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温泉保養地環境

適正利用としての浴槽衛生管理と資源の集中管理

甘露寺 泰雄
財団法人中央温泉研究所 所長


1.浴槽利用における衛生管理
(1)かけ流しと循環濾過方式
「かけ流し」というのは、図−14に示したように、或容積の浴槽(V 立法メートル )に一定量の温泉水(V 立法メートル /時)が注ぎ込まれ、同じ量が浴槽の縁から流れ出るような浴槽を指す。自然の浴槽では、底や横から新しい温泉が入り込むこともある。


図−14   かけ流し浴槽の例
図−15−1 循環式浴槽の構造
図−15−2 側壁吐出・底面還水方式
図−15−3 側壁吐出・オーバーフロー還水方式


 これに対して循環炉過方式と云うのは、図15−1に示すように、浴槽に流入した温泉を底部からぬいて、集毛器、濾過器、加熱器等を介して浴槽底部に近い側壁からもどす方式で、消毒剤注入装置が付設してあるケースが多い。

日本の温泉浴槽では、循環だけで浴槽を運転している場合は少なく、新湯が注入される図15−2の側壁吐出、底面還水方式が多いようである。その他、浴槽側壁上部からのオーバーフローを回収槽を介して集毛器、濾過器、加熱器を介して浴槽へもどす方式(図15−3)も存在する。

 現在マスコミや週刊誌では、かけ流しが大歓迎され、循環濾過が敬遠されている。これは誤解に基づくもので、夫々の方式の長所、短所はあまり議論されていない。かけ流しで何で塩素を入れるかと云う文句がでる始末である。かけ流しでも注ぎ込まれる湯量が少なくて、大勢のお客が入浴すれば最悪の事態を招きかねないし、循環濾過でも衛生管理がゆきとどいていればさほど心配はない。かけ流し、循環と云った方式ではなく、よごれが夫々の方式でどうなるかが問題なのである。

 循環濾過が何時頃、そして何故温泉地で普及するようになったか。それについて筆者が調査した結果*16) は、昭和20年代は、わが国の公衆浴場(銭湯)、温泉浴槽共にかけ流しであった。その頃の浴槽水のよごれ、つまり濁度と細菌数はかなりひどい状態で、昭和30年代に循環・濾過・殺菌がまず公衆浴場で取り入れられ、その頃の水質基準を満たす事例が多いところから一般的に普及し、温泉浴槽に取り入れられるようになったと考えられる。この間の詳細は文献16)、17)を参照されたい。また、循環濾過は、温泉量の節約を意味するので、昭和30年代から進展した過剰採取による枯渇現象の抑制にも関係していると考えられる。現在の温泉地ですべてかけ流しを実施すれば、資源の枯渇は極端に進展し、壊滅状態になる温泉地も出現すると想定している。

 表−4は、戦前から昭和30年代後半にかけて、温泉浴槽の一般細菌数のデータを示したものである。この時代は殆どかけ流しで、浴槽水は細菌汚染が進んでいた。そこで循環濾過が温泉浴槽に取り入れられるようになったが、今から考えると、明らかにおかしかった点が二つある。一つは、循環濾過で細菌を除く事ができるという誤った考え方、もう一つは、循環濾過した湯を、温泉浴槽の湯面の上から注ぎ込む、例えば、ライオンの口から、循環湯が大量に浴槽に注がれるといった仕掛けが大流行した点である。細菌が濾過で除去できるというのは、濾過が繰り返されると、濾過層の目が段々つまり、次第に細かくなって(この現象を架橋と呼ぶ)微細な菌類でも除去できるという。確かに濾過層の目詰まりが起こる事は間違いないが、それによって、濾過速度が著しく落ちて濾過に大変時間がかかるようになり、実際の浴槽では細菌が除去できるような状態では、濾過能率が著しく落ちる(濾過速度が遅くなる)ので、使いものにならなくなる。つまり、濾過で細菌が除去できるというのは、温泉浴槽では全くの空論に過ぎなかったと云える。

 もう一つは、図−16のような一旦濾過した温泉水が、湯面の上から大量に注がれ、あたかも新湯が大量あるように見せかけた仕掛けである。これはどこでも大変歓迎され、私はこの方式は不都合であると繰り返し主張したが、旅館のご主人や管理者は、お客が浸かっている湯が上からかえってくるのだから、何で不都合なのかと反論される始末。お客が新湯と間違えるからというと、それが何故悪いと言い返される。その頃は、温泉旅館では自分の不利な点は絶対お客に知らせないという状況で、なおかつ、塩素剤の添加は、お客が臭気をきらうと云う点で多くの浴槽では使用されなかった。


表−4温泉浴槽水の一般細菌数の比較


(2)浴槽水のよごれの本質と解析
 よごれはきれいな温泉の給湯率と、新たに加わる(或いは増殖する)よごれの量によってきまる。かけ流し、循環は本質的には関係なく、管理の問題である。



図のように(V 立法メートル )の浴槽にν(立法メートル /h)のきれいな温泉が給湯され、益流で外に流れ出る状態で、浴槽水に加わるよごれf(g/h)
浴槽水のよごれをw(g)とすると、これらの間には次式が成り立つ。

数式(1)


つまり、浴槽水のよごれwは、加わるよごれfと給湯率v/Vによってきまることがわかる。(fの中味は、人間から出るよごれ、温泉の中にもともと含まれているよごれ、外気からのよごれ、浴槽壁など付着物からのよごれなどである。人間から出るよごれがもっとも大きいと考えられる。)ここで、例えば夕方の温泉旅館のように、次から次と浴槽の利用者があって、ある時間帯に浴槽へ加わるよごれfが一定≒constと仮定すると、(1)式は次式のように簡略化される。


