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日本の温泉地再生への提言 [62] -第2グループ 学者・専門家・団体

日本が生んだ温泉という文化を発展させるために


北澤 健次
株式会社ツムラ ライフサイエンス本部 マーケティング部長



日本の温泉の現状および問題点

私は(株)ツムラのライフサイエンス本部(入浴剤を中心に、いわゆるトイレタリー関連の商品を販売)という部署で、商品開発から販売施策までのマーケティング業務を担当しています。日常の業務活動を通して見た、温泉の現状および問題点について考えてみたいと思います。
当社で販売している「日本の名湯」という温泉入浴剤の開発の一環で、箱根にあるいくつかの温泉に行ったことがあります。ここで、まず驚いたのは、ほとんどの温泉街で「女性のグループ」をターゲットにした営業をしており、お客のほとんどが「女性グループ」で賑わっていたという点でした。

もちろん、かつての職場旅行の観光スポットとして、浴衣姿のおじさん達が、お座敷で宴会をしているイメージは古い、という認識はありましたが、ここまで女性向に対応しているというのは、衝撃的でした。それは宿泊客が最も楽しみにしている食事のメニューに表れており、ほんの少しずつ、きれいに盛り付けられた料理が10数種類出てきて、豪華な気分をおいしく味わえる、満足感の高いものでした。首都圏に近いという立地条件もあるでしょうが、まさに現代の温泉街を実感しました。

逆に「温泉の泉質」にこだわっている旅館に行ったところ、そこのご主人いわく「最近ではお湯を循環させている旅館が多く、本物の温泉は少ない」とのことでした。この旅館では今時珍しく「飲泉」もでき、駐車場脇からは白い硫黄泉が無造作に流れ出ていました。しかしこの旅館はどちらかというとお客も少なく、一部の固定客が来ている感じでした。

この対象的な温泉宿が今の現状と問題点を示していると思います。


温泉地の再生のありかた

1.世代の変化・ライフスタイルの変化

温泉地の再生のあり方を考えるにあたって、最も考慮すべきなのは、私たちの急速な高齢化とそれに伴うライフスタイルの変化だと思います。
特に昨今話題になっているように、これから団塊の世代が大量に定年を迎え、これまでにかつてなかった新しい消費社会を作り出していく、ということではないでしょうか。
これらの、いわゆるアクティブシニアの需要をどう取り込んでいくかが重要です。

1) 定年後、もっともやりたいことは、「旅行」
・海外も含めて最もやりたいのは旅行です。この世代に向けて、温泉地から何を発信できるかが課題と思います。
2) 健康に対する関心が高い
・日常生活、食事、余暇などに常に健康を意識している世代です。温泉の効能をどのように、何と関連付けてPRしていくかが重要と思います。
3) スポーツなど活動的なことがやりたい
・今の50代、60代は昔と違い、非常に活動的。スポーツもゲートボールだけ、ではなく、ゴルフ、テニス、スキーなど普通に楽しむ世代です。今まで休日しかできなかったこれらのスポーツを平日、自分たちの好きな時にできるということです。
・しかも、車の運転なども平気なので活動のエリアが広い。
4) 夫婦だけでなく、趣味の仲間でも行動する
・先日テレビで、ある旅行会社が、趣味のサークル向けに都内に会場を提供している、という番組がありました。この目的は、趣味で知り合った仲間と一緒に旅行を企画してもらうことだそうです。
5) 内容によってはお金をかける
・ これらの世代は、将来に向けてお金は持っているが、無駄なことには使わず、自分達が気に入った内容なら出費もする世代です。安ければ良いというわけではないのです。
6)女性が活動的
・フィットネスクラブの主な客層は年々女性が増加しています。これは、いつまでも女性が美しさとか若さということを追い求めている証拠です。冒頭に述べた温泉地の対応はまさにこの需要に対応しているということでしょう。
7)インターネットの普及
・すでに高齢者でもインターネットを使う時代ですが、現在でも現役で活用している団塊の世代がリタイアした時の普及率はさらに上がるでしょう。この媒体を使った告知は非常に重要だと思われます。

