Home 健康と温泉フォーラムとは 事業 組織
会員オンライン 情報ファイル お問い合わせ
目次 NEXT

日本の温泉地再生への提言 [56] -第2グループ 学者・専門家・団体

オンリーワンの温泉地づくり

小野 倫明
日本温泉保養士協会理事



日本の温泉の現状及び問題点
21世紀のビジネスポイントと言われるのが、「健康」「安全」「環境」、これらは日本の温泉地を発展させていくキーワードでもあります。
このキーワードは、人間が快適に生きていくための原点であり、成熟社会と言われる現代だからこその考えであります。
3,000を越える日本の温泉地に、「今、何が求められているのか」と考えたとき、それは「温泉」そのものであり、循環や濾過、消毒、加温、加水などをしていない湧きたての天然温泉にほかなりません。
「高齢社会」「ストレス社会」「医療費増大社会」などと言われる現代社会にとって「温泉」をどのように利・活用していくかが求められているのです。
「温泉」には、一つ一つ湧出過程や成分といった履歴があり、全く同じ温泉は一つもありません。「温泉地」も同様です。一つ一つ履歴の違う「温泉」と「温泉地」の特質を活かしたオンリーワンの温泉地づくりが温泉地の再生につながるのです。

1.今、温泉(地)に何が求められているのか。
現在、3,000を越える温泉地で淘汰が始まっていると言っても過言ではありません。生き残る条件は、次の3点に絞られます。1つは、「源泉掛け流しの温泉」、つまり湯量が豊富で自然湧出し、それを加水などをせず、源泉100%で利用するものです。
現在の温泉地では、さまざまな事情により循環をしている温泉が約7割あると言われています。温泉の持つ効能を最大限引きだすには、源泉掛け流しは原則的な要件と言えるでしょう。
2つ目は、「温泉力を持った温泉」、温泉力とは、人間の心身に与える直接的、間接的、持続的な効能が際立って優れている温泉のことです。現在、「温泉」は、科学的な根拠(エビデンス)を重視したEBMでは証明されていない効能が多く、2?3週間の湯治による経験的な効能が伝えられています。今後は、温泉医学の分野がさらに進歩し、数値化や集約化といった一般的な評価方法だけでない方法による効能の実証がなされていくでしょう。
ドイツでは、すでに炭酸泉、硫黄泉、放射能泉、強食塩泉の各泉質で効能が科学的に実証されたとする学会発表もされているのです。
3つ目は、「温泉地の一体化した取り組み」なのです。草津、別府、湯布院、黒川などの温泉地のように一体化した取り組みが重要になってきます。つまり、一つ二つの温泉旅館や温泉施設の人気繁栄だけでは長続きは難しいのです。温泉旅館、商店街、温泉地住民全てを含めた温泉地の取り組みが必要なのです。
これらの3点には、日本人が文化として大切に育ててきた思い入れとDNAのようなものが込められているのです。
ここに上げた条件を適える上で、最も重要なのが、「温泉の科学的な追求」であり、前述のようにドイツなどで進められているような温泉の効能を科学的に実証することへのさらなる研究挑戦が不可欠です。
日本では、温泉医学研究をする大学等の研究部門の縮小や閉鎖が続いてきましたが、今こそそれらを復活させる時期にきているのです。

