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日本の温泉地再生への提言 [75] -第2グループ 学者・専門家・団体

温泉と健康づくり

和泉 徹
(財)岐阜県健康長寿財団 常務理事



 岐阜県では、以前から下呂温泉を有する益田郡(現 下呂市)を中心とした「南飛騨国際健康保養地」づくりを進めてきており、今年4月に「南飛騨健康増進センター」をオープンした。保養地づくりとこれに関連して県民の健康づくりに携わっている者として、若干、意見を述べさせていただく。

日本の温泉の現状及び問題点
 温泉は、昔、傷や病気を癒すために長期間にわたり滞在し、湯治に専念する場として位置づけられていた。人々は、温泉の「静水圧・浮力等の機械的作用、温熱作用、化学・薬理的作用、そして温泉地でくつろぐという転地効果」などを期待して、自らの自然治癒力を高めるために訪れていたのだと思う。
 現代は、多忙な生活を送る人が多く、湯治の習慣はいつしか消え、短期間でのリフレッシュ、リラクセーション効果等を求めて訪れる人が少なくない。このため、温泉も時代とともに、短期間で『くつろぐ、楽しむ、味わう』等を一度に満足できるようなテーマパークとして形を変えてきているように思う。
 しかしながら、時の流れが、温泉の姿を変えても、人々が求めるのは、『癒されること』であり、温泉は、これに応えるために、いつの世も『湯治の精神』を忘れてはならないと思う。

温泉地の再生のあり方について
1 歓楽型の温泉利用から健康と保養のための温泉利用へ
もともと温泉は、人が傷や病を癒すために湯治に専念する場として、我々の先祖の頃から長く利用されていたのだと思う。この頃は、温泉の本来の恵みを受けていたと言えるのではないか。
しかし、医療の進歩、高度経済成長による暮らしの豊かさと多忙さ等が、日本人の温泉利用の仕方を変えてきた。経済的に余裕ができた日本人は、余暇を楽しむ金銭や時間を持てるようになり、温泉は、余暇を楽しむための観光地として、また、レジャー施設として期待され、発展せざるを得なかったのだろう。
ところが、経済状況の低迷と最近の健康ブームが、再び、温泉のあり方を変えることになった。温泉は、単なるレジャー施設ではなく、健康を保つ、あるいは、増進する「健康施設」へと人々が昇格させた。
健康ブームは、暮らしの豊かさがもたらした生活習慣病の増加や極端な社会構造の変化等によるストレスに起因する疾病の増加等がその引き金の一つとなって起こってきているのだろう。また、景気の低迷と言いつつも、生活が安定している人々の「健康」話題への集中と健康志向等により、このブームはさらに高まっている。まるで、「健康」が人生の目的のような扱われ方は、いささか情けない気もするが、金に任せた生き方から、少し脱皮できるのなら悪くはない。ただし、健康を金で買う、売るという感覚は、受け入れられないが・・・。

話は逸れたが、健康を話題にすることで、少し、日本人は賢くなったと期待したい。歓楽型の温泉利用の考え方から、「健康」のために利用することを当たり前のように考えられるようになったのだから。
自然の恵みである温泉を人を始めとした生きるものが、どのように利用するのが本来の姿なのかを考えれば、自ずと温泉のあり方が浮かんでくる気がする。
私たちが備え持っている自然治癒力を高めるために、自然は、温泉という恵みをこの世に生きるものに与えてくれた。日本人の傲慢や身勝手さから、この恵みを無駄にしていた時があったかもしれないが、これからは、温泉を健康のために今以上に利用していくことが望ましいのではないか。

2 温泉地の環境整備について
環境整備と聞いて、まず念頭に浮かぶのは、『交通網の環境整備』である。
岐阜県は、三名泉の一つである下呂温泉を有しているが、所在地である下呂市は、JRが通じているものの、列車の本数が少ないことや、国道が走ってはいるが有料道路はないため、県庁所在地である岐阜市からは、2時間ほどかかる。2時間という時間は、新幹線で岐阜羽島駅から東京駅までの所要時間と同じである。リピーター確保の条件としては、温泉地への行きやすさも大切なのではないか。手軽に行けるための環境整備が必要だと思う。
次に、健康・保養のために温泉地に出向いたのに、あまりにも観光地化している時、悲嘆する人もあるのではないか。歓楽型の温泉地を期待するのであれば、様々な娯楽施設を有した華々しいレジャーランドでよいのであろうが、癒しを求めて訪れる温泉地には、心身ともに落ち着く情景を期待するのではないか。また、今の温泉地では、一人で滞在することが一般的ではないが、日常から離れて一人でくつろぐ時間を求める人も少なくないように思う。温泉地が、これらの訪れる人の期待に応える環境整備は、大きな意味を持つと思う。

