネラルと付いているだけあって、話には聞いていたけれど、まるでシャンパン風呂に入ったような気泡泉で、お湯の質はまろやかでスベスベとしています。
え?ここが温泉?という、インディアン風の木枠が立っているだけの入り口を入ると、髪を三つ編みにしたインディアンのおじさんがいて、入湯料は10ドル。一応真水のプールもあったり、宿泊設備やトイレも完備していますけれど、お風呂は渓谷添いにコンクリートで囲った湯船が幾つかと、洞窟状の穴があって、この洞窟の中でプツプツと湧き出している秀明な気泡泉が、実に気持ち良かった!
それに熱くなったら下の川に降りて水遊びしたり、さらに川沿いに奥に行くと、あと幾つかのお風呂が見つかるのだとか。
このラス・ヴェガスの砂漠の奥にある温泉を訪ねた後は、ロサンゼルスからサンフランシスコに向かって101を飛ばすこと3時間。森の中に一軒ごと大きな木の酒樽を置いたようなシカモア・ミネラル・スプリングスにも行きましたし、映画「パーム・スプリングスの出来事」でも有名なパーム・スプリングスにも行きました。
このパーム・スプリングスは、LAからフリーウエイ10を東に2時間ちょっとで行ける有名なリゾートで、デザート・ホット・スプリングス・ホテル&スパがおすすめ。
なにしろ水着に着替え、3ドルを払ってホテルの中庭に出ていくと、大きいの、小さいの、深いの、浅いの、泡が出ているのや熱いの、ぬるいのと、色々なプール状の温泉が用意されていて、周囲にはオイル・マッサージやエステ用の部屋があり、オープン・カフェ風のレストランからバーまであります。
つまり、その気になればカリフォルニア・ワインを飲みながら、パスタなど食べて、あとは日がな―日本でも読みながらゴロゴロしていられるわけで、食べ物などの料金は別にしても、これでたったの3ドル!しかも、「酒気をおびて入浴しないで下さい。」などとは書いてなくて、あくまでもその人の自己責任のもとにのんびりと放っておかれるのですがら、私のような人間には有りがたいことこの上なしです。
このあと、コロラドやオレゴンのキャンプ場にある温泉など、日本の若い女の子が行ったら、周囲には着替えるところも無くて、秘湯というよりは野生むき出しの所もあったりして、ちょっとどうかなァ・・・と思いながらも、先々はバリやアイスランド、ルーマニア、トルコ、ドイツなど、世界中の温泉を訪ねてみようと張り切っていたのでしたが、そこにドカーン!と勃発したのが、あの9.11だったのです。
いらい日本の温泉は活気を取り戻し、週末やシーズンはどこも満員で、日帰り温泉や、掘ったら出て来た市街地温泉、町中温泉など、バラエティーに富んではきましたけれど、どこかもうひとつ垢抜けない。行き気がしない。これは何かというと、どっちつかずで半端なのです。
もし子供と一緒に遊べる温水プール風にするなら、レストランももっと安く、あくまでもファミリー対象にファミレス化して欲しいし、高級感のあるクア ハウス&リゾートなら、日曜、祭日など特定の日以外は、子供を入れないで欲しい。水着のままで一日遊べて、パーム スプリングスのように、お風呂やプール サイドで食事が出来たり、ワインをオーダー出来るような、大人の遊び場の雰囲気が欲しい。
それとそろそろホテルや旅館は、チェック・インを2時か3時頃にして、チェック・アウト・タイムをお昼頃にして欲しいものです。
そしてお食事も、チェック・インした時点でメニューから注文を取るとか、外に食べに行けるようにして、周囲の町そのものも、アメニティとして考える方向に行くべきでしょう。
すでにそうやって再生を計っている熱海や兵庫県の湯村温泉のようなところがあちこちあるようですが、足湯がいいとなれば、どこもかしこも川原や駅前に足湯を作るといったことはやめて、温泉本来の魅力や伝統を活かして欲しいと思います。
つまり、そこの温泉が何に効くか。どうしたらその効用を倍増できるか。「時間湯」のように、マッサージやセラピーやカウンセラーを置いて病気や体質や要望に対応するのも一方法だし、食事から風土から方言まで、その土地ならではの特色を出して欲しいと思うのです。高級感や大人の雰囲気を作ることと、西洋化するということとはまた全く別ですから、決して間違って欲しくありません。
そして大自然の恵みを活かした素朴で豊かなスローフードと、時間にゆとりのあるスローライフ、ぬくもりのあるサーヴィスに上質の温泉があれば、人は喜んで何回でも足を運ぶと思いますよ。私は3日で3キロ痩せられる!なんて温泉があったら、すぐにゆくけど・・・。


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