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日本の温泉地再生への提言 [1] -第1グループ 旅館・温泉地リーダー 持続的にゆっくりと発展する温泉地づくり |
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溝口 薫平 (湯布院温泉)由布院 玉の湯 代表取締役 |
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1.生活型観光地『由布院』 三十数年前、由布院は九州の山奥の鄙びた農村だった。 由布院を訪れてくれる観光客が『住んでいる人の暮らしのゆたかさ』を満喫できるような温泉地をつくろうと、私たちはみんなでがんばってきた。 小さな盆地に、小さな旅館やホテルしかなかった。だから、それぞれの旅館やホテルが囲い込むことのないよう、それぞれが連携して「まちづくり」を進めてきた。「農業」や「商業」との共生を図りながら、「由布院らしい」温泉地を育んできた。それは、「観光のまち」ではなく「暮らしのまち」というか、「静かにくつろげる場」というか、「生活型観光地」づくりといってもいいだろう。 みんなで始めた『ゆふいん音楽祭』『湯布院映画祭』など小さな手づくりのイベントもやがて三十年を迎えようとしている。そして……人口一万二千人の小さな町へ、年間三百八十万人もの観光客が訪れてくれるようになった。しかし、休日の観光客の増加による車の渋滞や、景観を壊す店舗の進出など幾多の問題を抱えているのも由布院の現状である。 2.温泉のゆたかさの再認識 由布院温泉の隣には日本一の歓楽温泉地?別府?がある。別府と同じような温泉地づくりをしていては、別府に取り込まれてしまう。そこで、私たちは「小さな別府になるな!」をスローガンにがんばってきた。それが良かったのかもしれない。由布院のゆたかな自然を生かした健全な「温泉保養地づくり」を目指すことができた。 社会が成熟していくと、ゆたかさを求める人たちは「歓楽」よりも「健康」や「福祉」に眼を向ける。だから、温泉をその方面に活用するということは当然考えられるだろう。ただ、旅館業だけによる「温泉保養地づくり」には限界がある。それになにより、まち全体で「保養温泉地づくり」に取り組むことにより、住んでいる人も訪れてくれる人も癒され元気になり、「温泉のゆたかさ」を再認識することができるのだ。そして、温泉の活用とともに、保養温泉地としてまちそのものを美しく磨いていくことも大切だと考える。まち並みが美しくなることによって、日常の生活の中に「暮らしのゆたかさ」を感じることができるのである。それは温泉の利用をより効果あるものとするであろう。 そういう意味では、「温泉保養地づくり」は「まちづくり」といってもいいだろう。 3.景観を守るということ 由布院へ観光客が多く訪れるようになると、それを目当ての「大きな資本」やどこの観光地にでもある「土産店」が入ってきた。それらにより、由布院らしい環境や景観が壊されつつあるといってもいいだろう。美しいものが消えていくのである。 そこで、『潤いのあるまちづくり条例』を制定したり、『ゆふいん建築・環境デザインガイドブック』などを作成して、由布院らしさを保全しようと努力してきた。また、「かぐや姫基金」という基金をつくり、旅館やホテルのフロントへ箱を置いて「募金」をお願いしている。募った基金で、町内へ桜の木や花などを植えている。それはささやかな行為だが、由布院の自然ゆたかな景観を育み守っていくことによって「由布院らしい景観」を知ってもらい、「景観づくり」へ参加してもらおうということだ。 でも、民間による「景観の保全」には限界があるように思えてならない。これからの温泉地というよりも、まちづくりのためにも、「自然の保護」「景観の保全」「看板の規制」など、国をはじめとする行政が明確な方針を示して規制するようにして欲しい。「ハコモノ」で良好な景観をつくることも大切だが、規制とか誘導などの「ソフト」サイドの充実という、行政でしかできないことを積極的に推進して欲しいものだ。 4.行政と民間と歩調を合わせて「連泊対策」 最近、由布院でも、連泊というか長期滞在の観光客が増えている。