数式(2)


 いま1時間当たりN人の利用客があって、1人が浴槽にm gの汚れを落とすと仮定すれば、(2)式は次のようになる。


数式(3)


 この式は、かけ流しただけでなく、循環、濾過の場合にも応用する事ができる。その場合は、よごれの指標としては濾過で取り除かれるよごれ、つまり「濁り」が適している。そこで濁り度をこの式に入れてみると、


数式(4)


 Pは濁り度で、一般にはカオリンが標準的な物質で、浴槽の基準は5度となっている。濁度を指標とした場合は、人間1人が1回の入浴で浴槽へ落とすよごれはカオリンとして0.5g程度と見積られる。

(4)式を使って、浴槽の濁度を基準以下に保つのに必要な温泉量が計算できる。
 この式を用いて浴槽のよごれを濁度を用いて、いつくか解明した結果を次に述べる。

 公共浴場などでは、循環ろ過装置は、1時間当たり浴槽の容積以上のろ過能力を有していること、つまり、1ターン以上になっている。その根拠(文献18)を考えてみる。

この1ターン以上は、連続してお客が入浴した場合に、浴槽水の清澄度を保持するために大切な条件である。いま、入浴客が3時間程連続し、1人の入浴客が0.5gの汚れ(この値は幾つかの文献から引用。プールなどでは、濁度排出量が学校のプールでは1.5/h、レジャープールでは2〜3g/hとしている。温泉浴槽では1時間当たり10分程度、人が湯舟につかっていると考えるので、0.5gで十分)を加えたと仮定する。

 いま、1時間当たりの最大利用者人数を100名とすると、厚生労働省の衛生管理要領から、浴槽の面積Sは次の式で求められる。

浴槽の面積(Su)=毎時最大浴場利用数×?? ×0.7u×1.2

これからS=14u、深さの平均を60cmとすると、容積V=8.4立法メートル となり、これらを(5)式に入れて、v/V=1とした場合に、入浴しているお客が原因になっておこる湯の汚れが3時間以上続くと仮定すれば、表5のような結果となる。

つまり、v/V=1ターンの状態ならば、1時間当たり100名の入浴客が、平均して1人0.5gの汚れ(濁度)を浴槽内に落とした場合、濁度は時間とともに増大するが、3時間後(夕方の4時〜7時ごろを想定)ならば、濁度は基準の5程度であることを意味している。(表5上段)。

v/Vが0.5程度ならば、濁度は基準を越え、v/Vが0.1ならば、おそらく利用が不可能となる(表5中段)。次に入浴するお客の体から出る汚れ(m)が少なくなったらどうなるか。 mを0.25gとしてv/Vを1および0.5の状態で計算した結果を表5下段に示す。

つまり、1人の身体から出る汚れが低い値であれば、v/V=0.5でも濁度は基準値を超えない。つまり、入浴前に身体をよく洗って入浴すれば、浴槽水の汚れはかなり低くできる。

表5 濁度の計算値


 数年前に厚生労働省から、身体をよく洗って入浴すること、下痢やその傾向がある人は入浴をひかえるようにといった内容の掲示が通知された。これはO-157対策として通知された。よく洗って入浴することはマナーとして当然であるが、この掲示が温泉の脱衣所で見られるようになったことは、大変よろこばしいことである。

 浴槽のよごれに関する議論は、源泉の湧出量(温泉の資源量)とは関係なしに進められることが多いが、この解析結果から、多くの温泉地の利用施設で、浴槽の濁度を基準以下に保持するためには、循環を行わなければ、浴槽水の清澄度保持に大量の温泉が必要になる。それだけ資源量の確保が必要となり、現状では資源保護の観点から過剰採取を抑制しているので、循環を行わないで現状の温泉地をかけ流し方式だけにすることは大変難しい。


(3)浴槽の衛生管理−レジオネラ症防止対策−*18)

1) レジオネラとは
 レジオネラ属菌は、土の中や河川、湖沼、池など我々の身の回りの自然界広く生息するグラム陰性捏菌で、アメーバなどの原生動物に寄生し、20〜50℃で増殖する。温泉水では高温の源泉にはあまり生息していないが、およそ40℃以下の微温泉で、地下水が混入したような状態では生息し、まれに異常に多い菌数を検出することがある。一般的に冷却塔水や循環式の浴槽水などでは多く検出される。

 レジオネラ症は、レジオネラ属菌が原因で起こる感染症で、急激に重症になって死亡する場合もあるレジオネラ肺炎と、数日で自然に治る場合が多いポンティアック熱に分けられる。同種の菌で何故このように重症になったり軽症になったりするかについては不明のようである。レジオネラ肺炎は、乳幼児や高齢者、病人など抵抗力が低下している人や、健康人でも疲労などで体力が落ちている人などに発病しやすいといわれている。一般的には、レジオネラ症は、レジオネラ属菌に汚染された目に見えないほどの細かい水滴(エアロゾル)を吸い込むことで感染する。それで、打たせ湯、シャワー、ジャグジーなどのエアロゾルが発生する循環式浴槽が危険性が高く、適切な衛生管理が特に重要視されている。なお、レジオネラ症は人から人へは感染しない。

