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温泉地再生研究会 別府温泉再生への提言 |
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合田 純人 NPO法人健康と温泉フォーラム 常任理事 |
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1. 社会化した温泉地問題 要点 1) 高度成長・経済優先の社会的経緯 2) 温泉事業者の倫理・認識不足 3) 行政システムの構造改革 4) 消費者(利用者)への情報の開示 1948年、日本の温泉法は「温泉を保護しその利用の適正を図り、公共の福祉の増進に寄与することをもって目的とする」として制定された。その後温泉法の所管は、1971年、環境庁の設立にともない厚生省から環境庁に移管された。 戦後の経済優先、所得倍増、バブル崩壊と温泉はその時代時代のニーズによって変貌していったが、温泉法は戦後50年間大きな改正はなく、もはや時代のニーズに対応した行政指導を行える機能を有していないのが現状である。ちなみに昭和48年から平成14年まで30年間で温泉の新規掘削の申請は合計22、868件(年平均762件)、その内不許可は155件、許可は22、713件、実に99.3%が許可されている。さらに、その温泉の浴用利用申請は57,328件(年平均1,911件)あり、実にそのうち不許可は30年間1件もなく100%許可されてきた。これはチェック機能が実体を把握できていない証拠でもある。一方、高度経済成長期には、モーレツ会社員の息抜きとして、会社の団体慰安旅行がブームとなり、国民が一泊二日の気軽な歓楽地を求め、温泉地が観光化していった。同時に、温泉利用の量的拡大と資源の枯渇にともない、全国の観光型温泉地が集中管理方式(循環式)を取らざるをえなくなった。現在日本の温泉地総数は約3、000、その内温泉地全体で集中管理方式を採用しているのは約110温泉地であり全体の3.7%に過ぎないが、熱海、草津、山代、白浜、道後、伊豆長岡、修善寺、下呂、伊香保、城崎等いわゆる有名温泉地はほとんどこの方式である。循環式により、当時問題となっていた浴槽の汚濁、衛生管理は格段に改善されたのだが、その情報は正しく利用者には届かなかった。「源泉かけ流し」の正否を論ずることより、まず歴史的な背景を利用者である国民が十分認知しておくことが必要であろう。そして問題を温泉事業者のみに特化せず、利用者、行政が1体となって日本の温泉に関する信頼を取り戻す必要がある。 2. 界標準(グローバルスタンダード)にむけた別府温泉の事業方針 要点 温泉は観光資源だけでなく、保養客や地域住民の健康資源でもある。医療機関や健康増進施設、福祉施設と連携し、しっかりとした受け皿づくりをすみやかに推進する。そして観光・保養・療養さらには、定住空間として温泉保養都市としての別府温泉の特性を把握し、具体的なサポートプログラムを研究開発することが重要。そのため、別府における温泉保養地効果を科学的に研究し、その成果を現在実施しているオンパクなどと結びつけ、保養滞在型メニューの研究開発をさらに加速する必要がある。叉、別府市は全国に先駆けて、自主的に温泉表示基準の見直し、情報開示制度の確立など、温泉利用者の不安をなくす努力をすみやかに実施すべきである。 別府温泉の魅力の再認識 温泉資源そのものは、一個人、一事業者というより、地球全体、地域の共通の財産でもある。別府温泉は天与の優れた環境にある。別府市内にある京都大学理学部地球熱学研究施設の由佐教授により、別府温泉の多様な泉質の実態が科学的に証明されている。別府温泉は火山性温泉で、その源は、地下深部で生成した、中性の食塩型熱水であり、この熱水から、熱水性温泉と蒸気性温泉が生じる。蒸気性温泉には、硫酸性のものと炭酸性のものの2種ある。これら3種の温泉水と一般の地下水がさまざまな割合で混合し、さらにそれらが地層中を流動する途中で、流路の岩石類と化学反応をおこし、さまざまな泉質の温泉が出現する。世界でも珍しい10種類の温泉が域内に湧出している。平たく言えば、別府温泉は地球工場で生産された多種の温泉を、一括販売する専門店の集積地域とも言える。同時に、別府温泉の水収支は由佐教授によると、降水が349(単位千トン/日)、蒸発散が107,表面流出104,地下水流出81,温泉水流出57である。平均一日5万7千トンの温泉水が流出している。そのうち、自噴、動力ふくめ、約95キロリットルを毎分汲上げている。一日に換算すると約137トンである。全流出量のわずか2.4%である。このデーターを環境省の統計資料によって全国の温泉地と比較すると、平成15年3月末日における宿泊施設数は15,380カ所に対して収容定員総数は1,384,302人、温泉総湧出量は自噴・動力含め2,669,520リットル/分である。従って、一宿泊施設あたり、173リットル/分、定員1名当たり1.92リットル/分が夫々、平均値となる。別府温泉は一施設辺り403リットル/分、定員1名当たり4.61リットル/ 分となり、一施設当たり、定員1名当たり、全国の温泉地平均の約2.3-.2.4倍である。群馬、静岡県のデーターとくらべると実に約5倍である。この豊富な湯量を最大限に活用することも併せて重要である。 結論 このように質量とも日本有数の温泉資源を、他の温泉地との差別化に積極的に利用し、本来のあるべき温泉保養地として、叉、国際的な温泉保養地として、積極的にアピールする必要がある。同時に具体的な健康づくり/療養のプログラム提供とサポート体制の整備、適正な情報開示を全国に先んじて実施し、市民、観光客が安心して温泉を利用できるよう行政、業界、市民が一体となって取り組むことが別府温泉の重要課題である。 (2004年8月の別府市観光戦略会議での講演から) |
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