観光客が「連泊の楽しさ」を知りはじめているということだろう。観光客の意識が変わりはじめた。温泉地も変わらなくてはいけない。料理やおもてなしに工夫をして、「連泊」のお客様へ対応しなければならない。 由布院では、料理人たちが「ゆふいん料理研究会」を立ち上げた。約七十名の料理人たちが互いの料理の手の内を見せはじめた。連泊される客に対応するためだ。前泊がどこそこの旅館だとわかると、それとは違った料理を出すことができる。また、多くのレシピを知っているということは、多様な客へ多様な対応ができるのだ。 しかし、観光業サイドだけでは、長期滞在する観光客を満足させることはできない。広い視野からの対応が必要である。そのためには、休日を多くするバカンス法や、温泉利用に対する社会保険の適用など制度の制定などのソフトの充実とともに、行政と民間が歩調を合わせてより魅力ある「まちづくり」にがんばることが大切だ。そして、県境を越えるとか、行政の枠を超えるとか、広域的な多様性のある地域の連携をする。それは、「まち」というよりも、「地域」に長期滞在できるというシステムを構築するということだ。 5.ナンバーワンよりもオンリーワン 由布院も「由布院スタイル」というか「由布院らしさ」という地域の個性を大切にしながらまちづくりを進めてきた。それは「オンリーワンの由布院」をつくってきたといってもいいだろう。 新しいものごとに「チャレンジ」する時、ナンバーワンを目指す人が多い。ナンバーワンになるには、金がかかる。期間がかかる。知識がいる。しかし、オンリーワンになることはすぐにはじめられる。他と違うことをやればいい。金もそんなにいらない。昔からの「知恵」や地元の個性ある「温泉」などを生かしていけばいい。それになにより、オンリーワン同士は競争する必要がないから、容易に「連携」することができる。「連携」することにより、多様性のある温泉地になれる。 それらオンリーワンの温泉地を「持続的にゆっくり発展させていく」ためには、三年、五年のスタンスではなく、百年を見据えた長い期間をかけての「温泉地づくり」を目指すことが必要である。そして……観光業だけでなく、国をはじめとする行政が「まちづくり」の一環として「温泉行政」に取り組んで欲しい。「農業サイド」「文化サイド」「福祉サイド」「商業サイド」など、広い観点というか、あらゆるジャンルから総合的に「温泉による地域の活性化」というものを考えて欲しいということだ。 6.これからの観光は世界が相手-「情報」と「連携」 これからの観光の競争相手は、国内の観光地ではない。世界各地の観光地が競争相手だ。さまざまな交通体系が整備され、あらゆる情報が容易に入る時代になった。これからの観光客に「国境」はないといってもいい。これからの観光客はどのような手段を使ってでも素晴らしい観光地ならどこにでも行く。そのような観光の状況だ。 世界各地の観光地は美しい。歴史的遺産やゆたかな自然がある。それになにより、バラエティーに富んだ文化、料理などがある。そのような世界の観光地が、この国の観光地の競争相手だ。そこで、お隣さんの観光地同士が互いに「情報」を交換しあって「連携」しなければならない。国内だけではいけない。中国、韓国などとの広い範囲のお隣さんと情報を交換し合い「連携」して、世界の観光客に対応できる「観光ネットワーク」を構築しなければならない。 その時のひとつの大きなキーワードが、この国のゆたかな「温泉」というものだ。これからの「観光」は、歓楽や遊興から「癒し」や「健康」へと大きく変わりつつあることは確かだ。それゆえにこそ、この国の「温泉地」は世界の中の観光地としてどのようにあるべきかをいつも考えておく必要がある。 そのためにも、「人材づくり」というか「専門家づくり」が必要だ。大学の観光学科や温泉学科を多く設置するとか、長期間の研修会の開催とか、「学ぶ場」を積極的に増やしてエキスパートを育てる。それにより、この国の「温泉」をはじめとする「観光」というものがより信頼されてくるのだ。そして、それは持続的にゆっくりと発展する「温泉地づくり」に確実につながっていくと考える。 |
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