 レジオネラ症が独立疾患として最初に認識されたのは、1976年夏のことである。米国フィラデルフィアのベルビュー・ホテルで、在郷軍人会ペンシルバニア州支部総会が開催された時、同州各地から参加した会員の221名が、帰郷後に原因不明の重症肺炎を発病し、そのうち34名が死亡した。この重症肺炎は、米国疾病予防センター(CDC)の精力的な調査により独立疾患と認められ、在郷軍人会(The Legion)にちなんで、在郷軍人病(Legionnaire’s disease)と呼ばれた。半年に及ぶ研究の結果、新しい病原菌が発見され、Legionella pneumophilaと命名された。その後、レジオネラ症には、肺炎型だけでなくインフルエンザのような熱性疾患型があることが、1965年のミシガン州ポンティアック衛生局庁舎内の集団発生にまでさかのぼって判明し、この病型をポンティアック熱と呼ぶようになった。レジオネラ肺炎にかかると、悪寒、高熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛などが起こり、呼吸器症状として痰の少ない咳、少量の粘性痰、胸痛・呼吸困難などが現れ、症状は日を追って重くなってゆく。頭痛、水溶性下痢、意識障害、歩行障害を伴う場合もある。潜伏期間は、通常1週間前後といわれている。

 1999年4月に施行された、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(いわゆる感染症法)においては、レジオネラ症は全数把握の4類感染症に分類され、診断した医師は1週間以内にその情報を最寄りの保健所に届けることが義務づけられた。

2) 温泉水中のレジオネラ属菌と循環濾過*18)
 温泉水の中には、もともと多種の生物が生息している。生物の種類や数は高温ほど少なくなり、中、低温では増加する。種類としては、藍藻類、緑藻類、珪藻類、、原生動物、細菌類(鉄細菌、硫黄細菌、Thermus属、Bacillus属等)など多種多様である。レジオネラ属菌の生息は、これら藻類や原生動物、特にアメーバと密接な関係があることがわかってきた。

 温泉水ではレジオネラ属菌は入浴者の体に付着したり、土ほこりなどに混じって浴槽に入り込む。露天風呂などは特に汚染し易いと云われている。しかし、一般の温泉水の主要成分は無機質の成分で、これらは栄養源にはなりにくく、温泉水だけではさほど増殖はしないといわれている。しかし、浴客によってよごれ(有機物)が加わると、これらを栄養源とし、更にアメーバ等の生物が補食して増殖をすることがわかってきた。

 最近では循環湯が大きな問題となり、敬遠される傾向にある。これは浴槽で温泉水を濾過循環することで、濾過器によごれが付着すると共に、レジオネラ属菌やアメーバ類がこれらのよごれを栄養源として増殖し、濾過器の濾剤が菌の培養基みたいな役目をしているためである。

 さて、濾過器の構造は、一般的には図−4のように、浴槽底から抜いた湯を集毛器→濾過器→加熱器を介して、浴槽の湯面から下でもどす方式が使われている。ところが温泉浴槽では、図−5のように、湯面の上から滝のようにもどす方式が大変はやった。これは大量の湯が新湯であるかのように浴槽へそそがれ、浴客はきれいな湯が大変豊富である浴槽であると思い違いをしてしまうことになる。この方式が行われて循環濾過が温泉地で急速に普及したといわれる。

 もう一つの問題は、図−4のような循環濾過器に殺菌剤の添加をおこなっても、浴槽壁、集毛器、パイプ内壁、タンクなどにもよごれ(ぬめり)が付着していると大きな障害(よごれの中に菌が逃げ込んでしまう)になることがわかってきた。このよごれはバイオフィルム(生物膜)或はぬめりと云われており、家庭のお風呂でも何日か湯だめをすると浴槽壁にぬめぬめしたよごれが付着することは経験すみである。このぬめりの中に、アメーバやレジオネラ属菌が入りこんで、その中で増殖したり、アメーバが同属菌を補食したり、また湯の花のようなものもこのぬめりと一緒になって随所に付着したりする。浴槽水へ例えば塩素を添加しても、このぬめりの中の菌はなかなか死滅しないことも判明してきた。そこで、浴槽の濾過器をはじめ付着した汚れを除去する、掃除をすることが衛生管理上大変大切であることがわかってきた。

3) 浴槽水の基準(レジオネラ菌の菌数)
  厚生労働省から示された浴槽水の基準*19)は次の通りである。



 レジオネラ属菌に関しては、源泉も浴槽水も基準値が同じで、100ml中に検出されないこと(10cfu/100ml未満)となっている。検査は毎日換水している浴槽では1年に1回以上、連日使用浴槽では年2回以上、塩素消毒しない場合は4回以上となっている。

 ここで注意しておきたい点は、レジオネラ属菌の菌数は、浴槽で無作為に検査を行った場合は、同じ浴槽でも、採取位置、時間、日時、浴槽の管理状況、入浴客数等によってかなり違った値になる。

 レジオネラ属菌は一匹で生きているというよりも、よごれ、ぬめり、湯の花などに付着してかたまって生息していると云われている。したがって、検査をして、検出せずと結果が得られても、常時そうだとは限らない。時には数10から数100、或はそれ以上になることもまれではない。したがって検査の回数は多くした方が安全で、できるならば、浴客が少ない時と多い時、清掃前と清掃後のように、その浴槽についてのよごれの状況を把握しながら検査を行うことが大切であると云われている。また数1000程度の菌数の浴槽にただ普通に入浴しただけでレジオネラ症になるとは限らない。注意しなければいけないのは前述したように泡風呂やうたせ湯のようにエアロゾルが発生するような浴槽は、菌数が少なくても危険性がある点と、老人、乳幼児、虚弱者、特に免疫力が落ちている場合に危険性が高い。