いくつも述べましたが、これ以外にも色々な特長を持つ世代が、自由時間を持つということで、温泉地の活性化を考えるべきではないでしょうか。


2.温泉の効能

では温泉の効能とは何かというと、簡単にいえば下図のようなものがあると言われています。



これらのすばらしい自然の恵みを、いかにして私たちの生活・健康に役立てていくかという事だと思います。


3.温泉の活用

先ほど述べたライフスタイルの変化と、温泉の効能ということから、その活用の仕方を考えてみたいと思います。

1) 本来の温泉利用のあり方
・この問題は、いち消費者の立場から考えるべきと思います。温泉の効能は自然を満喫しながら温泉につかることで、心身ともにリフレッシュできるということでしょう。
・すると、殊更、健康のため、保養のためと強調するよりも、その温泉地の持つ特長、歴史、文化、泉質が一体となってPRされるべきと考えます。また、そこにアクティブシニアに向けた新たな情報発信があれば、なおさら魅力は増すと思います。
2) 温泉地の町並みの整備など環境整備が必要
・これからの活動的な世代の温泉利用を考えると、道路整備なども含めた環境整備は非常に重要なテーマではないでしょうか。
・また、それは各温泉地の持つ特長と関連してくるでしょう。つまり、スキー場に近い温泉地は、スキー場と関連付けた魅力を謳うべきでしょうから、それなりの環境整備が必要と思います。当然女性を考慮することが重要ではないでしょうか。
3) 長期滞在型の温泉地利用
・欧米にはもともと長期休暇を取り、ゆっくり休養する文化がありますが、日本人には休日を利用して観光地で遊ぶという、経験しかありません。
・当然、普段健康な人が休養で長期滞在することは考えられないので、何らかの健康障害に対して、温泉の効果を大きくアピールすることが重要ではないでしょうか。
・たとえば、アトピーに苦しむ人への効能とか、医療のひとつとして認知させるべきだと思います。
4) 温泉地の活性化のために(自治体で考えるべきこと)
・やはり消費者(観光客)を呼び寄せる以上、他の温泉地との差別化、特長を町ぐるみで考える以外にないと思います。そういう意味では各自治体は競争になるわけで、地元の固定客を確保しながら、それ以外の地方から新しいお客を呼び寄せなくてはならないわけです。
・すると、重要なのはその温泉地が、温泉だけでなく、何が売り物で、どんなに便利に利用できるかを、いかにPRするかだと思います。
・つまり消費者ベネフィットをいかに発信するか、ということです。


4.入浴剤の活用

当社では「自然と健康を科学する」という経営理念を掲げております。これは、明治26年自然の生薬からできた婦人薬「中将湯」で創業した、ツムラの原点であります。現在では、医療用漢方製剤のトップメーカーとして、またバスクリン、日本の名湯といった入浴剤、最近では有効成分が生薬100%の発毛促進剤「モウガ」などで社会に貢献しております。

入浴、温泉ということに関しては、当社の歴史は古く、明治30年には、婦人薬「中将湯」の製造の残りをお風呂に入れたら非常に温まったということから、「浴剤中将湯」を発売し、現在のバスクリンにつながっております。

最近では、日本の名湯シリーズ(この商品は、各地の温泉を探索し、その温泉地の成分に近い製剤処方になっております)につづいて、温泉の成分を、発泡するツブに凝縮した商品「きき湯」を発売して、大ヒットとなっております。

「その日の症状、その日のうちに」というキャッチフレーズで、細野晴臣さん、山咲トオルさん、中島知子さんのCMでおなじみですが、たまる肩こり、腰痛、気になる肌荒れ、冷え性など具体的な効能を前面に出した商品です。

ここで書かせていただいたのは、普段温泉を利用する機会がなく、これらの商品をお使いいただき、喜んでもらった消費者の皆様から、有り難いお礼の言葉を頂戴しているからです。

「深夜まで仕事をして“きき湯”に入ったら、本当に腰痛が楽になった」とか「温泉にいけないので、日本の名湯で各地の温泉を楽しんでいる」など、先に述べた「温泉の効能」を、入浴剤を使うことで実感していただいているというのは、本当にうれしい事です。

これからも温泉・入浴の効能をお客様に喜んでいただける商品づくりをしていきたいと思います。昨年秋から「温泉科学プロジェクト」というWEBサイトも立ち上げているので、是非ご覧いただきたいと思います。

最後になりましたが、これからも「健康と温泉フォーラム」を通じて、温泉という日本の文化の継承、温泉の効能をいかに伝えていくかを一緒に考えていきたいと思います。
以上


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