2.今、求められている温泉利用法とは・・・
温泉を利用した「健康温泉浴」は、大きく3点に区分されます。
1つは「源泉浴」で源泉掛け流しの温泉に入浴する方法、二つ目は「温浴」と言われる方法で、バブ(気泡浴)やジェット(圧注浴)など多機能を備えた入浴方法、3つ目は、温泉プールや運動浴槽を利用して水中運動をおこなう「運動浴」という方法です。それぞれに特質があり、これらを組み合わせて相乗効果を引き出すようなソフトプログラムとシステムが重要です。
また、「温泉」そのものだけに限らず、前述の健康温泉浴と相乗効果が期待できる保養資源(または健康資源)を活かしたソフトプログラムも温泉利用法になるのです。それには、各温泉地ならではの保養資源を整理する必要があります。
保養資源を、気温や降水量、土地利用形態、地勢などの「基本資源」と、自慢の風景、自慢の施設、祭りなどの伝統行事や風習などの「特異資源」、1,000?1,500mの準高地登山、海岸の砂浜をストック(ポール)を使って歩くウォーキング、温泉プールを利用した水中ウォーキングなどの「健康資源」に区分整理をし、健康温泉浴との相乗効果を考慮し、ソフトプログラムを組み立てていくことで、1つ1つの温泉地ならではの温泉利用法ができるのです。
次に、「健康温泉浴」の3つの棲み分けや、温泉地ならではの「保養資源を活用した温泉利用法」が利用者の目的や要望に合わせて提供できる「人材」が不可欠になります。
この「人材」の要件は、温泉のもつ保健的機能の知識を持ち、健康温泉浴、保養資源を活用した温泉利用法を、安全かつ適切に実践指導、提供できる人材になるでしょう。
今まで、ほとんどの温泉地では、「温泉入浴、宿泊、食事」のサービス提供が中心でしたが、これからは、「温泉入浴、宿泊、食事」を分離し、利用する側が選択できるようにし、前述の「人材」による「健康温泉浴」と、温泉地ならではの「保養資源を活用した温泉利用法」が提供できる温泉地が求められているのです。

3.温泉保養をライフスタイルとして・・・
現代社会では、季節の暑さ寒さを感じない冷暖房、昼夜を問わない労働など、自然の流れに逆らった生活をすることが多くあります。また、複雑化する人間関係などにより、避けがたい数多くのストレッサーに囲まれた生活をしています。さらに、生活習慣病などでもストレスの原因と思われるストレス性疾患も増え続けています。こうしたストレスをコントロールし、軽減していくことが重要なのです。
そこで、温泉地に滞在し、自律神経系、内分泌系、免疫系の機能を正常な状態に戻すことは、ライフスタイルの1つとして不可欠になってくるでしょう。
「温泉保養」は、気温や湿度等が変化する季節の変わり目に行うと効果的なのです。温泉保養には、本来2?3週間の滞在期間が望ましいのですが、長期滞在がさまざまな事情で難しい方が多いのも現実です。
そこで、季節ごとに2泊以上の保養を目的とする「滞在リピート型温泉保養」が現代型の温泉保養と言えるでしょう。これは、日常と非日常の中間に位置し、日常のストレッサーから脱却し、生体リズムに沿ってバランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠を体験するもので、その体験を活かし、本来の温泉湯治の持つ効果、トリゲンタンリズム(3週間)を継続する生活パターンに少しづつ近づけていくわけです。
つまり、季節の変わり目の体調変化を温泉保養によりスムーズに適応させていく現代の湯治スタイルです。「非日常」というと、普段体験したことのないことを体験をするイメージがありますが、具体的には、「理想的な日常」ととらえ、快適な生活をするための体験、そしてそれを日常生活で少しでも実現していくことになるでしょう。
「長期滞在型」の温泉保養を実現するためには、社会的な制度や個人のライフスタイルなどが大きく関わってきます。特に、社会制度では、余暇をめぐる環境として、法定休日の問題が上げられます。
法定休日の年間休日数(週休日・祝日等含めて)は、国際比較で見ると欧米主要国と同水準なのです。
しかし、年次有給休暇の実取得日数は、ドイツの31日、フランスの25日、イギリスの24日に対して、平均9日と低くなっているのです。知的労働が増える中で、さらに労働生産性の効率を上げるためにも、年次有給休暇の中で、実質的な「健康増進休暇」が検討され、温泉地での長期滞在が可能になり、本来の温泉保養が実現できることが望ましいでしょう。
最後に、温泉地が再生、活性化するためには、一つ一つ温泉地が温泉、歴史
性、文化性、自然環境の特質を活かした取り組みをしていくことが重要なのは、ほとんどの温泉事業に携わっておられる方々が気づいているのです。しかし、それを実現するのは、たやすいことではありません。
実現のために、まずやらなければならないことは、「温泉地の特質を理解した人材」を育てることではないでしょうか。


目次 NEXT
Copyright(c)2004 NPO法人 健康と温泉フォーラム All rights reserved.