4) レジオネラ属菌による汚染防止対策*19)
 平成15年2月14日付けで、厚生労働省から、公衆浴場や旅館業における衛生等管理要綱が改正になり新しく通知された。これは、それまでの通知類を整理統合したもので、内容は大変多岐にわたっているので、温泉の浴槽に関して重要と思われる項目のみをとりあげて以下説明する。

 その一つは、温泉水が源泉から採取され、送湯、貯湯、加熱、浴槽(循環濾過等)を経て排水される過程での洗浄、消毒が大変重要視されている。特にレジオネラ属菌がバイオフィルム(生物膜)の中で生息、増殖する点をとりあげ、貯湯層の温度は60℃以上、そうでないときは槽内の温泉水の消毒が必要、貯湯槽は定期的に清掃、消毒すること、濾過器は一週間に1回逆洗浄、配管内も洗浄、消毒する。集毛器は毎日清掃する。濾過器は1時間当たり、浴槽の容積以上の濾過能力をもつこと。浴槽水は毎日換水し、循環濾過している場合は一週間に一回換水すること。

 消毒に関しては、浴槽水の消毒は、残留塩素濃度を常に0.2〜0.4/リットルに保持し、あまり高くならない(1mg/リットルを超えない)こと。但し、含有成分やpHによって塩素添加が不適の場合は、他の消毒法を用いてもよいが、これは同時に適切な衛生措置を行う条件で知事が認めた限りとする。

 ここで温泉水の成分と塩素の反応及び各種消毒法については温泉の場合は特に重要であるので後述する。なお、打たせ湯、泡風呂、ジャグジーなど、エアロゾルが発生し易い浴槽では、連日使用している浴槽水(循環濾過した水)は使わずに、新湯を用いるよう指示されている。その他、室外の浴槽例えば露天風呂と室内浴槽との混入がないこと、気泡発生装置の取り入れ口に土ほこりがはいらないような構造にすること等、他検査の回数などかなり細部にわたって注意が行われている。

 入浴客に対しては、入浴前に「かけ湯」を充分に行うか身体をよく洗ってから入浴する。これは明示する必要がある。

5) 塩素等酸化反応を主体とする消毒方法と温泉成分の関係

 温泉水は地下で空気に触れない、つまり還元性の環境で貯溜、流動し、地表へ湧出する。湧出後は空気に触れて成分が変化して還元性が次第に減退してゆく。これが老化現象と云う。一方レジオネラ属菌等の消毒手段は、塩素など主として酸化剤を用いるので、例えば塩素の添加は当然還元性の成分の消失、老化の促進、温泉水の特性の消失が起こる。

 温泉水中の還元性の成分は、硫化水素、チオ硫酸、鉄(Fe2+ )、ひ素〔As(V)〕、亜硝酸等で、硫化水素、チオ硫酸は酸化されてイオウや硫酸等になり、鉄は中性〜弱アルカリ性では酸化されて赤褐色の水酸化第二鉄として不溶性の沈殿物となる。浴槽水の残留塩素を常時0.2〜0.4mg/リットルを保持すれば、硫黄泉や鉄泉は浴槽では存在しないことになる。ひ素や亜硝酸は酸化されてAs〔V〕や硝酸になる。酸性泉では塩素添加で有毒の塩素ガスが発生する。また東京、名古屋、大阪等都市や平野部の地下には腐植質(フミン酸等)を含む着色した温泉が賦存し、利用されているが、これに塩素を加えると塩素が消費されて残留塩素が基準値にならないことがあり、またこれら着色温泉水はアンモニウムイオンも含まれ、クロラミンが生成し、共に塩素の効果が減退する。腐植質と塩素でトリハロメタン類が生成することもあり、塩素添加は多過ぎないこと(1mg/リットル以下)が大切である。

 なお、アルカリ性では、次亜塩素酸イオンの生成で殺菌効果が減退する。

 以上は塩素との反応を主として述べたが、オゾン、二酸化塩素、光触媒等も酸化反応が主体なので還元性の成分は変質する。ただし二酸化塩素は腐植質が含まれていてもトリハロメタンの生成は殆どないと云われている。

 以上述べたように、塩素等が温泉成分と反応する場合は、あまり無理して塩素を入れるよりも、浴槽壁、集毛器、濾過器、配管内壁、貯湯槽等とよく洗浄、清掃、消毒すると云った対応が必要と云われている。但し、これらの措置だけでは不充分で、同時に菌の検査を行って監視に充分配慮する必要がある。

6) 各種の殺菌方法について
 現在表−6に示すような種々の方法*20)が発表されているが、その中でもっとも経験的に成果が判明しているのが塩素を用いる方法である。例えば紫外線は成分に変化を与えないのですぐれいていると云われているが、着色している温泉水は適用できないこと、塩素と併用すると塩素を分解してしまうとか、ランプの表面にスケール等や膜などが付着する場合は不適とか云われている。オゾンも使われるが、発生したオゾンの分解が必要で、オゾンは残留性がないといわれ、塩素との併用が一般的に行われている。

 銀を用いる方法は塩素との併用が可能であるが、硫化水素を含む場合は不適である。

 実際に各種の装置が温泉浴槽に導入されているが、効果の確認、温泉成分の変化の対応等はさほど検討されているわけではない。

7) 循環濾過の問題
 現在循環濾過は敬遠される傾向にあるが、しかし、循環濾過そして殺菌処理は昭和20年の後半から30年代にかけて公衆浴場に導入され、温泉浴槽にも用いられるようになった方式で、当時浴槽がものすごくよごれていて、それが循環濾過できれいになったことで利用されるようになった経緯がある。

