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日本の温泉地再生への提言 [69] -第2グループ 学者・専門家・団体

世界に通用する温泉文化を復活する為に

篠原 修
東京大学大学院教授



浸りたい露天風呂、
気がすすまない温泉観光地
もう1年以上も温泉に入っていない。時折手足を伸ばして露天風呂に浸り、夜空を眺めたいなあと思う。しかし多忙ということもあって、無理をしてでも温泉
観光地に行こうという気にはならない。
まず第一に高い。エアコンが行き届きすぎたコンクリートの箱に入れられ、定番の刺し身、天ぷら等の食べきれない夕
食を出され、朝はバイキングと称する和、洋、中、何でもありのワサワサとした大ホールに案内される。ゆったりとくつろぐ所ではない。つまり第二に、全てがお仕着せになっていて選択権が全く無いのだ。食べきれない夕食は資源の無駄使い、浪費でもある。
第三に、些か早めに着いて一風呂浴び、ちょっと町をぶらぶらと思っても、散歩に値する町が無いのだ。皆同じような土産物屋、干物、何とか漬け。洒落た喫茶店などはどこを探しても無い。すごすごと宿に引き返す羽目になる。日本の温泉観光地には歩いて楽しめる町が無い。

温泉地再生に要望したいこと
まず第一に、客が選択権を持てる施策を真剣に考えて欲しい。具体的に言えば食事の選択権と費用の選択権である。夕食はとってもとらなくても良いと言う具合にして欲しい。ラーメンで終わらせたい人も居れば、刺し身ではなく焼き肉を食べたい人も居る筈である。勿論これだけでは不充分だ。ラーメンならどこ、焼き肉ならどの店がお勧めというガイドが欲しい。このガイドマップ作りは旅館組合が作成してもよいし、地元の自治体観光課が作ってもよい。ミシュランのように星と価格がついていれば尚ありがたい。いつも不満に思うのは、地元の人は良い店を知っているのに、我々観光客には何の情報も与えられていないことだ。大きなホテルや旅館なら自前で色々な店を建物の中に用意してもよい。外へ食べに行くのが面倒だという人も多いからだ。つまり、ホテル式にやってもらいたい。
こうすれば費用の面でも合理的にやれる。ケチろうと思えば夕食はラーメンで済まし、朝食もコンビニのサンドイッチでいける。素泊まりなら地方ビジネスホテル迄とはいかないにしても、7〜8,000円位になるのではないか。温泉に浸かれて、ゆったりと過ごしてこれなら高くはない。
以上は食事の話だが、価格に応じた旅館、ホテルのランクの幅の選択権も欲しい。大分以前のことになるが、教え子夫婦とフランスのリゾート、ヴィシーを訪れた。夕食はそれなりに金を払って楽しんだが、教え子が予約したのは極めて廉価なツーリストのホテルだった。多少狭い部屋だったが清潔で特段の不満はなかった。このような宿泊施設が我国に最も欠けているランクのホテルである。将来の顧客、若者に来てもらう為には廉くてリーズナブルなツーリストホテルが欲しい。一泊3〜4,000円程度だろうか。風呂はなくてもよい。外湯を用意しておけばシャワーで十分である。外湯は500円、いや学割で300円か。これなら若者も温泉を楽しむことが出来よう。
温泉に行く楽しみは一風呂浴びた後のビールだから、外湯の近くにビヤホールや居酒屋が欲しい。勿論夕食を町でとる人や素泊りの若者の為に。そしてこれは地元の人の為でもある。出来れば町の中心に広場があって、この広場に面してこの手の店が並ぶと理想的である。一風呂の後のさわやかな気分でビールを飲み、友と語り合う。そして他所からやってきた宿泊客とも語り、情報を交換し、互いの人生をなぐさめ合う。もう一寸頑張ろうかという生きる力が湧いてくる。この輪の中にはやがて地元の人も入ってくる。あっそうだったのか、この温泉の歴史は。
外湯は温泉組合がやってもよいし、自治体がやってもよい。広場は公共がやるしかあるまい。ビヤホールや居酒屋は勿論民間だろうが、ドイツなどでは市役所の中にビヤホールがあるところも少なくない。こういう温泉地があったら行こうという気になる。季節の良い時には大空の下で、冬には外にシンシンと降る雪を眺めながら、ワイワイガヤガヤ。仲間内だけで飲んで、部屋でテレビを見ていても、何が面白いのかと思う。


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