3 長期滞在型の温泉地利用のために必要な方策とは
現在、健康だと思う人が、保養のために長期滞在することは、よほど経済的にも時間的にも余裕のある恵まれた人だろう。
しかし、長期滞在を心から望む人は少なくないと思う。アトピー性皮膚炎、喘息、精神・心理的な疾患、現代医学で症状改善が見られず不定愁訴に悩む人たちなど、温泉の効果に期待を持ちながらも、長期滞在が困難な人は多いと思われる。まずは、この人たちが長期滞在できることを一番に検討されるべきだと思う。
今、温泉地で上記の人たちが長期滞在できるところは、どれくらいあるのだろうか。私の知る限り、名泉といわれる有名な温泉地で病を癒すために長期滞在できるところは、残念ながら無い。
しかし、著名な温泉地ではないが、心ある一部の人たちが自己投資により、長期滞在が可能にしている施設をいくつか知っている。是非、温泉地がこれらの人から、その施設の基本的なコンセプトやノウハウを学び、温泉地に取り入れてもらうことにより長期滞在型の環境も整えていってもらいたい。
また、温泉地が長期滞在型に環境整備を行うためには、社会的な休暇利用や保険制度もこれを支える大きな要因になることは言うまでもない。
そして、これらを進めていくには、温泉の有効性をさらに明確にすることが求められるのではないか。社会的に温泉の効果が認知されることで、温泉地は、長期滞在型の道を進めることができるのではないか。
さらに、ストレス社会にある現代においては、未病の段階にある人も多く、病に至る前に心身を癒すための長期滞在型の保養が必要である。ドイツのクナイプ自然療法等を手本とした温泉地利用を検討していくべきであろう。

4 温泉地活性化のために地域、国及び自治体が努力すべきこと
温泉地活性化のためには、まずは、その地域住民が温泉の恩恵を受けることであり、地域の住民を無視した温泉地の活性化はあり得ない。常日頃、温泉の恵みを受けることで、地域住民が健やかでイキイキと暮らせる地域にすべきだろう。
自治体は、地域外から保養の目的で訪れる人へのサービスはもちろんのことだが、地域住民への温泉を活用するための支援にも重点を置くべきであろう。
また、「長期滞在型の温泉利用」でも述べたが、「温泉の効果」が今以上に検証されれば、人々の持つ従来の「観光地としての温泉」というイメージが払拭され、「健康に特化した温泉」としての活性化が図られるのではないか。
白倉卓夫会長は、長年「温泉と医学」を研究されており、文献を拝読させていただいたが、その熱意と真摯な姿勢に大変感銘を受けた。他にも温泉と健康について、多くの方が研究をされておられることと思う。
当財団においても、「温泉浴が健康に及ぼす効果についての検証研究」として、心理学を専門とされる大平英樹氏(現:名古屋大学大学院文学研究科助教授)等の指導を受け、検証を試みた。字数の制限もあり、ここでは結果の詳細については、控えさせていただくが、免疫及び内分泌指標で、温泉の効果が明瞭に見られたことだけ記させていただく。
温泉の科学的な検証は、「健康増進や医療は、現代西洋医学しかあり得ない」と固執しがちな医療関係者の考えを、柔軟な姿勢に変えることができる。これは、温泉を始めとした補完・代替療法の社会的な認知を高めることになり、温泉地活性化に大きく貢献すると思われる。
しかしながら、これらの温泉の効果の検証は、費用も時間も要するものであり、国や自治体等の支援なしには困難である。
他にも、これまで述べさせていただいたように、交通網の整備、社会的休暇のあり方、保険制度の見直し等、国や自治体に依るところが大きく、期待したい。

いろいろと思いつくままに書かせていたたが、日頃感じていることを素直に記すことができた。このような機会を与えてくださったことに深く感謝する次第である。


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