 循環濾過は湯量が少なくてすむと云う特徴がある。循環濾過を行うと、塩素を入れなくても、二酸化炭素、硫化水素、鉄、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ラドンのような不安定成分は変化する。これら成分を含む温泉は元来循環濾過はむいていない。しかし現在温泉地で循環濾過をやめて、はたして浴槽の清澄度の保持できるような資源量があるかどうか大変疑問で、もし清澄度を保持するなら、入浴者が浴槽へよごれを持ち込まないこと、つまり「かけ湯」を十分に行うか体をよく洗って入浴すると云う条件が必要となるが実行性に問題が残る。

 温泉地では、ともすれば資源量と施設規模が大変アンバランスで、少量の湯で大型の施設を運転すると云う点に無理があって、レジオネラ属菌を始めとする問題が大きくなったと考えられる。つまり利用客と温泉量或は施設規模の関係に一つの目安を策定することが、レジオネラ属菌対策としては重要と考えられる。


表−6 最近の殺菌・除菌法いろいろ

殺菌・除菌法 特長(長所・短所)
1.次亜塩素酸(電解法も含む) 次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素化イソシアヌル酸ナトリウム、電解次亜塩素酸(外部発生法と内部発生法)、などが用いられる。
もっともポピュラーで使用実績が豊富、厚労省の衛生管理要領で、残留塩素の基準が示されている。酸化剤で、垢などよごれを分解するが、アルカリ性側で効力減退、臭気、やアトピー性皮膚疾患、トリハロメタンの生成等問題も指摘。
2.二酸化塩素 強力な酸化剤で、塩素の2.6倍の殺菌力があるという。CLO2は水溶液でそのまま存在し、酸化作用は酸素による。塩素の作用ではない。アルカリ溶液でも殺菌作用があり、トリハロメタンの発生もない。残留効果もあるが、副成物として亜塩素酸が発生するので濃度管理が重要。
3.オゾン 強力な酸化剤で、活性酸素の酸化力は塩素の5倍という。有機物、腐植質などを分解して無色とする。実際には微細な気泡としてオゾンを水中に導く方法が使用。毒性、臭気などがあり、脱オゾン処理が必要。塩素のように残留性がない。オゾン発生装置が必要。
4.光触媒 酸化チタンの触媒効果で、紫外線、可視光線を照射することで、酸素による酸化反応を起こさせて菌を死滅させる。その作用はあまり強力でないこと、温泉水が濁っていたり、着色していると効果はない。殺菌よりも増殖抑制効果に期待。
5.紫外線 温泉の成分に影響をあまり与えない。着色、混濁している温泉は使用不可。硫化水素など硫黄の沈澱を生成する場合や、粘土などの被膜がランプに付着する場合も要注意。残留性がないこと、ランプの交換に要する経費なども問題。次亜塩素酸との併用は次亜を分解するので注意。
6.磁気 磁気発生装置を配管部、場合によっては濾過膜に取り付け、強力な磁力で細菌を感電死させるという。
温泉成分に影響を与えないといわれ、スケールの付着抑制効果を期待して普及している。殺菌よりも増殖抑制効果が主力という。残留効果はない。
7.銀イオン等 Ag+の殺菌効果を利用、電解法、溶液の添加、ゼオライト、セラミックスなどに付着しての利用などいくつか方法があり、次亜塩素酸などとの併用が有効。硫化水素を含む温泉では適用が難しい。アルカリ性でも適用可。残留効果もある。
8.セラミックス セラミックス単独で、或いは銀、銅、二酸化チタン、白金、アルミナ、鉱石などを含ませたセラミックスに温泉を通すことで、殺菌処理を行う方式。これも殺菌よりも増殖抑制効果が主力。温泉水との接触状態が重要。成分に変化を与えない。但し、効果についてはデータがすくない。
9.殺菌剤 殺菌剤を温泉水に点滴するか、濾過器などの清掃に使用。本来は浴剤(医学部外品の許可を得る方向が重要)。温泉成分との反応の検討が必要。アルキルベンジルアンモニウムクロライド、ハロゲン化ヒダントイン、フェノキシエタノール、ヒノキチオール等。
10.その他(鉱石、貝殻、穀物等) 未知の要素大。今後の研究に期待。但し、正体不明のものが多い。北投石、電気石、花崗岩、牡蠣、ホタテ貝、穀物エキスと界面活性剤など。
11.加熱 最も確実
問題点 1.酸化反応による処理(1〜4)は、温泉の特性の一つである還元性の喪失、硫黄泉、鉄泉等泉質の変化をもたらす。
2.塩素剤、二酸化塩素以外は塩素の添加が併用されることがある。これは、効果の残留性の検知と関係する。
3.次亜塩素酸以外は温泉での事例が多いとは言えない。オゾン、銀などは事例が比較的多く検討報告もある。
4.温泉水、浴槽での予試験を行わないで、装置を取り付けるため、その方法を行った場合の効果が確認出来ない。特に浴槽の汚染との定量的関係の把握は不明の場合が多い。つまり効果の確認が不徹底。
5.殺菌効果と増殖抑制効果が区別されていない。
6.副作用についても不明の点が多い。
7.浴槽の状況、かけ流し、循環等の方式で、効率が著しく相違する。


2.資源保護と適正利用のための温泉の集中管理

(1)温泉の集中管理
 環境庁監修の温泉必携*21)では、温泉の集中管理を「1つの温泉地において採取される温泉水を、単一の管理体が管理し、合理的な配湯システムを設定することによって温泉の最も効率的な消費を行うこと」と定義している。温泉利用施設としては、旅館、ホテル、寮、保養所、医療施設、福祉施設、公衆浴場、日帰り施設、一般住宅、別荘など多岐にわたっているが、温泉水の利用形態は大部分が浴用である。集中管理方式の中では、いわゆる随時計量制分湯による循環路線方式が合理的な配湯システムとして大変優れている。この模式図を図−7下段に示した。

 それでは何故この方式が優れているのか。その理由はこの方式が温泉地が近代的発展をとげた過程に内在する温泉需給の面でのいろいろの欠陥を解消する働きをもっているからといわれている*22)。この欠陥の主なものは、ア.温泉地の発展に伴う温泉資源の細分化に根差す利用熱効率の低下、イ.温泉の利用形態が浴用であることからくる需要の硬直性である。

 ア.に関して説明すると、古い時代の温泉場では湯元に共同で使用される浴場「外湯」があり、これを利用する「旅篭」があって、旅篭は必ずしも浴場をもっているとは限らなかった。この時代にも「内湯」と称して旅館内に浴場をもつものがあり、内湯旅館として他の旅館とは違った地位を占めていた。温泉地が発展するにつれて湯治がすたれ、観光旅行や短期の滞在者が増加するにつれて内湯旅館の方が浴客に歓迎されるようになった。つまり内湯旅館の発展と拡大が近代温泉地の繁栄の原因ともなったわけであるが、この内湯の一般化という温泉地社会の変貌は、温泉水の利用という面からみると、昔は1ないし数箇所の外湯で利用されていた温泉がこれから離れた幾つかの内湯旅館に引湯され、しかも内湯旅館では更に大浴場、露天風呂、婦人風呂、家族風呂、個室バスなどに分割されて使用されることになり、大きな湧出量を誇る大温泉地の温泉も個々の浴槽に到着した時は少量の温泉になってしまう結果をもたらした。温泉地は拡大繁栄するが温泉の方はそれだけ細分化され、この細分化には当然熱量損失を伴う。温泉水が利用施設に送湯される場合当初は循環方式でなく、図−17上と中に示したような「たこ足」あるいは「魚骨」方式と呼ばれる大変効率の悪い給湯方式がとられるのが普通である。結局ア.の内容は温泉水の細分化と送(給)湯方式の非能率性ということになる。

 次にイ.の需要の硬直性について説明する。温泉が各利用施設で利用されるときは、ある時間帯(夕方と朝)、ある週日(土・日)、ある季節(ゴールデンウィーク、お盆、年末・年始)に需要が集中する。このとき各利用施設の持主は、最も利用客の多い季節のもっとも客の集中する曜日、一番利用客の多い時間帯に温泉の不足をきたさないだけの湯量の確保を望むので、非利用時にはいたずらに放流してしまうことも起こる。つまり、図−18で示したように、実際の需要は黒で示したようになっているのに、利用施設で確保する湯量は点線で示したような一定量が給湯されれば、温泉の大部分は無駄になってしまう。またA旅館が満員でB旅館がお客がいないとき、B旅館であまっている温泉をA旅館へ融通することも定量給湯方式では不可能である。

 集中管理方式の中で随時計量制による循環方式は、資源の細分化と旧式な給湯方式によるエネルギーの損失と需給の硬直性による利用効率の悪さを是正し、必要な時に必要な場所に必要な量だけ温泉を供給し得る機能をもっていることが、最も合理的な配湯方式であるという所以である。

 実際に集中管理方式を組み立てるには、その温泉地の利用施設を調査して必要湯量や必要熱量を算出し、資源規模とのバランスを考えて計画、設計を行う。

 温泉地が何故集中管理システムを採用するようになったかについて、環境庁の委託で行われた調査によると、集中管理に到る動機としては「資源の保護と枯渇現象の防止」が最も多く、ついで「温泉資源の採取量と利用施設のアンバランスから利用率の向上と合理的な配湯をする必要性から」「新温泉の開発利用の基礎事業として」「昔から温泉源が共有されていたから」「源泉相互間の影響問題の解決」「温泉紛争があって源泉統合が行われたから」となっている。また集中管理実施後のメリットとして「資源の保護涵養と枯渇現象の防止」「安定供給」「温泉権や温泉紛争の解決」などがあげられている。実際に資源の劣化が食い止められた実例を幾つか紹介する。


図−17 集中管理による配湯方式
図−18 温泉の需要・供給の特徴


(2)温泉の集中管理の現状
 環境省、平成12年度温泉の集中管理指導マニュアル作成調査*22)によれば、集中管理が実施されている温泉地は130ケ所に達している。(表−7)地域的には、中部以東の温泉地が多く、東高西低型である。

 この調査結果から、集中管理の事業主体は地方公共団体かその関連法人が関係している場合が多いこと、給湯している温泉量は、170リットル/min〜10.1立法メートル/min、配湯温度は25〜78℃、配管総延長は491m〜85kmに達している。配湯方式は循環方式が最も多く、魚骨方式がこれに次き、循環魚骨併用、たこ足等の順である。加熱は行っていない事例が多い。温泉の泉質は単純温泉が最も多く、次いで塩化物泉、硫酸塩泉等でイオウ泉や酸性泉は比較的少なくない。

 この調査では配湯先の利用施設調査も行われ、収容定員1名当たりの浴槽面積は0.39u、1名当たりの温泉量は0.54リットル/minであることが判明している。(図−19)


表−7 集中管理実施温泉地一覧表

都道府県 温泉 都道府県 温泉
北海道 弟子屈・川湯温泉 山梨県 石和温泉
湯ノ川温泉 春日居温泉
小清水温泉 長野県 美ヶ原温泉・湯の原温泉
羅臼温泉 上諏訪温泉
阿寒湖畔温泉 昼神温泉
女満別温泉 上山田温泉
十勝川温泉 奥山田温泉
洞爺湖温泉 別所温泉
青森県 浅虫温泉 乗鞍温泉
大鰐温泉 鹿教湯温泉
十和田湖温泉郷 浅間温泉
黒石温泉郷 新浅間温泉
秋田県 大滝温泉 下諏訪温泉
岩手県 瀬見温泉 木崎湖温泉郷
東八幡平温泉郷 大町温泉郷
鴬宿温泉 葛温泉
繋温泉 穂高町温泉郷
山形県 小野川温泉 山田温泉
赤湯温泉 富山県 宇奈月温泉
上山温泉 石川県 和倉温泉
天童温泉 一里野温泉
東根温泉 山代温泉
寒河江温泉 片山津温泉
銀山温泉 福井県 越前(厨)温泉
瀬見温泉 愛知県 湯谷温泉
湯田川温泉 岐阜県 下呂温泉
湯野浜温泉 三重県 長島温泉
温海温泉 滋賀県 雄琴温泉
宮城県 青根温泉 和歌山県 白浜温泉
遠刈田温泉 太地温泉
鳴子温泉 兵庫県 浜坂温泉
福島県 磐梯熱海温泉 七釜温泉
常磐湯本温泉 城崎温泉
小名浜温泉 鳥取県 鹿野温泉
岳温泉 浜村温泉
土湯温泉 中山温泉
檜枝岐温泉 羽合温泉
湯野上温泉 吉岡温泉
新潟県 越後湯沢温泉 皆生温泉
弥彦温泉 島根県 湯ノ川温泉
岩室温泉   三瓶温泉
月岡温泉 湯村温泉
松之山温泉 岡山県 湯郷鷺温泉
赤倉温泉 湯原温泉
妙高温泉 山口県 湯田温泉
栃木県 川俣温泉 俵山温泉
塩原温泉 愛媛県 道後温泉
鬼怒川温泉 福岡県 二日市温泉
那須温泉 大分県 湯平温泉
群馬県 猿ヶ郷温泉 長崎県 島原温泉
草津温泉 佐賀県 古湯温泉
伊香保温泉 熊本県 天草下田温泉
茨城県 大子温泉 日奈久温泉
東京都 三宅島温泉 鹿児島県 霧島神宮温泉
神奈川県 箱根仙石原温泉 入来温泉
湖尻温泉 吹上温泉
湯河原温泉
静岡県 古奈温泉
伊豆長岡温泉
修善寺温泉
河津温泉郷
西伊豆温泉
松崎温泉
土肥温泉
下田温泉
浮山温泉(殖産)
浮山温泉(名鉄)
熱海温泉
熱川温泉(伊豆急・熱川)
熱川温泉(伊豆急・天城)
南箱根ダイヤランド


図−19 集中管理下における定員と1名当たりの温泉量(平均値)の関係*22))


(3)温泉の集中管理の実例
1) 修善寺温泉*23)
 修善寺温泉の湧出状況の変化については、枯渇現象の項で述べたように、温泉需要の増大に伴って総採取量も増大し、水位の逐年低下が起こり、動力揚湯の馬力数も増大した。水位は昭和25年87〜90m、39〜55年5〜20m(海抜)に低下し、総揚湯量は2,000リットル/minを超え、地下水の浸入による泉温の低下、成分の希薄化も観測された。

 昭和56年9月に集中管理システムによる給配湯が修善寺温泉事業協同組合の手によって実施され、組合非加入者はあるものの、昭和57年以降総採取量はおよそ1,000リットル/minを超えない程度で維持されていると推定されている。

 それにともなって、図−11に示すように水位が急速に上昇、現在では昭和28〜30年頃のおよそ74〜78m代まで回復した。これに伴って泉温の上昇、スケールの付着度合の低下もみられるようになった。

 本温泉については、前述したように昭和52年に実施された温泉地科学調査の結果、適正総採取量がおよそ1047.6リットル/minと推定された(図−13)。集中管理実施後は温泉の総採取量はおよそ1,000リットル/minを下回っていることが温泉水位の回復につながっていることは明らかであり、およそ1,050リットル/minという推定値は適正総採取量として妥当な値であると結論される。

 水位の回復に伴って泉質も回復しているかどうか検討したところ、現状では修善寺本来のNa-Cl泉には未だ復帰していないことがわかった。ただし化学組織は、Na-Cl型で、経年的にHCO3の割合が増加する傾向のあることから、現状では本来のNa-Cl泉に、Na-HCO3型の単純温泉が混合しているとみてよいであろう。

 この原因は集中管理以前において、主として東側の地域にあったNa-HCO3型単純温泉は現在休止泉などで揚湯を停止しており、温泉としては水位が全域にわたって回復していることから、このNa-HCO3型単純温泉(比較的高温である)が西側の現在温泉の主力を占めているNa-Cl型温泉と地下で混合されたような状態で揚湯されているためと解釈される。

2) 浅虫温泉*24)
 浅虫温泉は青森県青森市の北東11km、青森湾に面した海岸に位置し、東流する浅虫川に沿って源泉が分布する。

 同温泉は明治の初年頃までは漁村の湯治場に過ぎなかったが、その後、交通の発達につれて急速に発展した。大正2年頃は主な源泉は8ケ所で、すべて自噴泉であり、泉温61.5〜79℃、湧出量120リットル/min以上と推定され、泉質は硫酸塩泉であった。大正年代に入ってから掘さくによる開発が大規模に行われるようになり、昭和19年頃までには屈さく井は126ケ所に達した。組織的な調査や、泉温、湧出量などの計測は昭和20年代になってから行われるようになった。特に資料が整ったのは昭和30年以降である。昭和36年頃から動力採取が行われるようになり、総湧出量が増加した。昭和39年に県衛生研究所により化学調査が行われた結果、海岸側の源泉で塩水化が著しく進展していること、泉温や水位にも低下がみられることなどが指摘された。

 このような状態は、温泉水の過剰採取が原因であって、結局は温泉資源の枯渇を早めることにもなるとの観点から、昭和40年前後から、県、市及び浅虫温泉の有志によって、浅虫温泉統合の問題が検討されるようになり、昭和42年夏に浅虫温泉事業協同組合による集中管理方式にもとづく温泉給湯が実施されるはこびとなった。以後温泉水の総採取量を平均920リットル/min以下に抑えて現代に至っており、温泉利用効率の向上、泉温、泉質、水位の回復に多大の効果が現れている。

 図−20は、集中管理を実施するまでは採取量の増大に伴って塩水化が進展し、多くの源泉でCl ̄の増加が観測されたが、集中管理実施後は塩水化の進展も止み、泉質がもとに復帰したことをCl ̄濃度で示したものである。


図−20 浅虫温泉の集中管理実施前後のCl ̄の変化


3) 越後湯沢温泉*24)
 温泉開発の進展と共に、昭和30年代には源泉13本、3,500リットル/minの湯量を誇る豊富な温泉地であったが、源泉間の相互干渉と湧出量の年々低下が起こり、温泉の過剰採取が指摘されていた。昭和47年秋、上越新幹線トンネル工事が着工され、翌年の4月に湧出量が6ヶ月の間に1,000リットル/minも減少するという事態が起きた。これに対処するため、鉄道公団に対する湯量減少の原因追求と、温泉の集中管理による危機打開が計画され、最終的には鉄道公団が湯沢町が実施する温泉集中管理の施設費に協力するというかたちで解決がはかられた。そこで昭和50年6月から工事が開始され、同11月に施設が完成した。その結果温泉の総採取量を1,000リットル/min以内で需要を満たすことができ、その後の施設の拡大に伴う需要増に対しても総採取量を1,500リットル/min以内で対処できるような計画が進展中である。

 本温泉は給湯が旅館、ホテルだけでなく町営諸施設、住宅などにもおこなわれている点が特徴である。

(4) あとがき
 平成16年夏、長野県白骨温泉で入浴剤の使用が発覚して以来、水道水の温泉としての使用や無許可利用等、温泉に関係する不適正な利用や表示が新聞やその他マスコミでとりあげられ、社会問題化の様相を帯びてきた。不当表示に対しては環境省が温泉法改正を視野に新しい対応を行う旨発表があり、今後の成り行きが注目されている。

 筆者はこの根底には、温泉の資源量を無視した開発の行き過ぎがあり、温泉地では安定供給に不安が横たわっていることがトラブルの一端であることを指摘した。

 集中管理方式は一部から、個々の温泉の混合使用は源泉の個性の消失につながると云う批判もあるが、反面、利用施設での安定供給には必要な場所に必要な時間に必要な量を送る集中管理方が欠かせないと考えている。

 日本経済は、ようやくバブル崩壊後の長期にわたる停滞から抜け出しつつあるものの、地方にあって自治体をはじめ温泉関連施設は経済的にはきびしい環境にある。集中管理施設の建設にはかなりのコストが必要で、この意味では、いくつかの温泉地では大規模計画はあるものの実施に踏み切れない情勢にある。

 しかし、現在の不況が一段落ついたあかつきには、集中管理システムが再び脚光を浴びると考えられ、その時点では、現在云われている温泉地の各源泉の個性の喪失と云った欠点を是正するようなシステムが誕生するものと期待している。


参考文献

*16)甘露寺泰雄、山本容代、浅川澄子、温泉浴槽水の汚染度に関する研究、温泉工学会誌、Vol.4 , No2 , 83 (1966)
*17)甘露寺泰雄、浴槽の環境科学(その4)、浴槽水の衛生学的研究に関する既存資料の要約(T),温泉工学会誌、Vol.20, No1, 30-38 (1986)
*18)レジオネラ症防止対策研究会編、温泉浴槽の衛生管理、レジオネラ対策はこうすれば安心(2003)泉書房(本書2,3章は甘露寺が執筆、他に参考になることが多い)
*19)厚生労働省、公衆浴場における衛生等管理要領等の改正について
別添1 公衆浴場における水質基準等に関する指針
別添2 公衆浴場における衛生等管理要領
別添3 旅館業における衛生等管理要領(2003.2.14)
*20)環境省業務報告書、平成14年度温泉利用施設における衛生管理等検討調査、    85P (2003)[(財)中央温泉研究所]
*21)環境省自然保護局監修 温泉必携。昭和47年10月1日、第2印刷発行
*22)環境省委託、温泉の集中管理方式の分類と適応性に関する調査研究報告、1980[(財)中央温泉研究所]; 環境省業務報告書、平成12年度、温泉の集中管理マニュアル作成調査(2000)[(財)中央温泉研究所]
*23)甘露寺泰雄、温泉今昔物語(その21,22)、修善寺温泉(その1,2)地熱エネルギー、Ser No.79,80 ,vol.22, No3-4 (1997)
*24)甘露寺泰雄、温泉資源の開発と保全管理、健康と温泉FORUM’89、温泉とリゾート開発、118-119(1989)



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